50話 その少年 正義と偽善の境に!
「.....誰ですか?」
疾風は口ではそう言うが、直感で敵だと認識して鞘から剣を抜く。 そんな仕草を見慣れているのか気にも留めず、貴族姿の男は毛布にくるまれて気絶している女性を見た。
「勇者の子、問いへ答えよ」
「.......」
「其方の目にこの世界はどう映る?」
「....その捕まえている人達を放して下さい」
疾風は、フィクシスの発言を無視して自分の要求を突き付けたが、フィクシスは機嫌を損ねるどころか何故か嬉しそうだ。 もっとも表情筋が大きく変わることは無いが。
「ならば何方か選ぶが宜しいことよ。 最も、其方が命の天秤を動かせる器とは思えないしね」
「......」
選べと言われて疾風は固まる。 温井と春は抜け出そうともがくが、掴まれている腕の力が凄まじいのかまるで岩のようにビクともしない。
「再度問う。 其方の目にこの世界どう映る?」
「そんなの分かりません。 俺はまだ子供で、世界を知らない....でも残酷です」
疾風は翔の抱える毛布にくるまれた女性を見てそう言う。
「其方がそう考えるのなら....そうなのだろうな?」
貴族姿の男は春だけを解放する。 解放された春は急いで距離を取る。
距離を取る最中に、ポンコツっぷりを発揮して春は転ぶ。
「温井さん....いや、もう一人の女性も放して下さい」
「....その提案を飲む前に、そこで眠る散りかけた花束を正しき場所に活けるが宜しい。 花は水を与えねばいつかは散ってしまうものよ、人の手によって枯れさせられたのならば....尚更」
...貴族姿の男は意味不明な事を言う。 しかし翔は『散りかけた花束』という言葉で、自らが抱える花束に気づく。
「疾風君、なんかコイツ...帰らせてくれそうだから行ってもいいか? 正直、抱えてちゃ俺っち戦力になれそうにねぇべ」
「早くお行き。 花束とそれを抱える紳士には手出しをしないと約束しよう」
貴族姿の男は翔に向かって優しく呟く。
「池谷君...。 その女性を頼むよ」
翔はそういうとその場を後にして陣の方向に向けて走り出した。
この城下に入ってきたときの穴の大きさなら、相当変な通り抜け方をしない限り抜けることができる。
「勇者の子、少しついておいで....」
「まず最低限、名乗って下さい」
疾風は移動し、春の盾になるように前に立つ。
「名をフィクシス。 今はヘルカの軍の管理に興じている者だ」
....興じている? お遊び感覚なのか!?
「俺たちの国の人間....勇者は何処にいるんだッ!」
「まぁそう結論を急くな。 .....話をするにしても、ここは余りに客人をもてなすには無粋な場所よ。 城についてきては貰えるだろう?」
フィクシスはそう言いながら温井を掴む腕を絞める。
「きゃっ、止めてッ苦しいっ!」
「分かった、分かったから! つ、ついて行くよ」
慌てながら疾風は罠かもしれない提案を許可した。
フィクシスは口だけ少し笑ってからヘルカ城に向けて歩き出す。
「疾風先輩、ど、どうしたら....」
「星原さんは戻ってこのことを先生とかに伝えて欲しい。 凄い危ないから流石にもう付いてくるのはダメだよ」
「わ、分かった...です。 あっ、せめてこれだけ!」
春は天賦【魔法の祝福】を発動し、その効果を疾風に与える。 それと同時に疾風の持つ剣の光が少し強くなる。
「ありがとう」
「使ってる間は徐々に疲れるんですけど、体力の続く限りずっと付けてますから。 私に出来るのはこれくらいしか無いので...。 温井先輩を頼みます、先輩!」
言い終わると、春は諦めたように元来た穴へと向かって行った。
「喜ばしい友情だね、話は済んだろう?」
「......」
疾風は覚悟を決めてフィクシスの後へとついて行くことにした。
宿舎の中へと入り一階の通路から城の内部へと入る。
長い廊下を歩きながら、疾風は聞きたかった事を聞く。
「あの女性への虐待は、貴方が命令したことなんですか?」
