48話 それでも少年 足を動かす!
「なぁ、マジで行くのか!? さっきのはシャレもあったんだけど」
「これ絶対、絶対絶対ぜーったいッ危ないよッ!?」
翔と温井が走りながら怖じ気づく。 ヘルカ側を警戒しているスピールト兵に気づかれない様....上手く潜伏しながらヘルカ軍事国家の外壁に向かって移動する。
「....気持ちはありがたいけどさ、怖いなら残っていいよ本気で危ないし。 それにこれは、俺の単なるワガママなんだし」
「それは認めない! 絶対認めないから!」
「疾風君の天賦は確かにクソつえぇけどさぁ。 流石に一人で突っ込むのはあぶねぇって...。 俺っち達も一応この世界じゃ勇者ってことになってんだし、一緒に行けば何かあった時安心よォ」
数分前、2人へ事情を説明した疾風はその場で行くことを決断した。 翔も温井も初めは乗り気だったのだが、前線が近づくにつれ徐々に恐怖が増してきたのか渋るようになってきていた。
....その後、その場にやってきた春が『自分も行きたい』と散々ゴネたが、流石に中学1年生の女の子を戦場に赴かせるのは危なすぎるので止めさせた。 温井さんは、そんなことをすれば星原っちに殺されそうとも言っていたが。
「本当に無理しなくても...。 一人は怖いけど、それでもここは頑張らなきゃいけないから」
「疾風君、任せとけって! 俺っちの天賦で眠らせてやるべ!」
翔は強がるように震える手でグットを作る。
「もしもがあった時に私の天賦はお役立ち! それに、声の主は助けてって言ってたんだよね? なら回復担当....えーと、ヒーラーっていうんだっけ...そういうのはいると思う!」
「みんなっ...ありがとう!」
疾風は嬉しさで感無量だ。
「私の天賦も役に立ちますよ! 疾風先輩!」
....聞こえてはいけない少女の声が聞こえた気がする。
「「「........ッ!?」」」
居るはずのない4人目の声が聞こえてきて後ろを振り返る3人、その目に映った人物とは...?
「「は、春っち!?」」
春が居た。 どうやらこっそり後をついてきていたらしい。
「な、なんでここに居るの!? 危ないでしょ! めっ!」
「めっ、って...。 温井先輩、私そんな子供じゃないですよ~」
「春ちゃん、悪い事は言わねぇから....帰れって」
「いや、いや、嫌―――っ!!」
じだんだを踏む春。
「クソッ、ガキみてぇに駄々をッ、お前ェもう中坊だろ!! そもそもさっき納得してたろ、なんで急にやる気なってんだよ!」
春はその理由を言えるわけが無かった。
お兄ちゃんに脳内で馬鹿にされた気がしたから....なんていうくっだらない理由は。 そんな理由を話せば、皆にお兄ちゃん離れの出来ていない妹だと思われてしまう。
それは...あまりにも不愉快。
「.......む―!」
春は自らの口を自らの手で押さえ、断固として理由を言わない姿勢を取る。
「....疾風君どうすっべ」
「うーん、流石に一度戻って....。 でもついてきちゃうだろうし」
「もし私をテントの場所に戻すなら、テントの中に居る偉そうなお姉さんに先輩たちのやろうとしてること....言っちゃいますよ?」
全員から血の気が引いた。
今回の独断行動がバレれば、ファンキー先生と最高司令官のお姉さんから大目玉を食らう事間違いなし。 拳骨で済めばいい方だが、男連中は数回ぶん殴られるくらいじゃ許されないだろう。
だってこの世界にPTAや教育委員会は無い。
よって昭和教師の拳骨は無敵という方程式が完璧に成り立っている。
流石に温井さんは説教ぐらいで許されるとは...思うが。
疾風が短時間で頭をフル回転させた後、諦めたように小さく
「分かったよ、根負けです」
と呟いた。
「そんで侵入はどうするべ、疾風君。 まさか戦ってる場所から突っ込むとか無しにしてくれよ?」
「まさか。 突入口は作る、当然...音は最小限でね」
疾風は翔の問いに首を振りながら答え、その答えに補足するように言う。
「じゃあさ、じゃあさ。 今のうちに全員の天賦をもう一度確認しておかない? スキルとかいうのに関しては、多分皆ダメダメだしねー」
