42話 そして風 かき消されて!
スピールト他民族国家で勇者の記事が騒ぎを生んでいる一方、ヘルカ軍事国家では......。
「魔物進軍ッ! 魔物進軍ッ!」
監視塔の上でヘルカ兵が叫ぶ。 町中に警鐘が鳴らされ、一般市民たちが年寄りや子供を家に入れ戸締りをする。 窓は外側と内側で板を打ち付け、万が一の事態に備えていた。
魔物たちの第一陣、いわゆる様子見部隊が進軍する。 肉壁用の大きめの魔物の後ろに、小型の魔物が追従し...一直線にヘルカ城を囲む壁に向かってくる。 壁の上にはヘルカ兵たちが、マジカルバリスタを設置し横で待機している。
「距離400ッ、マジカルバリスタ装填ヨォイ!!!」
「「「「装填ッ」」」」
「「「「装填ヨシ!」」」」
「狙い合わせェ!」
兵士たちがマジカルバリスタと呼ばれる兵器に矢を装填していく。 マジカルバリスタに備え付けられた魔力充填済みの魔石から、内部の機械的構造を通して矢全体に青色のオーラを纏わせる。
「水射ッ発射ヨォイ!」
敵の、進軍方向に面している全てのマジカルバリスタの矢が青色のオーラを纏った時、司令塔役の兵士が叫ぶ。
「放てェーーーーッ!!!!」
マジカルバリスタに装填された矢が、【ガシャンッ】という音を立てて弾き飛ばされ。 青色のオーラを纏った矢が敵軍団周辺に炸裂する。
着弾した矢は水を伴った爆発を生み、辺り一帯に大きめの水たまりを作り上げる。 しかし魔物たちは構わず水たまりへと侵入し一直線に城を目指す。 魔物と城の距離は300m程度になっていた。
「弾着確認ヨシ、効果現れヨォ――――シ!!!! 次弾、氷射装填ヨォイ!」
「「「「装填ッ!!」」」」
兵士たちは取り付けられている機械的構造をいったん外し、似ている別の機械的構造を再度取り付ける。 機械的構造にはインクで【氷射】と書かれていた。
「「「「「装填ヨシ!」」」」
「狙い合わせェ!」
機械的構造を取り付けた後、慣れた手つきで兵士たちは矢を装填していく。 マジカルバリスタに備え付けられた魔力充填済みの魔石から、内部の機械的構造を通して矢全体に青白いオーラを纏わせる。
「氷射発射ヨォイ!!」
「放てェーーーーッ!!!!」
放たれた矢が水たまりに着弾すると、見る見るうちに水たまり事魔物たちが凍り付き、あっという間に動かなくなってしまった。
「後は頼む」
司令塔が、城の外壁近くに待機していた別部隊の司令塔へと声掛けをする。
「任務達成感謝ス! 地上部隊、我に続け―――ッ魔物を殲滅しろ一匹も残すなァァァァ!!!」
鎧を着込んだ兵士たちが、300m先にある氷漬けの魔物を一匹ずつ確実に仕留め始める。 知能が低い魔物では、知恵を使った戦法になすすべなく....どんどん片付けていく。
部隊の後方には、鉄の首輪をつけられた奴隷並みの扱いの勇者...いや、人間兵器たちが待機し、戦場の残酷さというものを嫌というほど目に焼き付けられていた。
「良かったな人間兵器め。 連中が氷を抜け出そうものなら、貴様らのファイアーボールと魔道大砲で灰にしてくれたが、どうやらその必要は無さそうだ....」
「うぅぅ、怖いよぉ....」
「ぬかせッ! 女貴様、また痛い目にあいたいのか!」
女生徒は黙って頷く。 この世界に召喚されて約2週間ほど経過し、その期間の間、ヘルカで非人道的な扱いを受け続けた生徒たちには、もはや反抗できるほどの余力は存在しなかった。
自分がぶたれないようただ自分を守るだけで精一杯。 結局、数日前にに消えた春と栗谷がみんなの前に姿を見せることは無く。 彼らの中では既に殺された、あるいは売り飛ばされたという意見で一致していた。
「残敵なし、残敵なし!」
司令塔役の男の声で、ヘルカ全体にしかれた警戒状態が解除される。
「おらっ、歩け人間兵器共! 独房へ戻れ!!」
生徒たちは、抵抗することなく歩き城の地下に存在する独房へと入れられた。 独房の中でのみ生徒たちはやり取りを許される。 無論内緒話程度の小さな声で話さなければ、暴力だの、飯抜きだの、水ぶっかけだの...人間が壊れないギリギリの範囲で痛めつけてくる。
