51話 その足跡 少年を追いかけて!
「オリジナルスキル『鏡面花蘇芳』」
「なんで....子供の頃の俺が....」
ランドセルを背負った小学生時代の自分が真顔でその場所に立っていた。
柱に縛り付けられていた温井さんも、背後に居たはずのフィクシスもいつの間にかその場から消え、ダンスホールには疾風と小学生疾風だけが立つ。
ダンスホールの壁にある大きな窓ガラスは、鏡のように中の様子を反射して外の様子を確認できなくなっていた。
異質な空間の中、何処からか降り注ぐ鏡のような花蘇芳の花弁が空間を舞う。
「温井さんッ! 何処に行ったんだよ!」
混乱する疾風。 だが、その混乱の元はこの空間や突然消えた温井が全てでは無い。
まるで目の前に居る自分から必死に逃げたいように慌てる。
「俺は仲良くしたかっただけなんだ」
小学生疾風はゆっくり口を開き始めた。
「その...こ、言葉はッ」
疾風は動揺し呼吸が乱れ、まるでトラウマを掘り起こされているかのように辛そうだ。 だがそんな様子を無視して、小学生疾風は語り続ける。
「逃げるために呟いた」
「に、逃げてない!!」
「守る為だった」
「そう...そうだッ!! 俺は、俺はッ!!」
「そう、自分に言い訳した」
「.....ッ!!」
「矛盾が生まれ、その矛盾は無数の鎖に変化して俺の首を絞め殺した」
過去の情景がフラッシュバックする!
教室の中で多くの同級生が疾風に指を指して怒鳴り合う...そんな記憶をッ...!
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....潰れた、いや潰した光の泡が戻るように自分に過去を見せる。
泡には日本で暮らしていた頃の、本物の幼稚園児姿の疾風が家族と一緒に写っていた。
.....。
「疾風も今日から幼稚園生だぁ~! あぁ可愛い可愛いンンンン!!」
疾風の母が、疾風の頬に頬ずりを行いながら疾風の匂いを吸引する。 疾風を抱きしめて離さない親バカ。
疾風は抱きしめられてうれしそうだ。
「ママ、くすぐったいよ~!!」
疾風は、笑いながら母を退けようと押すが母が負けじと吸引する。 そんな様子を、後ろから見ながら疾風の父は呆れていた。
「おいおい、流石にもう放してやったらどうだ。 それにお前は、これから大事なイベントの打ち合わせだろう....入園式は任せて早く行きなさい。 遅刻したら先方に失礼だろう?」
「そうなんだけどぉ、私の息子が可愛いから~。 あと30分――――」
色々大変な母である。
「こらこら、母親がそんなんじゃ疾風が困るだろう」
「そういうあなたは今日は本当にテレビの仕事入らないのよね?」
「それは約束する。 ディレクターやスタッフにも既に話は通してるから、今日はテレビ局から電話一本すら来ないよ」
「良かった良かった。 もし仕事が入ったらあなたをシバき倒す所だったわ♡」
「シバかれなくてよかったよ。 さぁ行った行った!」
父に押されて母が家を出る。
父は有名なテレビタレント、母は著名なインフルエンサー。 そんな二人の間に生まれた子には『相ヶ先 疾風』という名が付けられた。
「みんなと仲良くなるにはどうしたらいいの?」
その日の夕食時、疾風は藪から棒にそんなことを言った。 きょとんとする両親を差し置いて疾風は続ける。
「俺みんなと友達になりたい! テレビに出てるお父さんみたいに人気者になりたい!」
「うーん、あの人たちはタレントで仕事仲間みたいな感じだから友達では....」
「でもパパ楽しそうに話してたじゃん!!」
疾風にはテレビに映る人たちは父の友達のように映ったらしい。 父は様々な番組のMCも務める人だったので、芸人にツッコミを入れたりして場を盛り上げる力もあった。 疾風にはその一連の動作が人気者のように見えていた。
「アハハ、疾風は友達が沢山欲しいのか」
「うん!!」
父も母も人目に引く事、そしてその分野で成功した人間であった為、人との接し方や話し方、立ち振る舞いなどに置いて長けていた。
「じゃあ練習する? 人気者になれる練習」
「あなた? 疾風には難しいんじゃないかしら」
「ママ、大丈夫! パパお願い教えて!!」
自分の息子の無邪気さに当てられた両親は、疾風に話し方のノウハウを叩き込んだ。 元々、遺伝子的に素質があったのか疾風はその成果を幼稚園内で着実に発揮していった。
話を聞き、感情の変化を敏感に感じ取り、相手が求める言葉をかける。 自分の話をするタイミングや他人の話を聞き、理解して相槌を打つ。
いわば空気を読むことのできる力が、同年代に比べて極めて優れていた。 その上、立ち振る舞いから接し方、身なりの整え方なんかも両親から教わり身に着け、幼稚園を卒業するころには疾風の周りは多くの友達に囲まれるようになった。
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「ウウッ! 止めろぉォォォ!!!」
