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そのチカラ 危険につき!   作者: ゼロ先輩
== スピールト編 == 【物語進行:疾風サイド】
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37話 その教師 意を決して!

「栗谷....お前のバッティングは良くも悪くも正直なんだよな...」


「??」

 日が沈み暗くなった葉日学園のグラウンドで、照明に照らされながらファンキー先生と栗谷は野球の特訓を行っていた。 栗谷の肩にはBチームを示すゼッケンが付けられていた。


 ピッチングマシーンから放たれる剛速球に対し、10球中4球くらいの確率で当てる。 しかし、当てられることは当てられるのだが、中々方向が変わらず大体ファーストの方向へと飛んでいく。


「打数は中々なんだが、方向がなぁ...」


「すんません、へたっぴで」


「これはまだまだ練習が必要だな....」

 時計は夜7時半を回り、そろそろ練習を切り上げなければいけない時間が近づいてくる。 ファンキー先生は教師の仕事に戻る為、その場を離れようとする。


「どうして山本先生は...1年の俺に世話焼いてくれるんですか?」

 唐突に栗谷がそんな事を言ってきた。


「ん?」


「俺...Bチームですし、野球だって上手い訳でも無い」

 栗谷の言葉に、ファンキー先生は何を言ってんだとため息をついた。


「だって野球好きだろ?」

 ファンキー先生は即答した。


「えっ! それだけの理由!?」


「先生はな、学生が学生してる姿が好きなんだよ。 俺はそれを手助けしたくて先生やってんだ」

 ファンキー先生は続ける。


「だからもう今日は帰れ。 明日からも辛い練習が待ってるからな」

 その場を去ろうとするファンキー先生に向かって、栗谷は大声で叫ぶ。


「俺っ! 必ず野球上手くなりますっ、山本先生の期待に応えられるような選手になってやりますから!!」

 叫び声が、照明に照らされたグラウンドにこだまする。


「あぁ、期待してる」

 背を向けながらファンキー先生はそう言った。



 =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=


【スピールト他民族国家、酒倉庫内部】


「栗谷....どうしてここに居るんだ....ッ」

 ファンキー先生によってひねり出された悲痛な呟き。


 あの後ろ姿は間違いなく栗谷だった。


 何故ここに居るという疑問はファンキー先生では解決できない問題だった。 ファンキー先生は事情を確かめるべく倉庫内を走っていると、目の前に倉庫内に設けられた個室が見えてくる。


 個室の前にはローブを着込んだ、栗谷ともう一名の姿が見える。


「止まれッ栗谷ィ!!!」


「.......」

 ファンキー先生の叫びに全く反応せず、個室の扉を開けようとしていた。 扉に鍵がかかっていることが分かった栗谷は、ドアノブ周辺にスキル『ファイアーボール』を放ち、金属製のドアノブとその周辺を溶解させる。 


 軽い爆発を引き起こし、部屋内部にドアが吹き飛び内装があらわになる。 中にはいくつかの樽が置いてあり、全てに『魔力酒』のラベルが張られていた。


「足止めしろ」

 栗谷が命令し


「了解」

 ()がそれに機械のように返答する。 春はスキル詠唱を行い、アイスボールを右手に生成する。 生成したアイスボールを容赦なくファンキー先生に投げつける。


「ファンキィィィィッ――――!!!!」

 ファンキー先生が()()()()()()()()()()()叫ぶ。 声は衝撃波に変わりアイスボールを破壊する。 アイスボールを破壊した際に生じた飛沫で、周囲の棚に陳列されている酒のボトルや樽が凍り付く。


 しかし春はたじろぐことなくファイアーボールの準備を始める!


(マズイッ、こんなアルコールだらけの所で火なんて使ったら!!!)

 ファンキー先生は目の前の個室で作業する二人の子供を見る。





 殺させない、まだ俺は目の前の馬鹿たれ共を説教していないのだから!!!