「申し訳ないが、アレについては理解も把握も無し。 だが、其方へ兵士たちの独断だと発言したとして、それを其方が易々と信じるとは思えまいよ」
「....なんで温井さんを離さないんだ」
「其方に興味がある、といえば理解できるだろう?」
「お、俺に....?」
疾風がそこまで言った時、廊下の壁についているドアからヘルカ兵が飛び出してきた。
「貴族様探しました! 戦場の指揮を.....そちらの方は?」
フィクシスは少しめんどくさそうにしながら、疾風と話していた時とは全く違う声で『無駄口を叩かず戦場に戻って下さい、指揮は全て現場に一任します』と言うと。 まるで催眠にでもかけられたかのように兵士はその場を去って行った。
「なんで、そんな別人みたいに声を変えて...」
「『マインドコンバーション』という一種のスキルだろうよ」
「マインドコンバーション?」
疾風はそのスキルを知らずスキルの概要を理解できない。
いくつも階段を上り、長い廊下を歩いて歩いて、大きめの両開きドアの前でフィクシスは立ち止まる。 フィクシスはドアノブに手をかけた後、その場から一瞬の間に姿を消す。
疾風は、追いかけるように勢いよく部屋の中へと飛び込むと、目の前にダンスホールが広がった。 体育館並みの広さがあるダンスホールの天井には、シャンデリアが取り付けられており、壁には大きい窓ガラス、そしてその向こう側にあるテラスとそこから魔物との戦闘と、スピールトとの戦場を一度に見ることのできる景色が広がっていた。
そして疾風が入ったドアから一番遠い柱に、鎖を体と柱に巻き付けられ固定された温井が居た。
「温井さんッ!!」
「先ほど其方に興味があると言ったのを記憶しているだろう?」
「......それが?」
疾風は、温井さんを守るように立つフィクシスに剣を構えなおす。
フィクシスは丸腰だが、妙な威圧感を感じる。 まるでボス戦のような....。
「正義と偽善の境にいるというのは実に滑稽だね。 実に稀有...大変喜ばしい」
「何を...知ってるッ!?」
疾風は何故か動揺する。 そんな様子を見て、フィクシス表情筋を動かすことは無かったが何故か温井には面白がっているように見えた。
「まだ、其方の名を聞いていなかったな」
「...相ヶ先 疾風」
「先ほどは失礼をした。 名をフィクシス、魔王領、魔王四星、黒幕の星が一星」
「魔王領ッ!?」
ヘルカの人間でも、スピールトの人間でも無く....魔王領。 魔王領の話は、目覚めて最初にこの世界のことをファンキー先生から聞いた時、そんな場所もあるんだよ程度に教えられた。
「魔王なんて...ゲームの世界じゃないんだから...」
「ならば砕くしかあるまい? この世界では、頭脳だけでは押し通せぬ道理があるものよ....。 其方らが救い出したあの散りゆく花束のようにな」
「あの人は弱くない!! 必死に耐えてた!!」
「耐えて泣くだけでは己は守れぬ」
疾風は戦う覚悟を決める。 察してしまった、もう話し合いで解放してくれるほど優しい人では無いという事を。
慣れない剣のグリップを握り直し、想像の中にある剣士という存在に形だけでも近づけるように剣を構える。 フィクシスは疾風の様子を確認しても尚、無警戒のままそこに佇む。 疾風は走りだしてフィクシスに向かって刃を向ける。
「やああああ――――ッ!!!」
剣道の掛け声みたいな声を出してフィクシスを斬りつける...が。
フィクシスが煙になるような形でその場から離散した。
「幻覚ッ!?」
「幻覚系のスキル『マインドトリック』という、実に楽しいだろう?」
疾風の背後から声がして驚き振り向く。
「いつの間に背後に!」
「其方を直接手にかける事は無し、その価値を感じられない。 魔王四星に挑もうとする冒険者や同郷の魔人たちは数知れぬ。 彼らとは戦いはするが、興味が水を火にかけた時のように沸すること....また、無い」
フィクシスは続ける。