疾風は自分のトラウマを跳ね除けるように剣で空を斬るが、方向も無茶苦茶だったため小学生疾風はその攻撃をなんなく避ける。 しかし、疾風にかかっていた幻覚に近い過去の情景が、煙のように【フッ】とその場から消えた。
鏡のように輝く花蘇芳の花弁が床に積もり、ダンスホールを徐々に幻想的な空間へと変えていく。
「ずっと目を背けてきた罰。 俺も疾風だから分かる、いつかは向き合う時が来る心の奥底では理解していたんだ。 でも生き方を変えられなかった、俺は不器用だから」
小学生疾風は疾風に語る。
「俺の過去なんて今はどうでもいいんだ!! フィクシスとか言う人も聞いてるんだろ、温井さんを解放してくれ、俺達に戦う意思は無い!」
声が反響しダンスホール全体に響くが反応が無い。 いや、反応はしているが声を発さないでいるような感じがした。
自分をおもちゃのように扱っている。
そんな気がした。
「いくら目をそらしても過去は俺の後ろを走り続けるんだ」
小学生疾風は、背負っていたランドセルの中から煙を出現させる。 煙はたちまち疾風を飲み込み.....再び見たくもない過去の続きを見せられる。
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≪人気者になりたいのなら、誰か一人を特別扱いしてはいけない≫
父は色々な事を教えてくれる前にそう言った。
俺の幼少は孤独とは無縁だった。 孤独の怖さを知らない、知りたくも無いし知る必要性も無いと思った。 これからも同じように接していけば、その未知の怖さを感じる必要性は無いから。
「今日から小学校ね! あーあぁ小学校の制服可愛い可愛いンンンン!!」
数年前と同じ事を疾風母は行っていた。 疾風はもう子供じゃないと必死に抱きしめる母の腕の中から逃れようともがいていた。
「デジャブ....。 ほら、疾風も嫌がっている」
「だってぇ、だってぇ...あと数年でさせて貰えなくなっちゃうよぉぉぉ!!! お母さん寂しい、寂しいよォォォォ!!!!」
号泣するいい意味で過保護な母を見て
「........」
疾風が仕方ないと体を預けた。
「ッ! ありがとう疾風ェ――――ッ!!!」
抱きつく母、〆られる息子!
「グェッ! 苦しい苦しいっ、ママもう終わり、終わりだってばァァァァ!!」
トドメを刺された疾風が死にかけの魚のように痙攣しながら床に横たわる。 そんな疾風の横で母は顔をテカテカと光らせながら非常に満足そうだ。
「......お前」
「フフ、あなたもやる? サプリメントよりも健康になるわよ?」
「息子を健康サプリメント代わりにするんじゃないよ....。 はぁ、早く仕事に行きなさい、入学式の方は私が何とかしておくから」
「今日は本当にテレビの仕事入らないのよね?」
「ディレクターやスタッフにも既に話は通してるから大丈夫」
「良かった良かった。 もし仕事が入ったらあなたをシバき倒す所だったわ♡」
「シバかれなくてよかったよ。 さぁ行った行った!」
数年前と似たような会話をする相ヶ先一家はそれぞれの目的の為に家を出た。
そして幼稚園に引き続き、小学校でも....。
「疾風ー! 昨日の動物番組見たか!」
「見たよ見た! いやー、猫とおばあさんの再開は感動したね! ササッキーはどうだった?」
「感動したよな~!」
.....。
「昼休み、外で一緒にドッチボールしようぜ!」
「いいよはましょう、チーム分けはじゃんけんで分けよう!」
「OK、参加する連中にじゃんけんさせるわ。 じゃあまず俺と疾風でじゃんけんだ! いくぞぉ、じゃーんけーん...」
「「ポン!!」」
.....。
「疾風くーん! お昼一緒にたーべよ!」
「あっマオちゃん! ごめんっ、今日他の人たちと食べる約束があって...」
「先約かぁ...。 うん、それならしょうがないね...」
マオちゃんと呼ばれた女の子は少しがっかりしながら去っていく。 そんな様子に、心優しい疾風はほんの少しだけ悩んでから声をかける。
「もしよかったら一緒に食べよう! 一緒に食べるの女の子だから話合うと思うし!」
「でも、私...会話下手だし」
「俺が背中押すよ。 大丈夫任せて!!」
マオちゃんに向けて、疾風は自信満々にピースをして安心させる。
「う、うん。 疾風くんがそう言ってくれるなら大丈夫な気がしてきた!!」
.......。
「は、疾風さん、前におすすめした本...読んでくれました?」
「あっ時未さん。 うん、あのミステリーは凄く難解だったね、最後まで犯人が分からなくてハラハラしたよ」
「よ、よかった、私の好きな本なの...。 え、えへへ」
「他のミステリー本好きの友達と一緒に読んでさ! 感想言いあって楽しかったよ」
疾風は話を深掘りする為に別の友達の話を交える。
「ほ、他の?」
