60話 その幼女 かの男を見て!
「くたびれたぁー」
「お疲れ様ですっ」
「リリスもお疲れさん」
夜空達は予定通り、4日後の夕方までに村に到着した。 途中、村への行商を行っているオッサンの馬車に結構な時間乗せてもらったのがかなり大きかった。 あれが無ければ今日中には到着困難だっただろう。
最も、行商のオッサンはやたら俺を降ろそうとはしてたが....。 リリスにイタズラでもするつもりだったなら、俺はオッサンの命を助けたことになるだろう。 とても良い事をしたと自覚している。リリスが怖い事はよく知ってるからな、うん。
「宿取るかぁ....。 ん、どうしたリリス?」
「夜空さんあの子.......何してるんでしょう?」
リリスの目線の先には、畑の作物を見ながらお腹を鳴らしている小さい女の子が居た。 女の子は見た目6歳前後の背格好だ。 しかし、フードを被っている為、詳しい容姿や髪の毛の色などは確認することは出来ない。 体格や雰囲気から女の子っぽいというだけである。
「この村の子だろ、そのうち帰るって。 ............いいから行こうぜ、俺腹減ったよ。 宿屋で飯にしようぜ」
「村の子....なんですかね? なんだか違う気がして...」
「考え過ぎだって」
夜空は後ろ髪をひかれるリリスを無視して、予約を入れるために先に宿屋に入っていった。 予約を取った後、荷物を置く前に風呂に入る事になった。 当然だが、混浴とかそういうお約束みたいなことはしない。 普通に男湯だ。
この世界の街道沿いには村が点々と存在し、村の内部には宿屋、食事処、道具屋、公衆浴場など最低限、旅の補給に必要な物資のやり取りができる。 街とまでは行かないが、大きい村なんかだと冒険者ギルドや大衆酒場なんかもあるらしいがこの村には無い。
民家が十数軒と畑、道具屋に宿と小さめの銭湯位しか無い。
しかし、これが助かる。
日本で毎日風呂に入っていた身からすると、旅で一番辛いのはトイレと風呂だ。 トイレに関しては、男のなので我慢すれば耐えれる程だが、風呂につかれない、体を洗い流せないというのは病気の元にもなるし、なにより気分が最悪だ。
この世界で冒険者やってる奴は頭おかしいと思った。
町周辺で活動するならともかく、遠征が必要とかマジでやってられん。
村のジジイ達と共に浴槽につかりながらそんなことを思う。
異世界だし、風呂という文化が無いというのが地味な懸念だったのだが杞憂だった。 オニキス帝国で、この世界で初めて風呂に入った時の極楽感は日本と変わりなくて安心した。
「あんさん若いねぇ、いまおいくつなんじゃー?」
「今15です。 爺さんフラフラしてるけど大丈夫?」
よろつきながら浴槽へ向かってくる爺さんに駆け寄る。 爺さんが転ばないように手を取り、浴槽までゆっくり案内して浸からせてあげる。
「あぁ~、たすかるよぉ...もう歳でのぉ」
「....いえ、転ばれても困りますし」
目の前で血を流されても迷惑だしな。
「冒険者かぇ?」
「まぁ、そんなところで」
...おじいさん短時間しか浸かってないのにゆでだこみたいに顔赤くなってきてんだけど。 この人、本当に大丈夫か?
「絵画の街に向かってるのかえ?」
「絵画の街? ホワイトタウンの事ですか?」
爺さんは極楽なのか大きく息を吐く。
「ホワイトタウン.....もう何年も行ってないのじゃぁ...懐かしいのぉ。 真っ白なキャンバスに描かれていた一枚の素晴らしい裸婦画....一目惚れして財布を空にしたもんじゃ。 その後、婆さんにバレて怒られたがの、ほっ、ほっほ」
爺さんはろくでもない自分の過去を笑いながら話す。
「爺さんやらしー」
「バカ言うでない、お前さんだって男なんじゃから理解しろい!」
全く、俺はそんなものに興味は無い。
全くもってけしからん。
あぁ、けしからん....だが、だが...
閲覧してみない事には断言できないだろ?
そうは思わないだろうか?
思わない奴は股間がちぎれているに決まっている。
「全く。 ....えー、ちなみに爺さん、その裸婦画はまだ家に?」
爺さんと夜空は意気投合したように笑みを浮かべた。
「...ウチ、来るかの?」
「当然行きます」
一切の迷いなく断言した。
大衆浴場から上がったすけべぇ二人は、そのまま直行で爺さんの家に行こうとする。 当然、お子様には刺激が強いので、どっかの銀髪少女には黙っていくことに....。
「夜空さんその方誰ですか?」
はい、終了のお知らせ。
「おや、お前さんの連れかい? いやぁめんこい子じゃ」
めんこいという言葉に湯上りのリリスが、お湯で火照った頬を少し赤く染めた。
「い、いやぁ、あはは! おいリリス、俺この人と話して帰るから先宿で飯食っててくれ!!」
「え、あ、はい.....? 分かりました?」
「ほら行くぞ爺さん!」
爺さんの背中を押して家に向かおうとするが、夜空の意図は虚しくも爺さんに届かず...。
「そうそう昔買った絵を見せる約束をの?」
要らんこと言うな老いぼれ老害ボケッ!!
