44話 その勇者達 決意する!
「......生徒を戦争に行かせると?」
温井さんが呼んできたファンキー先生とメイリスは、勇者基地の応接室にて話し合いという名の口喧嘩を行っていた。
「そうだ、勇者の力ひいては天賦の力を借り受けたい」
「軍の考えは理解しました。 ですが拒否権があるのなら拒否させて頂きます、我々は異界から来た一般人であって軍人ではありません」
かれこれ10分以上話し合いがストップしていた。 断固としてファンキー先生はメイリスのお願いに許可を出すことは無い。
「前線には出さないと約束しよう、あくまで後衛の補助だ」
「前線に出なくとも危険があることに差異は無いでしょう。 前にも言いましたが、勇者として同行するのは私のみです、生徒たちには手を出さないで貰いたい」
「はぁ、随分と他人事だ」
堪忍袋の緒が切れたメイリスがため息とともに呟く。
「...勝手に呼び出しておいて随分な言い草ですね、少し言葉が過ぎるのでは?」
互いの空気感が悪くなる。
「ヘルカが、お前の可愛い生徒とやらにどんな仕打ちをしたのか分かってるのか? ここには無駄に力だけある戦えない勇者がゴロゴロいるのに、当の本人らが今の置かれてる危険に気づけんとは」
「......ッ!!」
怒りを抑えきれなくなったファンキー先生が、メイリスの胸倉を掴みソファーへと押し付ける。 状況が状況の為、メイリスがファンキー先生の怒りへ抵抗することは無かった。 メイリスは首元が軽く服で締め付けられて少し苦しそうだ。
「....まるでお前は過保護な親鳥のようだ。 そちらの世界がどうかは知る由も無いが、この場所では、大事なものをただ抱えているだけじゃ何も守れんことを知るがいい」
「...ッ少しは言い方を...考えたらどうだッ?」
「戦える勇者なら誰にでも敬意を払うが、戦えん異界人に敬意を払う必要がどこにある。 来たるべき時に剣を握れん輩は死ぬだけだ」
「.........」
それでもファンキー先生は、メイリスの提案に許可を出せなかった。 しかし胸倉から手を放し、落ち込みながら考えるようにソファーに座り込む。
「大事な雛鳥と相談することだ。 出発は明朝、もう一度私からこちらに出向く...その時に答えを聞かせてくれ」
「........」
「....では勇者殿、これは軍の欲している人材のリストだ。 全てとは言わんが、できれば全員がありがたい。 .....騒がせたな、これで失礼する」
黙っているファンキー先生を無視し、言いたいことだけを言ってメイリスは勇者基地から去って行った。 ファンキー先生はこの世界で初めて、生徒の命を賭けた決断を迫られることになった。
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勇者基地では、夕飯作りは生徒数名がグループになってローテーションを行う。 そのため、日によって料理のクオリティが下がる日もある。
「春っち休んでればー?」
「せっかく班に入れてもらったのに手伝わないのは後輩としてダメです!」
「温井さんの言う通り休んでいた方がいい気がするなぁ」
「そーそー疾風君の言う通り、春ちゃんまだ中学生だしさぁ」
厨房には、疾風、翔、温井、春の4名が3時過ぎから準備を始めていた。 なにせ114名もの生徒の食事を作るのだ、それなりに時間はかかる。
基本的に10人程度のグループで料理を行うのだが....。
「相変わらず温井やべー。 すげぇ手際」
「温井さん凄いね」
男二人が温井さんに指定された鍋を火にかけながらかき混ぜる作業を行う。 そんな彼らの目の前では、元気に野菜を切ったり、肉を焼いたり、調味料を掛け合わせてドレッシングを作ったりする。
「元々料理は好きだったんだけどね――。 こっちにきて、えーとなんだっけ、スキル?だっけ...それのおかげで料理がさらに上手くなったの!」
「そんなモンまであるんか」
温井さんが手を動かしながら言う。 そんな様子を見ながら『料理人見てるみてぇ』と翔が驚きながら呟く。
スキル『料理上手』....このスキルを所持すれば、料理をしたことない人間でも厨房で効率よく動けるようになる。 ただし、効率よく動けるようになるだけでレシピを知らなければ結局ゲテモノが出来上がるのだ!