「そういえば、一番最初に連れてかれた子、どうなったか知ってる?」
「スキルの訓練中、兵士たちが話してるのを聞いたわ。 兵士たちの宿舎で、夜な夜な....その...なんていうか....性的な.....その....」
閉じこめられた女生徒たちが他人事のように話す。
「壊れちゃった?」
「.......多分ね。 見てないから知らないけど」
「そっかぁー、次は私たちかもー??」
「...................いっそ殺してくれた方がマシね」
常に恐怖に晒され続け、肉体はなんとか守れているものの精神までは守れない。 徐々に徐々に蝕まれていき、彼ら彼女らの精神は既に壊れ始めていた。
「.....なんだっけ、天賦だったっけ? ソレ使って檻のそと出てみる?」
「止めて、私まだ死にたくない。 それに出たところで何もできないよ......私たちはヒーローじゃないんだから....」
「日本に戻りたいなぁ.............」
女生徒は疲れ切った声で呟いた。
地下の奥の方にある鉄ドアの向こう側から悲鳴が聞こえてくる。
「これ以上....無理で...ギャアアアアッ」
「言い訳す...。 魔物の......赤印の家族...殺され.....いいからやれッ!!」
鉄ドアを挟んでいる為、会話の内容までは聞き取れない。 しかし聞こえてくる悲鳴は全て老人のような声であり非常に不愉快だった。
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その頃、魔物の軍勢を退けたヘルカ城では責任者たちによる宴が開かれていた。 貧しい国のハズなにの、何処からこんな金が出てくるのか...次々と高価そうな料理が運ばれてくる。
「ハーッハッハッハッ! 上手いッ、こっちも上手いッ!!」
王子としては品が無い食べっぷりで、様々な料理に手を付けながら会場を練り歩く。 そんな王子を隠れながら呆れ顔で見つめる貴族連中。 そのことに気づいた婆が急いで王子へと近寄ってくる。
「王子...もう少し落ち着きを持っていただいて...」
「んぁん? こべうまいぉ?」
リスのように頬を膨らませながら王子は言う。 周りの貴族たちからはクスクスと笑い声が起こる。
「王子....。 母君が見たら悲しみますよ...」
「んぼぅ? むぐむぐぅ...」
王子は『母君』という言葉に反応し、急いで頬袋に大量に詰めた食料を飲み込む。 婆は呆れたように頭を抑えて落ち込む。
「せめて飲み込まれてはいかがです?」
「ゴクンッ、...ハーッハッハッハッ! 母さんが悲しむのはダメだな!!!」
飲み込み終わると王子はそう言った。
その頃一方、王子や婆の知らない隠し部屋で今後のヘルカ全体の動きについて緊急会議が行われていた。 会議に出席するは、この国の実質的な指揮権を握る貴族の面々、政治から軍...国全体の資金面に至るまで、バカ王子では統治は無理だと判断した貴族たちが内政を半分乗っ取っているのだ。
「王子の作った新型兵器ではどうなっていますか?」
「それが...。 第二陣と予想される魔物の軍団が、ヘルカの北西部....乾燥地帯に集結し始めています」
地図を一枚取り出し机に広げる。 地図の乾燥地帯を表す場所に、赤インクで点が無数に付けられ、一目で敵の居場所が分かるような工夫がされていた。 地図には3000と数字が書かれ、数字を囲むように赤く〇が付けられていた。
【※ヘルカの西側から北にかけての灰色地帯が乾燥地帯です※】
「明らかに組織的だな。 ただの魔物風情にここまでの統率力は現実問題考えられん、なら思い当たる可能性は一つだけだな」
「.....魔王領の介入ですか」
「しかし、仮に魔王領が介入していたとして、ヘルカを攻め滅ぼして何になる? 我らは、戦争こそ強けれど小国....連中に利なんて無いはずだ」
「人間の価値観で、魔王領に居る魔人の頭の中を覗き見ることなどできるものか。 何も考えていないのさ、我らが国の王子のようにな...」
会議に出席している面々から笑いが起きる。