「興味を持つものは他者の内に潜みうる黒幕のみ」
「黒幕、黒幕って...さっきから意味がわからない!!」
疾風は怒りで混乱しながら剣を握る。 グリップに相当の手汗が付いていることが分かる。
「直ぐに理解できよう。 なぁに簡単に知識と記憶を使ったお遊びよ」
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この世界にはスキルを自らで作成する手段が存在する。
作成者のセンスやスキルの複雑性にも左右されるが早くて数か月、遅いと10年以上かかることもあり。 作成したスキルを自分だけで使用したり、教育機関へ精査の上持ち込んだり、手引書にして書店で販売できるようにしたり...と、作成の恩恵は様々である。
そして当然、スキルを作成できることに種族間の優劣は存在しない。 ....魔王領に住まう魔人たちも例外ではない。
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「オリジナルスキル『鏡面花蘇芳』」
フィクシスはそう言いながら手を【パンッ】と音が鳴る程度で叩く。
すると.....。
ダンスホールの中心に4メートル程度の花蘇芳の木が生える。 幹から分かれた枝の一本一本に花が咲き誇っているが...その花が通常の花蘇芳と違う。
一枚、一枚...その全てが鏡のように疾風を反射する。 木が完全に成長した時に、まるで煙に巻かれたように木そのものが消滅し、木のあった場所に残るのは....。
「なんで....子供の頃の俺が....」
ランドセルを背負った小学生時代の自分が真顔でその場所に立っていた。
作成したスキルを明かさない者は居る。 当然、スキルそのものでは一銭も稼ぐことは出来ないが、対人戦などにおいて、初見の対応を常にさせることが出来るというメリットも存在する。
どんな屈強な戦士や冒険者でも、初めて見るスキルには警戒をせざる得ない。
故に、オリジナルスキルという物は純粋に強い。 【天賦】とかいうチートとかを除けば、進化したスキルと互角に渡り合えるほどのポテンシャルを持っている物もあったりする。
「己の内に潜むは真なる黒幕。 乗り越えられぬ者に生きる資格は無きことよ」
フィクシスは心底楽しそうにしながら疾風の前に立ちふさがった!
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【ヘルカ城下町、広場への大通りにて】
予想していなかった勇者と魔王領の衝突は、あのメイリスですら気づかない。
その肝心のメイリスはというと....。
「敵の防衛線を崩せ!! バリケードを破壊して広場を制圧しろ!!」
兵器があるとはいえ、既に連日の戦闘や作業で疲弊が続いていたヘルカ兵がこの状況を覆せるわけも無く。 ほぼ勝ち戦状態になっていた。
徐々に維持していた防衛線は突破されていき、スピールト兵たちに新型のマジカルバリスタの存在が目視できる距離まで近づいていた。
広場を制圧さればもう後が無いヘルカ兵たちは、攻撃の勢いをさらに激しくして懸命に防衛を行う。 守るべき民や、その民の暮らす場所を蔑ろにしてまで面子を気にするヘルカ軍は、見る人が見れば滑稽そのものなのかもしれない。
「.....」
メイリスは遠目から射撃を行い、仲間に誤射することなく一発一発確実に敵に当てていく。 そんなメイリスの元に、前線を一時撤退してきたアドニゴが駆け寄ってくる。
「前線はいいのか?」
「はい、信頼における人物に任せてきたので問題ありません。 ....それでメイリス様、広場を制圧したらどうします?」
「出来る事なら、城を攻め落とす前に白旗を上げてもらいたいもんだが...。 もしそれが叶わないなら、国家崩壊までは至らなくとも現ヘルカ軍事国家は内乱で潰れる。 アドニゴはこれ以上言わんでも分かるだろう.....そんなことになれば」