 放たれたファイアーボールを、ファンキー先生は一切躊躇うことなく、倒れるように体で押しつぶし....周囲に火が飛ばないよう細心の注意を払う。


 腹が焼ける音がし、ファンキー先生は悲鳴をこらえる。


「ふぅ、ふぅ...栗谷ィィィィ!」

 ぼやける目とふらつく体を根性で前に押し進める。 全ては愛する生徒の愚行を止めるために、教師としての立場を全うするために。





 だが、そんな気持ちを嘲笑うが如く。




 春が何かを呟いた後、目の前から【シュンッ】と音を立てて消え.....数秒後、ファンキー先生の頭上から春が降ってきて背中辺りに落下する。


「ぐあああああああああッッ―――!!!!」

 背骨に負荷がかかり、火傷の痛みも相まって地面に伏せる。 


 伏せる瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「.......」

 敵を倒したというのに春の目には喜びは無く。 その目はただ無機質に目の前の光景を写すだけだった。 



 不明で不気味な原動力。



「目標を回収する」


「了解」

 遠くから隠密部隊の男を撃破した警備が走ってくる。 栗谷は手に力を込め、一瞬だけ青色の稲妻を手に纏わせる。


「天賦『ゴッドホーミング』」

 栗谷が魔力酒の樽を持ち上げ空中に投げると、樽が物理法則を完全無視して動き出し....最初の爆発で倉庫に空いた穴から樽が抜けていき、西門側に向かって空を飛ぶ。 飛んで行った樽が次々と夜の闇に消えていく。


 そんなことを体力の許す限り続ける栗谷。 

 そして5樽近くが空に流れた辺りで....


「貴様ァッ!」

 駆け付けた警備が異常に気付いて銃を栗谷へ向け発砲する!!

 【ドンッドンッ】という鈍い爆発音が数回倉庫内部に響き、弾丸が栗谷の場所へと飛んでいく...













 数秒後、静かに鮮血が床に落ちる。












 だが....警備が取り押さえるために動き出すことは無かった。

 何故なら。




「う、撃たせん....この馬鹿たれは俺の生徒だッ!!!」

 弾丸が貫いたのは、間一髪で立ち上がったファンキー先生だった。 ファンキー先生は栗谷の前に仁王立ちし、両手を大きく広げる。 


「勇者様何故!!」


「許せよ栗谷!!!」

 警備の言葉に耳を貸さず、ファンキー先生は本気の大人の拳をみぞおち向かって放つ。 栗谷は、一瞬ガードのポーズを取るが、まるで()()()()()()()()()()()()()()自らの行動にブレーキをかけた。



 その行動のおかげで隙が生じ、ファンキー先生のパンチはクリティカルヒットする。 みぞおちパンチよろしく、栗谷の意識を即座に飛ばす。



 悲鳴すら上げず倒れた栗谷に、ファンキー先生は血を吐きながらのしかかり、全体重をかけて拘束する。 意識を失っているかどうかを確認する余裕すら、ファンキー先生にはもう無かった。





 と同時に、現場離脱が困難と判断した春が近場の扉から外へと飛び出す。




 外を警戒していたメイリスが、倉庫から出てきた不審なローブに銃口を向ける。 指をトリガーにかけ、いざ発砲というタイミングで...。




「ローブを撃つなァァァァァァァ!!!!!!!」

 火災の音すらかき消すほどの爆音で倉庫内からファンキー先生が叫ぶ。


 勇者という言葉に反応し、メイリスがトリガーから指を放す。 

 春はその隙に、再び【シュンッ】と音をたててその場から消えてしまった。


「なんだ今のスキルは...」

 遠目から監視していたメイリスはそう呟いた。




 =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=


 春は倉庫を囲う壁の外を走っていた。 

 ヘルカから課せられた任務を達成し、本来なら帰還する手筈だったのだが...。


 春の隷属の首輪は、春の肉体に新たな勅令を与えていた。


(任務遂行後でいい! あの国で1番高い美酒を店から持ってくるんだ!)

 その言葉が呪いのように春の脳内でこだまする。


「.......店、お酒盗む....盗まなきゃ....皆が...うぅ...」

 春に頭痛が起こる。 設定された勅令に、理性が抗おうとするが....その理性を叩き潰すように痛みが起こり、春を蝕む。 春は自らの行う行動を確認するように呟くと、メインストリートに向けて走り出した。 倉庫周辺には、逃げた春を捕えようと、捜索部隊が出され巡回を始めていた。






 メインストリートに到着した春は、近場の店の入り口をスキル『ファイアーボール』で破壊して不法侵入する。 店の内部にはズラリとボトルが並び、高そうなワインに関してはガラスケースの中に展示されるような形で販売されていた。


