61話 その幼女 可愛げは無く!
翌朝、仲のいい老夫婦の元を後にした夜空はリリスと合流し、いよいよホワイトタウンまでの街道を歩き始めた。 街までは約2日の道のり...途中大きな湖を迂回するような形で旅をすることになった。
いつものように準備を整えた夜空達は問題なく旅を始めた....のだが。
「ね、ねぇ夜空さん...村に居たあの子、隠れながら後ろ付いてきますよ?」
「隠れるのヘッタクソだなぁー....もっと何とかならなかったのかよ」
頭隠して尻隠さずとは正にあの子の事を言うのだろう。 隠れるのがかなりヘタクソだ、尾行されていることに夜空でさえ一瞬で気づくレベルだ。 無論、スキル『野生の勘』なんて物は使ってない....というよりも、使わないでも誰でも気づける。
「夜空さん、なんかしたんですよね?」
いっそ清々しいほどの決めつけだ。 極めて遺憾である。
「...おい待て、なんで俺のせいだよおかしいだろ」
あのガキんちょクソ生意気だったし、わざわざ感謝を言いに来たわけでも無さそうだ。 でも、部屋の権利譲ってやったのに恨まれるのもお門違いだしなぁ。
そうなると消去法でリリスがなんかやらかした説が濃厚なんだが...。
「なんですかその目。 私が悪いみたいなの止めてくださいっ!」
リリスにバレた。 頬を膨らませながら怒るリリスを放置し、再び後ろをチラリと確認する。 ...女の子は木の陰からリリスの方をジーっと観察している。
先ほどの言ったが、隠れるのがヘタクソ過ぎる。
「どうします?」
「うーん、面倒事の予感がビンビン来てる。 よって放置、以上」
「人としてどうなんでしょうかそれは」
....うるさいよお前。
ツッコんでくるリリスに対し、訝しげな表情を浮かべながらひたすらに街道沿いを歩く。 途中、木が周りから無くなって隠れる場所が無くなった女の子は、最初の内はかなり遠くから追従してきていたのだが、見失うのが怖くなったのか今や普通に後ろを歩いていた。
途中、大きな分かれ道があったのにも関わらず、未だに後ろを歩き続けてる所を見ると完全にストーカーする気満々だ。 そして小一時間ほどストーカーされて、ついにリリスの堪忍袋の緒が切れた。
「もーっ、さっきからなんですかっ!?」
急に叫んだリリスに後ろの女の子だけでなく夜空までびっくりする。
「ひゃっ!」
驚いた拍子に転んだ女の子。 尻もちをついた衝撃でフードが外れ、昨夜から謎に包まれていた素顔があらわになって.....ッ
「わぁ....」
「マジかよこのガキ」
顔を見た夜空とリリスは二人そろって驚きの声を上げた。 それもその筈、何故ならその顔には......何処かで見たような2本の小さいツノがあった。
子供の竜人族だ。
しかしどっかのハゲゴリラと違って体表にウロコが存在しない。 少女の見た目は身長の通り童顔で、赤毛のロングヘアー...2本のツノあり。 しかし、大人になったら絶対美人になるような顔つきをしていた。 リリスと同様、胸はほぼ無い。
「なんで竜人族の子供がこんな所にいるんですかっ?」
「知らん、カイルの言う通りなら西大陸の方でひっそり生きてるんじゃねぇのか?」
イェーガーとかいうハゲゴリラの前例があるから、意外と活発な種族なんじゃないかと思ってしまう。 絶対あのハゲがイレギュラーなだけな気はするが。
「見んな!」
フードを被り直しながら女の子は威嚇するように吠える。
「ずっと後ろを鬱陶しいですっ!!」
ド正論だった。 これには女の子も少し怯むが
「......そんなの人の自由だし!」
めげずにそんなことを言い返してきた。
誰かと歩きたいならその者の是非を問えよと言ってやりたい。 というより昨日の夜、子供のくせにやたら力が強い理由が分かった気がする。 竜人族なら納得だ。
ギャーギャーと喧嘩するちびっ子二人に対し、夜空はため息を吐きながら仲裁に入る。 夜空は二人の頭に優しく手を置きながら二人の距離を離す。
「....争いは同レベルの者としか発生しないって知ってるか? 仮にも貴族様の娘なら少しは抑えろ、子供相手にみっともない!」
「ぶー、ぶー、夜空さんも今まで沢山怒ってたくせに~~っ!」
こいつ、余計な茶々を...。
「それはそれ、これはこれだから。 .......さてと」
夜空は、気まずそうな顔をしている女の子に対して向き直る。 正面に立つと、身長差からどうしても見下げなきゃいけない為、少し目線を合わせるようにしゃがむ。
「まずは名前と年齢、それとなんでストーキングしたのか言え」
「ふんっ、夜遊びとナンパするクズは自分から名乗れないわけ!?」
この野郎ッ!と思ったが、抑えろ俺。 今ここで怒鳴りつけたらリリスに『お前よくも偉そうな事言ってくれたな』的な目線を送られかねない! それは屈辱だ!
