43話 その兵器 矛先を酒蔵へ!
ヘルカで勝利を祝う宴があった翌日の朝...。
「ぐあああああああッ!?」
フィクシスに意識を乗っ取られた貴族が別の貴族を個室で刺し殺す。 血が白いカーペットに滴り落ちてシミを作る。
「喚いても運命は歪む事は無し、落ち着きなさい」
「死ねない....私が死ねば....軍の全権が.....貴様、覚えていろ必ずや復讐を!!」
「その傷は致命故、命は葉に留まる雫のように........そう、永遠の暗闇の先に行けるのは羨ましい事よ。 其のまま安心して墜ちてお行き?」
貴族の男は言葉を聞き、トドメを刺され........絶望して死んでいった。
立場を利用し暗殺、フィクシスはヘルカの軍の上層3名の内...フィクシスの体の元主を除く二名を秘密裏に暗殺しその遺体を見つからない様隠した。
フィクシスの手には、どうやって入手したのか...死んだ二人からの『作戦を二人で緻密に練っている。 軍の全権は貴殿にゆだねる』といった旨の手紙を持っていた。
部下がその手紙を見せられたら疑念など抱く余地も無いだろう。 勿論のことながら、文体なども彼らが書いたので相違ないと、疑念を抱く余地すら無いほどそっくりな偽物だ。
「非常に楽しみだね」
フィクシスは、何を考えているのか分からないような苦笑を見せながら...締め切られた部屋のカーテンを開け。 魔物が侵攻してきている方角とは真逆の.......スピールト側を警戒している兵士たちを見ながら『始めようか、裏切りを』と呟いた。
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そして辺りが暗くなってきた時間帯....スピールトにて事件は起こった。
「アドニゴ様、大変です。 大変です!!!」
メイリスの指示で、軽めの陣を敷いて待機していたアドニゴに衝撃の知らせが届く。
「おいおい、なんだ、なんだ。 今度はなんだ...」
「お見せしたほうが早いかと...とりあえずテントの外へ!」
テントの外へと出た。
アドニゴは部下が指をさす方向へ、遠くを見ることのできるスキル『遠視』と、スキル『暗視』を無詠唱同時発動し...ヘルカ方向の街道沿いに広がる黒い塊のようなものに目を向ける。
アドニゴが見つめる先には、その数100程度のヘルカの部隊.....国旗を掲げスピールト威嚇してくる。 スピールト軍第一部隊は即座に陣を展開し、ヘルカ側の突然の攻撃に備え始める。
「姉さっ....最高司令官殿には伝えたんだろうな!? 野蛮人共がッ、宣戦布告さえ出さずに襲撃だとッ!?」
「人を送ってます! そろそろ情報が届くころかと!!」
「第一部隊、戦闘用意!!! 合図があるまで攻撃は絶対禁止、こっちから仕掛けるんじゃないんぞッ!!!」
宣戦布告すらない突然の敵国襲来。 流石のメイリスもその事態は想定外、そして現場にいるアドニゴも同様に混乱していた。
アドニゴ達も緊急で迎撃態勢を取る。
しかし、アドニゴは気づかない。
彼らは陣だけでなく想定外のモノまで設置していることに
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国防技術・マジカルバリスタ
ヘルカで初めて開発された兵器であり、火や水、雷や氷といった4種類の矢を状況に応じ200mから400mの間の敵へと撃つことができる。
その位の脅威度ならヘルカの他の兵器達でも代わりは務まるだろう。
この技術が国防技術と呼ばれる訳は、分解し持ち運べ、戦場での素早い組み立てが可能という利点がある為だ。 もし万が一にも敵に押された時は、マジカルバリスタ内の機械的構造を取り外し撤退するだけで敵はマジカルバリスタを使えなくなる。
この兵器のおかげでヘルカは戦争において負けなしを誇っていた。
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アドニゴは知らないマジカルバリスタの射程距離を。
「雷射放てェ!!!!」
ヘルカの司令塔の指示でヘルカの先制攻撃が始まる。 小部隊から5.6本の雷を纏った矢が弧を描くようにヘルカの陣の前方に着弾する。
地面に突き刺さった矢は雷を一気に外側へと放出し、陣の前方にいた兵士を衝撃で吹き飛ばし感電させる。
「れ、連中...本当に撃ってきやがった! 直ぐに負傷した兵士を後ろに下げろ!! 反撃だッスキル撃て撃てェ撃ちまくれッ――!!!」
アドニゴの怒声に、スピールト兵がスキル『魔法弾』で作成した魔力の玉を杖の先から敵の部隊に向けて次々と発射する。 ヘルカ側へ魔法弾が着弾し、ヘルカも負けじとマジカルバリスタを再装填し、再び雷を纏った矢を撃ってくる。
ヘルカ側の矢とスキル、スピールト側のスキルが交互に飛び交い、両陣地で爆発が起き始めた頃。 メイリス率いる第一部隊の別動隊が騎馬で突撃を開始する。
「姉さんッ!!」
「アドニゴ、よく耐えたぞ! 突撃の援護を!! 私たちの馬に当てるんじゃないぞ!!」
「はいっ!!」
メイリスは馬に鞭を打って走らせる。
「無骨者をもてなす程、愛すべき我が祖国には余裕が無い。 お引き取り願う!」
メイリスはアドニゴの部隊の援護の中、騎馬を走らせ敵との距離が200mに至った瞬間、騎乗しながら発砲する。 メイリスの持つ、水晶で作られたマスケット銃から放たれた青色の弾丸は、通常の弾丸よりも加速し撤退の準備を始めていた敵の司令塔の頭を貫いた!!
