47話 その大声 門を貫いて!
スピールト他民族国家は、やたら黒煙が上がっているヘルカ軍事国家の数キロ先に陣を敷く。 陣の戦闘にはアドニゴ率いる第1部隊、その後方には第1部隊の後方待機班、それに続いて後方支援用の志願兵、勇者とリレイ、メイリスが構えるテントがある。
テントの中では、メイリスが戦況を予測し伝える作戦司令室が設けられていた。
「各部隊の最終準備が完了次第突撃する! また、第一部隊が城下に突入次第、後衛部隊を徐々にヘルカの城下町へと近づける! 最優先で壁の上の兵器を始末しろ!」
「作戦了解です。 しかし姉さん、宣戦布告はいいんですか?」
現時点で作戦司令室に控えるは、アドニゴ、リレイ、メイリスの3名と勇者代表のファンキー先生の4名だ。
「元より仕掛けてきたのはヘルカだ。 宣戦布告はしなくても国際上は問題ないが...まぁそうだな、一応攻撃前に宣言位はしといてくれ。 人間としての品の差というものを見せつけてやろう」
「ハハハ、分かりました姉さん。 ...じゃあ突撃の指示は一任してもらえるって解釈で?」
「あぁ、戦果に期待してるぞアドニゴ。 あぁ後、一般市民への被害は極力避けろ、いいか?」
「任せてください姉さんッ、ヘルカを叩き潰してきます!」
憧れの人からの激励に張り切るアドニゴ。 そんなアドニゴを見ながらリレイは『あらあら』というようなニヤニヤとした表情を浮かべている。
「リレイ」
「ひっ、ひゅぁい!」
突然の声掛けにリレイの口からよく分らん返事が出た。
「医療班及び志願兵の方は?」
「はーい、医療班用の臨時テントは用意済み。 志願兵に関しては後方から戦えるものは弓で援護、戦えないものは各班へ物資を運搬するように伝えてるよー☆」
「相変わらず緊張感が無いな...。 まぁいい、最後に勇者の動きだが...」
「はい」
ファンキー先生が息を呑む。
「戦況に合わせて天賦を動かしたい。 ただし、医療用の天賦は医療班と共に治療に専念するように。 ただし異物が体内にとどまっていた場合医者の指示を仰げ、だが現場で致命傷だと判断したら迷わずその場で治療してやってくれ」
「体内に異物があっても....ですか?」
「あってもだ。 死の一歩手前よりかはいくらか選択肢が増えるからな」
「了解です。 生徒にはそう伝えておきます」
「それとファンキー。 お前には、実際に戦場に出てもらう可能性が高いということも覚えておいてくれ。 お前の天賦は強力だからな」
「...元より生徒を助けるために来たんです。 いつでも指示を下さい、私は作戦を練ったりすることは出来ないので」
「.......すまない」
「もう謝らんでください。 後はもう乗り切るだけでしょう?」
ファンキー先生の言葉にメイリスが『あぁ』と呟いた。
そんなシリアス全開の空気の中、リレイは(私ってメイリス様に迷惑かけて謝ったことしかない気がする)と関係ない事を考えていた。
その頃、ヘルカ軍事国家では....
魔物の予想外の動きに大混乱を引き起こしていた。 今や、現場に居た司令塔の2人は死亡して、その替わりに経験の浅い後任司令役が現場を任されていた。 そのため指示ミスが多発、現場の動きはもはや統制が取れていなかった。
なんとか飛竜全てを撃退し、魔物を徐々に城から遠ざけ始める。 やっと勝利が見えてきたヘルカ兵一同の目に希望が生まれる。
そんな時、その希望を全て潰すように放送搭から鐘の音と警告が入った。
【南東方向からスピールト軍接近!!! 数約千! 繰り返す....南東方向からスピールト軍接近!!! 数約1000! 直ちに迎撃準備を、スピールト側より宣戦布告ですッ!】
「な、なんで...このタイミングでスピールトが...?」
婆が王子の自室で放送を聞いてうろたえる。
当然のことながら婆も王子も何も聞いていない。 スピールトに攻撃を指示した男も、攻撃を行った兵士たちも、その暴挙を止めなくてはいけなかった他の貴族たちも...。
ただ一人、抜け殻を被るフィクシスを除いて誰も居ないのだから。
「余剰の兵力を全て南東に回してください! 兵器もです!」
現場では、臨時で配役された司令役がおどおどしながら指揮を執るが....