「よ、夜空だよ? よ、よろしくねぇ?」
眉間にしわを寄せながらぎこちなく挨拶を行う。 怒りのせいで変な感じの挨拶になってしまったがこれぐらいはまぁいいだろう。
「色々限界ですよ夜空さん」
「.....限界じゃないよ~。 俺凄い笑顔だよ~」
「キモ」
「あ―っ! クソったれがやってられるか!!」
夜空は近くに転がっていた石をそこら辺の草原に蹴り飛ばした。 蹴り飛ばされた石は、草原にあった段差に転がり落ちて.....そこで眠っていたウシ型魔物の後頭部に直撃した!
【ブモォォォォッ!!!!!】
「「「!!!」」」
3人は声のした方へと振り向く。 ウシ型の魔物がこちらに突進してくる、スキルを発動しているのか動きが素早い。
「夜空さんっ!?」
「これはごめんッ!!」
「ふんっ、役立たずね! 何してるのよ!!」
2人に糾弾される夜空。 それとはお構いなしに、段差を迂回するように飛び出て突っ込んでくるウシ型の魔物へ向き直る。 リリスは腰に下げていていた青脚光の剣を鞘から抜く。
夜空はスキル『野生の勘』を無詠唱発動して緊急時に備えると同時に、次の敵の攻撃の場所を予知しようと努力する。 ...ストーキングしていた女の子は、握りこぶしを作った右手を前に突き出して唱える!!
「スキル『閃光』ッ!!」
カメラのフラッシュ、その何倍もの閃光がウシ型の魔物の足をもつれさせ転倒した。 これはチャンスとばかりに、後ろで静止する指示を出したリリスを無視して夜空が突っ込む。
腰からショートソードを抜き、刃先を振り下ろすようにウシ型の魔物の首へ!!
振り下ろそうとした直後、『野生の勘』が嫌な気配を虫の知らせのように体に教えてきた。 夜空はたまらずバックステップで避けようとするが....。
【ブモ、ブモ、ブモォォォォッ!!!!!】
ウシ型の魔物が、体の周りにまきびしのような物体を生成し周りに勢いよくばら撒いた! 顔に飛んできたまきびしから顔を守るように腕で庇う。 まきびしが夜空の腕の皮膚を少し裂いた!
「危ないッ夜空さんッ! セブンティア流『七式剣技 進化型、五鳥10連切!!!』」
生成された5羽の鳥が、ウシ型の魔物を切り裂き....Uターンして後方からもう一度切り裂いた!! 女の子が、トドメと言わんばかりに口の辺りに赤い玉を生成する。
「スキル『ニトロレーザー』...食らいなさいッ!!」
かつてセブン国で夜空を瀕死にまで追い込んだスキルを女の子も使用した。 ニトロレーザーは牛の胴体と頭を泣き別れにして地面に着弾。
【ドカーンッ!!】
小規模の爆発を引き起こした!!
「俺が居るんだぞボケェェェ――――ッ!!」
夜空は立ち上がろうとするが、そこに爆発した場所から何かが飛んでくる。
夜空の足元に【ボトリ】と落ちたソレは.......ウシ型の魔物の頭だった。
「ひゃぁーーーーーっ!!!!!」
驚きで変な声が一瞬出たが、直ぐに思い直す。
あれっ、これスキル奪うチャンスじゃね? と
(天賦【アビリティスティール】)
使うという意識と同時に、夜空の死骸へ差し出した手の甲にシンプルな魔法弾が浮かび上がる。 ウシ型の魔物の死体の上らへんに、浮かび上がるようにスキル名が書かれたプレートが現れた。
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★個体名:マウスター
★固有名:なし
★保有スキル名
・ヘイスト
・スパイク
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なんだこの二つ。
....ヘイストは移動速度上昇? スパイクはさっきのまきびしだろうか?
