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そのチカラ 危険につき!   作者: ゼロ先輩
== スピールト編 == 【物語進行:疾風サイド】
64/238

58話 その勇者 巣立ちにて!

 


 .....この世界に来てから早2週間ちょいが経過しようとしていた。


 始めは戸惑っていた葉日学園の生徒たちは、ほぼ全員がこの世界を受け入れ順応した。 人付き合いが上手い連中は、既にこの世界に友人と呼ぶべき存在まで作り始めていた。


 疾風は、戦争が終わり戻った日常の中であることを考えながら今まで通り過ごしていた。 だけど、温井に自信が抱えている問題を話したことにより、疾風の心の中には自身の問題を解決しなければいけないという想いが現れ始めていた。




 勇者達は選択をしなければいけない。

 安全なこの国で過ごすか、この世界からの脱出を目的として世界を巡るか。 当然、街に居れば命が脅かされるリスクも極端な話、無いに等しい。 この国から出て、冒険者として生きるという事はこの世界の意味合いとして自立するということ。 戦闘術、話術、交渉術、金銭面の管理....様々な事を一人あるいは仲間と共に解決する。 命を落とすリスクも高まる。



 それでも、亡国ヘルカのように同郷の人間が不当な扱いを受けていないとも限らない。 誰かは確実に動かねばならない。


 しかし....。



「すまんが俺は動けない。 この国には生徒が居る、先生が生徒を見捨てて先に進むわけにはいかないんだ。 せめて二人教師がいれば話は変わってきたんだけどな」

 早めの夕食時、ファンキー先生が誰かからの『ファンキー先生が探しに行くんじゃないの?』という無責任な言葉に返答した。 


 ファンキー先生は続ける


「それに、この国に他の国の勇者が向かってきているという噂もある。 国に辿り着いた生徒を管理する責任者もどうしても必要になってくる」



 .........。



 夕食後、疾風は一人噴水広場で考え事をしていた。 自分の剣を握り。豆ができた手のひらを見ながら考える。 自分は友達とどう向き合って行けばいいのか、とか、距離を取るのが正解なのか?とか、難しいことも考えたが、直ぐに答えは出ないと諦め.....


 今はシンプルに、与えられたこの力をどう使いたいのか。

 そこだけを考えていた。


(でも、それでも俺は動きたいと思ってる。 勇者としてじゃなく、葉日学園の仲間として学校の皆を助けたい!!)

 戦争前にみんなに伝えたあの言葉は、紛れもない俺の真意だった。 ...でも、今はその助ける事が、また偽善に繋がるんじゃないかと、また同じ間違いを犯すんじゃないかと、怖くなっている自分がいる。



 矛盾だと、自分でもわかる。 

 分かりすぎるほどに。



「悩むくらいならまず動いてみれば....か」

 疾風はとある言葉を思い出しながら、明日温井さんにこのことを伝えて見ようと思った。 そう決意して立ち上がった....その前に、


「あれ、疾風っち? こんな所で何してるの、風邪ひくよ?」


「ウィースッ! 疾風君!」


「こんばんは~、疾風先輩!」

 温井、春、翔の三人が小麦粉の袋を持ってそこに居た。


「みんな何してるの?」


「んぁ? あぁこの袋ね、明日雨らしいから今日の内に明日の調理分とそのついでにいくつか運ぼうぜって事になってな。 疾風君にも声かけよーとしたんだけど部屋に居なかったから」

 10キロの米くらいの重さがある袋を地面に降ろしながらため息をつく。


「ご、ごめん。 持つよ」


「マジ助かるわー。 てか疾風君は逆にこんな所に一人で座り込んでどしたん、もう夜よ?」


「少し考え事をしてて....」

 疾風はいい機会だと、温井に目線をやりながら続ける





「......温井さん、俺、旅に出て見ようと思うんだ」

 疾風は何かを決意したようにそう言った。





 =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=




「た、旅って...疾風君そりゃまた急な話だなぁ。 マジであぶねぇし止めといた方がいいんじゃね、またファンキー先生に叱られれるべ」

 数日前、勝手にヘルカ城に乗り込んだ4人は、ファンキー先生に本気拳骨をお見舞いされる程の説教を受けた。 しかし、救い出した女生徒の件もありなんとか許してもらったのだ。



