62話 その竜人族 因果あり!
夜空の機転により夜の食事が少し豪華になった。 魚を取った後、リリスが丸太の場所に戻ろうとした竜人族の女の子を食事に誘った。 初めは『そういうつもりじゃ無いし』とか強がってたのだが、最後は腹の虫がプライドを潰した。
何はともあれ、今は皆で焚火を囲んで食事中だ。 すっかり暗くなったが、周りのキャンプの火やスキルの明かり?、自分たちの焚火の光で結構明るい。
「美味しいですねっ!」
「あぁ、何の魚かよく分んねぇけどな」
....この世界には魚屋が港町にしか存在しない。 近場にデカめの川があれば川魚位なら売られているかもだが、やっぱり運送手段が乏しいため最も痛みやすい生もの系はダメなのだ。 果物とかは距離にもよるがまだ大丈夫らしいのだが....。
話を戻すが、俺は日本に居た頃、魚の種類を覚えたのは地域の魚屋などでその魚を実際に聞いて、購入し、捌いて料理したからだ。 とはいえ、分からない魚を口に居れる程俺も頭が死んでる訳じゃない。
....悔しいがこの女の子。 キャンプ、ひいては食べられる野草や木の実、キノコ、魚、肉...そういった知識にかなり長けていることが分かった。 竜人族って本当に見た目通りの年齢なんだろうかと疑いたくなるレベルだ。
「じろじろ見んなクズ」
「....いや、お前本当にその歳なのかと疑いたくなっていたんだ。 というか、そろそろ名前を教えろ、俺達もう教えたろ」
夜空とリリスは名前を出したのに、女の子は何を警戒するのか一向に名を名乗らない。 ここまでくると、何か別のことに対して意識を向けているとしか考えられない。
「年齢は6歳」
「嘘つくんじゃねぇ! 6歳にしては世界を知りすぎだお前!!」
そんな夜空に対し、リリスが肩を叩いて口を耳に寄せてくる。
耳元で常識?を知らない夜空に対し、補足説明を入れてくれた。
「多分、人間で考えたらって事です。 竜人族の年齢は4年で1歳だとお兄様から聞いたことがあります」
つまり4×6=24....。
24歳って事か?
「初めから24歳って言えよ、全く」
「そんなに歳行ってないから!!!」
女の子が悲しそうに怒鳴ってきた。
「へいへい、すいませんねぇ」
だがまぁ、想像はつく。 何かしらのトラブルを抱えて西大陸からこんな所までやってきたのだろう。 一緒に行動するのは構わないが、俺とリリスを巻き込まないで欲しい。
「謝れるなんて夜空さん偉いっ!」
は? コイツの中の俺の評価どうなってんの?
「リリスッ、お前は俺に謝れッ!!!」
楽しそうに笑うリリスと怒る夜空。 そんな様子を見ていた女の子は、初めて俺達に少しだけ...ほんの少しだけ心を許した気がした。
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リリスがやたら眠そうにしていた為先に休ませ。 夜空はいつもの通り、夜間の周辺警戒を行っていた。 ここ最近少し寝不足で辛いが、人が足り無いので致し方あるまい....。
「まだ起きてる訳? ここ魔物出ないのバカなの?」
「危険は魔物だけじゃねぇんだよ、俺は全てを疑うんだ....。 勿論、その中には当然お前も含まれてるからな」
「ふぅん、少しは賢いのね」
女の子は夜空の正面に座ってきた。
文句言われる覚えは無いと頭を捻っていると....
「あのさ....あ、あり」
「ん?」
あ、あり? 魔物の話か?
「ッ! なんでもないから!」
勝手に座って、勝手にキレて、勝手に帰って行った。
なんだアイツ。
「あのさぁ、いい加減お前とか呼びにくいんだけど...。 名前言えよ」
「......」
返事は無い、嫌だと言う事だろう。
「なんでそんなに頑な何だよ。 俺はともかく、リリスはお前と分かり合おうとしてると思うぞ? 何がそんなに嫌なんだよ....。 お年頃ってやつか?」
「....かけられるし」
???
