53話 その少女 少年の弱さを知る!
温井は、柱に縛り付けられたまま目の前で疾風が妙な空間に取り込まれていくのを目の当たりにしていた。 必死に叫び、疾風を呼び戻そうとするが....疾風は、何かに驚いたように目を大きく広げるとそのまま抵抗することなく空間に飲み込まれていった。
それから早15分が経過し、空間内部から時折、疾風の叫ぶような声が聞こえるようになった。 しかし、未知の空間に阻まれている影響で繊細には聞き取れない。
「疾風っち....ッ!!」
必死に抜け出そうともがくが縄が相当きつく抜け出すことが出来ない。 現時点で温井が所持しているスキルは『料理上手』の一個だけ。 この状況では流石に役に立たない。
「こんな時にッ...私は何の役にも立てないの!?」
その時、空間の中に散る鏡?のようなモノに....疾風の顔と涙が映った。 温井は、中学の頃にこの葉日学園に転校してきた疾風と知り合った。
彼はそれを望んでいない様だったけれど、彼の周りにはいつも人が集まっていた。 そしてそこには、笑顔があった........私はそんな楽し気な雰囲気が好きだった。
そんな笑顔の中心にいた彼の涙を見た時に....胸の奥がすごく熱くなった。
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スキルの習得には複数の道があるが、一般的なのは勉強か研鑽か....誰か、何かに教えてもらうことで基本的にスキルは習得できる。 手引書も学習の延長線上だと考えられていた。
だがそれとは別に、イレギュラーな道も存在する。
現代人なら、誰しも一度は見たことがあるだろう。
人は、追い込まれて力を発揮する!!
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「疾風っちの涙は見たくない! だって私は友達だから!!」
温井の周りに、風で生成された丸ノコが現れ縄ごと己を縛り付けていた柱を切り崩した。 生成された丸ノコは役目を終えたように空中に風になって離散した。
未知のスキルの発現に温井は大幅に体力を消耗した。
膝と手につき、ダンスホールの床に汗を垂らす。
「な、なにぃ...今のぉ」
スキル『ウィンドソー』...風で生成した丸ノコで対象を切断するスキル。 発動にはそこそこの体力を消耗する為、連発は不可。
大幅な感情の起伏は、スキルを己に開花させる。
最も、開花すること自体相当珍しい事だが、それを今温井が知る術は無い。
「疾風っち!!!」
温井は疾風の捕らわれている空間に飛び込もうとするが...飛び込んだと同時に反射されるように外側へ押し出された。
「なっ、なにこれっ!? 中に入れない!! 疾風っち、返事して疾風っち!!!」
温井は懸命に中に入ろうと試みるが全て徒労に終わる。 疲れ果てた温井は、外の空気を吸おうとバルコニーから少しだけ外に出る。
「ふぅ、ふぅ...早く戻らな...きゃ?」
温井は城の...いや、城下町の広場から少し引いた所で無数の兵器を見た。 なんだ、なんだと目を凝らしてよく見てみると、そこには....。
「あれ、機械? 攻撃しようとしてるの....?」
ほぼ90度に向けられた無数のマジカルバリスタがあった。 マジカルバリスタの全てには火射が装填されており。 のこり僅かのインストロニウムの魔力全てを使って、城下町とその付近で戦う自国の兵ごとスピールト兵を消し炭にしようとしていた。 傾けるのに手間取ってはいるが、もうそこまで時間の猶予はなさそうな感じがした。
「あわわわわっ! どうしよう、疾風っちもヤバいけど下もなんかヤバいよぉ!!」
城のバルコニーから起動準備中のマジカルバリスタまでの距離は、直線距離で300m以上、実際駆けつけるならその5倍はあるだろう。
しかし、慌てる温井の声は...少年には届かない。
....鏡面花蘇芳の空間内。
異様なまでの静けさが、過去と向き合う時間を無理矢理押し付けてくる。
