36話 その夜 思い入り乱れて!
時刻は真夜中.....。
「ヘルカ方面の街道沿いの警備を強化しろ!」
マスケット銃を肩に担いだメイリスが、ヘルカへの道がある西門に待機していた。 スピールトの軍服を着こみ、バレルが水晶で作られた特注品のマスケット銃を背負う彼女の姿は、国の番犬そのもであった。
メイリスの指示で、ヘルカ方面の街道に臨時で監視塔が設けられ、地球で言うところの業務用投光器並みの光を放つライトが外壁近くの道を照らす。
「しかしメイリス様、これじゃあ厳戒態勢が過ぎるのでは? もしヘルカがやってなかったら挑発することになる気が...」
「その時は...そうだな。 小規模の催しがあったんだとでも言っとけばいい」
「ハハハ、その言い訳最高ですね」
「もう行け」
メイリスの部下は敬礼しながら『ではそのように』とだけメイリスに告げ、その場を離れて行った。
もしヘルカが動くなら、この街道沿いを必ず通ることになる。 もし万が一、ここ以外の侵入経路があるとしたら海路だけだ。
もちろん海側も監視船を数隻、沖で停泊させ警戒しているが。
もし空路を飛竜などを使って侵入してくるようなら、その場で銃撃し撃ち落とす。 飛竜が無断で領域に侵入しようとすれば、迎撃するのは軍の務めの為、言及されても突き返せる。
「愛しき我が国を犯す真似だけはさせんからな」
メイリスは厳しい顔でスピールトの街方面を睨みつけながら呟いた。
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一方その頃、馬車を乗り捨てた隠密部隊の2名と人間兵器である春と栗谷は....街の西側、郊外の海岸精沿いで次の作戦を遂行していた。
「いいか、事前作戦通り行くぞ。 現在西門には厳戒態勢が敷かれてる、門からの侵入は止め海からの侵入に切り替える」
「分かった、先に侵入口付近の片付けてくる」
隠密部隊の一人がそう言うと、毒の塗られたナイフを鞘から取り出し。 壁沿いを巡回しているスピールト軍の一人を容易く始末し、一切の妥協なしに遺体を海に投げ捨てる。
「始末完了」
「人間兵器出番だ」
報告を受けた隠密部隊の一人が春と栗谷へ命令する。 命令を受けた栗谷と春が、何かのスイッチが入ったように動き出す。
「天賦『魔法の祝福』」
春が無機質に呟き、栗谷へマジックギフトを与える。
「スキル『進化型、アイスボール』」
他の勇者たちの放つアイスボールよりも一段階でかいアイスボールは、春の天賦によってさらに強化され....通常、バスケットボール並みの大きさのハズのアイスボールは大玉転がしサイズに強化される。
栗谷は、生成した馬鹿でかいアイスボールを海面に投げ捨てる。 海面に触れたアイスボールは、即座に海面を人が乗れるくらいの厚みで凍らせる。
RPGのゲームでよくあるツッコミ『正門じゃなくて壁の無い海から侵入すればいいじゃん!』という、ゲームデザイナー泣かせのご法度発言を現実にしたような感じである。
「おいおい、予想以上だな...デカすぎだぞ」
一定範囲内が凍り付いた海を見て呟く。 先ほど隠密部隊の一人が始末し、海に捨てた遺体も一緒に凍り付いていた。
「バレてないよな、一応門側への音漏れだけはスキルで妨害しといたが、メイリスに勘づかれたら厄介だぞ」
「バレてないことを祈るしかないな、どのみちここまで来て帰れねぇ」
凍った海を渡り、外壁の向こう側、スピールトの街内部へと侵入する。 春による強化なしのファイアーボールを数回放ち、静かに氷を溶かして痕跡を消す。
彼らの目指す場所は一つだけ、酒を保管している巨大倉庫だ。
複雑に入り組んだ街を走り、一緒についてきた隠密部隊の2名が巡回兵を次々に無力化、及び暗器で殺害しながら先へと進んでいく。
しばらく走っているとメインストリートが見えてくる。 メインストリートは夜間でも飲み会をしている若者たちでにぎわっており、人目を避けることは困難だった。
「フードを取れ、道の反対側まで普通に歩くぞ」
隠密部隊の一人の指示に、全員がフードをあえて外しメインストリートを進み始める。 注目されないよう、一般人に扮装して道の反対側にある路地まで歩いていく。
あと少し....あと少し....
路地にさえ入ってしまえば、倉庫までは後少し...
