40話 その風 更に強く吹き付けて!
【ヘルカ軍事国家にて】
「王子、お願いしますよ」
「任せる事だッ!」
婆にそう言ってヘルカの王子は、設計台の前に座り...新型の兵器の設計図を書き始めた。 その筆に一切の迷いは無く。 まるで完成品の写しが既にそこにあるように線を引いていく。
(お父上様が国を率いている間、王子は歴史、経済、政治、兵学...そういったモノをほとんど学ばずに、国のテーマである兵器開発の勉強に尽力されてきた)
(王政が分からぬ王子は、一部の心無き民から馬鹿者呼ばわりされておりますが。 この婆、分かっておりますよ...いえ、誰でも分かる筈です。 設計図へ線を引く、天才の背中を見れば)
婆は後ろからその様子を眺める。
「王子、今質問しても?」
「ハーッハッハッハッ! 遠慮するな、言うがいい!」
好きなことができてご機嫌なのか、王子は鼻歌を歌う。
「今回の兵器のコンセプトは?」
「ずばり補足だ!!!」
「補足?」
「軍を指揮するオヤジが言っていたのだ! 情報とは戦場において素晴らしい武器に変わるのだろう?」
体は婆の方へと向けず、設計図へ一心不乱に線を引き続ける。
「魔力酒の方はいつお使いになりますか?」
「なぁに使い道は考えはあるとも! 設計図通りに組み上げ、後は勝手に使うといい!!」
「ええ王子...魔物を蹴散らし、国の繁栄を絶対のモノへと変えましょう」
「ハーッハッハッハッ! 俺は戦いなぞどうでもいいからな!」
「またそのようなことを...。 仮にも一国の王子なのですから自覚を」
婆は呆れながらため息を吐くが、王子はそんな呆れを笑い飛ばす。
「頭のいいオヤジが俺に求めるのは兵器開発だけだ! それを俺も是としているのだからこれでいいのだ!」
「......」
「それに...俺が兵器を生み出し続ければきっといつか...」
王子は、何か思う所があるのか寂しそうにそう呟いた。 婆は全てを理解しているのか、寂しそうな王子を少し見てから辛そうに目を閉じた。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
【スピールト他民族国家にて】
「リレイ、これどう考えてもプロの仕事だ」
「うーん、練習した可能性もあるしぃー」
「少し練習して出来るようなモノか? 的確に首や心臓を突いて一撃絶命なんて、相当の腕が無いと無理だろうよ」
「隷属の首輪の効果って可能性は?」
「たとえ命令として実行したとしても、100%ブレなく行えるとかは流石無ぇ...。 訓練してない犬が無理やり飼い主に手を取られて芸させられるのと一緒だ。 というか、そんなことがまかり通るなら世の中の奴隷は皆凄腕暗殺者になっちまう」
リレイとアドニゴは、侵入者が通ったであろう場所を追跡するように歩いていた。 道中に見つけた遺体に関しては、部下を呼び運ばせ軍にて身元の確認や、スキル『透視』を使った死因調査を一応行う。 メイリスが些細な情報でもいいから求めている為だ。
倉庫までの道のり...その道中には、住民の通報を受け発見した海に捨てられた遺体含め6体の遺体が転がっていた。
そしてその全ての遺体が、その日の夜警備を担当していた《第2部隊所属≫の兵士達だった。
第2部隊の隊長はリレイ。 シフト制だったとはいえ、夜間の街の見回りを命じていたのは、誰でもないリレイだった。
「部下だけで、民間人に刃が向かなかったのが...」
リレイは言葉を濁しながら言う。
「救いだったって?」
「アドニゴのバカ。 救いなんて無いし」
「わ、悪かった。 そういう意味で言ったんじゃ無いんだ」
「......っ」
しかし、リレイの振り上げた拳が誰かに降ろされることは無い。 犯人は自らで命を絶った、捕縛された後は自害し情報を敵に渡さない。 リレイは、怒りを抑えるように何処からかペロペロキャンディーを取り出し舐め始める。 またアドニゴも、自ら隊を率いる人間としての悲しみを理解していた。
「......捕まってる首輪の人たちって、勇者と面識あったってことは敵国が召喚した勇者って事?」
リレイは辛そうに話題を切り替える。 今は触れない方がいいと判断したアドニゴが、空気を素早く切り替えるように動く。
「まぁ多分な。 姉さんが把握してるに、勇者は他国に外出はしてないそうだ」
この世界に住まう人間達も馬鹿では無い。 勇者との面識があり、その上他国へ行っていない=敵国の召喚勇者という考えに至るのは普通だった。
「わざわざ召喚したのに? 他国に送っちゃうとか馬鹿なのかな」
「送る理由ねぇ。 敵がヘマをしたか、勇者側に不都合があったか...のどっちかだろう」
「不都合って?」
「そんなの知らんわ。 うーん、勇者を非人道的に扱ってる可能性は無いとは思うが...ヘルカならやりかねん節があるからなぁ」
「本当に、勇者どうすんだろーね」
「解析にもさほど時間はかからんだろ。 今日の夜に取り調べをして概要を役所へ、近いうちに新聞屋が情報を一般人に流すって所か? リレイ、第2部隊は防衛担当だろう、情報規制について役所からなんか聞いてないのか?」