「今一度問おう。 其方に世界はどう映る?」
震える疾風に問いかける。 先ほどと同じ質問が全く違う意味にとれてしまう恐怖に頭を上げることができない。
「やめろ、止めてくれよ!! 俺は乗り越えたッ、逃げてない、逃げてないんだ!!! そう思いたいんだ、思わせてくれよ!!!」
疾風は子供のように大粒の涙を零しながら泣き続ける。
「子供の堕ち行く様はやはり気が気でないね。 しかし、皮肉かな。 その後悔は愉快であり不本意....この名も無き難解な感情に頭を捻るばかりだよ」
フィクシスは、ほくそ笑みながら体育座りで泣き続ける疾風を見て満足そうにしている。
「うぅぅぅぅっ」
体育座りで泣くその姿は、先ほど回想で疾風が玄関で泣いていた様子と酷似していた。 そう、疾風の時はあの時から停滞したまま....動かない。
「其方から香り立つ、紅茶よりも芳しい香りに身を寄せていたいが、どうやら目的の時が近づいているようだね....。 出来る事なら、其方が崩れることが無い様に...」
言いたいことを言い終えたフィクシスの気配が、ダンスホールから『フッ』と消え、ダンスホールには花蘇芳の花弁と少年の鼻のすする音のみが響き続ける。
孤独を感じる。 ずっとこのままなんじゃないかと錯覚するほどに
....いつの間にか、疾風の目の前から小学生疾風は消え、彼が立っていた場所には一枚の写真が残されていた。
写真には、友達に囲まれた幼稚園の頃の疾風が笑顔で写っていたが....写真には大きく赤インクで『うそつきがはじまる』と、写真にかぶせるように書き殴られていた。
静寂の中、疾風の脳裏で何度も言葉が...情景がフラッシュバックする。
『疾風は皆のモノだからね!!』
『あいつすげぇめんどくさーい感じになってなぁ...』
『全部テメェのせいだろうが!!!!』
いやだ....こんな言葉をかけられたくて、父に秘訣を教えてもらったわけじゃないのに....。
怖い、怖い、怖いッ...。
生き方を変えようと努力した。 あだ名をつけるのを止めて、苗字で呼んで...自分から意見を言うのを止めて...、人の輪の中心に行かないように努力もした。 父さんが教えてくれたように【全員と同じ距離感で接するように】努力もした。
でも、幼い頃に染み付かせた生き方を簡単に変えられるほど、俺は器用な人間じゃ無かった。 結局、また取り繕って、前と同じような状況になりつつある。
いつ壊れるかも分からない関係性が怖い。
でも、止められない、変えられない自分に嫌悪する。
心じゃ分かってる。 どんなに取り繕っても...俺は人の生活を踏みにじって壊した挙句、罰を受けることなく逃げ出した卑怯者だってことぐらい。
でも、でも....
「じゃあ俺に....どうしろっていうんだよ....っ」
疾風が今にも折れそうなほど小さい声で呟いた。
それでも人との関係を切るのが怖い、孤独が怖い。 そんな矛盾を抱えた俺が誰かと一緒に居たいと思うのは間違いなのか? 間違いならば、誰か俺に正しい答えを教えて欲しい。 そしたらちゃんと正すから、いくらでも正すから...せめて正解を教えて欲しい....。
.....疾風はいつの間にか地面に転がっていた剣の柄を握り、再び大粒の涙を流した。 流した涙が手の甲に落ちて甲を濡らす。
あの時も、助けに行きたいとみんなの前で取り繕って見栄を張って。
結局、失敗した。 こうして泣き崩れるハメになった。
全部自分が悪くて、それを素直に肯定できない自分が嫌で。
....他の人ならどうしただろう。
俺と真逆の考え方を持つ彼なら...どう動いただろう。
「....もう、立てない。 もう歩けない」
寂しい静寂が闇になって自分を包み込む。
直感で分かる、コレに飲み込まれたら多分もう一生.......。
俺は立ち直れないだろう。
逃げたくても、膝が『逃げるな』と言っているかのように動かない。
「でも、これで楽になれるなら...。 もう、苦しまなくてすむのなら....」
疾風は迫りくる闇を受け入れようとした、その瞬間!!!
