45話 培ったもの 実を結んで!
「これが答えという解釈で大丈夫か?」
「ええ」
結局戦地に赴くことになったのは20名程度だった。 その中には、春や栗谷は勿論のこと、疾風や翔、温井や疾風についてきているギャル数名と男子生徒も含まれていた。
「流石にリスト全員という訳にはいかなかったが、これだけの勇者が参戦すれば上出来だな」
メイリスは『頼むぞ』といい第一部隊が集う西門へ向かう。 この国に残る生徒に関してはテレーダに一任した。
西門に向かう最中、噴水広場周辺がやたらと静かな事に異変を感じながら一同は前へと進む。
メイリスは歩きながら、ファンキー先生にしか聞こえない程の声で喋りかける。
「今回の、そしてこれからの件は悪かったとは思っている」
「....抱えてるだけじゃ守れない。 正直、心に響きました。 ずっと目を逸らしていた、逸らそうとした現実を無理やり見せられた気分ですよ」
「だが、納得はしてないんだろう?」
「納得は、多分一生できないでしょうね。 そしてきっとこの決断も、トラウマになるほど後悔することになると思います」
「......」
「でもそれで、生徒たちがこの先を生きていけるなら....」
「...お前は立派だよ、ファンキーとやら」
「それは違いますよメイリスさん。 この年になって、愚かにも目を瞑ることを覚えてしまっただけですよ」
嘘を言う。 子供たちが命の危機に陥ったら、迷わず命を投げ出す算段を立てているクセに。
「...煙草はいるか?」
「禁煙してますが、まぁそうですね....一本頂いても?」
生徒たちの後ろ姿を見ながら、二人の大人が煙草に火をつけた。
西門に近づくたびに人のざわつく音が大きくなってくる。 何事かと駆けだした一同の目に飛び込んできたのは、軍出発の見送りに集まった大勢の人々だった。
「おお、勇者様がご到着なさったぞ」
「キャー、国の守護者メイリス様も一緒よ―ー!!」
「「「!?」」」
とても戦争前とは思えない程の雰囲気。 祭りのバカ騒ぎに近いような騒ぎに流石のメイリスも圧倒される。
「メイリス様ぁ―――☆」
困惑しているメイリスを見つめたリレイが人混みを掻き分けて近寄ってくる。
「あっ、あん時のガキ」
翔のボソッと呟いた表情に、疾風とメイリスが『やったわコイツ』というような顔を浮かべる。 リレイはその言葉を聞き逃さず、駆け寄る速度を早める。
「池谷君、残念だけど...」
「疾風君それどういう意味?」
そのままメイリスの横をスルーして....。
「こ、こ、こここっ、子供扱いすんな――――ッ!!!」
鉄拳を容赦なく翔の股間へ叩き込んだ!
【グシャッ】と何か大切なモノが潰れた音がした気がした。
「おおぉぉぉおぉぉァァァァッ!?!?!」
子孫終了の危機に悶絶する翔。
「はーっはっはー! 私の低いシンチョーならお前のち●こを潰すことくら楽勝だ―☆ 二度と舐めた事言えないように体に教え込んでやるからねー!」
自虐込みの脅しは流石に効いたようで、目頭に涙を浮かべる翔は許しを乞うように必死で首を縦に振り続ける。
翔のその姿に、一緒についてきていた女性陣は呆れた顔をしてた。
「は、疾風ェ君ゥン! 助けっ助けッ!!」
「今のは翔っちが悪いよ」
返答に困る疾風の代わりに温井さんが答える。
「温井ィ! 回復プリーズゥ!!」
「ダメだよ!」
温井さんが少し怒ったように即答した。 返された悪魔のような答えに、翔が絶句しながら悶絶を再開する。 痛々しい悲鳴に、男性陣はみんな股間を守る。
「もし回復したらもっかい、もっかい殴るから! だからぁ、そこの女の子の勇者も回復させちゃダメだぞ☆」
「元よりそのつもりですよー」
「マ、マジッ!?」
鬼のような事を言うリレイと温井。 市民を含めたその場に居る全男性は、リレイに今後身体的特徴を示唆するような発言はしないと胸に誓うのだった。