「......王子の父君、ヘルカ王は聡明でした。 この場に居て欲しかったと何度星に願ったことか分かりませんが、今はもう居ません...我々が最良の答えを導き出さなくてはならないのです」
「人間兵器を行かせるのはどうだ? 仮にも勇者だろう?」
「何もできずにあの世逝きだ。 そういえば人間兵器で一つ聞きたいことがあったんだが、まだこの中に人間兵器を人として見ている者はいまいな?」
「「「まさか」」」
質問に対し、会議に出席している貴族全員が何の迷いも無く即答する。
「ならば良し」
「....話を戻しましょう。 今後の対策どうしますか?」
「そういえばスピールトはどうなってる?」
「...流石に今のスピールトに新たな密偵はリスクが高すぎますよ」
「情報なしか。 まぁ、メイリスなら勘づいてそうだがな」
「メイリス? あぁ、あのマスケット女ですか」
「どうです? 軍の人員補充もかねてスピールトを捻るというのは」
軍を管理する貴族の一人が冗談交じりにそんなことを言う。
「阿呆、板挟みになる気か? 人員が欲しいのは分かるが短絡的だぞ」
「あはは、い、嫌ですねぇ。 冗談ですよ、冗談...」
その後、あーでもないこーでもないと会議が続き...案があらかた出切った所で場が静寂に包まれる。 会議に出席している貴族たちは言わずとも理解していた。 現時点でのヘルカの兵力数は約5000と少し、人間より大きさも力もある魔物集団相手だと少し厳しい事を。
「距離的に逆算して魔物の到着は3日後といった所か」
「どうします? ドワーフたちへの締め付けを強化して魔石の充填を早めますか?」
「そうだな。 地下の看守に伝えておこう、赤印の仕事の効率を上げろとな」
対策とも言えない対策会議が終了し、貴族たちがその場を一人また一人と離れて行き。 貴族の中でも軍の管理が優れている一人だけがその場に残った。
その貴族は先の戦いの情報をまとめていた。
「まったく....。 他の貴族の方々も手伝ってくれても構わないんですがねぇ」
誰にも聞こえないぐらいの小さな声でぼやく。
ここは関係する貴族の面々しか知り得ることは無い隠し部屋。 誰も入ってくることは無い、だから安心して文句を言う事が出来た。
「まったく面倒事ばかり押し付けて....参りますね全く」
「落ち着きなさい」
「私は落ち着いています....よ?」
突然、返ってきた言葉に驚き振り返ると!
そこにはヘルカの一般兵が立っていた。 その兵士はどこか生気を感じない、全ての事柄を達観しているようなそんな雰囲気を受ける。
「な、なんだお前は! どうやってここの隠し部屋に侵入したんです!」
「些末な事は気にすること無し。 その知識は不安を齎すものよ」
「何をッ!」
兵士は手で貴族の顔面を掴む。 人間とは思えないほどの怪力に、貴族の男は全く抜け出すことができない。
「其方の不安は黒き星によって覆われ...後に国は決心を求められる。 しかし其方は幸運ゆえ、今は其方の殊勝なる人生に祝福を.....ご苦労さま」
兵士から漏れだした黒い闇が貴族を覆う。 闇に意識が飲み込まれる中、潰れ死んでゆく意識の中で辛うじて声を出す。
「お前は...誰だっ....」
「名をフィクシス、それは魔王四星が一人」
「魔...王領ッ....そんなっ....もうここ...までっ.....」
貴族の意識が死ぬと同時に、兵士が倒れ。 兵士側にあったフィクシスの意識が貴族側に乗り移った。
「さぁ煙舞う酒蔵の国よ。 兵器の国からの贈り物を喜び給え」
フィクシスは、人間の体で全てを小馬鹿にするような笑みを浮かべた。
==☆次回予告☆==
42話の閲覧お疲れさまでした。
今回、魔王領が介入してきました。 いいですねー、異世界ファンタジーの王道ですねー? ....まぁ、なるべく王道寄りにならないように物語を掻きまわしていく存在であったらなと思います。
戦争、魔物、魔王領、勇者....カードはそろいました。
酒造の国編...ここから物語は加速していきますよ!!
次回、43話......その兵器 矛先を酒蔵へ!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