「は!?」
「あの距離でマジかよッ!? 撤退撤退ィィ!!!」
ヘルカ兵の悲鳴に近い声が近づく。
「敵司令塔を討った!! 残敵掃討に移行しろッ、私に続け―――ッ!」
メイリスが馬を走らせる速度を少し上げる。 ヘルカの部隊の数人は、機械のようなものを馬に乗っけてその場から逃げるように撤退を開始する。
「我らが国土を勝手に侵犯しておき逃げるつもりか!? させるものかッ!!」
メイリスとその部隊が追いかけようとするが、その場に残った兵士たちが逃げながら応戦してくるため、中々思うように追いかけられない。
メイリスは、馬を追いかけるよりも残敵を掃討する方へとシフトし....敗走するヘルカ兵にマスケット銃の硬い部分を叩きつけた!!!
こうして突然の襲撃は幕を閉じたのだ。
しかし混乱は収まることは無い。 次の日のスピールトの街では、昨晩戦闘があったことが新聞により大々的に市民へと情報が流された。 情報は一瞬で国土内部の他の街に伝達され各所が一気に厳戒態勢へと変わっていく。
「これは完全に挑発だ!!! 何故奴らが大部隊を連れてこなかったのかは知らんが、今が確実な攻め時だというのは軍師でない我々役所の人間でも分かる!!」
「攻めなきゃ攻められて終わる...そんなこと理解している。 多分もう、戦争は避けられんのもな」
役所に呼ばれたメイリスは、テレーダを含む役員達から切羽詰まる表情で問い詰められていた。 何故攻撃を行わないのか、今回の被害は....などなど。
「被害に関しては死者は居ない。 が、敵の攻撃による雷撃で数人が負傷していると部隊長から報告を受けている」
「....と、とりあえず、市民側には今回の戦闘に関して勝利という形で流せそうですね」
テレーダが額の冷や汗をハンカチで吹きながらそう言う。
メイリスは疲れた表情でテレーダに目線を送る。 テレーダはその仕草をよく見るのか、慣れた手つきで近くの棚から灰皿を取り出し、メイリスへと渡す。 メイリスは灰皿を受け取ると、スキル『火種』を使って懐から取り出した煙草に着火する。
「メイリスさんも煙草好きですね」
「こんな仕事、吸わずにやっていられるか」
「そんなもんですかね?」
「........そんなもんだ」
白い煙を口から吐く。 吐き出された煙が空いている窓から外へと流れていく。
「煙草もいいですが、軍はどう動くつもりです?」
「今、部隊長の2人が参謀役として部隊の行軍予定を作成している。 ヘルカまでの道のりは大体半日程度だからな....少しばかりの旅になる。 それと出発までに後方部隊の志願兵を募っている」
「役所はどうすれば?」
「勇者の天賦...そのリストをよこせ。 どうせ調べてまとめてあるんだろう?」
「えぇ、まぁ....協力はしてもらいましたが...。 まさか連れてくつもりで!?」
テレーダが少し困ったように呟く。
「スピールトはどこぞのヘルカじゃない、意思は確認するさ。 それに、あのファンキーとかいう勇者もそれを望んでるんだろう?」
「し、しかしですねぇ....」
テレーダが困っていると、その発言を隣に座っていた役員が止める。
「いいんじゃないか? あれだけ国民の前で啖呵を切って、行きませんでしたってなると勇者、ひいては召喚した国の立場が弱くなる。 ここら辺で勇者を動かすのに私は賛成する」
テレーダ以外の役員達も、新聞の件で市民からかなり詰められたのか。 『もういいわけを考えるの面倒だしな』とか『成果を上げさせれば追及もされん』とか言い始める。
「...分かりました。 ただし、勇者側の意思は重々尊重して下さいね」
「テレーダ、お前も甘いな」
メイリスはため息を吐く。
「そ、そりゃ、結構関わってれば情もわきますよ。 それにまだ子供です」
「そうだな。 その通りなんだろうな」
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会議終了後、メイリスは一人で勇者基地へと訪れていた。 入り口をノックすると、中からパタパタと音がして扉が開く。
「はい、どちら様ですか?」
春がドアを開けメイリスを見る。