「えっとねぇ、今分かってる範囲だと倉庫襲撃されたこと等は開示するけど...盗まれた酒の名前に関しては絶対伏せる、伏せさせるって言ってたよ? なんでかは知らないけどねー」
リレイは、ペロペロキャンディーの一部を歯で噛み砕く。
「魔力酒...だったか? スキル強化の効果があるっていっても、所詮はただの酒だろ。 なんで伏せる必要性がある?」
「それねぇ...気になって聞いたんだけど、お得意様に無駄な混乱を招くのが理由って言ってたよ☆」
二人の間に一時の沈黙が流れる。
「.......嘘だな」
「裏....あるねー絶対」
二人とも隊長という立場であるから分かった。 そのレベルのデメリットでは、情報を操作するリスクと釣り合わない事に。
まだスピールトでは、魔力酒の秘められた力は役所のごく一部の役員のみしか知らない。
魔力酒を製造し、楽しんでもらいたいと願う者。
魔力酒の力を知りながら、混乱防止の為に沈黙を選ぶ者。
秘められた力の強さを知らず、対応に追われる者。
秘められた力を知り、有効活用法を模索する者。
様々な想いが交差する中、時は過ぎ...あっという間に明後日の朝になってしまった。
兵器の国の領土内では確実に魔物たちは歩みを進め、確実にヘルカ城へと迫ってきていた。 大型の魔物の陰に小型の魔物が付きながら、まるで誰かに意図されたかのように侵攻する。
≪☆≪☆≪号外!! 一昨日、国が管理する大型倉庫が何者かに襲撃された。 死者6名、怪我人多数...倉庫から火の手、酒の防衛に軍が失敗!? 役所はこれを受けてどう動く!?≫☆≫☆≫
その頃スピールトでは、開示された情報に民は戸惑いを見せ始めていた。 新聞の内容は混乱を生み、記載された内容から根拠のない噂が人と人との間に根を張り始める。 その中には、勇者が黒幕などというとんでもないモノから。 スピールトは敵国に屈したんだという、あまりに荒唐無稽なものまで様々であった。
「殺人が絡む事件なんて何か月ぶりかしら?」
「しかも倉庫だってよ、造った酒燃えたりしてねーだろうな」
など、民は不安を口にする。 そして民の一部、けが人や死者の家族...その関係者が軍の施設前に押し寄せ『襲撃犯を連れてこい』や『謝罪させろ!』など、酷いものには『処刑しろ!』など心無い言葉まであった。
ファンキー先生は、生徒たちを勇者基地から出ないよう指示を出す。 混乱に便乗した勇者否定派の老人が、勇者基地の前で『黒幕め、スピールトに混乱をもたらすなら出て行け!!』と騒ぎ立てる。
「先生、これ...あの二人大丈夫ですかね?」
疾風は新聞を手に持ちながら話しかける。
「少しマズいかもな。 リレイさんが栗谷たちを差し出すとは思えんが...念の為に俺は出る。 疾風、すまんが生徒のまとめ役を頼めるか?」
「任せて下さいっ先生!」
ファンキー先生は疾風に『頼んだぞ』と告げると、玄関の扉を開け外に出て行ってしまった。
ファンキー先生は軍の施設へ急ぎながら栗谷の事を考える。
昨日の昼....軍の一般房にて...。
「栗谷ッ、無事だったか...」
「ッ! 山本先生ッ...」
隷属の首輪が解析により外され、その後の精密検査も異常なしと判断された二人は、軍の施設内にある一般の独房に移されていた。 隷属の首輪には案の定というべきか...もし無理矢理破壊した時ように爆弾が仕掛けられており。 もし作動すれば、当人はおろかその周囲さえも吹っ飛ばすほどの強力なものが仕掛けられていた。
「すいません先生、俺、俺っ!!!」
「落ち着け栗谷、事情は大体リレイさん...あの小さい軍人の人から聞いてる。 ヘルカ軍事国家...だったか、辛かったな」
「う、うぅぅぅ....」
高校2年にもなる男が大粒の涙を流した。 この世界に召喚され、騙されて捕えられた挙句、スキル訓練の強要...手を抜けば人としての尊厳を奪い取る。
卑劣、とんでもない程の陋劣だ。
もう一人の【星原 春】という名の女生徒に関しては、勅令のせいで精神に相当の負荷がかかっていたらしく...隷属の首輪が外れても、まだ意識の回復に時間がかかるそうだ。
ひとしきり泣き終えた栗谷はゆっくりと口を開き始める。
「お、俺...山本先生に...何もしてないですよね?」
栗谷は警備に撃たれたこと、そしてそれを庇われたことを覚えていなかった。 正確には、意識にモヤがかかったようにその当時のことを正確に思い出せないのだが。
「何もしてない。 勿論、街の人にもな...だから安心しろ」
栗谷も春も、拘束された際に持ち物にナイフなどの刃物は持ち合わせておらず、自害した残り二人の襲撃犯の持ち物から、血の付いたナイフが発見されたことから殺人犯では無いと推察された。
「これから...どうなるんでしょう...」
震える声でそう言った。
「...先生に全て任せろ、お前たちは死なせん。 教師としての意地にかけて」
俺は、学生が学生している姿が好きだ。 そしてその青春を正しく導き、守るのが教師の役目。 その心を全うすることは教師の義務だ。
(許さんぞ、ヘルカの馬鹿たれ共。 この一件が終わったら、必ず全てにケリをつけてやるからな!!!)