「疾風っち―――――ッッッ!!!!!!」
何処からともなく現れた風の刃が、後方にあったらしい花蘇芳の木を切断した。 切断された花蘇芳の樹は音を立ててダンスホールの床に倒れ、そのままガラスが割れるような音を出して砕け散った。 それと同時に、空間そのものが消滅し、樹と同じように崩壊する。
「っっ!!」
温井さんは崩壊し始めた空間に飛び込み。 辺りを見回した......そして、目の前に居る、涙を流した疾風を何も言わずに強く抱きしめた。 疾風は一瞬驚くが、温井の必死な様子を感じ取り黙ってそれを受け入れた。
母に抱きしめられた時の安心感と似たものを感じた。
....そう思った瞬間、疾風は安堵で泣いた。
空間が完全に崩壊するまで二人は抱きしめ合い.....。
そして最後の花弁が落ちた時に二人は静かに距離を取る。 同級生の前で流した涙への気恥ずかしさ、泣いている同級生にとんでもない事をしてしまった事の両方がお互いを別の意味で苦しめる。
「あぁ、あ――、えーっと....その―、疾風っち大丈夫?」
頬を赤く染めながら指をつつき、恐る恐ると言った感じに温井が口を開いた。 疾風は鼻をすすり、唾を一回飲んで声を戻す。
「だ、大丈夫...」
「何があったのか聞きたいけど....聞かない方がいいよね。 疾風っちがそうなっちゃうってきっと相当のことだもん」
疾風は温井の気遣いに首を横に数回振る。
「いや、言うよ温井さんには....。 誰かに話さなきゃ、俺はまた同じことになってしまいそうだから。 だから後で聞いて欲しい、温井さんが良ければだけど」
軽蔑される決意を疾風はした。
「.......わかった、ちゃんと聞く。 ううん、聞かせて」
温井は、落ち着いているように見せて内心は割と驚いていた。 あの疾風が涙を流すなんて、中学生から疾風と知り合って初めての事だったからだ。 疾風がこんな事になれば周りが自然と騒ぐ。 多分、葉日学園の生徒ならほとんどがこの状況に驚く。
「よしッ...」
疾風は切り替えるように頬を手で叩き、勢いよく立ち上がる。
今はただ、自分が思う正しい事をしようとそう思い直した。
「あぁ、そうだ! 疾風っちッ、ベランダ?から外見て外!! 先生とか皆とかが危ないんだよぉ!!」
「外? 分かった、すぐ行くよ」
疾風は、剣を鞘にしまってバルコニーに向けて走り出す。 その後ろを温井が追従するように走る。
バルコニーへ飛び出した二人は、既に装填が完了した新型マジカルバリスタを発見した。 インストロニウムに残る全ての魔力を無理やり投入した矢は、直ぐに爆発するんじゃないかと言うほど赤黒く光り輝いていた。 その光は約300m先に居る疾風たちにも十分に確認できるほど大きかった。
「遠い...」
「っスピールトの人たちこの事に気づいてるのかな!?」
恐らく気づいて居ない。 広場にまでスピールトは迫ってきているが、兵器はその後ろ...巨大な建物の陰になる場所に配置されていた。
それにこの段階で気づけたとしても....相当の被害が出る。
「撃たせちゃダメだ....何か方法はッ!!」
なんとしても防がなくてはッ、前線に出てる軍の人たちもファンキー先生も、もしかしたらいるかもしれない他の生徒たちも.....みんな死んでしまう!
どうするどうすれば止められる!?
俺はまだ自分のスキルの全ての効果を把握していない。 把握できているのは、フォトンストレイヤとフラッシュアクセル位だ。 他のスキルに関しては、一度は使ってみたもののほとんどその効果が分からなかった。
使えない力に他人の命を賭けるのはダメだ!
俺が持ちうる手段で、唯一方法があるとするならば.....
疾風は覚悟を決めたように息を吐き、剣の柄を握った。
==☆次回予告☆==
53話の閲覧お疲れさまでした。
スキルの開花について説明がありました。 感情によってスキルが生み出されたり、進化したり...。 諦めない者には救いがあるのかも...しれませんね?
次回は疾風の強さが見れる回かもしれません。
いつぞやに話した?かもしれませんが、疾風の天賦は最強クラスの性能を持っています。 それは作中の、勇者の愛用天賦というセリフで明らかでしょう。
ただ、作者がね。 アホなんで...最強系の小説書けないんですよね。
なので、強い力をどう使うか...そこをしっかり描いていきたいですね(願望)
次回、54話......その広場 戦場につき!
次回の更新は少しだけ私用で遅れます。 すいません...。
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




