35話 そして勇者 動き出す!
...昨日の夜、謎の黒ローブにより倉庫が被害を受け、スピールト他民族国家の酒造管理役所では保有する軍の最高司令官の女性を含めた役員数人で、朝っぱらから会議が行われていた。
「えー、では......えー、会議を始めさせて頂きます」
テレーダが司会をするため口を開く。 司会進行役を押し付けられたらしく、めんどくさそうに手元の書類を開く。
「お決まりの挨拶はいい。 さっさと始めろ」
最高司令官の女性が厳しい目でテレーダを睨む。
「メイリスさんは相変わらず厳しいですね」
「..........」
メイリスのそっけない態度に、テレーダはくたびれながら話を続ける。
「えー、この場に居る皆さんは、既に1日前の事件を既に把握していることと思います。 えー、倉庫に不審者が現れた件ですね。 えー、本来なら警備の方で対応して終わりなのですが、えー、警備の言い分によると少し状況が特殊なようなのでこうやってお集まりいただいた次第です」
「先に聞くが、それは他国の密偵とかだったのか?」
「えーっと....軍が現在調査中です」
「それで盗まれたものは!?」
役員の一人が激しい口調で詰める。
「それが、盗まれたものは無いそうです。 在庫管理の者達に夜通しで確認させたましたが間違いありません。 被害は倉庫入り口付近の壁のみ...どうやら爆弾で破壊されたそうです。 酒に関しては、そもそも倉庫内部に侵入する前に発見したそうですので被害なし」
会議に出席している、酒造管理役所の役員の怒涛の質問ラッシュに、テレーダは用意していた回答を淡々と読み上げるように答えていく。
「警備の人間から直接聞いたんだが、フクロウが書類抱えて逃げたそうじゃないか! 情報が盗まれてるんだよ、情報が! 分かるかね!この危険性が!!!」
「え――、そちらについてはですね。 フクロウが飛んで行った方角が...西...ですね...。 何の情報を持ち出されたのかまでは分かっておりません」
誰かの息を呑む音が聞こえるほどに会場内が静まり返る。
「軍事国家ヘルカのある方角か。 あの略奪国家め」
メイリスが呟く。
「仰る通りですが...メイリス様はヘルカが犯人だと睨んでいる感じで?」
「いや、周辺諸国の情勢は大方把握済みだからな。 もし、この時期に仕掛けてくるならあそこしかないと仮定していただけだぞ。 だが国だと断定するには情報が足りないのも事実」
メイリスが言い放った言葉に混乱が広がる。
「ならばどうお考えか!? 略奪国家が相手などという、実に無責任な言葉を言い放ったからには、それ相応の対抗策もきちんと用意しているということだろう?」
酒造管理役所の役員の一人が声を荒げる。
どうやらメイリスのことが嫌いらしい。
「捕えた実行犯が金で雇われたにせよ、どこかの国の密偵であるにせよ、現段階ではヘルカを問い詰めてもしらばっくれるのみ。 情報が流された時点でスピールトが後手に回るのは必至だ」
黙って聞く酒造管理役所の役員たちを差し置き続ける。
「逆に言えば、奴らは勝手に動いてくる。 これから襲撃してくる輩共々縛り上げ、拷問にかけて情報を搾り取る。 さすればどこの国がやったかなど直ぐに分かる」
「なるほど...」
「証拠があれば無視はできまい。 フフフ、奴らの許しをこう顔が目に浮かぶ」
メイリスはドン引きするほど恐ろしい表情で笑う。 当然のように、酒造管理役所の役員やテレーダはドン引きしていた。
「しかしどのくらいで動いてきますかね...」
「ヘルカなら...情勢と距離、こちらの対応の速度も加味した上で直ぐにでも駒を動かしてくるだろう。 潜伏している密偵から、ヘルカ側のある程度の内情は得ているが限界もある。 まぁどちらにせよ、早く動くしかない」
「では、メイリス殿は敵の目的が何か分かっていると?」
「さぁね、純粋に可燃物が大量に欲しいだけだろう。 ここは酒造の国、可燃性の液体なら腐るほどあるわけだしな」
「皮肉なものですね.......えー、はい、分かりました。 で、では、それを前提で具体的な動きを決めていきましょうか」
テレーダが場を宥めながら次に進める。