ファンキー先生が軍の施設に到着し、一番最初に目にしたのは人々の怒りや不安だった。
怒りや不安に一瞬気圧されるが、ファンキー先生は自分のやるべき事を思い出し、自らの足を前に押し出す。 人を避け、軍の施設の門に近づいたとき...隣に居たオヤジに肩を掴まれて止められた。
「あんた勇者連中の責任者だろ。 前に街で見かけたぞ!!」
「.......」
オヤジが言い放った一言に、不安や怒り、悲しみと言った感情の矛先が一気にファンキー先生へと向く。 感情は言葉となってファンキー先生に降り注がれ...理不尽にもファンキー先生は糾弾される。 軍の人間も、まるで好都合と言わんばかりに目を合わせようとしない。
ファンキー先生に降り注がれる暴言はもう耳に届きはしなかった。 言われるとある程度覚悟はしていた...耐性を多少付けてきていたのもあるが。
ただ
「この世界に勝手にきた挙句、問題起こしやがって。 何が勇者だ、すげぇ力持ってるおかげで辛い事も経験したことのないようなクズが!!!」
暴言の中に混ざったその言葉だけが鮮明に聞こえた。
勝手に来た?
勝手だと....。
問題を起こすな?
なら...なら...ッ....なんで生徒たちを呼んだんだ!!!!
「ふざけるなァァッ―――――!!!!!!」
ファンキー先生が、空に向かって叫んだその言葉には無意識で天賦が付与されており。 言葉は突風を呼び、周辺の建物の窓ガラスを粉砕する。
糾弾していた人々は動揺し尻もちをついた。
「この世界の人間に身勝手に召喚されて騙されて、奴隷のような仕打ちを受け、呪いを受けて他国に送り込まれても、誰にも助けを求められない状況でも尚! ....それでもッ、人を殺めまいと呪いに必死に抵抗した若者たちを、これ以上愚弄するなッ――――!!!」」
あまりの剣幕にその場の人たちは何も言い返せなかった。 しかし冷静になると、気づいたように再び声を荒げ始めた。
「お、怒りたいのはこっちだ!」
「怒るべき相手が違うと言ってる。 貴方方にも、それぞれ不幸があったのは顔を見れば大体察しが付く! これでももうアラフォー世代なんでな」
「.......」
「勇者だから? 力をもってるから? 違う、俺たちは貴方方と何も変わらないただの人間だ。 当然子供たちはまだ責任の取り方なんてものは分からない! ましてやそれが冤罪なら尚更だ!」
ファンキー先生は続ける。
「どうしようもない不安や悲しみを、誰かのせいにしたい気持ちは分かる。 俺も交通事故で両親を失った時、しばらくの間同じようなことを考えていた頃があるから」
「........」
軍の施設前に集まった人たちは、まるで怒りが抜かれたかのように黙ってファンキー先生の話を聞いていた。
「俺は、今回の事件の犯人を突き止め、必ずあなた方の無念を晴らすッ! そして、その国で不当な扱いを受けている勇者を助け出す!」
「それは....勇者として....?」
「大人としての責任の取り方という奴です!!」
強く宣言したその言葉は、その場に居る全ての人間を力技で納得させるほどの力があった。
「そしてこれは、教師としての責任...」
ファンキー先生は厳しい目をしながら膝をつき...頭を下げた。
「どうか、どうか...俺の生徒にもう一度、歩み出すチャンスをいただけませんか!?」
大の大人が、自分以外の人間の為に本気で頭を下げた。 自分の命を賭けたその言葉に、もはや誰も怒りや非難の声を向けることは無かった。
==☆次回予告☆==
40話閲覧お疲れさまでした。
今回のプチ話はありません。 いや、自分で書いてて思うんですけど...ファンキー先生かっこよすぎないか、と。 正直生徒よりも活躍してて...どっちが主人公なのやらって感じです。
でも、あくまで主人公は疾風です。
無力な子供でしか出来ない活躍の仕方...そう言う物を押し出していきたい所存。 正直、武力でドカーン、みんなハッピーみたいな単純さは書いてて楽ですが...。
文章の稚拙さを見れば分かる通り、この作者頭悪いんでね。
最強系は起承転結が高度すぎて書けません。 申し訳ないとは思っています。
私は私なりのやり方で...少しでも楽しみを提供できたら...いいなぁ(希望的な考え)
次回、41話......その司令官 幼き頃の過去で!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