「じゃあ、俺から行くよ。 俺の天賦は【勇者の加護】....えーと、簡単に説明すると、俺だけが使えるスキルを5つ持ってるって感じ。 色々あるんだけど、まだ効果を正確に把握しきれて無い奴は危ないから使いたくない。 だから使えるのはその中でも2つだけ、フォトンストレイヤとフラッシュアクセル。 効果で説明するなら光の剣と瞬間移動の二つだけ」
疾風は皆に手短に説明する。
「疾風君のやっぱ強ぇー。 俺っちなんて【スリープハンド】とかいうショボいのだぜ? 一応効果は触ったらなんか眠る。 たまに眠らない時もあって俺っちもよく分らんべ」
「池谷先輩、適当」
「春ちゃん、地味に俺っちに当たり強いよな? ツンツンしちゃってよぉ~」
「.....えっ?」
春は『何言ってんだコイツ』というような冷たい目を翔に向ける。
キモイ~とかヤダ~とかでは無くマジトーンの『えっ?』に、翔は流石に強いショックを受けて項垂れる。 クラスの女子や仲のいい女子にもそんな言葉を発せられたことは無かったようだ。
「......翔っち、ナンパは程々にしなよ~?」
「慰めんの止めろや! 惨めになっちまうだろうが!!」
温井と翔は意外と気が合うらしい。
そもそもの話、温井の性格が性格なので誰かと敵対すること自体がほぼ無いのだが。
「じゃあ次は...春ちゃんお願い。 私はもういいよね?さっき説明したし」
全員、温井の天賦が【肉体再生】だと把握してるのか頷く。
「私のは池谷先輩のより凄いですからっ、ふふぅ~ん! 天賦【魔法...の】?」
.....?
話が何故か途中で止まった。
春は何故か顔を少し青ざめさせながら少し3人から距離を取る。
「.....人生回廊」
距離を取った春は、誰にも聞こえないようにボソッと呟く。 と同時に、春の目の色が少し青く輝いた。 春は目の前に現れたプレートの青文字の天賦を再度確認している。
(星原さん、絶対自分の天賦の名前忘れてたでしょ...)
(春ちゃん今一生懸命確認してるよ、なんだこの可愛い生き物)
(こ、ここは笑っちゃダメ! 絶対笑っちゃッ―!)
目の色が変わることを知らない残念な子。 3人は、先輩としてここは笑ってはいけないと肩を震わせながら懸命に笑いをこらえる。
そして....。
「天賦【魔法の祝福】です! 内容は≪単体への魔法系統スキルの強化≫です」
気付かれてないと勘違いしている残念な子が自信満々に話す。
「お弁当の時、星原っちが言ってた事が今なんとなく分かった気がするよね」
「???」
こうして、先輩たちによる頑張りで春の威厳は表面上は保たれたのだった。
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【一方その頃、ヘルカ城下に攻め入ったスピールト兵は.....】
「ファンキ――――ッ!!!!」
天賦【衝撃咆哮】が炸裂し、前方に展開された簡易バリケードが吹き飛ぶ。 しかしヘルカ兵も懸命に銃やスキル...魔道大砲といった遠距離攻撃を用いて敵国の侵入を拒む。
既に門付近の城下の被害は大変な事になっていた。 幸い、何故か住民はほとんど逃げ出しており、確認できる範囲では巻き込まれた民間人は居ないようだった。
「いいねいいね、実に痛快で豪快な攻撃だッッ」
「流石に喉がきつくなってきました...。 たった数十メートル進むだけでもう戦闘何回目ですか...ヘルカも中に入れまいと必死ですね」
「屋根からの奇襲が無い分まだマシ。 だけどそろそろ本気でバリケードを固めてくる...ここから意地と意地のぶつかり合いだ。 気合を入れ直すぞ!」
「俺も教師として生徒をッ!!!」
既に門突破から約30分が経過していた。 しかし、ヘルカ兵の必死の抵抗に中々ヘルカ城までたどり着くことが出来ない。 スピールトも5分おきぐらいに新たな部隊を次々に導入し、負傷兵と交代するような形で攻め入っていた。
未だにヘルカ側からの兵器による長距離攻撃は無し。 もしあったとしても、後方支援についている後衛部隊とメイリスが撃ち落として守る手筈になっている。
