41話 その司令官 幼き頃の過去で!
「.....やってくれたな」
メイリスは、ファンキー先生の名演説の翌日に出された新たな新聞を見て頭を抱えていた。 新聞の見出しには≪≪勇者宣言! 敵はヘルカ軍事国家、勇者を取り返すと言い切る!≫≫ と書かれていた。
頭を悩ませるメイリスの前にはアドニゴとリレイが立つ。
「勇者にヘルカのことを伝えた阿呆はどっちだ」
「はーい」
言い訳をせずリレイが手を上げる。
「お前か...。 書類側にはヘルカのことを書かなかったのに、口頭でわざわざ勇者に伝えに行ったのか....。 リレイお前、確信犯だろう」
「なんのことですー?」
「はぁ、まぁいい...。 どのみちいずれバレることだったし、少しだけ早まっただけだ」
「さすがメイリス様っ☆」
「ただし始末書は書け! 反省しろ馬鹿者が!」
「え―――――ッ!!」
「拳骨無しなだけありがたいと思うべきだが!?」
悲鳴をあげるリレイを、当たり前だろというような顔で見つめるアドニゴとメイリス。 その後、ブツブツ文句を言いながらリレイはその場から退場していった。
「...でも姉さん、リレイがまともな始末書かけるとは思えないんですけど。 また猫とか書いてきますよ、猫」
「大丈夫だ、元からまともな始末書なんて期待していない。 それに、顔には出さんがアイツ自身も、部下を失った焦燥があるからな...ここは、多少寛大になるべきだろう」
メイリスはそう言いながら、懐から煙草を取り出しスキル『種火』で火をつける。
「お、俺は姉さんがそれで良いならいいですけど...。 しかし、どうします?結構騒ぎになり始めてるみたいですけど」
「無視でいい無視で、役所に任せる。 第1部隊は引き続き西側に陣を引ける状態を維持、ヘルカ軍事国家の動向次第で即時戦闘もあり得るからな」
「了解です」
「いや、だがまぁ...ヘルカ側も攻めてくることは無いとは思うがな? あちらはあちらで魔物だとかで大変だそうだし」
「魔物.....侵攻ですか?」
「そこまでは不明だ...。 だがもし、今回の案件に魔王領側の介入があるとするならば...ヘルカの攻撃対象は、スピールトに変わるかもしれない」
メイリスがため息を吐くと、タバコの煙と匂いが換気をしていない部屋に充満する。
「なっ!!」
「ヘルカに小さな村はあるが、ヘルカ城の都ほど街と呼べるほどの大きい場所は存在しない。 魔王領との戦争になれば人手も必要だろう。 そんな時に隣国に、戦争が弱く、赤印の獣人だらけ、おまけにアルコールの宝庫ときた....。 戦争の駒集めとしては申し分ないし、自国民の避難先としても良しだ」
「最高司令官ともあろう人が止めてくださいよ、そんな冗談」
「勿論そうならない様、我々も力を付けてきたのだ。 祖国に泥は被らせん」
メイリスは灰皿に煙草を押し付け捨てる。
「...それは当然です姉さん。 それと、勇者側はどうします...勝手に暴走されて挙句国際問題、戦争勃発が一番最悪なパターンでは?」
「あの山本とかいう勇者連中の代表は、決して話の通じない男じゃない。 実際、その駒を動かすかどうかはともかく、山本には『事を起こすなら機を見ろ』とだけ伝えろ。 あのような輩には恐らくそれで言葉は足りる」
「分かりました。 リレイの方に伝えて部下を動かしておきます」
「話し合いは終わりだ。 今から動け」
「はい、姉さん。 失礼しました!」
アドニゴはそう言って退席していった。 メイリスはため息をつきながら、懐からもう一本煙草を取り出そうとして.......その手を止める。
机に置かれた定期検診のハガキを見て。
ハガキにはこう記されていた。 『メイリス・ラン・ニーデル殿 そろそろ定期健診をおすすめします』と...。
「もう前の診断から半年立つのか...。 早いものだな」
メイリスはそう言いながらタバコを懐へとしまった。
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私は、スピールトでは有名な貴族『ニーデル家』に生まれた娘だった。 スピールトでは有名なウイスキーを作る会社の社長、その令嬢だ。 当然お金に不自由したことは無かったし、貴族としての名も力もあった。
しかし...。
「あっ、メイリス様が来たぞ――!!」
「貴族の癖に友達も居ないメイリスだ―――!」
空き地にボール遊びにしに来た幼いメイリスを、同年代の子供たちがバカにしたような口調で煽る。 メイリスは、怒りで震えながらそれを必死に耐えていた。
ただ貴族であるからというだけで、私は近場に住む同年代の子供たちから馬鹿にされていた。 しかし私は、自分が貴族であることも知っていた。 だから自分がこのことを親に伝えれば、その家庭に報いがあることも全て理解していた。
だから私は何日も黙った。
だから私は何日も耐えた。
煽られても、暴言をぶつけられても、泥を投げられても...石をぶつけられても!!!