「ヘルカは亡国となり賠償金はチャラ、おまけにヘルカの難民がスピールトを含む近隣諸国へ流れる事になりますね」
「そうだ、それが一番困る。 事情を伝えても近隣諸国はスピールトに少なからず不満を抱くだろうな」
「....どうします? 降伏勧告します?」
「それはもうだいぶ前からやってるよな...? 数十回の降伏勧告の中で、受け入れるまでは行かずとも一度でも聞く耳持ったか?」
「ハハハ、残念ながら」
「あ―――、も―――! 酒造管理役所の年寄りから責められるのは私なんだぞ!? 小意地にならずとっとと白い旗を上げろ! ほら上げろ今直ぐ上げろ!!」
苛立ちとストレスで珍しく冷静さを掻いたメイリス。
「姉さん」
アドニゴはとても素敵なモノを見れたとホクホクだ。
「アドニゴお前、何笑っている」
「姉さん、苛立ちを俺にぶつけんで下さい...」
「こんな指示出すのも嫌だが仕方がない。 アドニゴ、広場を制圧しても尚降伏しない場合は城に迎え。 ヘルカの王族の首を直接取って戦争を終わりにする」
「了解しました!」
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魔物の軍勢を退けながら、別で攻め込んできた敵国を相手にする。 兵器の国と謳っても、所詮は人間ありきで初めて成り立つ代物。 操作に人員を回せないのでは本末転倒である。
ヘルカ側には兵をまとめ上げる司令塔は既に存在しない。
砲弾の爆発でヘルカ城内が揺れる中、王子と婆は病気で寝込む母の部屋へとやってきていた。
「王子、本当に何もしなくていいのですか?」
「.....戦のやり方を父さんは教えてくれなかった。 父さんが血気盛んだった頃に言われたのだ、お前には兵を従えるカリスマ性が無いと」
「それは...」
「婆、分かっている。 結果として俺は兵の心を掌握できなかった。 関心や忠誠を集めたのは軍を率いる3人の貴族たちで、俺では無い」
婆は、王子の口から出た正論に何も言い返すことが出来なかった。 それと同時に、もう王子はこの国を救う気が無いという事も分かってしまった。
「だからと言って逃げるなんて出来ん! どんなに民から慕われぬとも、この身に王族の血が流れる事実に変わりは無い。 首を斬られることくらいは流石に俺のようなバカでも分かる!」
愛する孫に死んでほしくないと願う婆の気持ちは、失われていった数多の魂の前にはあまりにも無力な言い訳だった。
「......せめて婆だけでも逃げてくれ」
しかし婆は首を縦に振らず、その場から梃子でも動かぬ姿勢を見せる。
「最愛の孫を置いて逃げた老い先短いこの身に、この先どれほどの価値が生まれましょう。 せめて最後までお供させて頂きますとも」
「....ハーッハッハッハッ! そうか、...そうかぁ」
王子は、クセになっている笑い方をするがその笑い声や表情はどこか凄く寂しそうだった。
==☆次回予告☆==
50話の閲覧お疲れさまでした。
いやー、50話ですよ50話。 早いものですね?
それはそうと、フィクシスのキャラが好きすぎる。 書いてるときは、漢字辞典片手に書いてたりします、小難しい漢字使って文作るの難しいですよね。 好きなキャラなんでいっぱい出したいけど、展開的にまだ難しそうで残念。
今回のプチ話はオリジナルスキルについてです。
もう本文の通りですね、スキルを作ってそれを他者に公開しない。 自分専用に最適化されたスキルだから、その人にとって扱いやすく強力だという事です。
ただし、頭良くないとスキルは作れないですけどね?
翔とかおちゃらけた奴は無理って話でした。
次回、51話......その足跡 少年を追いかけて!
結構長くなってしまってすいません...あと10話でおさまりつくかどうかって所ですので、もうしばらくだけスピールト編お付き合い頂ければ幸いです。
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