と、そんな緊張のひと時に、横から少年が声をかけてきた。
「あれ? 野球部の栗谷パイセンっすよね?」
数人の男や女友達を連れて夜道を歩く翔の姿がそこにはあった。 翔は、ヘラヘラと笑いながら『あれ?この国に居ましたっけ?』ぐらいのノリで話しかけていた。
隠密部隊の二人は即座に目の前の男が勇者だと判断し、全てを無視して春と栗谷を連れて去ろうとするが、何も知らない翔は栗谷の肩を掴んで離そうとしない。
場に微妙な空気が流れる。
「すいません、我々少し急いでいるもので....失礼しても?」
隠密部隊の一人が警戒させないよう笑顔で語りかけると同時に、手で仲間に『先に行ってろ』と指示を出す。 仲間が春と栗谷を連れて路地の暗闇へと姿を消していく。
「えぇ傷つくぅ....なんか先輩への印象変わるべコレ」
翔が呆然としながら呟く。
「じゃ私もこれで....」
「あのー、栗谷パイセンとどういう関係なんスか?」
「関係ないでしょう」
翔からの問いにぶっきらぼうに答える。
「ただの興味本位っスよぉ~」
(.....クソッ、これだからガキは嫌いなんだ)
内心かなりイラつきながら、隠密部隊の一人は路地に徐々に近づきながら口を開く。 路地に向かう男に、翔たちはウザがらみしながら付いていく。
「ただの利害の一致で行動しているだけですよ。 特に面白い間柄という訳ではありません」
「友達じゃないんスか?」
「....どっちでもいいでしょう」
「えー、不愛想すぎっすよぉ!」
「もう行ってもいいですか?」
「せめて何処行くかだけでも教えて下さいよぉ~」
「.........」
路地を数回曲がり人気が完全になくなった場所で、流石に隠密部隊の男の堪忍袋の緒が切れた。 ローブの隠しポケットから暗器を取り出し、翔の命....ひいては翔と一緒についてきていた生徒全員の命を奪おうとする。
振り払われたナイフは、一直線に翔の首へと向かう!
翔は突然の出来事に反応ができず動けない。
風を切る刃先が翔の首の皮に触れる瞬間、後方から銃の発砲音が路地に鳴り響き、隠密部隊の男の手のひらが撃ち抜かれる。
「ウアァァッ!!」
「うあっ!!」
男の悲鳴と共に、翔の驚く声が上がる。
ナイフが投げ出され石レンガの地面に落ち金属音が響く。 反射的に翔は、拳を隠密部隊の男の胸の辺りに叩き込み仰け反らせる。
「勇敢だな少年、その働きに感謝するぞっ」
メイリスがマスケット銃を構えながらダッシュでこちらに近づいてくる。 ブーツから鳴るコツコツとした音が、静寂に包まれた路地に広がる。
「メイリス、何故ここに....ッ!?」
「無駄なことを吐くな、目的と人数、居場所を吐け」
メイリスのその言葉を聞く前に、隠密部隊の男はスキル『アイスブレス』を使用し、氷の霧のようなものを生徒を巻き込むような形で手のひらから作り出す。
メイリスは走りながら懐から弾を取り出し、マスケット銃へ達人級の速度で高速リロードを行い。 スキル『種火』を使って着火、発砲する。 銃口から放たれた弾丸は、翔の横を素通りして的確にアイスブレスを使用した、男の手のひらを撃ち抜いた。
痛がる隠密部隊の男に向かって、発砲で熱くなった銃の水晶で作られたバレルを押し付けるような形で肌に密着させ、火傷を与え...そのまま思いっきり顔をぶっ叩く。
「グハァッ!!!」
「それと、よくも仲間を殺してくれたな。 直ぐに察せなかった私は私が情けない」
血を吐き倒れた男に吐き捨てるように、メイリスはそう言った。 気絶した男を素早く拘束し、路地の隅に捨てる。
そんなメイリスの背後で、翔とその仲間たちは自らが命の危機にあったことを遅れて実感していた。 震え、冷や汗が止まらない。 一緒に来ていた女生徒は目に涙を浮かべていた。
「恐怖を乗り越えるのは今じゃなくていい。 今はその恐怖を心に刻むことだ」
メイリスは諭すようにそう言う。
その場に残された勇者たちは、半泣きになりながら震えていた。
彼ら彼女らの元に、他の勇者と思わしき男が『池谷君ッ大丈夫か!』と、声を上げながら近づいてくる。 メイリスは赤毛の彼を一瞥すると、もう大丈夫だと判断しその場を後にした。
メイリスは勇者からの報告を受け、知っていた。 彼ら彼女らが、争いの無い平和な世界からやってきた人間達という事を。
倉庫へ向かう最中、倉庫の辺りから『ファンキ――――ッ!!!』という叫び声が上がった。 叫び声が上がった直後、何かが爆発するような音が響き、その後で倉庫辺りでもう一度爆発が起こり火災が発生する。 火災を消火しようとする警備の悲鳴に徐々に近づいていく。
「何が起こってるのだッ!?」
現場に到着したメイリスは燃え盛る倉庫を見た。
酒はこの国の血液、そんな血液を保管する倉庫はこの国の心臓といって差し支えないだろう。 そんな心臓は、今や火の手に包まれていた。
アルコールに炎が接触しているのか、火の手が収まる気がしない。
「火消しはまだか!!」
「まだ来ない! 来るまで少しでも火の手を遅らせろ!!!」
現時点でも火の手は回り続け、既に倉庫の2割が燃え盛っていた。 出火場所と思わしき屋根には大きな穴が開いており、何か巨大な炎系統のスキルを使用した形跡があった。
倉庫の周りを消火要員と武器を構えた警備が取り囲む。 倉庫内部からはかすかに戦闘の音が聞こえる。
「侵入者共、昨日開けていった穴をおとりに使いやがった! 裏手の警備が手薄になった瞬間、壁の登られて入られたんだ!!」
警備の嘆く声が聞こえる。
(しかし、連中...完全に包囲されているこの状況から、どうやって酒を運び出すつもりだ? 隠密で行くなら、何故馬鹿でかい音の鳴るスキルなんてものを使用した?)
