34話 その国 勇者冒涜なり!
【時間は数時間遡り、昼間...隣国、ヘルカ軍事国家にて】
「も、もう無理ぃ......」
「休むなッー! スキルを撃ち続けろ!」
バリスタのような、兵器のシルエットをかたどったワッペンを身につけた兵士が、葉日学園の生徒10名に向けて怒鳴り散らしていた。
疲れきった生徒達は皆一様に、ファイアーボールだとかアイスボールだとか、転移時に最初から持っていたスキルや手引書で覚えたであろうスキルやらを使用していた。
そんなことを繰り返していると、女生徒の1人がスタミナ切れで倒れた。 兵士は女生徒に近づき、手を差し伸べ......なかった。
髪の毛を掴み無理やり立たせる、髪の毛の数本がブチブチと音を立てて抜け、それに合わせて女生徒が悲鳴を上げる。
「うぅ....っ....、もういやあああああああああああああッッッ、お母さんお父さん助けてッ助けてえええええええ―――ッ!!!」
「コレはもう使い物にならんな」
兵士が、投げ捨てた女生徒に向かって言葉を吐き捨てる。 兵士が近場で待機していた兵士に向かって声をかける。 駆け寄ってきた兵士がさらに指示され、泣き叫ぶ女生徒を抱えて連れて行こうとするのを、近場に居た高校2年の男子生徒が止めようとする。
「なんだ? 文句でもあるのか?」
「あるに決まってるだろ! 彼女を何処に連れて行く気だ!」
坊主頭の男子生徒は睨まれるが怯まず威嚇する。
「兵器として役に立たなくなったあの女が、この先辿る末路など言わずとも分かるだろ」
周りで監視していた兵士たちが薄気味悪い笑みを浮かべる。 所々から『今夜はいい夜になりそうだ』などの声が聞こえてくる。 女生徒はもう泣くことしかできない。
「ふざけんな、そんな扱いが許されるとでも!」
「黙れ!」
男子生徒が殴り飛ばされる。 それは訓練している大人の本気の一撃...子供が食らえばどうなるかなんて考えるまでも無い。
うずくまり動かなくった男子生徒を見下しながら、兵士は生徒全員に聞こえるように叫ぶ。
「こうなりたくねぇならスキルを進化させろ! 兵器として役に立てないなら、人間としての尊厳を差し出せ!」
動かなきゃ奴隷にするぞという、意味合いが込められたその言葉に生徒達は戦慄する。 自分だけは連れて行かれまいと、再びスキル進化の作業を開始する。
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ここはヘルカ軍事国家、この国では勇者を道具とたがわず。 兵器としての利用しか見ていない。
この国のテーマは兵器、より強い兵器を生み出し他国を攻撃し、略奪によって国を盛り上げてきた国。 民家は城を守るように建ち並び、道は入り組み侵略を防ぐ措置が取られている。
武力衝突への法整備は緩く、この国のやることを咎められはしない。
故に人はこの国をこう呼ぶ。
略奪国家ヘルカ.........と
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そんな中に1人...文句を言う事なくひたすらにスキルを放つ少女がいた。
(助けて、お兄ちゃん...!!)