銃弾、スキル、砲弾が飛び交い。 人々が長く築き上げた建物を次々に破壊していくが、そんなモノに一々感情的になる者はもう現場には居ない。 それが戦争だ。
「グアッ撃たれた―――ッ!!」
「救護班ッ! クソクソッよくもッ!!」
建物をカバーに使いながら戦うスピールト兵の場所に、無慈悲にも砲弾が撃ち込まれ建物が崩壊して生き埋めになる。 ファンキー先生は、悲鳴を上げながら生き埋めになったスピールト兵を見て、涙と吐き気を懸命にこらえながら戦い続ける。
スピールトだって負けてはいない。 バリケードに火矢を放ち、燃やし、敵の土嚢に向かって、既に放棄された魔道大砲を逆に利用して砲弾を撃ち込む。
着弾によって生じた爆発は、周辺の建物の窓ガラスを割り壁に亀裂をつける。 爆発の被害は他の魔道大砲やその周辺の砲弾にまで及び、一発の砲弾で敵側で連鎖的に爆発が起こるなんてこともザラにあった。
「うぅ! おええええええッ」
流石のファンキー先生も、人が血を流し死んでいく様に精神が持たなかったのか、少し路地裏に移動した後...胃袋の中のものを胃液と一緒に吐き出す。 吐いた瞬間に大粒の涙が一緒に零れる。
そんな様子をみたアドニゴは少しだけ目を伏せ辛そうにした後、再び敵の方を見てスキル『進化型、ファイヤーボール』を使用する。
その時!!!
アドニゴやファンキー先生たちの居る場所から、上空数十メートルの位置を十発弱の光が通り過ぎた!
「奴ら広場からッ!? まずいっ後方がッッーーー姉さんッ!!」
新型マジカルバリスタから弾き飛ばされた矢は、作戦通り徐々に迫ってきていたスピールトの後衛部隊の居る場所へとその距離を詰めていく。
「....あれはッ!」
作戦室を他の頭脳派の連中に任せ、戦場に出てきたメイリスが上空から降り注ぐ青紫色の光を目視し叫ぶ!!
「全後衛部隊、水流警戒!!!!!」
メイリスが叫び、事前の通達通りに叫ぶ。
「「「「「スキル『シールド』!」」」」」
メイリスの指示により、後衛部隊のスキル『シールド』を習得している全兵士が自ら及び隣にいる兵士を守るようにシールドを展開する。
その数秒後、部隊の周囲や中心に矢が突き刺さり! 洪水並みの水が生成されてスピールトの後衛部隊を押し流す!!
「ッッッッ!?!?」
密偵から事前情報して把握していた、何倍もの範囲と威力にたまらずメイリスもヘルカの城下方面に押し流される。 そして瞬時に察する。
(連中ッ魔力酒を使って兵器の強化をッッ!! そのために盗み出したのか!?)
この瞬間、後衛部隊の指揮系統が停止する。
メイリスや他の兵士たちは、懸命に死ぬまいともがいて水の無い場所に這い出る。 矢の着弾した場所は、水たまりなんて生温いものでは無く、もう簡単な池になっていた。 池の中には鎧の影響で這い出れない者も大勢いた。
多くの人間が動き回るせいで水面は荒れ、泥が水中に混じってどんどん色が汚くなる。 それに追撃をかけるように、ヘルカの城下町から白紫色のオーラを纏った矢が池に向かって発射される。
「ゲホッ、ゲホッッ、クソ..思い通りにさせてなるものかッ!」
メイリスは、自慢の射撃の腕で撃ち落とそうと背負っていたマスケット銃を構えるが....。
トリガーを抜いたときの【パスッ】という鈍い音で気づく。
「しまッッ、水で火薬が!!」
恐怖する兵士を無視し、矢先が水面に触れると.....水が波紋を生み出すよりも早く水面が凍り付き、水面から上に顔を出していた兵士、水中に居た兵士関係なく凍り付かせる。 と同時に、周辺の気温が一気に下がり水で濡れて下がった体温をさらに下げていく。
「うわあああああッ、足があああああああッ」
「畜生ッ、しっかりしろ...あぁどうすんだよこの氷ッ!!」
「水から這い出ろ、氷を溶かせッ!! 一人でも多く助けるんだッ!!!」
兵士たちが悲鳴を上げ始める。
(判断ミスをすれば大きく被害が出る! 幸いシールドを張っていたおかげで外傷の大きい者はいない....だがッ!)
