43.1話 フィクシスの暗躍
フィクシスは、警備が明らかに手薄になったスピールト方面の壁の上に立ちながら景色を眺めていた。 置かれている状況とは真逆の爽やかな風が、借りものの体にくっついている髪の毛を揺らす。
昨日の夜、ヘルカ兵は敗走した。 貴族から指示された命令を実行した。
何の為に行うのか、そんなことを聞いたって答えてくれやしない。 軍を指揮する三人の貴族は頭こそいいが、兵や勇者、赤印の人間とその家族であるドワーフたちは全て消耗品の道具としか見ていない。
『この作戦にもきっと意図があってのことだ』と兵士たちは自分に言い聞かせるように逃げ続ける。 この時期に、わざわざスピールトに喧嘩を売る必要性があったのかなんて.....死んでも口にしてはいけない。
自分の家族を守る為にも...。
馬を走らせ、崖沿いを進む数名のヘルカ兵。 一緒に来た100人近くの仲間は既にスピールト兵にやられただろう。 後ろから聞こえてくる悲鳴を聞けば馬鹿でも分かる。
「すまない、すまない....うぅっ...」
「泣くなよッ、アイツらの死を無駄にするな!! 走れェ走れェ!!」
涙を流しながら馬の手綱を握るヘルカ兵。
「.........」
そんな様子を、滑稽そうに笑いながらフィクシスは崖の上から見下ろしていた。
「絶望の涙が堕ちるのは...まだ尚早な事よ」
フィクシスは、近場にあった大きめの岩を蹴り飛ばしヘルカ兵に向けて落下させる。 馬の手前に落下した岩は崖沿いの道を地盤ごと崩壊させ、ヘルカ兵たちは馬ごと谷底に落下していく。
ヘルカ兵の一人は岩を落とされた瞬間、崖の上に居るフィクシス....いや、自分たちに命令してきた貴族の姿をその目で確認した。
「な、なんでッ、俺達は貴方の命令でッ!!!! クソッ、クソがッ....なんで、こんな思いをして....地獄におち...ろッ!」
苦痛と絶望で歪む表情を顔面に張り付けながら、ヘルカ兵は谷底に叩きつけられ死亡した。 フィクシスはそんな表情を見て、自らの内からあふれ出る喜びの感情を抑えながら
「どうやら静かに羽ばたいたようだね。 だが、其方は湖に浮かびゆる白鳥のように美しくはなれまいよ....」
意味不明で不気味な言葉を呟いた。
出撃した情報も、敗走した事実も、ヘルカには一切届かない。
ただ残るは、スピールトがヘルカに対し動き出すという事実のみ。
「終幕は近き未来。 ヘルカに住まう子よ、避けられぬ黒い未来へ抗ってみよ」
フィクシスは壁の上から景色を見るのを止め、ヘルカ城の中にある作戦司令室へと戻っていった。 その戻る途中、スピールト側を監視する監視塔を全て破壊しながら....。
フィクシスに搔きまわされているとは梅雨知らず、ヘルカ兵たちはフィクシスの指示した通りに魔物侵攻への防衛準備を進めていたのだった...。




