52話 その叫び 少年には.....!
「疾風ぇ、再来週の日曜空いてる? 市民センターのコートでバスケしようぜ」
「疾風君、今度女子でカラオケ行くんだけど。 来て来て!!」
「来れないなんて言うなよ! だって他の奴とは遊んでるんだろ?」
収拾がつかなくなり始めていた。
休みなのに疾風は学校の日より忙しく動き回っていた。
勿論だが、最初は生活リズムに慣れずかなり疲れてはいたが、そんな忙しい日々も友達との交流だと思えば悪くないと思い始めていた。
そしてそんな生活を続けた結果....。
【ピピピピッ!!】
体温計の鳴る音がして、疾風は脇に挟んでいた体温計を抜いて体温を確認する。 体温計は【39.2°】を示していた。
「どうしようっ、どうしようっ、うちの可愛い疾風が熱をォォォォ!!!」
「落ち着いてまずは学校に休みの連絡を....」
「ママ、仕事を投げて看病するわ!! 誰に言われても絶対に投げるわ!! 今ここで今日会議に使う資料を破り捨ててッ....!!」
「こらこらこらッ! 休みの一報を職場に入れるだけでいいでしょうよ!」
両親はどっちが面倒を見るかという、家族ではありがちな喧嘩はせずに今後の対応について即断する。 父の方は心配そうにしながらも、外せない収録があると出かけていてしまった。
「........天井が近くなったような感じがするぅ....気持ちわるぃ」
「今、冷えピタと薬を持ってくるわ!」
抱え込んだバチが当たったのかも知れないと、己を戒めて....次から休みをしっかりとろうと心に決めた。 両親の心配そうな顔を見てしまったから...。
「....明日の約束のこと...月曜日謝んなきゃな」
疾風は治れば土曜日と日曜日は約束の場所へと顔を出そうとしていたが、母の珍しいほどの猛反対を受けて休日は家で過ごすことになった。
こうして悶々とした土日が過ぎ...登校日の朝。
教室についた疾風を待っていたのは、休日に遊ぶ約束をしていた2つのグループと別の休みで遊ぶ約束をしていたグループのリーダー格の人たち。 グループのメンバーはベランダや教室の外から中の様子を窺っていた。
「おはよう。 ...みんなどうしたの?」
「あぁ疾風...いやさ、お前体壊したじゃん」
「うん、ごめん...」
全員が疾風の方を向いた時、疾風は少し怖さを感じた。
「でさ、考えたんだよ。 ...この繰り返しだといつか疾風倒れるだろ?」
「......考えたって何を?」
疾風がそう呟くと、リーダー格の人たちが机の上に置いてあった紙を指さした。
疾風は紙を覗き込んだ時、生まれて初めてゾッとした。
紙にはこの先3か月の平日、休日、祝日を含むスケジュールが組まれており、そこに疾風の今後の意思が介入するすべは無いほど綿密に予定が組まれていた。 何処で知ったのか、なんで知っているのか分からないような、個人的な予定の一つ一つに至るまで完璧に計算しつくされたスケジュールがそこにはあった。
「....なんだよ...これ...どうやってこんなに...」
「そりゃ、親友を知るのは当然だろ?」
「し、しん...ゆう?」
疾風はドン引きしながら周りを見渡すと、疾風を見ていた生徒たちは声をそろえてこう言った。
「「「「「「「疾風は皆のモノだからね!!」」」」」」」
「――――――ッッッ!!!!!!!」
疾風は、声にならない程の悲鳴を上げその場から家に向かって一目散に走る。 後ろからは『走るほど嬉しいみたいだー』とか『もうすぐ授業始まるよー』とか悪意のない言葉がかけられる。
疾風は、それらを全て無視して学校を飛び出し、通学路をひたすらに走る。 途中転んでも、心が足を止めることを許さなかった。 道行く知り合い全てが悪魔のように見えた。
両親が仕事で出払った自宅の玄関に、震える手で鍵を差し込みドアを開けて中へと飛び込む。 すぐさま玄関のカギを閉めてその場に座り込む。
「怖い、怖い怖い怖いッ...」
ガタガタと震え、大粒の涙でズボンを濡らしながら疾風は小一時間玄関で泣き続けた。
(俺は誰かのモノになんてなりたくない)
(あんなにも人は変わるのか....どうして....どうして....)
(俺はただ、みんなと仲良くしたかっただけなのに...!)