「うん、時未さんとも話、凄く好み合いそうだから今度一緒に朗読会しようって!」
「は、疾風さんも...?」
「俺? 誘われれば行くよ~」
「は、疾風さんが一緒なら...安心だし。 行ってみます」
「良かった! 時未さんならそう言ってくれると思ってた!!」
.......。
全員が友達な世界を作れたらいいと思った。
だから男友達も女友達も名前やあだ名で呼んで、人によっては口調や立ち振る舞い...友達が好みのモノを、ある程度自分も好きになれるように努力もした。
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「....こんなものを......努力だと思った」
小学生疾風は自らで煙を払い、必死に頭から記憶を消そうと蹲る疾風に近づいていく。 その体は震え、いつもの疾風からでは想像も出来ない程弱々しくなっていた。
「だけど幼い俺は知らない。 人の心に近づけば、光も近づくが同時に闇も近づいてしまうことを知らなかった」
ゆっくりと小学生疾風が近づいてくる。
「お、俺は....俺は逃げてない。 俺は....俺は悪くない、悪くないはずなんだ...」
疾風は震える。
「過去を乗り越えず拒絶するなんて俺は弱いね」
「拒絶してない」
「なら頭を上げて目を開いてみろよ、その赤い髪の毛で目を隠すな、たとえ隠しても記憶は消えない。 言っただろ、過去は自分の後ろを走り続ける......今だって、お前の後ろには過去が付きまとい続けてるのが見えないのか?」
「嫌だ、嫌だ....。 もう乗り越えたんだ...、俺は俺はもう...振り返る必要性は無いんだ!!」
小学生疾風は呆れたように再びランドセルを開く。 中から例によって煙が現れ疾風を包もうとするが....疾風はさっき以上に抵抗し、必死に煙から逃げようとするが....。
無情にも体は、優しく煙に包まれた。
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疾風は基本的に休みの日は両親以外と出かけない。 小学生だから危険だと父に止められているのもあるが、それ以上に疾風は父との決め事を守ることを意識していた。
だれかに遊びに誘われた時は『休日は基本家族で過ごす決まりなんだ』という形で断っていた。 疾風を慕う大勢の友達にも、疾風は休日遊べないという考え方が定着していた。
だけどある日....。
「は、疾風ッ.....こここっ、これッ!!」
他クラスの眼鏡をかけた男友達が映画のチケットを一枚差し出した。
「....?」
疾風は首を傾げながら差し出されたチケットの表紙を覗き込むと...。 小学生に大人気の少年漫画である『ピースピース』の映画のチケットだった。 疾風も友達の紹介で読み始め、休日を返上するほどドハマりしていた為、映画の一件はCMなど知ってからかなり気になっていた。
「一緒に行かないか!?」
しかし、チケットに記載されていた予約日は今週の土曜日.....休日となっていた。 公開日で、なおかつここまでいい席となると、相当前から予約でもしてないと取れない。
(どうしよう...行ったらあの約束が。 でも、ピースピースの映画のいい席なんて簡単に取れないし、公開日から離れれば入場特典も...)
疾風は悩みに悩んだ末....。
「分かった、行こう! でもチケット代は払わせてね!」
欲に流され行くことを選択した。
そして映画を見終わり.....週休明け。
学校に登校した疾風は、男女年齢様々な友達から同じことを言われた。
「「「「「「疾風君、今度の休み! 遊ぼう!!」」」」」」」
「え? えーと....え?」
遊んだことを見られていた。
そして、その事実は一気に学校中へ拡散した、してしまったのだ。 疾風は休日遊ばないという常識が覆され、前々から誘おうと目を付けていたグループや個人が疾風に詰め寄る。
≪人気者になりたいのなら、誰か一人を特別扱いしてはいけない≫
疾風はこの言葉を文字通りの意味で理解し実行した。 だからその本質....コミュニティの頂点に位置する両親が、初めにこの言葉を口にした意味の内容を理解できていなかった...。
==☆次回予告☆==
51話の閲覧お疲れさまでした。
疾風の過去回想1回目です。 疾風の人格はかなり複雑です。 正直作者も、書いていてこれ伝わるのかな...と、不安になる時も多いです。
もし分かりにくかったらすいません。
小学生疾風は結構難解な比喩を使います。 フィクシスがスキル発動者なので、フィクシスの喋り方に多少引っ張られてる所があるみたいですね(笑)
疾風の言動の些細な変化にも目を向けて下さると.....嬉しいです。
次回、52話......その叫び 少年には.....!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