「へぇ絵を。 もしかしてホワイトタウンの? それなら私も見たいです!」
「ええぞ、ええぞ。 最高品質の裸婦画じゃからの」
「......えっ?」
場が凍り付いた気がした。
リリスがクルリと夜空の方を向いた。
暗くてよく見えないが、笑顔で凄い怒ってる気がする。
「夜空さん?」
「....あの、その目止めて」
「夜空さん、正座」
「いや、でもここ砂利道で...」
「正座」
「....はい、リリス先生」
リリスのゴミを見るような目に抗えず正座をした。
砂利道の砂利が膝に刺さっていたいが、今立ち上がれば間違いなく引っ張られる。 リリスは華奢な見た目で俺よりも遥かに筋肉がある。 引っ叩かれたら間違いなく腫れる、俺には前例がある。
その後、くどくどと説教を受けた。
薄情な爺さんは俺を見捨てて家に帰って行った。
そして小一時間ほど経過し....
お腹が空いたリリスは宿屋へ、そして説教をひたすらに受けた夜空は疲れてその場に倒れ、空を仰いでいた。 夜間な事も相まって、もうほとんど外には誰も出ていなかった。
「夜空は夜空を眺めている....なんつって....くっだらね」
下らないダジャレを言い、一人で寂しくなっていると
「本当にくだらないし、そこ邪魔」
突然横から声を掛けられた。
「は?」
目線の先には夜空を見下ろすフードの女の子がいた。
邪魔って、別に道は広いんだから横を避けて行けばいいのに。
それにどこか女の子はイライラしているようにも見えた。
八つ当たりに近い感じがする。
「早く家帰れよガキんちょ」
「あなたこそ、さっさとさっきのお母さんの所へ帰ったら?」
ムカつくガキだ、なんだコイツは。
「へいへい、そうさせて頂きますよ。 お前も早く帰れクソガキ」
くたびれたように起き上がった夜空は、汚れたズボンを手で払いながら宿屋に向かおうと女の子に対して背を向けた。 その時、
【グ――――ッ】
大きな腹の虫が鳴いた。
(俺じゃないぞ??)
そう思った夜空は後ろを振り返ると、涙目でこっちを睨みつける女の子が居た。
「...アタシじゃ無いし、違うし、お腹なんか空いてないから」
全部言ったな。
「いや、それは無理があるだろお前」
お腹を空かせて涙を浮かべる様子を見た時、オニキスに居たあの男の子を思い出した。 お人好しのようだが、俺はどうしても子供の涙に弱いらしい。
.........。
はぁ、まったく。
「105号室だ」
夜空はそう言いながら鍵と食事券を手渡した。 幸い、宿には予約を取って金を払っただけで荷物を置いていない。 つまり、部屋の鍵を他者に渡してその宿泊権利を譲渡しても問題ないという事だ。
しかし何故か女の子は若干引いている。
なんで?
「貴方みたいな男じゃアタシを誘うのは100年早い」
「.......舐めた事言ってんじゃねぇぞ。 10年早いわ」
「10年程度じゃ見た目なんて大して変わらないし!」
何言ってんだコイツ。
見た目的に歳が10歳前後なら10年後には立派な一端のレディーだろうに
「こ、こんなの要らないッ!」
鍵を投げ捨てようとした女の子の腕を掴む。 一瞬、想像以上の怪力に、体が持っていかれそうになったが直ぐに体勢を立て直した。 .....リリスといい、この世界の少女は皆ゴリラなのか?
「いい加減強がるのは止めろ。 お前帰る場所がねぇんだろ」
「...うぐっ、あ、あるってば」
か細く非行少女みたいな事を言った。
なんだこいつ、本当に可愛げってもんが無い。
「いいから行け。 それとも宿屋まで蹴り飛ばされたいのか?」
「アンタほんとにクズ」
女の子は口でそう言いながらも、嬉しそうに鍵を両手に抱えて宿屋へと向かって行った。
やっぱり家も宿も無かったらしい。
...正直、リリスも俺も現時点での所持金にあまり心もとない。
セブン国でカイルの代わりに、近場に居た剣士から金を3金程毟ったが今後の旅路を考えて、ここで3人分の宿代を払う痛い出費は避けたい。
「さてと、どうっすかなぁ俺」
夜空は、自分のバカさに笑みを浮かべながら頭を掻いた。
しばらく夜風に吹かれていると、宿屋から出てきたリリスが心配そうに声をかけてきた。
「風邪、引いちゃいますよ? 早く宿屋に戻って寝ましょうっ」
(リリスになんて言おう。 女の子に鍵上げちゃったんで宿が消えましたーなんて言えないしなぁ...だからといってリリスの部屋に行くのは宿の店主に悪いし、そもそもマナー違反だ)
夜空の内心を知らぬリリスは首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「いや、少し故郷の家族へ手紙を書きたい。 外の方が落ち着いて書けそうだから先に寝ててくれ....俺もさっさと書いて寝るよ」
少し苦しいか?