その少女、【星原 春】は心の中で懸命に助けを呼びながら、ここには居るはずもない兄の姿を思い描いて嘆いた。
その夜、春を含む生徒一行はいつものように個別の牢の中へ入れられ、牢屋の中へ雑に投げ込まれた食事を取っていた。
食事といっても非常に簡素で、パンと干し肉だけという育ち盛りの子供にとってはあまりに量の少ないものだった。
牢は2人一部屋割り当てられており、春は高校2年の坊主頭の先輩と一緒だった。
「栗谷先輩...こんな生活いつまで続くんでしょうか?」
春は坊主頭の先輩に向かって呟く。 栗谷と呼ばれた坊主頭は昼間、兵士に殴られた場所をさすりながら振り返る。
「俺にも分かんない」
「こんな訳のわからない世界に来てもう3日、武器の訓練とかスキルの訓練とか......それに、昼間連れられた女の子は戻ってきませんし....耐えられないよ....」
「せめて教師がいれば、何が変わったのかも知れないけど」
栗谷は悔しそうに歯を食いしばりながら鉄格子を叩く。
ガシャンという音が通路に響く。
召喚された勇者10名は全て生徒であり、大人...いわゆる教師は1人もこのヘルカには居なかった。
「この世界に召喚された時、みんなと一緒に真っ先に逃げるべきだった」
栗谷はそう言いながら、自分の首につけられた隷属の首輪を触る。
「もう逃げられない。 この首輪に仕込まれた『国外逃亡禁止』の命令がある以上な」
年上から与えられた無慈悲な現実に、春は涙を流す事しか抵抗する手段を持ってはいなかった。
こんな時、もし自分の兄である夜空が居てくれたら......家族が居てくれればどれほど心強いだろうか?と、考えても無意味なことを考えてしまう。
お兄ちゃんだって、川の流れに逆らえないように、抵抗なんて出来るわけが無いのに。
他の牢屋に入ってる人たちも、同じようなことを考えていたのか、すすり泣く声が聞こえてくる。
「もう寝よう春ちゃん」
「でも、連れて行かれた人のことが気になって...」
「気持ちはすげぇ分かるよ。 でも、どんな目に合ってたとしても...俺達に出来ることなんて無いんだから...」
悔しそうにつぶやく。
あの時、動いたのに救えなかった後悔が彼の中にもあるのかもしれない。
恐らくあの女生徒はもう...
「今俺達にできることは、明日の為に体力を少しでも回復することだよ」
「もう嫌だよ、お兄ちゃん助けて...」
春は泣き崩れる。 そんな春の傍に栗谷は寄り添いながら
夜は更けていった。
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それから少し経った後、ヘルカ軍事国家の城に一羽のフクロウが飛んで行った。 フクロウは、足に書類をがっしりと掴んでいた。
ヘルカの王子はそれを受け取り、二カッと笑みを浮かべた。 開かれた書類には『倉庫周辺警備状況と指定された破壊場所と警備予想』と書かれていた。
その日のうちにヘルカでは緊急会議が開かれた。 会議にはヘルカのお偉いさんから王子に至るまで、国の中枢を支える人間の全てが出席するほど大きなものであった。 会議室の少し高い場所に、王子とその補佐である婆さんが立つ中、会議はスタートした。
「付近の村に押し寄せる魔物の数が急増しています。 このまま放置すれば、僅か数日の内に魔物の活動域拡大が看過できない域になりましょう!」
髭を生やした貴族のオッサンの一言に会議場内がざわつく。 『何故こんな急に魔物が増えたのだ』というような声を口々に言いあう。 全員の頭には、何が何でもこの事態を早く収束させたいという思いで一杯一杯だった。
「魔物ごとき知能の無いモノなど、我らが国自慢の兵器で蹴散らせばよかろうに」
愛国心の強い者はその案に強く賛同する。 しかし頭の使える者達は気づいていた、既に魔物の周辺の村に押し寄せている量が、取り回しのきかない兵器では処理しきれない量に達していることに。
「マジカルバリスタや魔道大砲などの事を言っているのなら論外だ! 我らの兵器は確かに強力だが、射程距離を誤れば正しく力を発揮なんてできるものか!」
「ならば距離を放せばよかろう!」
「村民ごと吹き飛ばすつもりか!? 少しは頭を使ったらどうだ!」
案が出ては否定と肯定が複雑に絡み合う。 一向に先に進まない会議に、業を煮やした王子が自分の座っていた椅子を蹴り飛ばし立ち上がる。
椅子の倒れた音が会議室内に広がり視線が王子に向く。
「ハーッハッハッハッ! 兵器がダメなら勇者を使えばいいだろう!」