つまり、温井と相性が良かっただけである。 良かったね。
「春っちも出来る範囲でいいからねー」
「.......」
春はまな板とその上に乗せられたキャベツ。 そして近くにある包丁を覗き込む。 包丁の刃に春の顔が反射し歪みながら映る。
(お前が料理とか無理だから止めとけ止めとけって! お前、かろうじてカレー作れるだけじゃないかwwww)
刃に一瞬、夜空の顔が映って自分を馬鹿にしたように感じた。
「むきっ―――、出来るしッ!!!」
春が包丁をもってキャベツに刃を立てる。
「待って待って! 春っち危ないから猫の手、猫の手して!!!」
料理の基本、猫の手をせずにキャベツに包丁を向けた春を注意する。
結果、鍋かき混ぜ要員が一人増えることになった。
「春ちゃん料理できねぇんだなー」
「出来ますし...」
春は拗ねた表情で鍋をかき混ぜる。
翔は美少女のそんな顔を見て頬を少し赤く染める。 高校男子特有の見惚れる現象....エロ本とかエロ画像とか見た時のアレである。
「家で料理とかしなかったん?」
「家ではお兄ちゃんがやってたので」
「アイツが? へー...なんか似合わねぇべ」
「まぁ地味な顔してますし...でも腕は中々なんですよ? ああ見えて」
春の脳裏に『一言余計だボケ!』という夜空の声が聞こえた気がした。
「池谷君、そこら辺に...」
「え――、まぁ、疾風君が言うなら...止めとくわ」
疾風には忠犬のように大人しく従う翔。
「.....お二人ってお友達なんですよね?」
春が唐突にそんなことを言い、疾風の動きが少し止まる。
「.......」
疾風はそれに何も....いや、どう答えたらいいか分からないような表情で翔の方を見る。 そんな視線に全く気付かない翔は
「ダチに決まってんべ、だよなぁ?」
「う、うん。 友達だよ、池谷君とは」
だけど春は首をかしげる。
「いや、呼び方が変に他人行儀な気がして」
「そうかな、人によるんじゃないかな...?」
それもそうかと、春は少し反省する。
「ごめんなさい、変な事を.....」
謝罪をしようとした時、春の声を温井さんがかき消すように
「あ―――――-――――――ッ!!!」
と叫んだ。
翔、疾風、春は自分の担当していた鍋を見ると......黒い煙が上がっていた。
「「「あ」」」
.................。
「「「すいませんでした」」」
「もー、火を使ってるんだからよそ見厳禁だよッ! いいねっ翔っち、疾風っち、春っち!」
「「「はい、すいませんでした」」」
「...じゃ、料理再開しよっか――」
やらかした3人はお互いの顔を見ながら笑った。
再び調理(温井さん以外雑用)をしている時、思い出したように翔が話を切り出した。
「今日ファンキセンセ―が夜集まれっていってたけどなんなんだろうな?」
「え? 今日集まるんですか?」
「廊下に紙張り出されてたろ、春ちゃん見てないのかよ」
「紙が張り出されたことすら知りませんでした」
「なんかさっきファンキー先生の部屋の前通ったら、中でどうしたもんかなーって声が聞こえたよ? ファンキー先生がそう言うって多分相当のことなんじゃないかな~」
温井さんが会話に混ざりながら、オーブンで焼いた鶏肉取り出してまな板に置き、それを包丁で食べやすい大きさに切っていく。 皿に盛りつけられた鶏肉に、春が回していた鍋に入ったデミグラスソースをかぶせる。
厨房に焼かれ皮がパリパリになった鶏肉と、それに上手く交わるデミグラスソースがいい香りを広げる。 香りに釣られ思わず翔の手が伸びるが....。
「つまみ食いダメッ!!」
パシンと翔の手を軽く叩いて止める。
「いてっ。 へへ、わりぃわりぃ」
「全く...油断も隙もないよね。 食堂で大人しくしてなさい!」
「へーい」
温井さんに言われ翔が厨房から姿を消す。
「温井先輩まだ手伝う事ありますか?」
「うーん、お皿とかフォークとかはセルフだし...。 後は料理をテーブルに運ぶくらいかな」
「じゃあ運びまーす」
春は近場にあったサラダを食堂へ持っていく。
「お、落とさないでね..?」
「そんな出来ない子じゃないですよぉ」
ウキウキで料理をテーブルに運んで行く春を見て、温井さんは弁当の話をした時の夜空の言葉を思い出していた。
(今回の弁当の件といい、あいつ意外と抜けてるっていうか...考えが足りないっていうか....アホというか。 妹ながら結構残念な奴なんだよな)
(わー夜空っちひっどい兄貴――)
(兄弟姉妹なんてそんなモンでしょ)
夜空はため息を吐きながら、それでもどこか嬉しそうに家族の話をしていた。
「星原っちの言った通り、確かに色んな意味で目を離せないね」
食堂から聞こえてくる【ガシャーン】という皿の割れる音と、その後の翔の『うわ――ッ春ちゃんが皿割ったぞ――っ』という叫び声。
「ちょっ!!!!」
「う、うわーん―――っ!!」
春の泣き声で想像はつくが....。
疾風の班の夕飯メニューからサラダが消えた。
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「じゃあ今日の料理当番、全体号令を」
「じゃあ皆食べていいよ――!」
ファンキー先生の指示で温井さんが音頭を取り、それに合わせて皆が『いただきます』と言って料理に手を付け始める。
基本的に夕飯は毎日用意されるが、それを食べるか食べないかは班で事前に提出する。 なので大体は、いくつかの班は外食などで居ない為、114人全員揃って食べる事は中々無い。 食堂に全員集合し、食事をする様は中々学校でも見られないだろう。
「結構大変だったねー。 久しぶりに疲れちゃった」
「お疲れ様。 あんまり手伝えなくてごめんね?」
疾風が温井さんに謝る。
「別にいいよー、料理好きだから...といっても量が量だからあんまり凝ったモノは作れないけどねー」
「そっか、なら...ありがとう」
凝ったモノでは無いが、別に力が入ってない訳では無い。
今日の献立は、鶏肉のデミグラスソースとサラダ、それにロールパンと、疾風と翔がかき混ぜていたワカメスープ。
メインの鶏肉はデカいオーブンで焼き上げた一品だ。
皆がうめぇうめぇと食事を楽しんでいると...