(どうして、どうして.....こうなったんだ)
脚光を浴びる人間から寵愛を受けたいという承認欲求は人の考え方を変貌させることを.......。 両親は知ったうえで警告し、疾風はその言葉の本質を理解しないまま成長した。
疾風は、この日を境に学校に姿を見せることが無くなった。
.....。
..........。
学校に行かなくなって早2週間が経過した。 初めの頃は、熱だと言って両親を騙していたがそれも次第にバレていき、休み始めから3日経過する頃には両親が疾風の身に起こった異常に気付くようになった。
疾風はお見舞いにきた友達との接触を避けるようになり、生活のストレスから目には日に日にクマが深くなっていった。 次第にお見舞いの頻度は少なくなり、一週間ちょい立つ頃にはもう誰も来なくなってしまった。
「.......この気持ちはどうしたらいいんだよ」
俺には分からない。 この状況を打破する手段が存在しない。
抱え込んでおかしくなる程悩んでも、正しいと思える答えが浮かんでこない苛立ちを家具にぶつける。
それからしばらくして担任が家にやってきた。
「みんな心配してるぞ」
しぶしぶ家に上げた疾風は先生にお茶を出す。 先生が投げかけた問いに疾風は疲れ切った表情を浮かべながら無視をした。
「....。 なにがあったか先生に話せるか?」
「じゃあ聞きたいです。 みんなが待っているのは俺という人なんですか?」
「どういう意味だ?」
「俺は怖い。 俺はただ皆と友達になりたかっただけなのに...」
状況を理解できていない担任教師は困惑する。
「と、とりあえずお前は学校に来い! お前の悩みは学校でしか解決できないから!!」
担任は全てを疾風に丸投げすると、疾風が入れたお茶を飲まずにそそくさと家を後にしていった。 先生が家を出て行くときに、つけっぱなしになっていたインターホンのマイクが担任の声を拾った。
『あいつすげぇめんどくさーい感じになってなぁ....。 本当に、次から次へと問題児どもめ。 あ――――、こんなクソみたいな職業早く辞めてぇー」
......人間はうそつきばっかりだ。
口では大切だとのたまいながら、裏では平気でそれを裏切る行為をする。
疾風は、洗面台の前に立ちながら自分の疲弊した顔を見て苦笑いする。 『あぁ、俺も嘘をつくべきだった』と呟きながら.....馬鹿馬鹿しいと、手ですくい上げた水を顔にぶっかけた。
疲弊した顔をなんとか正常に戻ったようにみせかけ、疾風は久しぶりの通学路を歩く。 不登校になってから乱れた生活リズムが戻らず、時間は既に3時間目の終わりごろになっていた。
それからしばらく歩き、学校に辿り着いた疾風は下駄箱から上履きを取り出そうとするが...自分の上履き入れの中に上履きは無かった。
「あれ?」
疾風は近場にあった来客用スリッパを取りそれを履いて自分の教室へと向かった。
恐る恐るクラスに向かいながら、外からさりげなく他クラスの様子を覗いた。 そんな疾風の目に飛び込んできたのは、クラスの6割以上が欠席になっている寂しい授業風景だった。 疾風の居る学年がその酷さが顕著に出ており、他の学年でもチラホラ同じような様子が見られた。
この数週間の間に、インフルエンザが流行ったなどのニュースはやっていなかったし、それに酷似するような感染症に関しても同様だ。 疾風はわけがわからず、クラスに入るのを戸惑っていると.....屋上でサボるはましょうを窓から見かけた。
はましょうは、何処か寂しそうに屋上のフェンス越しにグラウンドで授業を行う他クラスを眺めていた。 疾風はまるで流されるように屋上へと向かって行った。
階段を上り終え、地味に重い鉄扉を開けると....そこには疲れた顔をしたはましょうがいた。
「.........よぉ」
疾風の方を向くことなくはましょうは呟いた。
「お、お久しぶり...。 げ、元気だった?」
「......どーでもいいわ」
投げやりにはましょうはそう言った。
「な、なぁ、何があったんだよ」
「なぁ、どっか行ってくんない? 今は人と話す気分じゃ無い」
「本当に何があったんだよ!!」
「....うるせぇなぁ―――――!!!!」
はましょうは突然狂ったように大声を出した。 大声は後者の間を反響し中庭にまで声が響いた。 はましょうはそのままのテンションで、疾風の胸倉を掴み落下防止用のフェンスに押し付ける。 フェンスから【ガシャン!】という音が鳴る。
「は、はましょう...どうしたんだよ急に...らしくない」
「何がらしくないだっ全部テメェのせいだろうが!!!!」
......?