「スピールト軍はヘルカの動きに合わせ、即時陣を展開できるように待機せねば。 そのため国内への戦力譲渡は第2部隊の一部のみになるだろう」
メイリスは懐から煙草を取り出し、机に置かれたランプから火を取り一服する。 煙草からでた煙が、図らずしてテレーダの元へと流れていくが、テレーダは慣れた様子で煙を手で払う。
「国内が不安ですね」
「それは酒造管理役所の仕事でもあるだろ。 それに...」
「?」
「何のために役所は『勇者』を召喚した?」
メイリスはそこまで言うと席を立つ。
「メイリスさん、どちらへ?」
「対応の時間が惜しい、先に退席させてもらおう」
煙草を灰皿に押し付けて消化しながらメイリスは口を開いた。 そのままメイリスは退出し、場にため息が流れる。
「あれでまだ27だぜ、怖すぎ...」
「最高司令官なんていう仰々しい肩書ついてんだから、そりゃ多少の貫禄もあって当然だろ...。 それに彼女、例のウイスキー会社の令嬢だぞ?」
「あの有名な? どうして家業を継がなかったんだ?」
「さぁな、変わり者なんだろ」
とまぁ、こんなことを小声で口々に愚痴る。
「はぁ、皆さま.....お気持ちお察ししますが、それ以上は止めましょう。 各自適切な指示を、私は勇者様方に協力を仰いでおきますから」
テレーダがハンカチで汗を拭いながら言う。
「だけどテレーダさん、この案件、外に漏れれば混乱に繋がりますよ?」
「分かってます、分かってますとも...この案件は極秘事項ですからね」
朝っぱらから慌ただしく動き始めた役員たちの背中を見ながら。 テレーダは『一体何が目的なんでしょうね...』と呟いた。
煙立つ酒造の国に、魔の手が徐々に伸びてきていた。
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「野菜よし、肉よし...魚よしっと」
疾風はメインストリートでの買い物を済ませ、勇者基地へと帰還しようとしていた。 疾風の周りには他の友達はおらず、久しぶりの単独行動だった。
帰る途中、ふと酒販売店が目に入った。
「そういえば、魔力酒の値段ってどれくらいなのかな?」
ドワーフの人の所で聞いた、魔力酒って呼ばれるお酒は最近市場に出回り始めたらしい。 値段を知りたいのは完全に興味本位だが。
(時間にも余裕あるし少し見ていくか)
疾風は、正午の位置に昇っている太陽の位置を確認し時間を大まかに把握すると、酒販売店のドアを開けて中に入る。
中には様々な種類の酒瓶がズラリとならび、麦酒と書かれたいわゆるビールなんかも樽単位で売られていた。 その上、庶民でも買える良心価格設定である。
しかしその酒瓶の中に...
「すいません、魔力酒ってありますか?」
疾風は店番をしている、名札にアルバイトと書かれた女性に話しかける。
「えっ、あぁ魔力酒....すいません、今在庫を確認致しますね」
裏に入っていき何かの書類を女性は確認してから戻ってくる。
「申し訳ございませんお客様、現在魔力酒は品切れとなっておりまして」
「やっぱり人気なんですか?」
疾風は問う
「それも当然あるのですが、何分市場に流れる量が少ないもので...」
「なんでそんなに人気なんでしょうかね?」
疾風がそう言うと、店主は店に他に誰も居ないことを確認してからヒソヒソ声で話し始める。
「ここだけの話なんですけど、魔力酒には何やら特殊な追加効果があるらしくて...貴族様や裏社会に精通しているブローカーが、それはもう5倍10倍の値段で販売してるだとか...」
「へー」
「あくまで私も人から聞いた噂ですよ? 実際の所、そんなに量が出回ってないだけだとは思いますけどね、噂は脚色されてなんぼですから...アハハ」
貴族が求めるってことは、それなりの値が張るお酒なんだろうな。
「旨いんですか?」
「さぁ...飲んだことのある人の話を聞いたことが無いので...」
品切れならば仕方ないと店を出た疾風を待っていたのは....鬼形相のファンキー先生だった。 ファンキー先生の近くには、真面目そうなメガネをかけた生徒が疾風を指さしていた。
「おい疾風、未成年飲酒とは何事か!」
「おわっ! 先生なんでここにッ!?」
「馬鹿たれっ、この街に居る生徒の数を忘れたか!!」
あのメガネの生徒に見られてたのかっ!?