「ふざけんじゃねぇッ、今の状況分かって言ってんのかッ! 余剰の兵力なんて地上にあるわけねぇだろうがッ。 やることねぇマジカルバリスタ兵を地上に回せ!!」
「む、無理ですよぉ!」
「司令ッ! スピールトの第一陣が南東方向に陣を敷いて突撃体制を取ってます! 探知機でものすごい数を検知してます!!」
レーダー探知機に張り付いている兵が声を荒げる。 コロコロと状況が変わる戦場に嫌気が刺した、一部の新米兵士たちが剣を捨てて国から逃亡を始める。
その混乱は一瞬で国内まで波及し、新米兵士の家族やらがスピールトも魔物も攻めてきていない方角の門を、無理やりこじ開け国外逃亡を開始する。
「うぅぅ苦肉の策ですがァァ! そのままマジカルバリスタ全機180度回転、距離400火射装填ヨォイ!」
「「「「「.....ハッ!」」」」」
火をその場に残し、あわよくば巻き込み、ダメでも時間を稼ぐ作戦に移行することにした。 号令でマジカルバリスタの方向を真反対に向け、火射と文字が書かれた機械構造をマジカルバリスタに取り付け、矢を装填する。 矢に赤色のオーラが纏うと同時に、全てのマジカルバリスタに搭載されたインストロニウムの魔力残量が0になる。
「は、放てぇ―――!」
一斉に弾き飛ばされた矢が城下町を横断し、スピールトが陣を敷いている遥か手前に落下し...その周辺一帯に炎を広げる。
時間稼ぎを行ったヘルカ兵たちが、別の場所に保管してあった新型マジカルバリスタの移動を開始する。 そのマジカルバリスタには従来の機構にプラスして魔力酒を注入する機関が取り付けれていた。
「副司令ッ、運ぶ場所は城下の広場にして下さい! あそこなら400m発射でギリギリ敵本陣を叩けます!!」
ヘルカの王子が開発したレーダーと探知機には、敵の正確な場所とその距離を視覚的にとらえることができていた。
この世界の戦場で、人数よりも恐ろしいことは情報の伝達速度。 早ければ早いほど相手より素早く立ち回ることができる。 新型の兵器の最大の利点は、偵察兵を出す必要性も無いから勘づかれることも無いということである。
「は、運べぇえ!」
副司令の掛け声に合わせ、魔物側を防衛していた8割のマジカルバリスタ兵が新型マジカルバリスタの設置の為、その場を慌ただしく動き始めた。
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「伝令ー!伝令ー! メイリス様、伝令です!!」
火矢が放たれて数分後、慌てた様子で前線からアドニゴの伝言を持った兵士が作戦司令室に駆け込んできた。
「なんだ...」
「ヘルカ城から火が放たれました! 現在、アドニゴ様の率いる部隊前方に炎が存在し、ヘルカ側への視界不良、及び攻撃が困難になっています!」
「.....妙だ」
ヘルカ側の動きが異常なほど遅すぎる。 奇襲攻撃をかけてきたからには、連中も万全の体制で交戦してくると踏んでいたのだが...あまりにもヘルカ軍の陣の展開が遅すぎる。
何故、陣を敷いていない?
何故、攻勢に出てこない?