「止めるんだ子供たち」
石から自分を守ろうと蹲るメイリスを軍服を着込んだ若者が助ける。 恐怖で震えるメイリスに、目線を合わせるようにしゃがみ手を差し伸べながら...軍人はこういった。
「もう、大丈夫だよ」と。
それは今となっては当然だともいえる言葉。 だが当時の私にとって、その言葉とその服装...その頼りがいのある姿に胸を貫かれる程の衝撃を感じた。
そこからの私は迅速だった。
反対する父や母を納得させ剣の修行を始めた。 初めこそ辛かったが、夢をかなえるために乗り越えた...そして月日は流れ。
年齢が8歳になった頃、父が唐突にこう言った。
「メイリスもそろそろ自分の【才能】を知ったほうがいいかもしれないな」
「でもあなた、まだメイリスは子供ですし早いんじゃないかしら?」
「もう立派に自分で考える力を持ってる。 いいかいメイリス、今から教える言葉は魔法の言葉...自分の可能性を知るための呪文だよ?」
メイリスは展開についていけずオロオロしている。
「お父様、呪文って?」
「『人生回廊』と言ってごらん?」
「はい、えーと、人生回廊!」
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★才能:火種
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★現時点保有スキル名
・なし
・なし
・なし
・なし
以下、3つを含む【7つ】が所有上限
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メイリスの言葉に反応し、メイリスの目が少し青く輝く。
「メイリス、才能と書かれている場所の横になんと書かれている?」
「この青色の文字の? えーと、火種と書いてます」
「そうか青印か、よかった。 そして火種か、確か手引書が倉庫に...おい、おまえ」
父は母を呼び、一冊の本を持ってこさせた。
「お父様、これは?」
「手引書...と呼ばれるものだ。 我が子よ遠慮することはない、開いてみなさい」
メイリスが、恐る恐る手引書を開くと体が一瞬【ズンッ】と重くなったような感覚に陥る。 それと同時に、手引書が燃えて灰になる。
「わあっ!」
「おめでとうメイリス、これで今日からお前もスキルが使えるよ」
おめでとう、おめでとうと周りに居た母親や使用人たちが、喜びの声を上げる。
そこまではよかったのだ...そこまでは。
「じゃあメイリス、次にスキル『火種』と唱えてみようか? あぁ指は、蝶々が止まれるように自分の前に立てて....そうそうそんな感じに」
「えーと、スキル『火種』!」
メイリスの指先に蝶々...ではなく炎が宿る。
それはロウソクに灯るような小さく優しい炎...。
スキル『火種』...スキルの中でもスタミナの消耗がかなり少ない部類の能力であり。 火力こそ低いが、連発ができるお手軽能力。 高級レストランのウエイトレスは皆この能力は覚える。 お客さんのタバコに火を付けたり、鍋の下に置く固形燃料に火をつけたり....火力面で色々有用なのだ。
だからこそ、この能力で...こんなことが起こるなんて思っていなかったんだろう。
「スキル『火種』、スキル『火種』っ!! 凄いですお父様!」
初めてのスキルに大はしゃぎするメイリス。
「おまえは才能がその『火種』だからな、通常の人よりもたくさん使えるはずだよ」
「スキル『種火』! お父様、お母様っ、私なんだか魔法使いになった気分です! ハァハァ...」
微笑ましい空気が場を包み込む。 だが妙にメイリスの息が上がっている。 才能の効果やスキルのスタミナ消費量を加味しても、8歳の子供でも30回程度ならわけないハズなのに。
「ハァお父様....お母様....ハァこれ、すご....い...」
バタリと音を立ててメイリスが倒れるまで、両親や使用人はメイリスの異変に気が付かなかった。
「メイリスッ!? おい、メイリス!! おまえ直ぐに医者を!」
その後、倒れたメイリスに驚き...両親がすぐに医者を家に呼んだ。
「ふぅ...」
ベッドで眠るメイリスの診断を終えた医者が息を吐く。 両親は終わったことを悟り、素早く医者の元へと駆け付ける。