 ガラスケースに入ったワインの金額は、安くても50金、一番高いので1白銀55金...日本円で155万もするボトルすらあった。


 春は、ガラスケースをそこら辺に転がっていた棒で殴って破壊し、中に入っていたワインを割れないよう丁寧に盗み出すと、ワインを腕の中に抱えて店を出ようとする。


「強盗はそこまでだ!」

 当然のように、騒ぎを聞きつけた人間が目の前に現れた。



 春の目の前に現れたのは、疾風と翔だった。 疾風の息は上がり、翔は警戒するように春を見ていた。


「.......俺、君をどこかで見た気が」

 疾風は首を傾げ、少し考える。


「疾風君、どうするよ」


「決まってる。 池谷(※翔の苗字)君、彼女を拘束するよ!」


「了解だぜ!!」

 春は抱えた酒を守るように強く持ちながら、視線を店の直線状にある建物の屋根に向ける。 場所をしっかりと認識したうえで、スキルを発動する。


「スキル『ブリンク』」

 春がその場から消滅し、即座に屋根の上に瞬間移動する。 そのまま春は、その場から逃走するように()()()()使()()()屋根伝いに動き始める。 スキルを使用していた春は明らかに体力を消耗していた。


「「なッ!?」」

 すぐに後ろに逃げたことに気づいた疾風が追うために動き出す!


「池谷君ッ、噴水広場で待機してて!」


「待機って! 疾風君、あれは連れてくるの無理だろ!」


「多分あのスキルは、スタミナ消費の関係で連続で使えないんだっ。 なら俺のスキルで全然追いつける!!」

 疾風はスキル『フラッシュアクセル』を使用する為、転移先の屋根に視線を合わせる。


「わ、分かった....天賦準備して待機しとくからな!!」


「助かるよ、スキル『フラッシュアクセル』ッ!!」

 閃光が起こり、疾風が瞬間移動の並みの速度で屋根の上に移動する。



 春は、追いつこうとする疾風を視認すると、追いつかれまいと再度スキル『ブリンク』を使用して引き離す。 だが、疾風のスキルは天賦由来によるもの....そしてスキル『ブリンク』は言ってしまえば習得さえすれば誰でも使える。



 異世界チート【天賦】と同じような効果を持つ強いスキルが勝負を行えば、軍配が上がるのは異世界チート...【天賦】の方だ。 




 あと少し!




 もうちょっと!




 疾風の手が春に届く一歩手前で、春の脳に頭痛が起こり、事前設定されたいくつもの自己防衛用の勅令が起動する。 その全ての勅令に置いて、通ずるものは【任務達成を妨害する、あらゆる障害を排除する】という事だった。


「スキル『ファイアーボール』」

 春は、そのファイアーボールを店内に向かって投げようとするが、まるで()()()()()()()()と必死に自分を押しとどめるように、火球の方向を店内から店外に置かれたテラス席へと変更する。


 しかし酒場の為か、テラス席に置かれたグラスのアルコールに無情にも引火し、火が一気に入り口辺りに広がる。 酒を楽しんでいた客が悲鳴を上げて裏口から逃げ出す。


 店の中まで火が広がるのも時間の問題と考えた疾風は、足を止め消火にシフトチェンジする。


「スキル『フォトンストレイヤ』ッ!!」

 疾風の拳に光が集まり強化され、そしてそのまま拳で空を切る。 

 拳を放った風圧で、火に風が吹きつけ...燃え広がるどころか、あまりの風圧で一気に鎮火する。 と同時にテラス席が風圧で潰され、音を立てて壊れる。


「勇者様ァ、ありがとなぁー-!!」

 お客や店主が屋根上にいる疾風に叫ぶ。 


「店壊してすいません――っ!!」

 疾風は、春を追いかけるのを再開しながら言葉を投げ返した。 春は既に走りとブリンクを使用し、疾風から200m近く距離を取っていた。




 夜のスピールトの街に...閃光が瞬く。




「逃がさないぞ!」

 疾風は数回、数十回の閃光を起こしながら加速し...春へと距離を詰めていく。 建物の上を抜け、かわし、隙間を抜けて...春へとじわじわと距離を詰めていく。




 春は追い詰められるたびに...頭痛の中で思う。




(もし、私が任務を達成できなかったら...皆はどうなるんだろう?)