疾風は何を言われたのか理解できなかった。 心配されることはあっても、このように言われるとは流石に思っていなかった。
「この数週間の間に、何人お前のことで喧嘩して消えたか本当に分かってんのか!? それなのにまともな答え一つよこさず逃げやがって!!!」
「.....えっ」
俺のことで争った? なにを? なんで?
「昨日まで一緒に笑ってたダチを、醜いツラで殴りつける奴を見たことあんのかよ!! お前が、お前がこの学校を狂わせたんだ!!!」
「そ、そんなの...俺に言われても!!」
疾風は掴まれた胸倉を振り払い距離を取る。
「全員に良いツラばっか見せてたからこんなことになったんだろうよ!! 最初はお前を擁護する奴もいたよ、だけどそういう連中も次第に消えて.....消えて!!!!」
「お、落ち着けって...なっ?」
疾風が差し伸べた手を....音が鳴るほど強くはじいて拒絶した。
「昨日、責任追及の喧嘩に巻き込まれて...。 何人が俺のLINEをブロックしたか知ってるか?」
「.....」
「14人だよ、14人! たった一晩で14人も友達を失ったんだ!! それを言うに事を欠いて落ち着けだと、落ち着けるわけねぇだろうが、偽善行為も大概にしろッ!!」
ひとしきり暴言を吐き終えた友達は、うなだれるようにフェンスに腰をかけて....こう言った。
それはとても...とても小さい
蚊の鳴くような小さな声で...
「もう...ほっといてくれ。 お前は俺にとっての疫病神だ」
あぁ、もうダメだ。 疾風は直感でそう感じてしまった。
そう思った瞬間、疾風の中で何かが崩れた。
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【現実世界、鏡面花蘇芳の部屋内部】
花蘇芳の花びらが、鏡のように輝き散り積もるダンスホールで疾風は膝をついて項垂れていた。 見たくもない過去を見せられて相当ショックだったようだ。 その姿に人に求められるようないつもの姿は無く、愚かで弱い子供のような雰囲気を醸し出していた。
「......俺は俺に何をしてほしいんだ。 こんな過去を俺に見せて...俺の心を折る魂胆?」
「あたかも、俺が悪い事してるみたいに言わないで欲しいな。 全部目を背けた、背け続けた自分の責任でしょ? 渇望、期待、重ねる偽善....そして嫉妬と怒り。 怖くて逃げだして、それを俺は『みんなの生活を守る為』というご立派な大義名分を引っさげて逃げたんだ」
「ち、違っ!」
疾風は必死に否定するが、小学生疾風は苦笑しながら
「...醜い事よ」
何処からかフィクシスの声が聞こえる。
「俺を倒したいならこんなことする必要性無いだろ!!」
疾風は叫ぶ。 とにかくここから抜け出したい一心で。
「倒す? 面白い冗談だね?」
「.....え?」
「最初に言ったであろう? 己の内に潜むは黒幕と.....その黒幕が生み出す甘美なる絶望を味わいたいだけよ」
「じゃあもう十分味わっただろ!!」
「ならば出れば宜しい。 乗り越えたのなら精神は安定し、判断能力は戻りゆく.....抜けられないというのならソレは其方がまだ逃げ続ける証拠よ」
この空間は妙だ。 ただ過去の情景を見せられるだけでは無く、感情もそれにともなって動かされる。 その当時感じていた、二度と感じたくないような不快感と一緒に追体験させられているような感覚になる。
まるで過去をそのまま鏡によって反射させているかのように。
「人によっては、過去の足跡は己の黒幕となり得る。 その者は過去から目を逸らそうとするが、逸らせば走り抜けた足跡が其方を踏みつぶさん。 だが構わないよ、背けることは罪にはならないのだから.....」
フィクシスは続ける。
「今一度問おう。 其方に世界はどう映る?」
フィクシスの酷く楽し気な口調でそう言った。
==☆次回予告☆==
52話の閲覧お疲れさまでした。
好かれ過ぎるからこその苦悩。 疾風の悩みの核が見えたと思います。
今後疾風がこの悩みとどう向き合うのか、ヒューマンドラマに注目です。
※小説を更新する曜日が決定しました! 詳細は、この作品全体のあらすじをご覧ください。 ....あくまで不定期なので、急にお休みはもらうかも?※
次回、53話......その少女 少年の弱さを知る!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