「あっメイリスさん!!」
目まぐるしく動く人を見ながら立ち尽くすメイリスに、混乱した様子の倉庫管理担当の男が声を掛けてきた。 男は火災のせいで右腕を少し火傷していた。
「状況は?」
「...現在、倉庫内部に侵入者3名、男2人女一人...対応は警備が5、それと勇者様が1名向かわれています。 出火場所は度数の低めの酒が保管されている付近です...度数の高い場所には火の手回ってません」
「委細了解した、だがこれ以上倉庫内部に人を入れるな。 火災のせいで2次被害に繋がりかねない、とにかく今は、中のアルコールにこれ以上引火しないよう外から消火を急がせろ」
「り、了解しましたっ!」
メイリスの的確な指示で再び現場が動き始める。 指示を終えたメイリスは、倉庫近くの高台へと昇り射撃体勢へと移行する。
(質の悪い他国のネズミめ...無事に倉庫を出られると思うな)
メイリスは強い意思の元に射撃の体制を取り続ける。
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【一方その頃、倉庫内部では....】
隠密部隊の男が火の手のまわる中、警備を一人で5人相手取っていた。 警備の内、既に2名が負傷し戦闘継続可能な残り3名の内1名は、火災の影響で既に逃げ腰になっていた。
春と栗谷は、目的の物を回収するために先に倉庫の奥深くへと潜って行ってしまった。 ファンキー先生はその後を追うような形で、彼らの元へと走っていく。
「勇者様に続けッ!!」
「続かせねぇよ阿呆が! お前らは今ここで焼死するがいい!」
隠密部隊の男は、既に一緒に突入した仲間が拘束又は殺害されていることを察していた。
彼らは命など惜しくは無かった。
だからこそ、彼らは今回の作戦の遂行者に選ばれたのだ。
「くたばれッスピールト兵!!!」
逃げ腰になっている警備兵に素早く近づき、容赦なく武器を振り下ろす。 抑え込もうと、動ける警備兵全員が取り囲むように動き出し....。
再び倉庫内に斬撃音が響き始めた。
そんな斬撃音響く倉庫内を、ファンキー先生は武器も持たず丸腰で走っていた。
「....さっきの戦闘の最中、少しだけだが見えた....」
ファンキー先生の脳裏によぎる、決して的中して欲しくない不安。 自分の横を通り抜けていった、2人の子供の侵入者....そしてその内一人の後ろ姿。
ファンキー先生は、葉日学園高校2年の学年主任かつ、野球部顧問....通り過ぎていった坊主頭の生徒の面影に、何故かとても心当たりがあった。
「栗谷....どうしてここに居るんだ....ッ」
ファンキー先生による、走りながらひねり出された悲痛な呟きが、火災による瓦礫の崩れる音に飲み込まれていった。
==☆次回予告☆==
36話の閲覧お疲れさまでした。
今回のプチ話は、ファンキー先生の日本での身分について。
山本 和(45) 独身の男性です。
国語の担当教師、かつ高校二年の学年主任を務めています。 部活の担当は『野球部』その顧問を務めています。 部活動に関してはかなりの敏腕で、何度も葉日学園野球部を地区大会の決勝まで駒を進めています。 ....しかし甲子園に中々行けないのは悩みの種らしいです。
本人曰く、学生が学生していればそれで良し...らしいですが。
嫌われても正しい道へと進ませることの出来る、良い教師像を持った先生です。
次回、37話......その教師 意を決して!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