「あ、お前は...」
「えっ? あの...」
「........」
ファンキー先生の演説の後、ファンキー先生及び住民の意思で栗谷と眠っている春は勇者基地へと返還された。 栗谷は軍や役所などに、ヘルカでどのような扱いを受けたかについて語り。 春に関しては1日程前に勇者基地で目覚めていた。
「あ、あの――用事は...」
黙っているメイリスに春は怯えながら声をかける。 隷属の首輪による意識混濁は完全に消え去り、今はとても元気そうだ。
「あ、あぁすまない。 監督役を呼んでもらえないか?」
「監督...あぁ!先生のことですね? 少し待っててくだ...あっ、応接室に案内したほうがいいかな...」
「そ、そうだな、そうしてもらえると助かる」
そんな会話をしていると、勇者基地の中から別の女の子の声が近づいてきた。
「春っち~! まだ動いちゃダメだよぉ。 目覚めて一日しか立ってないんだから安静にしてなきゃ――!」
「温井先輩っ! お客さんが来てて~」
「お客さん? あぁ軍の方ですねー?」
温井は手慣れた感じにメイリスを案内し、応接室に連れて行った。
ソファーへ腰かけるメイリスに、春がお茶を菓子と一緒に持ってくる。 温井さんは心配そうにしながらその様子を近くで眺めている。
「その、なんだ...怪我はもういいのか?」
メイリスがお茶を机に置いている春へと声をかける。
「お姉さん怪我の事なんで知ってるんですか?」
「...それは、撃ったのが私だからだ」
春は一瞬驚くが直ぐに笑顔を浮かべる。
「じゃあありがとうですね」
春は笑いながらそんなことを言った。
「あ、ありがとう...だと?」
「....辛かったことだけ覚えてます。 ....本当に辛くて、辛くて...誰かに助けて欲しくて....。 あそこで撃って止めて貰わなかったら、私はきっともっと酷い事をしてたかも...しれません。 お兄ちゃんにも顔向けができなかったと思います」
「兄、そうか、勇者も人間だしな、家族もいるよな」
「決して人に自慢できないお兄ちゃんですけどね」
「.......」
春は苦笑いを浮かべ、釣られるようにメイリスも微笑む。
「っ地獄から私を救ってくれてありがとうございました!!」
涙をほんのり浮かべる春のその顔を見た時に、メイリスは自分の過去を思い出した。 かつて、軍人に手を差し伸べてもらった時の自分の顔に、きっとその顔はよく似ていただろうから。
「でも、お医者さんと温井先輩の力のおかげで傷だって残って無いんですよ!」
「だからっていっぱい動くのダメだからね春っち」
「ぶー、ぶー、温井先輩のケチー」
「心配してるんだよっ!? 私ケチじゃないよ!?」
メイリスは楽し気に会話する二人の女の子を眺めながら
私も少しは夢を追えてるのかなと思った。
「.....依頼内容については心苦しいもんだな」
メイリスは聞こえないように呟く。
栗谷と呼ばれる勇者と、壁を爆破した襲撃犯からもたらされた情報にある。 ヘルカに居る残りの勇者も、彼女のように助けを待っているのなら....手を差し伸べるのは自分の夢の形でもある。 どんな状況だとしても、子供がこのような扱いを受けていい理由にはならないのだから。
(ヘルカを許せない理由が一つ増えてしまったな)
メイリスは心の中でそう思った。
==☆次回予告☆==
閲覧お疲れさまでした。
今回のプチ話は、メイリスの銃の取り扱い技術についてです。 基本的に、市販のマスケット銃は30mから60m前後までが射程範囲内ですが、メイリスのマスケット銃は特注品...水晶のバレルが命中精度を上げ、その上腕の力だけで約200m先の標的を狩り取れます。
流石は病持ちで最高司令官にまで上り詰めただけはありますね? メイリスは、オニキス帝国軍隊長イスカルとは違い、努力一本でその地位まで上り詰めているのもまた違いの一つです。
次回、44話......その勇者達 決意する!
次回の更新は少しだけ私用で遅れます、ご承知下さい。
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