「そう、だよね...でも、行ってみたいんだ」


「何人で行くつもりなん?」


「今の所.....一人、かな」

 疾風は自虐のように笑う。 無謀だと分かっていても、どうしても人への恐怖が抜けず自分から誘えない。 これに関しては日本に居た頃もずっとそうだった。


 そんな疾風の様子を見た後に、温井、翔、春の3人は互いに『マジかよ』と、顔を見合わせる。

 そして、一番最初に名乗りを挙げたのは意外な人物だった。



「疾風先輩ッ、私も旅に連れて行ってください!!」

 春はいつになく真剣な表情でそう言った。


「春っち!?」


「春ちゃん!?」

 翔と温井はハモるように声を張り上げた。


「ど、どうして春っちが!? 旅に出る目的があるの?」


「.....家族を....お兄ちゃんを探したいんです」

 手で握りこぶしを作りながら想いを伝える。


「家族って、星原っちの事?」

 温井は夜空のことを星原、春のことは名前で呼んで差別化をしている。 名前で言ったという事はこの星原は夜空の事だろう。


「自慢に出来ない、したくないのお兄ちゃんの【夜空】です。 でも、私にとってはただ一人のお兄ちゃんだから心配になっちゃって」 


「春っちはお兄ちゃんっ子なんだね~、かーわいい~!」

 温井が微笑ましいものを見るような目をしながら春の頭を撫でる。 春は図星を付かれたように顔を赤くしながら(うずくま)る。


「ちがっ、うぅ...撫でないでってばぁ」


「あぁ、言わなくても私はついて行くよ疾風っち! 冒険するなら後ろから皆を守れる力は必要でしょ?」


「温井さん....。 星原さん....」

 疾風以外の視線が自然と翔に向く。

 春と温井は『え? この状況でチキったりしないよね?』という目をしてた。


「だー!! わーったよ、俺っちも行くぜ疾風君! だからその目マジ止めろや!!」


「そんなこと言ってぇ、本当は膝がくがく震えてるんじゃないですか~?」

 春が翔の膝をつついて煽る。


「うっせぇ!! 春ちゃんだってポンコツのクセに何言ってやがる!」


「ポッ、ポンコッ!? ゆ、許さないし!その発言は!!」

 春が翔に飛び掛かり、温井がそれを笑いながら止める。




 これは自分を探す旅。 

 自分の恐怖と矛盾に答えを出す為の旅。


 彼らと一緒に行けば、その答えに近づけるのかな?





「みんな、これからよろしくね」

 疾風は旅の決意を固めながら皆に感謝を投げた。





 =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=


「......いつかは、そう言ってくるだろうなとは思ったよ」

 ファンキー先生の部屋にやってきた四人は早速、旅の許可を得るために話をしに来ていた。 開幕早々、怒鳴られることを覚悟していた四人は、結構話を聞いてくれるファンキー先生に対して少し拍子抜けしていた。


「少し意外っすわ。 また拳骨食らうかと思ってましたぁ」

 翔がヘラヘラと笑みを浮かべるのと反対に、ファンキー先生は真剣な眼差しで4人を見つめていた。 ファンキー先生はため息交じりに、重い口を開き始める。


「馬鹿たれ共が、拳骨したい思いを抑えてることぐらい察せ。 ....疾風、前に先生は言ったよな」


「誰にも怪我して欲しくないって事ですか?」


「そうだ。 だが、あくまでも俺は教師でお前らは義務教育を終えた一学生だ。 お前らが本当にそうしたいと思い立ち行動した、その自主性に異は唱えたくないのも事実なんだ」

 ファンキー先生はテーブルに置かれた、どっかのカフェで買ったコーヒー豆で入れたコーヒーを口に含みながら椅子の背もたれに寄りかかる。 木製の椅子のきしむ音が聞こえた。