「大至急、アドニゴに伝えろ。 第一部隊の一部を炎の無い左右から展開させろ、連中が陣を敷かないのなら攻撃を仕掛けろと伝えるんだ」
「わ、分かりました! 至急アドニゴ様にお伝えいたします!」
伝令兵はそのまま前線へ向けて走って行った。
「メイリスさん、俺も突撃部隊に交じってもいいですか? 私情で申し訳ないが、一秒でも早く生徒たちを救出したい....」
「分かった勇者よ、その行動を許可する。 ただし命を捨てるような真似だけはするんじゃないぞ。 私はファンキー、お前のことは別に嫌いじゃないのでな」
「一応、生徒たちに何かを決めさせなきゃいけない時は、疾風という生徒を頼って下さい。 アイツは生徒...いや、勇者全員をまとめることができるほどのリーダーシップを持っていますから」
「分かった。 十分に気を付けて行けよ」
「ええ、行ってきます」
いつの間にか武装したファンキー先生は、作戦司令室のテントを出てそのまま突撃部隊に混じるために前線へと向かって行った。
メイリスの司令を受けたスピールト兵は左右から一気に一か所の門へと押し寄せる。 ヘルカ側は突然のスピールト兵の対応に追われる。
魔物襲撃とは反対側の番をしていた兵士たちが独断で急いで落とし格子を落とす。 【ガラガラ】という音を立て鉄の柵が城下と外を隔てる壁となる。
「スキルで落とし格子を吹っ飛ばすんだッ!!!」
「させるな! 発動者を『魔法弾』で叩け、撃て撃て撃てェ――――ッ!」
落とし格子を破ろうとするスピールトとそれをさせまいと壁の上からスキルで迎撃するヘルカ兵。 司令役のアドニゴは後手に回ることを瞬時に悟り、自らを含む数人の機動力のある兵士を左右に展開する。
集団から飛び出た合計4人のスピールト兵は、スキル『ジャンブースト』と呼ばれる跳躍力強化のスキルを用いて壁の上に向かって跳躍する。
「制圧するぞ!!」
左右から剣士に挟まれる形になったヘルカ兵たちは抵抗するが.....アドニゴ率いる熟練の剣士たちには流石に勝てる訳も無く。 頑張り虚しくその場に散っていった。
そんな事をしている間に、前線に到着したファンキー先生が壁上に居るアドニゴの指示を受けて天賦を使用する。
「ッファンキ―――――ッ!!!!!」
言葉が衝撃破となって落とし格子に飛ばされ、一撃で落とし格子を破壊した!
ファンキー先生の天賦は【衝撃咆哮】...口なじみのいい言葉に力を乗せて発言できる。 発せられた言葉は衝撃破のような形になる。 なお天賦エラーは、あんまり使いすぎると喉が潰れることだ。
かなり力を込めて放ったのか、衝撃波による亀裂は落とし格子から門全体に広がっていき。 しばらくすると轟音を立てて門の一部が崩壊した。
「「「「「勇者様、やりすぎだバカヤロー!!!!」」」」」
その場にツッコミの嵐が起きた。
そして同時に突入に瓦礫の山を登るという無駄な動作を踏むことになった。
瓦礫を登ったりどかしたりする無駄な作業の間に、徐々にヘルカ兵が城下に簡易的な陣を敷き始める。 一部の兵士たちは既に建物をカバーに使って市街地戦闘を始めていた。
現代の銃撃戦のように物陰に身を隠し、隠している最中に手元に生成した『魔法弾』を敵に投げつける。 更には、ファンキー先生が崩した門跡地を上手く遮蔽物として利用しながら戦闘を行う。
「魔道大砲てェ!」
ヘルカ兵の叫びと共に砲弾がスピールト兵の遮蔽物に飛んでくる。 着弾と同時に爆発が起こり、それに続いてこれでもかというほどスキル『魔法弾』やスキル『ファイヤーボール』といったモノが飛んでくる。
アドニゴは、前線に居たが敵の動きに自らの死を直感的に悟り、素早くファンキー先生が隠れている後方の遮蔽物に移動する。 移動が完了した直後、アドニゴが遮蔽物にしていた2階建ての古臭い建物は砲弾の爆発により音を立てて崩れた。
「くそッ、ヘルカめ....魔道大砲とはちょこざいな」
「....俺が天賦で」
遮蔽物から乗り出そうとするファンキー先生の前に、アドニゴは手を突き出して静止させる。
「待てファンキー。 今天賦はやめろ」
「でも、こうなったのは俺のせいで」