全員が目を見開く。
王制度が残っているこの国では、王子の提案を無下にはできない。 彼の提案が、武器もまともに使えない子供を戦場に送り飛ばすことだったとしても...。
「.........」
全員が悩む。 その提案がダメなことが分かっているのか、王子の隣に居た婆だけがため息をついていた。
「王子素晴らしいお考え、私めは感服致しました!」
口ごもる貴族や家臣たちの中で、真っ先にその案を良しと声を上げたのは.......王子に気に入られたいが為の貴族だった。
「おい...流石に....」
「なんだ貴様、王子様の意見に異を唱えるつもりか?」
「ぐっ...いえ、なんでもありませぬ」
こいつマジかというような目を向けられる中、その貴族は話を続ける。
「本来この会議は、何故か急激に増加した魔物への対策と、かねてより計画していたスピールトへの隠密作戦についての話し合い....。 王子、私めからひとつ提案がございます」
「言うがいい!!」
貴族の男は深々と頭を下げながら言い放った。
「この世界に国籍を持たぬ彼ら勇者は外交的には異分子。 当然やり方次第で、外交問題への発展リスクも極限まで下げることができましょう」
王子以外のその場に居る人たちは全員が理解する。 否定したいが、王子からの発言を許されている人間を止めることは王子への侮辱も一緒、否定なぞ出来るわけも無かった。
「スピールトには勇者...いえ人間兵器を送り込みましょうぞ」
その後、その提案を是としたバカ王子の一声によって、その提案の深掘りや欠点への対策などがされたことは言うまでも無かった。
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そして更に夜が老けた頃、兵士の1人が房にやってきた。 兵士は牢の前で眠る2人に向かって、静かに睡眠を誘発するスキルを使用する。
寝心地の悪いベッドで寝ていた2人の眠りは途端に深くなり、絶対に目覚めないほど深くなった。
スースーと寝息を立てる2人を確認した兵士は、その後に入ってきた兵士たちに向かってこう言った。
「運べ」
翌朝、スキルの効果が切れた春と栗谷は見慣れぬ部屋で目が覚める。
「ん...んん?」
「今度はなんだよ...」
ぼやける視界に金髪とツンツン髪の20歳ぐらいの青年が映る。 必死に体の機能をオンにしようとしている全身に、水をぶっかけられ強制的に叩き起こされる。
「「ブッ、ゲホッゲホッ!!」」
突然の水に驚きむせる2人。
「おはよう! よく眠れただろう!?」
馬鹿でかい声で2人に向かって話しかけてくる。 その男の第一印象は、派手好きを体現しているような感じだった。
春は濡れて透けてしまっている下着を、恥ずかしさの為隠そうとするが、腕の辺りからグルグル巻きにされ拘束されているため動けない。
「突然の接触で戸惑っている所悪い! ちょっくらスピールトからある物盗んできてくれ!」
驚愕の事を言い放った。
それにそもそも、2人は隣国に位置するスピールトの存在を知らない為、スピールトとはなんぞやと首を傾げる事しか出来ない。
「王子、流石に道具とはいえ簡単な説明は必要でしょう」
隣にいた婆さんが助言し、何も考えていないのか手をポンと叩く。
「ハーッハッハッハッ! そうであるな、そうであるな!」
「いやーうっかりしていた! で、なんで攻撃するんだったか?」
テンポの悪さに、拘束されている2人を含む護衛の兵士までもがドン引きする。
「王子ッ、前夜あれほど説明したのに理解なさって無かったと!?」
「ハーッハッハッハッ! 寝ていた!」
大声で王子は続ける。
「ごめんッ!!!」
なんだこの人......。
「分かりました、この婆が説明します。 本当に幼少からお変わりなく、婆は色んな意味で感心いたします」
「誠にごめん!」
本当になんなんだろうかこの人は。
「さて勇者、いえこの国では人間兵器と呼ぶべきでしょう」
「貴方方には兵器本来の役割を果たして頂きます」
「そんな急に言われても!」
「断ることが何を意味するのか....先日の一件で学ばなかったのですね」
「「......っ!」」
二人の脳裏に泣きながら連れて行かれた女生徒を思い返し、青ざめる。
「話を続けましょうね。 栗谷は昨日のスキル進化訓練を持って『アイスボール』の進化を確認しました。 互いの天賦の強さからしても、我々の国にとってとても都合が良いのですよ」
婆は続ける。