「じゃあよ、ファンキーセンセは旅を認めるって事!? それマジ!?」


「やった―ッ!!」

 翔と温井は喜ぶが、春と疾風だけはファンキー先生の言葉が少し引っかかっていた。 ファンキー先生は言った『()()()()()()()()()()()』と....。



 日本の義務教育は中学卒業までがボーダーライン。 

 その言葉が暗に指す意味は.......。 言わずもがなというヤツだろう。 



「先生、星原さんはどうなりますか?」

 春がピクリと反応し、喜んでいた二人が凍り付く。


「一つ聞かせてくれ。 星原、お前は何故一緒に行きたいんだ?」

 ファンキー先生は春に向かって厳しい目を向けながらそう言った。 春は、ファンキー先生に睨みつけられて少し怖がっているが、ここで引けば目的を達成できなくなると考え、勇気をもって一歩を踏み出す。


「目的が...あるんです」


「半端な覚悟なら止めておけッ、冗談抜きに命を落とすぞ!! お前はヘルカで召喚されてその事を身をもって経験した筈だ! 分からんとは言わせんぞ!!」

 ファンキー先生が空になったコップを乱暴に机に叩きつけた!! 机から大きな音が鳴り、温井だけがその音に少しだけビビる。


「お兄ちゃんは....待ってても、来ません....。 心配だから.....何をしでかすか分からないお兄ちゃんだから......だから、行かなきゃっ!!!」

 春は、ファンキー先生への恐怖を必死に押し殺しながら自分の思いを正直に伝えた。 震える膝を手で押さえながら、目頭に涙をためて....春は言う。



 それでも行きたいと。



「はぁ、お前と仲のいい生徒から、兄を探しに行きたいという話はそれとなく耳にはしていたが......全く、どいつもこいつも本当に馬鹿たれだ」

 ファンキー先生は棚から数枚の紙を取り出し春に手渡した。


「....勇者召喚の情報? こ、これは?」


「暇なときに集めておいた新聞の切り抜きやメモだ。 他国に召喚された勇者の情報のみに限定しているから役に立つはずだぞ。 時間が無くて、南大陸までしか情報を集められんかったが」

 これを春に渡すという事は、春の行動を許可するという事だった。 春は一瞬、すごく喜ぶような表情を見せるが、すぐに顔を戻して真面目な顔を心がける。 



 変に意識したせいで、春の顔がアヒル顔になっていた。



「見せて見せて!!」

 アヒル顔の元へ、他の3人が書類に覗き込むような形で見る。 一枚は新聞の切り抜き、2枚目は地図、3枚目はファンキー先生の情報のまとめ。


≪南大陸勇者召喚について。 現在確認済みの勇者召喚を行った国の名前【マートルズ歴史国家(歴史研究の国)】、【ザドラ(地下迷宮の国)】、【アルテーラテルト(芸術の国)】.....それ以外にも【セブン国(剣技の国)】ここも、もしかしたら召喚を行っている可能性がある≫


挿絵(By みてみん)


「これが地図....」


「その中でも、ザドラは特に多いみたいだ。 確認できるだけでも80人以上だ」

 ....ファンキー先生が何を言いたいのか少しずつ分かってきた。


「葉日学園の生徒を一か所に集める。 このスピールトに集合するように声をかけて回るってことですよね?」

 少し苦しそうな表情を浮かべた後、ファンキー先生は無言でうなずいた。 その後に、小さな声で4人に向かって....


「...本来なら俺がやるべきだ。 すまん」


「「「任せて下さい!!」」」

 疾風を除く三人は声を張り上げてそう言った。


「....そうか、助かる。 で、出発はいつ頃を予定している?」

ファンキー先生は4人を見ながらため息交じりに呟く。


「そういえば.....」


「決めてねぇぞ」

 三人は顔を見合わせてから疾風を見て頷く。



「「「リーダーが決めて!」」」


「わ、分かった。 えーと、じゃあ、うん....本当にいつでも大丈夫?」

 疾風が念を押すが、全員は『大丈夫大丈夫』と余裕そうだ。 その表情や態度で大丈夫だと判断した疾風は遠慮なく告げた。





「じゃあ、先生 明後日に出発することにします!」




 =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=


 その次の日、雨の中四人は旅の道具をそろえ、地図をそろえたり武器を買ったり防具を整えたり。 旅の準備に一日を費やした。 費用は、戦争に赴いたことへの報酬と各自の持ち合わせ、それに勇者基地としての貯金を少し降ろして賄った。