「かけられる? 話しかけられる、呼びかけられる....追いかけられる....」
夜空はそれを聞いた時、純粋に笑ってしまった。
「何が可笑しいのよ!」
飛び起きた女の子は胸倉に掴みかかる。 竜人族のパワーで胸倉を掴まれたため、服の胸当たりの繊維がミチミチと悲痛な音を立てる。
「追われてるってのは一体何人にだ?」
「分かんない、わかんないけど! 追われてる事が無い奴にこの気持ちは分からないわよ!」
追われる気持ちは追われる奴にしか分からない。
納得だな。
「はぁ...俺は国に追われてる。 犯罪者とかって意味じゃない、文字通り国に無実の罪で殺されそうになってるんだ、今現在も捜索は続いてる」
女の子は驚いたように胸倉から手を離す。
「追われてる気持ちも、拠り所が無い不安も、先の見えない恐怖も、俺は全部わかるぞ? ....この身で直接経験してきたからな。 おいドラゴン娘、走行中の乗り物から川底に突き落とされたことはあるか?」
「....無い、けど」
「命の恩人に裏切られて殺されそうになったことはあるか?」
「....無い」
「金が本当に無くて、犯罪を働かざる得ない事は今までにあったのか?」
「......」
一段落ついた夜空はため息を吐いた。 女の子は、悲惨な事を経験してきた目の前の男に同情はしなかった。 同情されても、その行動が無駄な事が分かってるようだ。
「お前の過去が辛くなかったとは言わない。 だけど、まぁなんだ....これで少しは名前が言いやすくなったんじゃないか?」
照れ隠しのように頭を掻きながら夜空は言った。
しばらくの沈黙の後
「コレム...よ」
女の子は何かを諦めたように呟いた。
「....コレムか。 なんでコレムは旅をしてる?」
「自由に生きたかったから、アタシの人生はアタシが決めるの」
....精神年齢が小学1年生並みの少女に、酷な運命を押し付ける奴も居るんもんだ。 それに流されず、抵抗してコレムはここまで逃げてきたのだ。
(この歳で立派だなコイツ)
「夜空、あ、あり...」
コレムが少し恥ずかしがるように言葉を紡ぐ。 しかし声がものすごい小さかったため、焚火に薪を入れる作業をしていた夜空には聞こえなかった。
「.....ん? 何か言ったか?」
「な、なんでもないからバカッ、バーカッ死ねッ!!」
えぇ...。
コレムは立ち上がり、夜空の荷物と一緒に置いていた毛布を一枚勝手に抜き取ると、そのままそれをかけて平らな場所で寝てしまった。
「それ俺の毛布....まぁ、いいかあれぐらい」
どうせ交代の時間はまだまだ先だ。
クソ生意気だがまだ子供...今ぐらいは毛布を貸してやることにした。
夜空が見張りに戻る後ろで、コレムは夜空の匂いが染み付いた毛布を、心地よさそうに握りしめながら少し笑顔で、安心するように眠りについた。
そして、早朝...。
鳥が起床し、その鳴き声と共に銀髪少女が目覚めた。
リリスが目覚めると同時に、夜空は朝の支度を全て任せた。 そして、少しの時間だけ睡眠をとるために見張りを交代した。 その物音で、一緒に起きてしまったコレムから毛布をそれとなく返してもらい眠りについた。
毛布は体温で少し暖かく、ほんの僅かに石鹸の匂いがした。
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「夜空さんっ、ご飯出来ましたよっ! コレムちゃんも食べさせて良かったですよね?」
「...んん? んぁ」
夜空は寝ぼけ眼を擦りながら辺りを見回す。 辺りはすっかり明るくなっており、リリスの腕時計は朝8時30分を示していた。
体から汚れをはたきおとして、湖の水で適当に顔を洗う。 バッグから、村で購入した木製の歯ブラシを使って歯を磨く。 ....飲み水を使うのは勿体ないが、湖の水を安易に口に入れるのは感染症のリスクがあり危険だ。 それに汚いから生理的に凄く嫌だ。
「大体4時間くらい? 随分ゆっくり作業してたんだな」
夜空は、うがいに使った飲み水を湖に吐き捨てながらそう言った。
「もぅ、夜空さんを寝かせてあげようとしたのに...」
なるほど、気遣いだったか。
「コレムの奴、名前教えたんだな」
「夜空さんが昨日夜頑張ってくれたおかげですよっ! 私、寝てたからよく分りませんが、コレムちゃん初めて『ありがとう』って言ってくれたんですっ!」
嬉しそうに話すリリスの後ろで、コレムは夜空を睨みつけていた。
あ、あれ?
「おはようコレム」
「何よクズ、起きるのが遅い!」
「は??」
クソったれがッ、全く対応が変わってねぇ!!!