「みんな食事中にすまんが聞いてくれ」
ファンキー先生が声を上げた。 ざわついていた食堂が静まり返り、全員がファンキー先生の言葉に耳を傾け始める。
「...............」
しかし中々話が始まらない。 ファンキー先生自身も辛そうな表情を浮かべ、どのように話を切り出したらいいか分からない感じになっていた。
「センセー、話ってナニ―――?」
ギャルグループがいつものノリでおちゃらけながら言うが、ファンキー先生は変わらず苦渋の表情を浮かべながら生徒を見る。
そしてその顔に全員が絶句した。
辛そうで、悲しそうで...でも決断を迫られている切羽詰まった顔で
自分たちの頼りにしている大人がそんな表情を浮かべるなんて思っていなかった。
そしてその場の誰もが理解する。 この話はおふざけ半分で聞いていい話じゃない、真面目に聞いて己で判断する必要があることに。 自然と全員がフォークを皿に置いた。
翔に視線を向けられた疾風が代表で。
「先生、俺達も覚悟....できてます」
先生は話始めた。 リストに載っている天賦所有者を、軍から戦線に送るよう指示されていること。 自ら一人で行っても、ヘルカに居る他の勇者を救える可能性が限りなく低いこと。 それでも生徒が傷つく真似はさせたくないこと。
全て言い終わった後、ファンキー先生は涙を流した。 『すまない、すまないお前ら』と、今にも折れそうな程小さな声で呟きながら。
.........。
「俺は行きますよ先生。 俺は元よりヘルカから来たんです、この問題は俺の責任でもあります」
一番手に名乗りを挙げたのは栗谷だった。 それに続くように、俺も私もと命知らず達が名乗りを挙げていく。 しかし同じかそれ以上に、行きたくない、死にたくないという意思を持った生徒もいた。
当たり前だ。 温室育ち日本人、いきなり戦場に行け、戦えと言われても拒絶反応が出るのは当然のこと。
「疾風君はどうする」
翔が疾風に尋ねる。 生徒の一部は疾風がどうするかで決めるようだ。
「正直さ、勇者って何なのかよく分らない」
疾風は続ける。
「こんな危険な力、使い方を間違えたらどうしようって凄く怖くなった」
「同じだよ疾風っち、皆おんなじ」
温井さんが疾風に元気に笑いかける。
その顔を見て、疾風の中で何かの決心がついたのか...。
「でも、それでも俺は動きたいと思ってる。 勇者としてじゃなく、葉日学園の仲間として学校の皆を助けたい!! ....その、みんなはどう...かな?」
疾風は恐る恐るといった感じで自分の意思をみんなに伝えた。 誰も気づかなかったが、何故か疾風の手には冷や汗がにじみ出ていた。
その言葉にみんなが賛同し、一部では疾風コールが始まる騒ぎにまで発展した。
「わたし、怖いけど頑張るよ!」
「ワイの天賦で全て熱くしてやる―――! いつも風呂沸かしてるみたいに!」
完全に天賦の無駄遣いである。
「疾風君が行くなら私たちも!!」
「「「疾風! 疾風! 疾風!」」」
止まらぬ疾風コール。
そんな疾風コールを聞き、疾風は顔では嬉しそうにしながら少し引いていた。
「......この、ばかたれどもが」
涙でにじんだ目を擦りながら、ファンキー先生は誰にも聞こえないように呟いた。
==☆次回予告☆==
44話の閲覧お疲れさまでした。
1話の春の料理シーンは地味にこの展開の伏線だったりします。
ポンコツな女の子っていいですよね(作者趣味)
今回のプチ話は地図の灰色部分について。 地図上に存在している灰色部分には様々な要因があり、人が住めないor国が作れない事を意味しています。 乾燥地帯だったり高度の関係だったり、大地汚染や吹雪、ブリザードなどなど....。
今後色々説明できたらいいですね。
次回、45話......培ったもの 実を結んで!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