 生徒の一部にも、旅の道具などを用意して貰ったりした。



 疾風は剣、翔はグローブ、温井は魔法杖、春はナイフ....という事になった。 温井が持つ魔法杖は、魔法系統スキルの威力を底上げしてくれるこの世界特有の武器だ。


 連射型魔道杖はこの杖を兵器化したものだったりする。



 そしてあっという間に時間は立ち......明後日の朝。

 昨日の天候とはうって変わり雲一つない晴天となった。 濡れた地面が照らされて渇く独特の匂いが鼻につく。



「ふぁぁぁ....晴れたねー」

温井はやっぱり朝に弱いのか、あくびをしながら伸びをする。


「うん、旅日和のいい陽気だね」

 温井と疾風は勇者基地の玄関を開けて呟いた。 その後、少し遅れて装備を整えてリュックを背負った翔と、小さなポーチをかけた春がやってきた。


「なにも、こんな朝早くからじゃなくても...」

春が不満げに小さく呟く。


「ごめんこんな朝からの出発になっちゃって。 港で宿を取るにしても、大陸線の港から別大陸に移る船は直ぐに予約埋まっちゃうんだって。 明日の船に乗るなら今日中に港について予約取らないと」


「...疾風君、俺達これから何キロ歩くん? 別に運動は苦手じゃねぇけどよォ、調理道具とか入ってっからバック結構重いんよな」


「さぁ? 考えると辛くなるから考えないようにしようよ...。 それに、バッグに関しては流石にこの重さを女の子に持たせるわけにもいかないしね」


「えぇ、馬車使おうぜー....」


「そんなお金は無いよ、旅の費用も四人分なんだからさ」

 疾風は少し笑いながら言う。 男性陣は重めの荷物を、女性陣は食料などの軽めのものや医療道具などを...。 調理器具に関しては、翔の提案でじゃんけんをして負けた方がバッグに入れるという形になったのだが....負けた方はお察しである。


「バッグが疾風っちより重いのは翔っちの自業自得だよ! 昨日疾風っちが『俺が持つよ』って、言ったのにじゃんけんに持ち込んだのは翔っちじゃん!」


「そーですー。 池谷先輩がわるいですよー」

 女性陣はけらけらと仲良さげに笑う。


「ちくしょー....」


「そこら辺で....朝早くて皆寝てるしそろそろ出ようか。 あんまりうるさくし過ぎても皆起こしちゃうだろうし」

 場を収めるように、リーダーである疾風が口を出した。


「オッケー」


「リーダーである疾風君がそう言うならなァ」


「疾風先輩これからよろしくお願いします!」

 4人は、スピールト他民族国家の首都、その南門に向けて歩き出す。 勇者基地を去ろうと背中を向けた時、誰かが勇者基地から出てきた。


 そして...何も言わずに全員をまとめて背中から抱きしめると



「誇れる馬鹿たれ共、他の国の生徒を頼んだぞ」

 ファンキー先生が嬉しそうに、でもどこか寂しそうにしながら呟いた。







 =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=


 異世界召喚から3週間が経過。


 疾風こと少年は仲間を連れて世界を歩く。




 この先に待ち受けるのは、喜びか困難か....




 だが少年は知っている。

 動かなければ自分の悩みを晴らせないことに




 悩みと危険なチカラをもった少年は、初めて自分の為の一歩を踏み出した。



 =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

==☆次回予告☆==


58話の閲覧お疲れさまでした。

スピールト編完結です。 言いたいことは色々ありますが、無事に投稿し終えて何よりって感じです(笑)。 疾風編はスローペースでのスタートになりましたが、今後の展開で疾風の最強っぷりを無理ない感じでお見せ出来たら...と思います。 疾風の明かしてない残りのスキルも徐々にって感じで....。



次回からは芸術の国アルテーラテルト編。 夜空とリリスの新しい旅が始まります!! 

次回の更新は、おまけ投稿後、スピールト編誤字修正期間1週間を空けての投稿となります。 一応、暇なとき点検して誤字は潰してるんですが...減りませんねぇホント。


ではまた本編後の後書きでお会いしましょう byゼロ先輩

 


次回、59話......運送の国 動き出して!


是非次回もご朗読下さい!


ではでは~

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