効果がよく分らない以上、自分の見たほう経験した方を信じよう。
夜空はスキル名の『スパイク』を指でなぞると思っていた通り警告文が発生した。
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*警告* スキル枠不足.....スキルを削除して下さい。
・火炎耐性
・火種
・ハイパーウェーブ
・野生の勘
・スパイク
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夜空は迷うことなく『火種』を消して『スパイク』と入れ替えた。 一瞬、体がズンッと重くなり直ぐに元に戻る。 どうやら習得は成功したらしい。
火種を消した理由は単純に火傷するからだ。 ぶっちゃけ、セブン国を出発してから今日に至るまで焚火に火をつけるくらいしか使用していないので、そんなんだったらマッチでいいだろ、とまぁそんなところだ。 そもそも、あんなゴミみたいなスキルじゃ枠が勿体ない。
「夜空さんっ、大丈夫ですか!?」
「ふんっ、凄いどんくさい奴ね」
リリスは、急いでカバンからG1と書かれた回復ポーションを傷口に塗り付けて止血する。 名も知らぬ女の子は『この程度で怪我すんじゃないわよ』とか言ってそっぽ向いている。
天使と悪魔かよコイツ等。
「ふざけんなバカガキがッ!! お前がトドメと言わんばかりに余計な事したからだろ、見ろッ残り少ないズボンに穴が空いたぞッ!?」
「そもそも突っ込んだアンタが悪いのよ!」
ごもっとも、だが何故か腑に落ちない。
犬猿の仲のように睨み合う二人。
争いは同レベルでしか発生しないとはよく言ったもんだ。
「まぁまぁ落ち着いて....」
「ムカつく...全く可愛げが無い、一体何のつもりで付いてきたんだコイツ」
それでも尚、俺たちの後ろから離れようとしない名も知らぬ少女と共に旅を進める。 街道を歩き、小川を越えて小山を越えて、一日目のキャンプ地として設定した大きな湖の湖畔へ到着する。 湖の周囲は魔物の生息が全く無く、動物のみが生息している。 湖の周りには木々が林のように青々と生い茂り、風が吹き抜けると葉っぱと葉っぱの擦れる音が耳に心地いい。
そんな素敵な場所の為、娯楽の為に休日家族とキャンプを行ったりするレジャー施設でもあった。 見える範囲にも一般家族や商人、冒険者の恰好をした人たちがキャンプをしようと準備を進めていた。
「じゃあ今日はここまでにするか」
「はーいっ! 薪集め行ってきます~」
名も知らぬ女の子と二人きりになり気まずいが、夜空も夜空で着々と準備を進める。 簡易的なテントを組み立てたり、焚火を作ったり。 火に関しては火種が使えない為、事前に村で購入してきたマッチを使用して綿に着火した。
「よし、終わりっと」
ふと気になり女の子の方を見ると、野宿の準備を何もすることなく丸太に座って畔をボーッと眺めていた。 .....見る気が無かったので今までよく見ていなかったが、女の子は小さなポーチを肩から降ろしているだけでキャンプ道具らしいものは一つも見当たらなかった。
(........?)
何がしたいのか分からない女の子を放置して夜空は料理の準備を進めていく。 といっても、地球と違いクーラーボックスや保冷剤なんて無いので痛みやすい食材は旅NG。 肉なら燻製にするか塩漬けの干し肉にするかの2択しかない。 そしてどちらも硬くマズイ、乾パンと並べられたら涙を流して乾パンを食らいたくなる絶望的なマズさだ。
保存食料の技術はあまり発展してないのかもしれない。 例え、リリスが機転を利かせて小動物を狩ってきたとしても、解体作業出来ない為食料にならないのだ。 魚を捌く位なら日本でもそこそこやってたし出来るんだが....。
「....リリスにはあんまり干し肉を食わせたく無いんだよな。 俺だけだったら全然我慢...できる...。 できるー....かもしれないけど、いややっぱ無理だわ」
旅にとって食事とは楽しみの一つだ。
かの偉人ナポレオンは、行軍中の食事についてかなり試行錯誤をしたらしい。 おいしさや味のバリエーションは兵士の士気に大きく影響すると考えたそうだ。 スケールこそ違うが俺たちだって理屈は一緒だ。 上手いもん食えば頑張れるし、ヘドロみたいなマズイ料理を腹に詰めれば気分も落ちる。
だからこそ、リリスには旅を嫌いにはなってほしくは無いのだが。
「技術問題はなぁ...ネックだよなー」
ノウハウが無く、安易に知識を得られる場所は既に断たれた。 ネットの海を泳ぐことを覚えた現代人のオタクッ子に、体で覚えろは色々ハード過ぎると実感することが多い。
異世界ってこんなに夢の無い世界だったのか。
「夜空さんっ! 薪をどうぞ!」
「お疲れさん、休んでていいぞ。 食事は俺作るよ」
「献立は何ですか?」
リリスがワクワクしながら聞いてくる。 ....献立がまた野菜スープだと知ったら心底悲しむだろう。 夜空は考える、現在のパーティーで食事を豊かにする方法を....。
「リリスって探知系のスキル持ってたりする?」
そういえば俺、リリスのスキル全然知らないな。 『パワーアップ』と『七式剣技』?とかいうスキルだけか?