 怖い。



(帰ってこなかったあの子のように...なるのかな...)

 辛い。



(悪い事したくないよ...。 家に帰りたいよ...)

 悲しい。



(お兄ちゃんとは言わない...せめて私を知ってる誰かに助けて欲しい)

 救いが欲しい。




 春が追いつかれそうになったことを感知し、再びファイアーボールで迎撃態勢を取る。 振り返った春と、それに追いつこうとする疾風に強風が吹きつける。 強風で春のフードが外れ、顔があらわになる。 



 疾風はその顔を見た瞬間。 

 星原君に弁当を届けていた、とある女の子を思い出した。




「君はっ! 星原君と一緒に居たッ!?」

 助けが欲しかった春は、一瞬勅令に抵抗する....いや、抵抗してしまった。


 その次の瞬間、激しい頭痛が春を襲い悲鳴を上げる。 それに伴って、隷属の首輪が再び春に勅令を下そうと動き出す。


「キャアアアアアアアア!!!」

 いつの間にか噴水広場周辺にまで来ていた疾風は、悲鳴を上げ続ける春を抱きかかえ、噴水広場の中央にある噴水の水に向かって突っ込む。 着地の衝撃を水で緩和し、すぐさま大声で叫ぶ。


「ハァ、ハァ、池谷君ッ眠らせてくれ!!!」


「マジ任せろって!!」

 息の上がった疾風からの言葉に翔は天賦を使用する。




 翔の天賦は【スリープハンド】、触った対象を無条件で眠らせる効果を持つぶっ壊れチートだ。 だがこの力には、彼ですら知らないエラーが存在する。


 意思の強い者は眠らない、眠りづらいという()()()()()が。



(私がここでやられたら、皆が危ないからっ!! 私は盗みを失敗させられないの!)


「あ、あれ!? なんで眠らねぇんだ!?」

 春の強い意思によって天賦【スリープハンド】が弾かれ、春がその場に倒れることは無かった。 春はすぐさまその場を逃走しようと、再びスキル『ブリンク』を使い屋根へと移動した。 疾風は、スキルの使い過ぎでスタミナを過度に消耗し...限界が近い!!


 逃げられると思った次の瞬間!!



【ドンッ!!!】

 という発砲音が倉庫側から響き、メイリスが放った長距離射撃が春の右太ももを正確に撃ち抜いた。 突然の不意打ちに、春はバランスを崩し頭から石畳に落下を開始する。


 疾風は、最後の力を振り絞ってスキル『フラッシュアクセル』を使い、春を体を張って受け止める。


「池谷君!!」


「今度は眠れってッ!!!」

 翔は春の胸の辺りに手を押し付けるように当て、叫ぶ!!




「天賦【スリープハンド】!!!」

 射撃による太ももの痛みと頭痛で意識をずらされた春の脳に、敵の天賦に反発できるほどのリソースを割けるはずも無く。 春はそのまま全身麻酔がかかったように眠りについた。


「すぐに温井さんの所へ! 治療をしなきゃマズい!」


「疾風君は休んでていいぜ! 俺っちが連れてくべ!」

 警備が来る前に春を翔に任せ、その場を後にさせる。 

 スキルの多用で疲労した疾風は、少しその場で休んだ後に勇者基地に戻ることにした。

==☆次回予告☆==


37話の閲覧お疲れさまでした。

今回のプチ話は情報伝達についてです。


葉日学園一同が今いる異世界は、情報伝達の技術が日本に比べ極めて劣っています。 スピーカーみたいに音を拡散みたいな科学技術なんてありませんし、なんなら電話もありません。


長距離の情報伝達経路は、人づて、手紙、伝書バト、のろしなどしかないようです。 音声の拡声に関してはスキル『やまびこ』と呼ばれるスキルで代用していたりします。


...自分でこの要素作っておいてなんですけど、情報に無理なくタイムラグを持たせるのが結構大変だったり....。 情報伝達早すぎだろっていう意見は、その...大目に見てください、頑張って無理ない範囲に収めますので。



次回、38話......そのいざこざ 収まって!


早く日常回が書けたらいいなぁ...。


是非次回もご朗読下さい!


ではでは~

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