「あ―――...確かに崩れたのはお前のせいだが、どのみち敵国に突入した以上戦闘が起こるのは絶対だ。 それが遅いか早いか.....要するに場所の問題だよ。 やりすぎは反省した方がいいとは思うけどな」
しかしアドニゴは内心、壁の上から撃ちおろされる事態を避けれたので上出来だと思っていた。 勿論、門が崩れたのは想定外だが、想定外の事態なんてものは戦場ではいくらでも存在することをアドニゴは理解している。
そもそも、壁の内側へ何の被害も出さずに突入できたこと自体戦争では異例のケース。 逆にヘルカ側がなんで対応してこなかったのか不思議だ。
「壁の内側に入られた以上奴らの道はもう2つしかない。 一つは全軍を投入して決死の覚悟で戦闘を続行すること...この場合民間人にも大量の死者が出る。 そしてもう一つが白い旗を掲げる事だ」
「....で、では」
もし後者なら生徒たちは....と聞く前にアドニゴが話を切り上げる。
「おっとファンキー、楽しいおしゃべりは終わり。 敵が移動を始めた、挟まれる前に素早く正面の防御を崩す」
遮蔽物から少し敵の陣を覗くと、先ほどまで居たはずの数名の兵士が脇道に移動していた。 地理なら後手に回ってしまう事は、兵学を学んでいないファンキー先生でも容易に想像がつく。
「スキル『進化型、ファイヤーボール』」
通常の2倍、3倍の大きさのファイヤーボールを、敵の陣めがけてぶん投げる。 着弾したファイヤーボールは小さめの爆発を起こしヘルカ兵たちを吹っ飛ばす。 一瞬敵の陣の体制が怯んだ瞬間、アドニゴが声を張り上げる!
「第一部隊、突撃ィィィ!!!」
「「「「うぉおおおおおお――――ッ!!」」」
雄叫びを上げて突っ込むスピールト兵。 異変に気付いて脇道に移動していた兵が急いで戻る。
再び街中で斬撃音が響き始めた。
そんな様子を遠方の後衛部隊の片隅で疾風は見つめていた。 目の前で行われている、本物の戦争というものを目を丸くしながら見つめ続ける。
その刹那
疾風の脳裏に一瞬だけ声が響く。
〈助けてッ!!!〉
その声は、ただ純粋に救いを求める叫びのような...。 どこかで聞いたことあるような...若い女性の声だった。 その声は他の誰にも聞こえず疾風だけに聞こえ、何故か自然と声の発信源が何処か分かる。
.....ヘルカ城の付近で誰かが俺を呼んでいる。
自分の中の理性と偽善が対峙する。
絶対に危険だ。 行けば間違いなく無事じゃすまない。
でも、でも...誰か俺に求めてる....ッ!
きっと前に進めば、色んな人に迷惑と心配をかけることになる。
脳裏で心の中の自分が囁く。
(お前は臆病だな。 お前の心の隅にはいつも別のモノがあるというのに...)
違う...俺はそんなんじゃ....。
(何も違わない。 結局、お前は何も変わっていないんだよ....小学生の頃からずっと)
手が震える。 この声が幻聴だと分かっているとしても、当時の恐怖が掘り返されるように思い出されていく...。
手汗が、震えが止まらない。
(いつもお前は、皆の人気者...なんだろう?)
俺はッ、俺はッ.....そんなんじゃッ...!
その時!
「俺っち達も勇者なら戦いに参加したほうがよくね―?」
「翔っちなら本当に行きかねないから怖いよー」
医療班の手伝いをしていたハズの翔と温井さんの口論が聞こえてきた。 どうやらあまりに戦闘が無さ過ぎて休憩しているらしい。
「なーっ、疾風君はどう思うよぉ? 行きたくねぇ? なぁ、なぁ!?」
「え―危ないよぉ...。 疾風っちもそう思うよね?」
(...相談していいのかな)
疾風は自らの見たくない部分に蓋をするようにそう思った。
==☆次回予告☆==
47話の閲覧お疲れさまでした。
今回のプチ話は天賦エラーについてです。 異世界チート改め天賦には、便利な反面使用者が使わないと気づけない違和感.....天賦エラーが存在します。
夜空の場合は自身のスキルで自傷してしまうという天賦エラー。 ファンキー先生の場合は、天賦能力を使いすぎると喉が潰れます。
天賦の力は危険で不完全。 勇者が最強な世界ではないという事です。
次回、48話......それでも少年 足を動かす!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