「それでリレイ、この市民の騒ぎはなんだ」
翔に睨みを聞かせていたリレイが振り返り、街の人を見せるようなポーズを取りながら口を開く。 恐怖から解放された翔が、怯えた猫のように疾風の後ろに逃げ込む。
「えっとねぇ、えっとねぇ、それは住民から聞いた方が早いと思う☆」
メイリスが聞くよりも早く、住民たちが勇者の周りに駆け寄ってくる。
「この前はありがとう、家の補修を手伝ってくれて!」
「お姉ちゃん怪我を直してくれてありがとう」
「仕事の納期がヤバい時の手助け。 助かったぜぇ」
「兄ちゃんチ●コ大丈夫か!?」
「積み込み作業助かったよぉ、本当にありがとうなあ勇者様」
誰しもが感謝を告げる。 約一名、別のこと言ってる奴もいるが。
この世界に来てから勇者達は、この街の便利屋のような働きをしてきた。 困っている人が居たら助け、助け、助け....そうして少しづつ培ってきた信頼が目の前にはあった。
「これお弁当! こんなんで悪いけど持って行って!」
「うちの主人も後方部隊へ志願したのよ。 馬車に轢かれそうになった時に勇者に助けられた命だからってねぇ!」
生徒たちがおしくらまんじゅう状態になる。
「「「「わー、わー! ファンキー先生―――っ!」」」」
生徒たちがファンキー先生に嬉しそうに助けを求め、ファンキー先生が『やれやれ全く』といった表情で軽い騒ぎになり始めた現場を収めに向かう。
「これが勇者か....」
メイリスは、人の善意に押されている彼らを見て、驚きと混乱で咥えていた煙草を地面に落とす。 煙草の灰が石レンガの上に落ち、徐々にその灰から熱が消えていく。
「メイリス様?」
「...あぁ分かってる、これは彼らの人となりが成せる技ってことくらいな」
きっと誰しもこうじゃない。 勇者の中にもきっと赤の他人に無頓着な人間だっているだろう。 犯罪を犯す輩だって居るかもしれない。
でももし彼らのような人が沢山いるのなら、この世界を必ず良くしてくれる.......何故かそんな気がしてしまった。
「...それで結局、臨時志願兵はどのくらい集まったんだ?」
「びっくりだよ~、なんとなんとぉ200人ちょい、ほとんど男手ッ☆」
「200人ッ!? 志願だぞ!?」
「今回の勇者ショックが大きかったのかもねー、アハハ―」
予想以上だった。 多くて100人集まればいい方だと思っていた。
「事前会議の通りに頼んだぞ、リレイ」
「勇者及び志願兵の統率はおまかせぇー!☆」
張り切るリレイに若干の不安を覚えつつメイリスは軍全体を鼓舞するために前に出る。 メイリスは臨時で設けられた台の上に立ち、ざわつく自分の部下たちに向かって声を上げた!
「聞け!!! お前たち!!!」
整列した兵士全員がすぐさまメイリスに向かって敬礼する。 リレイと共に後方に居る葉日学園の生徒たちも緊張した表情で事を見つめる。
「我らはこれよりヘルカへ進軍する!! この戦いは、身勝手にも我らが祖国の大地を踏み荒らし、あまつさえ酒造というテーマを侮辱した事に対する相応の報いである!!!」
「悔しいか! 悔しいだろう! 私は悔しい! ならばどうする!?」
「剣を握れ、スキルを放て! 奴らの自信に満ちた顔に敗北の二文字を叩きつけてやるぞ!!!」
メイリスが言い終わると同時に放った銃声がキッカケなり、軍の士気が一気に高まり、その想いが後方部隊や志願兵、勇者にまで波及する。
メイリスの持つマスケット銃の水晶が太陽光に反射しキラリと光った。
「すげぇ―――。 マジの戦争なんて初めて見た」
翔が日本人的に普通に考えれば当たり前のことを言う。
「池谷先輩って意外と頭悪いんですか?」
「春ちゃん...酷くね?」
「あはっ吞気~、まぁ今はそれでいいんじゃない? その内嫌でも分かるし☆」
「ガ....リレイ様それってどういう...」