「それで先生、娘は、娘は大丈夫なんですか!?」
「はい、命に別状はありません、ただ―――」
「........」
両親は息を呑んだ。
難病だったらどうしようと母親が青ざめる。
「かなり珍しい病ですね。 ...病の名は《魔力変換過度疲労症》というものです」
「そ、それはどういう病気なのですか?」
「スキルというのは簡単に申しますと、大気中にある魔力を体内の心臓付近にある、目には見えない体内器官によって別のエネルギーに変換。 物質や思念として外へと放出することをいいます」
「.....」
「その変換の際に生じるのが疲れ...いわゆるスタミナ消費という奴です。 皆様も何度かスキルによる疲れを経験したことがおありでしょう?」
「えぇ、まぁ...それが娘と何か関係が?」
「この病は、その魔力の変換の際のスタミナ消費が上がってしまう。 極端な話、ほとんどスキルを使えない、使っても消費が大きすぎて倒れてしまう。 とまぁ、そのような病なのです」
「でも娘は『火種』を!」
「それは『火種』が娘さん才能であり、その上スキルそのものの消費量が小さかったから連発出来ただけ。 これがもし強力な...いや、消費量の大きいスキルだったらと考えた時、ゾッとしますよ」
両親が事の重大さに気づき青ざめる。
「この病気は治るんでしょうか......」
医者はその問いに対し、首を横に振ることを回答とした。
「あくまでスキルによる疲れのみ、他は健康です。 確かに生活は不便にはなりますが、年齢や鍛え方次第で体力の成長は見込めます。 そうすれば『火種』程度の消費量のスキルなら、倒れる心配なく使えるようにはなるとは思います」
「これからどうすればいいのでしょうか?」
「鍛える鍛えないは、ご家庭の意思もありますからそちらはお任せします。 医者として言える事、としましては...そうですね、消費量の大きいスキルを覚えない事、使わない事、使わせない事...ですかね」
「娘は軍に入りたいと言ってまして。 そういうのは可能でしょうか?」
「......正直な話、戦闘となりますといばらの道にはなるかと」
「.......分かりました。 お忙しい中ありがとうございました、先生」
医者は屋敷から去って行った。
だが私は幼い頃の憧れを捨てきれなかった。 いくら両親に反対されようとも、あの時手を差し伸べてくれた人のように、誰かを守れる人になりたかった。
そして私は、銃という可能性を見つけた。
鍛冶師に親の力を借りて大金を支払い、衝撃に強い素材でマスケット銃を作成した。 幸いにも私の唯一のスキル、『火種』と銃はかなり相性が良かった。 撃つ練習も、貴族である資金面での優位性を使い何度も何度も、それはもう数えるのが億劫になるほどやり続けた。
本来マスケット銃単体で戦場に出るものはいない。 だけど私は知っている、自分がこれしか出来ない事を。 だから私は考えた、この武器一つで強者と渡り合って行く方法を。
まずは戦闘術を叩き込んだ。 特注である耐久性を活かし、銃そのものを鈍器として扱う方法を学んだ。 次に射程距離を伸ばした。 風速、弾速、目標の高さ、そういったものを脳内計算し確実に標的を仕留められる方法を画策した。 最後に弾を変えた。 通常弾、炸裂火炎弾、ホローポイント弾、高速弾....様々な状況へと対応できるように弾丸を生み出し、自分が混乱しないよう分かりやすく色をつけて使うようにした。
そしていつしか、憧れは現実になった。
私はメイリス、酒造の国を守る者、祖国を汚す輩には弾丸による制裁を。
==☆次回予告☆==
41話の閲覧お疲れさまでした。
今回のプチ話はありません。 ....メイリスの生い立ちを書いてみましたが、中々インパクトのある生い立ちだったんじゃないでしょうか?
憧れで応用力を高め、最強に上り詰める。
いいですよね、こういう展開大好きです。 メイリスは病気の関係上、スキルを『火種』しか所持していません。 もう割り切っている感じですね。
次回、42話......そして風 かき消されて!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