「先生っ誤解です!」
「酒店に一人で入って誤解も糞もあるか!!」
「ぎゃんッ!!」
教育的指導である拳骨が疾風に振り下ろされ、メインストリートに疾風の小さな悲鳴が響いた。 その後、魔力酒の値段を調べたかっただけだと説明するのに30分かかった。
長い説教が済んだ疾風は勇者基地へと戻る。 勇者基地は計2階建ての平べったい建物で、中には3人一部屋の客間、来賓室、大広間や大食堂、医務室、キッチン、大浴場に水洗トイレなど...この国最高クラスの貴賓待遇の施設が揃っている。
葉日学園から転移させられた約120名は、全員この勇者基地を拠点として活動している。 そして国で困りごとがあれば....この勇者基地に酒造管理役所の役員が訪れ、要件を伝えにくるという流れになっていた。
そしてその例の通り、テレーダが勇者基地に訪れていた。
「あれ? テレーダさんどうしたんです?」
一緒に帰ってきたファンキー先生が、勇者基地の扉の前に居たテレーダに気づいて声をかける。 振り返ったテレーダが、ファンキー先生に対し一礼をする。
「こんにちは....山本様、疾風様」
「こんにちは」
疾風が挨拶を返しテレーダが微笑む。
「それで、どうしたんです?」
「えぇ、今回は少しお願いがございまして参った次第です」
その言葉にファンキー先生が少し厳しい表情になる。 やはり内心では不安なのだろう、生徒がこの世界でトラウマを背負ってしまうことが。
「それは国からの? それともテレーダさんの私用ですか?」
「ご冗談を、私用で勇者様を煩わせるなどありませんよ」
「国からの依頼...ですか...」
ファンキー先生が少し頭をかき、悩んだ後。
「とりあえず、ここじゃなんです...来賓室でお待ちくださいな。 茶でも入れてから行きますから、座ってくつろいでて下さい」
「山本様、お気遣いに感謝致します」
ファンキー先生は疾風に向き直る。
「疾風、来賓室までテレーダさんを案内しといてくれ」
「分かりました」
疾風はテレーダに向けて『じゃあ案内します』と告げ、テレーダを誘導し始める。 ファンキー先生はお茶を入れにキッチンへと向かって行った。
しばらくしてファンキー先生が来賓室にやってきて、テレーダとの話し合いが始まった。 部屋の周りには聞き耳を立てようとする生徒たちで溢れかえる。 仲のいい友達に連れられ、疾風もその集団の中に居た。
「それでテレーダさん、話とは?」
部屋の中で、ファンキー先生が話を切り出す。
「えぇ、単刀直入に申します。 戦闘のできる勇者を数人、派遣して頂きたいのです」
「それは唐突ですね。 なんでまた」
「それは...派遣されてきた勇者様にお伝えいたします。 私から言えるのは、街の外に派遣するわけでは無いということだけです」
「理由が言えないんじゃ、監督役として首を縦には振れませんよ」
「分かって頂きたいのですが...こちらも国を背負ってるもんで」
「関係ない、待遇には感謝しているが巻き込む以上、周りにも説明は必要だ。 貴方方のいう、勇者だからとかいう意見は私たちには関係ない」
目に見えて火花が飛んでいる二人。 ヒートアップしてきたのか、ファンキー先生の口調が徐々に荒っぽい口調に変わっていく。
「見放す...ということですか?」
「話を勝手に飛躍させないで貰おう、あくまでも説明を求めているだけです。 まぁ、事の次第では拒否も一考ですが」
大人の喧嘩とはこういう事をいうのかと、野次馬の生徒たちはファンキー先生を見直す。 学年主任としての責任感をヒシヒシと感じる。
「.....ッ」
困り顔で言葉に詰まるテレーダ。
その頬には冷や汗が垂れる。
しばらくの静寂の内、ため息をついたファンキー先生が口を開く。
「.....どんな条件であれ、力を貸せるのは私の命のみです。 空気感から分かる、この依頼...危険なモノなのでしょう? ならば猶更、生徒を送り出すわけにはいかん」
「え?」
それは仲裁案、自分以外の命は差し出せないという強い覚悟。
「未熟な子供を数人連れて行くよりも、戦闘天賦を持った大人を一人連れて行く方が、戦力的にも情報統制的にも色々都合がいいのでは?」
「それは...そうかもしれませんが...」
「受けたからには説明を聞く権利がある...ですよね?」
「え、えぇ...。 分かりました、分かりましたよ...私の負けです、初めからこうする算段でもつけていたようですね...。 侮れない方ですよ」
「ははは、買い被りを!」
ファンキー先生は立ち上がるとテレーダの座るソファーに移動する。 『隣、失礼』といってテレーダの横へと腰掛ける。
聞き耳では絶対に聞こえない音量の内緒話で、事の説明を受けたファンキー先生は再度深いため息をつく。 ファンキー先生は再び元の位置に戻り、ソファーに腰をかける。
「そんな内容ならますます他の生徒にゃ伝えられんでしょう...」
「山本様このことはどうか...」
「分かってますよ、言いふらしませんって。 テレーダさんもご苦労なさる」
「えぇ、まぁ...立場上、板挟みですから...苦労は付きまといますよ」
苦笑する二人。 ファンキー先生は自分の頬を数回叩き、気合を入れると。
「この後、準備を済ませ私の方から直接、酒造管理役所まで赴きます。 .....ここじゃ壁に耳があり過ぎるのでな」
まるで聞き耳立てられてることが分かっているかのように、無言でドアを睨みつけた。 ドアの向こう側に居る生徒たちは、睨まれている事になど気付かない。
「山本様感謝します。 では話はそちらの方で詰めることと致しましょう」
二人は立ち上がり握手をした後、部屋から出てきた。 開けたドアに疾風の友達がぶつかり、近場にいた生徒たちがドミノ方式で倒れる。
それにファンキー先生が気づく。
「「「「あっ...」」」」
「お、お前ら....。 やはり、聞いておったか....」
「「「「「えへへ、せんせーすいませーん!!!」」」」」
聞き耳を立てていた生徒たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げだす。 プルプルと震えながら、ファンキー先生は顔に血管を浮き上がらせながら...