「今お前ぇ...またガキって言おうとしたよねぇ」
再び爆弾発言をしようとした翔を睨みつけるリレイ様。 この男、さっきの股間事件から何も学んでいない....。
「いえ、ホントすんません、マジ許して下さい」
訂正しよう。
股間を潰される恐怖だけは学んだようだ。
「やっぱり池谷先輩は頭悪いと思います。 デリカシー的な意味で」
春が呆れたように呟いた。
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【その頃、ヘルカでは】
魔物の侵攻第2波に備えて、魔物の進行してくる方角に土嚢を積んだり、土嚢の後ろに魔道大砲を置いたり...。 壁の上にはマジカルバリスタが設置されていた。
葉日学園の生徒7名は、万が一魔物が城門付近まで迫った時の保険としてその場に設置されていた。 着ていた制服はボロボロになっており、異臭によりハエが集るほどになっていた。
だがこの長い奴隷生活で全員の嗅覚はおかしくなっており、自分の周りに集るハエを気に留めることは無かった。
「くっせぇ....。 コイツ等見てると流石に思う所があるなぁ俺」
「目を合わせんなって同情が湧くぞ、コイツ等は兵器、兵器なんだよッ! 人間みたいな扱いをすれば、俺たちがどうなるかなんて...お前だってよく分かってるだろ!?」
「落ち着け...そんなん、わかってるって。 やっとこさ、村の防衛っていうデッドラインから抜け出せたのに、そんな馬鹿な真似して命捨てる訳ねぇだろ」
「分かってんならいい、いいんだけどな?」
新人兵士が愚痴のような事を言いながらその場を後にしていく。 だが、助けなんて来ないと分かっているのか、だれもその新人兵士に生きた目を見せることは無かった。
彼らの言う村はもう無い。 魔物の軍勢に、人も家も財産も何もかも飲み込まれて村は死んだ。 ヘルカ兵たちも必死だった。 自分たちの国が、前例であるあの村のようにならないように。
だがそんな葛藤や想いを嘲笑うように、ヘルカ軍事国家はフィクシスの手のひらの上で踊り続ける。 誰も気づくことは無い、皆自分の大切なことの為に必死なのだから。
「ヘルカの子よ、もはや囀っても止められぬ、既に刃は煙に届き煙は負けじと黒煙を上げて迫る。 兵器の国は決心を求められる。 最後にどのような決断を下すのか、これから非常に楽しくなるね」
フィクシスは軍の幹部の一席に悠々と座りながら不気味に笑った。
早朝7時半...スピールト進軍開始。 ヘルカ到着まで残り約10時間
街道沿いを長い列を作って移動するスピールト軍。 スピールトは長い歴史の中、長距離行軍など例を見ない事態だった。
「「「あつ~い、溶けるぅ~」」」
生徒の一部が若干バテながら後に続く。 そんな生徒たちの背中を押しながらファンキー先生が『しっかりせーよお前らぁ』と心配そうな顔を浮かべる。
「長距離行軍....。 なんでスキル使わないんだろう」
疾風が独り言のように呟き考えていると、隣からリレイがヒョコッと顔を出す。 疾風がリレイに気づき顔を向けると、リレイは『そんなのも分からないの?』といったようなムカつく顔を浮かべていた。
「そーいうスキルが無いからー☆」
「そ、そうなんですか? てっきりテレポートみたいな奴があるのかと..」
「私はねー、学者でもなければ技術者でも無いから詳しい事は知らないけどぉ、スキル『テレポート』っていう瞬間長距離移動スキルは行軍には《・》使えないんだってさ―」
「え...行軍には使えないって?」
「だから知らないってばー☆ 私はー頭悪いのー!」
この人は大人のハズなのに、知れば知るほど子供にしか見えなくなっていくのはなんでなんだろうと、疾風は顔には出さずに思った。
(今コイツ絶対失礼なこと考えた! イケメンのクセに!)