「手紙ですか...私もいつかはお父様やお母様に書かないとですね。 じゃあお先に寝ますね、夜空さんも早く寝るんですよー?」
お母さんかよ。
「へいへい」
一応納得した様子のリリスが宿屋に戻っていき、しばらくしてリリスが借りている部屋に灯っていた明かりが小さくなった。
...............。
「温暖な地域とはいえ流石に夜は少し冷えるな」
手で腕をさすりながら、体をあっためるために村を歩き回っていると。 さっき逃げやがった薄情爺さんが窓から顔を出してきた。
「....やっぱええ奴じゃなぁ」
爺さんは一部始終を見ていたのかそんな事を言ってくる。
「あっ、裸婦画の爺さん....さっきはよくも逃げやがったなオイ!」
「見ず知らずの子供の為に、黙って金を差し出せる人間がこの世にどれほどおるんかねぇ」
.....。
「.............さぁな」
「婆さんにも話は通しておいんでな、家にお入り?」
爺さんがそこまで言うと、裸婦画爺さんの妻である年配の女性が優しそうな表情でドアを開けて手招きをしてくれた。 家に入ると、夜空の鼻はかすかな絵の具の匂いを感じとった。 絵書きであるような痕跡こそ無いが、木に染み付いたその香りがこの家で絵が描かれていたことを理解させる。
「夕飯の残りだけど、スープでいいかしら?」
「えっ?あ、はい.......。 ありがたいです」
夜空は夜風で冷えた体をスープで温める。 のどから流し込まれたスープが、全身の体温を少しずつ少しずつ持ち上げていく。
「昔、絵書いてたんですか?」
「あら、爺さんや、恥ずかしい話をしたの?」
「なんじゃい、なんじゃい! 描けぬ民だがこの老いぼれを侮辱するんじゃないぞ、伊達に歳を食っとらんぞ!」
描けぬ民ってなんだ。
爺さんは怒った様子で自室に戻り、一枚のそこそこいい感じの風景画を出してきた。 どうやら隣国、セブン国を遠目からスケッチしたもののようだ。
「上手いな」
「じゃろう? 全く婆さんはセンスが無いんじゃわい」
「あら言いますねぇ、貴方の絵は全く売れなかったじゃないの」
「見る目が足りない奴ばっかりじゃわい」
なんだかんだで仲の良さそうな老夫婦である。 夜空はオニキス帝国の【クル爺】の存在を思い出しながら、自分も祖父祖母が欲しかったなぁと思いをはせていると。
「少年は......上手いと思うかの?」
爺さんがそんなことを聞いてきた。
ぶっちゃけ俺は芸術というものの良さが分からない人間だ。 絵の展覧会とかに行っても『なんか上手いね』って、ぐらいの感想しか出て来こないボキャブラリーの低い奴なんだ。 ....そんな奴に芸術の良し悪しを聞いたとしても
「なんか上手いんじゃね?」
こうなるに決まってる。
「ほれみるんじゃ婆さん!」
「そんなのお情けですよ、お情け。 呆れてるじゃないですか」
年不相応に興奮する爺さんとあきれる婆さん。 婆さんは夜空に優しい笑みを浮かべると『寝床はそこのソファーを使ってくださいね。 汚くてごめんなさい』と言って洗い物をしに台所へと戻っていった。
「かーっ、婆さん話は終わっとらんぞ!」
「はいはい、洗い物しながら聞きますからね」
夜空は机に放置された絵をもう一度見てから
(やっぱ芸術はよく分らんと思った)
==☆次回予告☆==
60話の閲覧お疲れさまでした。
異世界転生モノの流れ的に、こういうよいしょよいしょの村での事はカットした方がいいんでしょうけど...。 世界観はしっかり作っておきたいとも思うこの頃、それなりにって難しいんですね。
今回のプチ話は、この世界の街道についてです。
街道付近では魔物の出現率が低めです。 街道沿いには旅の中継地点として村や街があり、そこにある物資を購入することで冒険者や旅人は助かり、村の人たちは生活が出来ると。 まさにWIN、WINの関係のようです。
次回、61話......その幼女 可愛げは無く!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