「はいっ! 『超音波』と『超音波探知』が使えますっ!」
おぉ、パーフェクト!
「じゃあ水中に居る魚の位置を教えてくれ」
「えっ、はい....じゃあ少し失礼して...。 スキル『超音波』と『超音波探知』...えいっ!」
目では見ることは出来ないがリリスが探知を開始する。 夜空はその間に手ごろな石を探して、それらを打ち付けて割り始める。
そして少しして....
「見つかった?」
「えーと、あそことあそことあそこらへんに魚群らしきものが...」
リリスが別々の場所3か所に指をさした。 夜空は、一番近い魚群の場所に向かって....先ほど即席で作った石の矢じりを投げるように狙う。
「スキル『ハイパーウェーブ』」
【パァン!】という炸裂するような音が湖にこだました。 ハイパーウェーブの近接効果によって弾き飛ばされた矢じりは加速し、水面に突き刺さるように水しぶきを上げた!!
「....凄いスキルの使い方しますね」
「応用してなんぼでしょ。 こういう発想は得意分野」
しかしそう上手くは行かず、一発目は魚にヒットすることが無かった。
チッ...少しブレたか、これコツがいるな。
「あと数回試してダメだったら食事は簡素になるな」
「絶対成功させましょう!!」
食い気に当てられたリリスの本気を感じた。 リリスの指示の元、指定された場所を狙うが上手くいかない。 というよりも、遠くて水面から下の様子が夜空にはよく分らないのだ。
「見えねぇ、やっぱダメか?」
「アハハ、こういうのなんか楽しいですねっ!」
数回試して疲労し、諦めムードになっていた時.....夜空の裾を名も知らぬ女の子が引っ張ってきた。 いつの間にか森から果物を取ってきていたらしく、それを丸太の所に少し溜め込んでいた。
「手伝ってあげるわ、感謝しなさい!」
「はい?」
突然わけのわからない事を言ってきた。
「だから手伝ってあげるって言ってるの!」
「.....なn」
なんでと聞こうとしたが睨みつけられたので聞くのを止めた。 どうやら黙って手伝わせろって感じらしい。 手伝うって言っても何するんだろうか、水面にニトロレーザーでもぶっ放すんだろうか。
「スキル『遠視』、アタシが目になるからちゃんと撃って!」
女の子は遠くを見る望遠鏡のような効果のあるスキル『遠視』を発動した。 女の子は『ニトロレーザー』、『閃光』、『遠視』の3つのスキルは所持しているみたいだ。
「何処だ」
「しっかり見なさい!」
夜空の問いかけに二人が同時に同じ場所を指さした。 女の子の指だけは魚をしっかりと捉えるように少し動いている。 夜空は女の子の指の動きを頼りにしながら....
「スキル『ハイパーウェーブ』ッッ!!!」
矢じりもどきを解き放った!
矢じりが魚にヒットし、気絶した魚が浮き上がってくる。 予想とは少し異なったが問題ない。 ......周りで見ていた他のキャンプ連中が、『やったなー!』と共感の歓声を上げたのだった。
==☆次回予告☆==
61話の閲覧お疲れさまでした。
今回のプチ話はスキルの応用についてです。 スキルを一般とは違う使い方をしたり、組み合わせたり、ひとつのスキルを同時や重ねて発動したりすることを、スキルの応用的な使い方としています。
夜空は地頭がいいので、即席で考えるのが得意みたいです。
誰にでも出来る訳では無い、夜空が覚えた必殺技?です!
次回、62話......その竜人族 因果あり!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