「行動次第は制御できても、スキルに関しては本人に強くしてもらう他ありませんから」
婆は王子の前にあった書類に手を伸ばし、2人を睨みつけながら口を開く。
「春、天賦【魔法の祝福】対象1人の魔法系統スキルの超強化......栗谷【ゴッドホーミング】投げた物を事前に指定していた場所へ着弾させる、ただし生物は飛ばせない」
婆がそこまで言うと、王子が口を挟んでくる。
「全くどいつもコイツも、勇者の天賦というのは凄いな! 俺たちのテーマを嘲笑うような力ばかりだ!」
彼ら10人は、転移直後にすぐに天賦の内容を確認されたのち、隷属の首輪をつけられ拘束されたのだ。 ヘルカの上層部に天賦の内容は筒抜けだった。
怯える春を守るように栗谷が前に出る。
「では隷属の首輪に新たな勅令を......準備なさい」
婆が周囲の兵士に命じ、2人の兵士が手を伸ばし2人の前に立つ。
「スキル『スレイブオーダー』」
スキルに反応し、隷属の首輪が禍々しいオーラと共に痛みを発し始める。
「キャァーッッ!!!!」
「グゥッ!!!!」
悲鳴をあげる2人を無視し、兵士は無機質に婆に告げる。
「設定準備完了しました」
「勅令設定...任務遂行まで必要最低限以外の発言を禁ず」
ガチャンという音がして、禍々しいオーラが収まると2人が途端に静かになる。 目からハイライトが消え、闇落ちのような状態になる。
「再度準備なさい」
「「り、了解しました」」
その後、2人は数えるのも億劫になる程の数の勅令を隷属の首輪に設定された。
そして数時間後.........
「王子、完成いたしました。 命令一つでいつでも攻撃できます」
そこまで言うと何かを準備する為、栗谷と共に何処かに行ってしまった。
「見事だぞ、婆よ!」
しかしどこか不満そうな王子。
王子は思いついたように、疲弊した兵士1人に向かって、もう一度スレイブオーダーを使うよう命じる。
「スキル『スレイブオーダー』」
春にのみ使われた勅令設定スキルに、王子が新たな勅令を設定する。
「任務遂行後でいい! あの国で1番高い美酒を店から持ってくるんだ!」
ガチャンという音が鳴り、春にのみ新たな勅令が設定されてしまった。
兵士たちはこれ大丈夫か?と言うような目で王子を見つめるが。
「ハーッハッハッハッ! 俺だって何も考えてない訳じゃない!」
そういうと、王子は机の棚から一冊の手引書を春に差し出す。
春はそれを受け取るや否や、なんの躊躇いもなく手引書を読み、本を消滅させた。
「お、王子...一体何を...」
「ハーッハッハッハッ! お前達はこの兵器の帰還の心配をしているのだろう!? ならばあれで全て解決だ!」
「い、一体何の手引書を使わせたので......」
「聞きたいか! それはな...........................」
王子から告げられたとんでもないスキル名に、ぶったまげた兵士がこの作戦やべーんじゃねーか?と思うのも当然のことだった。
「婆には決して言うんじゃないぞぉ! 怒られるからな」
ならやるなよというツッコミを入れられる人物は、この場にいるはずも無く......。
そのまま1日と数時間が過ぎ、決行の日の夕方となってしまった。
2人の隠密部隊と共に、馬車に荷物のごとく積み込まれる二人。 もう生徒二人が乗り込むことに抵抗することは無かった。
「もし帰還できない場合は、分かっているな?」
2人の隠密部隊の男に向かって、近場の階級の高い兵士が念を押すように言う。 隠密部隊の男たちは、兵士に敬礼しながら『この身命、ヘルカの繁栄の為』と言った。
「御身らのヘルカへの貢献に祝あれ!」
作戦を知る位の高い兵士の一人から、エールを投げかけられた隠密部隊の数名が敬礼をし、それに続いて馬車が走り出す。
ガタガタと揺れる馬車に乗り込む二人の姿は、勇者という存在を冒涜した姿だった。
==☆次回予告☆==
34話閲覧お疲れさまでした。
今回のプチ話は【隷属の首輪】についてです。
付ければ勝ち...という単純な代物では無く。 効果が発揮されるのに色々とルールがあり、万能という訳ではありません。
本編でもあった『スレイブオーダー』というスキルで、勅令という形式で命令を行うことが出来ます。 また命令主も複数人設定することが出来ます。 しかし、複数人設定するとその分解除されるリスクも高まります。
次回、35話......そして勇者 動き出す!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