だがリレイはそれを感覚で察していたのだった。
イケメンのクセに.....完全にリレイの偏見である。
「そういえばリレイさん、聞きたいことがあったんですがいいですか? 失礼かもしれないんですけど」
「ん? まぁ、お前は勇者だしね、いいよ聞いても、お姉さん許しちゃう☆」
「...じゃ、じゃあ。 スピールト他民族国家って戦争は強いんですか?」
疾風のその言葉を聞いた瞬間、なんだか罰の悪そうな顔をするリレイ。
「....え、えーとねぇ。 そのー......、なんて言うか....」
「??」
「スピールトって酒造の国でしょ? ぶっちゃけると外国の偉い人や住民の娯楽を作る国でねー? その国の特色やテーマもあって戦争をやったことが無くて」
つまり弱いってことなのだろうか?
「で、でも軍隊もってますし...」
「そりゃ隣に略奪国家なんて危なーい場所があればいちおーね。 実際に過去に何国かあの国の餌になってるしね☆」
「えぇ...」
少し危機感が薄いんじゃないだろうか。
「勇者はさー、地図見たことある?」
「はい、この世界の事を教えてもらった時に先生に見せてもらいました」
「その地図にさー、不自然な灰色無かった? 大体ヘルカの横あたりに」
疾風は自分の記憶を呼び起こし、地図で見た光景を思い出す。
「ありましたね」
「あの灰色大地....乾燥地帯には元々いくつかの国があったんだけど....結局全部滅んじゃったんだー」
他人事のようにリレイは言う。
「滅んだ? ヘルカからの圧力のせいで...ですか?」
「元々、作物も育ちにくい大地だったし、国の崩壊にヘルカの存在が拍車をかけたってのは確かにあるだろうねー?」
それでも、地球ではそんな土地で生きている人たちだっている。 ましてや、この世界にはスキルなんていう便利な物があるのに環境程度で国が簡単に滅ぶのだろうか?
「....まぁ一番凄いのはあの乾燥地帯の『魔物の出現頻度』なんだよー☆」
「出現頻度?」
「さっきも言ったけど私はおバカさんだから、これはメイリス様の受け売り。 たいちょーになる時、教えてもらったことそのまま伝えるんだけど。 人が魔物の出現頻度をコントロールできる範囲は限られていて、それを広げるだけでも凄いお金がかかるんだって、だから国は元々出現頻度の少ない場所に街を立てて街道を繋ぐんだよって言われた」
「だから街同士を繋げられないんですね。 広げすぎると魔物が街中に出現するから」
「他にも色々理由ありそうだけど、リレイお姉さん!はこれ以上分からないよー☆ どう、どう? 少しはお姉さんぽかったかなぁ?」
リレイお姉さんの部分をやたら強調しながら鼻息を荒くして迫るリレイ。 疾風はそれを宥め、引っ付いてくる子供をあやすように少し自分から遠ざける。
つまりまとめるとこうだ。
元々、灰色の地域には国がいくつもあったが、街を広げ過ぎたことによる内側からの魔物による崩壊と、外部のヘルカという略奪国家の板挟み...さらに農作物の収穫量も相まって国が次々と滅んでいった。
支配したくても魔物は多いし開墾も出来ないから旨味が少ない....そんな大地だから新しく国が設立されることも無い...と。
この世界に地球と同じ科学力があれば鉱物資源の宝庫なのかもしれないが、知らなければ結局それはただの石ころと同じ...という訳なのかぁ。
「この世界の王様も苦労してるんですね」
「は? スピールトは王様居ないよ?」
「.....え、えーと、そういう意味じゃないです」
「うにゅ???」
わけわからないというような顔をするリレイ。 疾風は、そんな自分の隣に居る小さい年上を見下ろすように眺めながら....
やっぱりこの人は、年齢詐称してるんじゃないかと改めて思った。
==☆次回予告☆==
45話の閲覧お疲れさまでした。
この世界の【国】の成り立ち方の基本構造が見えたと思います。 魔物の出現頻度が低い大地に、魔物の出現をコントロールする機構を作り、やっとこさそこが人類にとっての安全圏となります。 地図上の灰色大地は、魔物の出現頻度など様々な理由で人が住めなくなった、あるいは居住に適さない大地を指しています。
そんな場所でも住んでいる猛者共も居るみたいですけどね?
そういうのはあくまで村のような形で、【国家】では無いです。
次回、46話......かの魔物 兵器と対峙し!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