「こ、このッ、この馬鹿たれ共が―――――ッ!!」
勇者基地にファンキー先生の怒声が響いた。
その日の夕方、ファンキー先生は酒造管理役所に、生徒の誰にも事情を話すことなく出かけて行ってしまった。 ただ一言『上級生が引率役になってやれ』の言葉だけを残して。
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「....さっきのファンキーセンセの話し合い、疾風君はどう思う?」
「うーんどうだろ...」
部屋に戻った疾風は、よく一緒に居る友達の【池谷 翔】という名前の同級生の男の子と自分に割り当てられた部屋で話していた。
疾風は自分の剣の刀身の手入れをしながら翔の話にあいずちを打つ。
「さっき役所に出かけていったみたいだけどさぁー」
「俺達に言わないってことは、関わる必要が無いか関わらせたくないかのどっちかだろうし...あんまり首突っ込まない方がいいんじゃないかな」
翔が疾風の言葉を否定するように立ち上がる。
「今こそ勇者の責務って奴! マジ果たすべきでしょ――!」
「.....本音は?」
疾風は呆れた顔をしながら言う。
「俺っちの天賦ってやつ試してぇべ!」
「....だと思ったよ」
「疾風君だって試したいと思ってるクセに~」
疾風はウザがらみしてくる翔を宥める。
しかし翔の言う事も一理あった。 疾風のように、野原に向けて放って練習できる天賦もあれば対人でしか効果を発揮できない天賦もある。 そういう天賦所有者は勇者同士でしか練習ができない。
当然、人間である以上、練習で力を無駄につければそれを実践で使ってみたいと思う、少し危なげな思想を持つ奴もいるわけで。
翔の天賦【スリープハンド】なんかは《触った対象を眠らせる》効果をもつ天賦なのだが、何故か眠らないこともあり、そんな不安定な状況で魔物との戦闘なんて出来るわけも無く。
結果、安全な環境で天賦を使用するしかない状況が続いていた。
「まさかとは思うけど、夜間どっかに行こうとしてる訳じゃないよな?」
「疾風君も来るぅ? ダチと行く約束してんだよねぇ、なんかさァ...俺っちのダチが昼間ヤラシー店見っけたみたいでよぉ。 ちょっち見るだけ見てみようかなって」
翔は近いうちに先生からまた拳骨を貰うハメになりそうだなと、疾風は内心思う。
「強く否定はしないけどさ...一応止めとけとは言っとく」
「へへへっ、疾風君なら俺っちがここで止まる男じゃねぇこと位分かってんだろぉ。 筋肉とスケベは男のロマンよ」
「でも、気を付けろよな...日本じゃないんだから」
心配そうな目で見つめる疾風に対し、翔は部屋から出て行きながらグッドマークを指で作り笑った。
==☆次回予告☆==
35話の閲覧お疲れさまでした。
今回はプチ話はありません。 なので制作秘話を少しだけ....(興味ない人は読み飛ばして下さい)
夜空サイド主人公、夜空の天賦は初期思考段階だと疾風のようなチートになる筈....でした。 でも、せっかくだし苦難や受難を大量に与えたれや的なノリでデバフをくっ付けていったら、今の【アビリティスティール】とかいうクソ天賦になりました。
『なにしてんじゃいボケッ!!』というような夜空の声が聞こえてきますね?
次回、36話......その夜 思い入り乱れて!
是非次回もご朗読下さい!
(※書き溜めの為、次回の更新は約1日程遅れます)
↑書き溜めの場所が最終盤に近づいた為、そちらの方のストーリーに力入れたいです。
ではでは~