「あはは..まぁまぁ、夜空さんパンどのくらい焼きます?」
「シェフリリスのおまかせで」
「はーいっ」
今日も一日が始まる。
出発の準備を整えた夜空は焚火を始末する。
その間にリリスはコレムと話をする、今後どうするかという件についての話を。
「コレムちゃん、もし良ければ私たちときませんか?」
「な、なんでなの?」
コレムは驚きながら、少し遠くで焚火の始末作業を行っている夜空をチラ見する。 その目は『アイツが嫌がると思うけど』というような感情が籠っていた。 リリスは、そんなコレムの内心を見抜き、それでもコレムに手を....差し出した。
「私がコレムちゃんと行きたいんですっ。 それに、これからの長い旅路にはより多くの仲間が必要になってくると思いますからっ」
「クズ空最低だし、アタシが一緒に行くこと断るよ...」
クズ空って夜空さんの事ですかと、一瞬リリスが思う。
「うーん、どうでしょう? 夜空さんは最低ですけど、本物の最低じゃないですから」
イェーガーの件でリリスは夜空を信頼していた。 その信頼が一方通行の想いだったとしても、リリスはこの人なら大丈夫という想いが胸のどこかにはあった。
「最低だけど...最低じゃない。 変わった奴ね」
コレムは昨夜の一件と、宿屋での不器用な優しさを思い出した。
「えぇ、不器用な人でしょ?」
二人して夜空を見て笑う。 そんな様子が聞こえていないのか、夜空は全く関心を寄せず中々火が消えない炭を踏みつぶして消火していた。
......水すくってかければ終わりなのに。
「リリスにバカにされた気がしたぞ」
火の始末を終えた夜空が、服に飛んできた灰を払いながら近づいてきた。
「夜空さん、コレムちゃんも旅に同行させてあげられませんかっ!?」
突然、リリスがそんなことを口にした。
「と、唐突...でもねぇか。 確かにコレムのサバイバルの知識は惜しいものがあるが、コレムにだって行きたい場所くらいあるだろ」
「コレムちゃん何処か向かってるんですか?」
二人の目線がコレムに向けられた。
「はぁ? 嘘つかないでよクズ空! アタシ行きたい所なんか無いし!」
クズ空って俺の事だろうか。
...隣でクズ空の呼び名を笑っているリリスは昼飯を抜きにしてやろうかな。
「東大陸には向かって無いんですかっ? 故郷は西大陸ですよね?」
「アタシ赤印だもん。 危ないし行けないから!」
コレムは何故かリリスに対しては態度が軟化する。
理不尽だろこんなん。
「赤印の差別文化は東と北だけ残ってるんだっけ?」
随分前に話をしたし、ここら辺の知識がまだあやふやだ。
南が無くなっていて安全なのは覚えているが。
「あれ、夜空さんまた授業が必要ですか? 正確には.....」
夜空が青ざめる。 あの地獄はトラウマだ。
「簡潔に頼みますリリス先生」
「うむぅ、仕方が無いですね。 正確には東と北は残っていて、南は完全撤廃、西はまだ少し残ってる感じです。 えーと、兵器の国のなんちゃら軍事国家とかは残ってますね」
「兵器の国言われても知らん。 でもまぁ分かった、あんがとさん」
夜空はコレムを真っ直ぐに見る。
この子の両親は今何を考えているのだろうか。
俺と同じように、この子に会いたいと世界を旅しているのだろうか?
「コレム、お前はどうなんだ? お前の是非を聞きたい」
コレムは少しだけ考え、夜空の顔を見ることなく軽くうなずいた。
「....OK、俺は昨日話した立場上、西に向かわざる得ない。 必然的に故郷の方角に戻ることになるが、どのみちそうなってたわけだし文句は言わせないからな」
夜空は意見を求めることなく決定し、宣言する。
「予定通りホワイトタウンへ向かうぞ」
そう言うと、夜空は一人で少し先に進んでいった。
「嫌だって言ってこなかった....」
「ねっ、夜空さんは疑い深いし言動はアレですけど....。 ちゃんと良いところもあるんですよっ、ホワイトタウンについたら夜空さんと一緒に歓迎会やりましょっ!」
リリスは、夜空に追いつくためにコレムの小さな手を取り優しく走り出す。
(最低でも最低じゃ無い人間....か)
コレムは、宿の権利の事や毛布の事を思い出す。
正直、素直じゃないあの優しさは嫌いじゃ無かった。
何故か、無償の優しさよりも優しく感じてしまった自分が居た。
アイツは、私の性格を見切ったうえで優しさを押し付けていた。 誰しも出来る優しさの形じゃない、あれは夜空にしか出来ない優しさの形。
(少し見てみよう、あの最低が歩む先を)
コレムは夜空の背中を見ながらそう思った。
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★ 夜空の旅仲間に新たなメンバー!
竜人族の子供、コレムが加わった!!
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==☆次回予告☆==
62話の閲覧お疲れさまでした。
3人目の仲間、竜人族の女の子...コレムちゃんです。 初期構想では、ヤンデレタイプにしようと思っていたのですが、無難にいこうと路線を変更しました。
書き貯め分の内容を思い返しても、結構いいキャラに仕上がったと思います。
......本当にそうかなぁ...?
自分に自信がなくなる今日この頃です。
次回、63話......白い街 キャンバスのように!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