メイリスはヘルカの城下町の方を見てもう一度考える。
分かっている。 この場で救助に多くの人手を割けば、それを何らかの方法で察知したヘルカがマジカルバリスタを動かしてくる。 そうなれば....!
(引こうとしている救助隊ごと後衛部隊が全滅する!!)
最高司令官の思考が止まり、それをあてにしていた他の兵士たちの動きが止まる。 指示がなければ動けない、それがスピールト他民族国家にある軍の体制だった。
「ワイの天賦【ホットマン】や!!」
そんな軍のピンチを救ったのは、スピールトの陣から場に駆けつけてきた少年勇者だった。 まだ年若い少年が放った勇気ある神の奇跡は、汚く凍り付いた池の氷をたちまち元の水へと変化させていく。
「ここがワイのハイライトやでえええええええええ!!!!!」
自らの手が真っ赤になるほど天賦を使用し、池の水温を浸かっていたくなるほど快適な温度に変える。 水温からしてちょっと熱めの風呂....大体40℃くらいだろう。
「ワイ、戦場の女神になる。 このスレタイ行けるって、あー回線あればなー」
この世界の人間たちが神々しいモノでも見るかのような目を浮かべる中、その中学男児は分かる人には分かる最低なセリフを吐き捨てた。 天に掲げたガッツポーズが、凄くカッコよかった。
「ヘ、へ、ヘルカに目に物を見せてやれええぇぇぇぇっえええええッッッ!!」
「「「「「「うおおおおおおおおおおッッッッッ!!!!!」」」」」」
九死に一生を得た兵士たちが池から這い出て雄叫びを上げる。
それとは関係なく、再び降り注いでくる濃い紫色のオーラを纏った矢。 恐らく雷射とかいう矢を魔力酒で強化した代物だと、メイリスは判断する。
水で死んだ火薬を、他の兵士から奪い取った乾いた火薬に詰め替え。 自らの【才能】であるスキル『火種』を無詠唱で使用し着火する。
メイリスは、鍛え上げてきた見事な射撃で少年勇者の方向に飛んで行った雷射を弾丸でへし折り、素早いリロードを行いもう一発。 今度はより被害が出そうな矢を弾丸でへし折る。
へし折られなかった矢が、周囲に雷を放出し後衛部隊に多少の被害が出るが...戦闘続行不可能という、最悪の事態になるのだけは避けられた。
「お前は間違いなく勇者だ少年! 後は任せて下がっていろ、ここからは軍人の仕事だ!! お前たちッ、九死に一生を得た命で栄光を成せ!!! 突入するぞ!!!!」
「「「「「「うおおおおおおおおおおッッッッッ!!!!!」」」」」」
メイリスの号令に、池から城下町に近い方に居る兵士は突撃...池よりスピールト陣に近い方に居る兵士は距離を取り待機、そして先ほどの負傷兵を陣へ運搬する作業へと入る。
「朗報、ワイ、惚れる」
少年勇者はあっけにとられた表情で...特注品のマスケット銃を持つ女性を見つめていた。
==☆次回予告☆==
48話の閲覧お疲れさまでした。
ホットマン勇者君、やってくれましたね。 初期考察段階だとこの役は疾風になるハズ....だったんですけどね...何故かホットマン君になりました。 地味に書いてますけど多分この戦場の英雄レベルです、はい。
※注意※ 次回のパートは結構な胸糞回になります。 同時に胸糞回避用で、簡易あらすじみたいな感じのを同時投稿します。 胸糞や、直接的ではないが気持ち悪い性描写が苦手な方は、同時投稿される簡易あらすじをご覧下さいませ。
次回、49話......そして疾風 地獄へ踏み入れて!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




