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そのチカラ 危険につき!   作者: ゼロ先輩
== スピールト編 == 【物語進行:疾風サイド】
35/238

32話 その光 目覚めるべし!

 

...その日、学園は光に包まれた。 葉日学園の生徒たちは、訳の分からない異世界へと転移した。


 今から始まる物語は、もう一人の少年...【相ヶ先(あいがさき) 疾風(はやて)】の物語だ。


(※時系列は異世界転移直後に〔2話まで〕さかのぼっています、ご了承ください※)

 

 =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=


【ヘルカ軍事国家....郊外、農村にて】



 狼型の魔物が野をかけ、城外の集落を襲っていた。 バリスタのような兵器のシルエットをかたどったワッペンを、胸や帽子などの装備品につけた軽装備の兵士たちが狼たちと戦い、そしてそれらを倒して退けていく。


「はぁ...これで何度目だよ、これじゃ命がいくつあっても()んねぇ」

 戦闘を終わらせた新人兵士二人が愚痴を言い合う。


「俺も、実家に帰って酒でも飲みてぇがなぁ...」


「ヘへへ、そもそもお前んちだって飲む酒がねぇ」


「お前ん家も似たようなもんだろ、俺たちの国は隣国のスピールトほど豊かじゃなぇからなぁ....。 一度でいいから、酔いつぶれるほど上手い酒を飲んでみたいもんだ」


「ハハハ、辛口の泥水なら酒場にあんじゃねーか」


「その言葉で内政が知れる事に落胆するよ」


「はぁ....愚痴言ったって、どうせあのバカ王子には届きゃしない...それに聞いたかよ? 例の噂話...」


「何の?」


()()()()()()()()()()()だよ」


「あぁ、テーマとはいえあそこまでよーやるよとは思った。 ひでぇーひでぇー、勇者は子供だって話だろ? 普通、子供にあそこまで強要を重ねるかね」

 呆れたように兵士は言う。


「あのバカ王子よぉ...。 スピールトへの()()()()()()()といい、このままじゃいつか国が滅ぶんじゃねーか?」


「...........ここら辺にしとこーぜ、どこに耳があるかも分からん。 今日もマズい飯食って寝るぞ、どうせ明日も落ちぶれ冒険者まがいの仕事させられんだから」


「そうだな...本当にいつまで続くんだかなぁ、こんなこと」

 そう、吐き捨てるようにくたびれた兵士達は村の臨時駐屯地へと帰って行く。 


 魔物に襲われて燃えた民家の火花が、空へと舞っていった。



 =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=




 .....。





 夢を見ていた......、小学生の頃の自分という()()()を。





 しかし夢は光の泡になって潰れて消えた。 その向こうから伸びてくる無数の期待に満ちた手によって、俺は目覚めた。 目覚めさせられたのだ....小さな()()と共に。



「あっ!疾風っち起きたっ!」

 見慣れぬ天井に、ほのかに甘い柑橘系果物の匂いが混ざった空気。 温井さんの大声が建物の内に響いた。 温井さんが嬉しさで抱きしめようと近づいてきたのを、疾風は手を上げて『止めてくれ』の合図をする。


 ベットで眠っていた()()()()()()()...疾風の側で温井はほんのりと笑う。 部屋の扉の向こう側から、大勢の足音が疾風の耳に響いてくる。


「温井さん、ここは?」


「あははは...多分疾風っち凄いビックリするかも」

 そう言って温井さんは、部屋のカーテンをバサッと音を立てて開けた。 風でなびくカーテンの向こう側には、まるで外国のような見たことない景色が広がっていた。


 ここは、少し街よりも高度が高い場所にある施設。 そこから一望できる街の景色は...どこをどう見ても日本の景色とは異なっていた。 街の建物のほとんどは一階建てか、よくても二階建てであり、街の約8割の建物からは煙突から煙が上がっていた。


 そしてなによりもそこそこ街がでかい、遠くに見える海岸線まで街が続いているほどに。


「「「疾風君大丈夫か!?」」」

 部屋扉が勢いよく開き、見慣れた顔や葉日学園の生徒と思わしき生徒たちが部屋に雪崩れ込んでくる。


「わっ、わっ! つ、潰れるっー!」

 部屋が一瞬で一杯になり、入ってきた人に温井さんが潰される。


「疾風君ふざけんなって、俺マジ心配したかんね?」

 いつも一緒にいる友達の1人が、ふざけたような口調でおちゃらける。 その陽キャを跳ね除けて、ギャルグループ達が心配そうな表情で『大丈夫?』と言ってくる。


「えー、流石に大袈裟すぎじゃない?」

 疾風が笑って誤魔化すが、部屋に入ってきた()()()()()()()()()()()()()()()の......みんなからは、何故か【ファンキー先生】とあだ名をつけられ親しまれている先生が口を開く。


「大袈裟なんかじゃ無いぞ疾風、お前だけ()()も目を覚さなかったんだから」

 驚く疾風に構わず、ファンキー先生は続ける。


「男なら落ち着いて受け入れろ。 今から言うことは、全てこの世界の人間から聞かされた事実だ」


 ファンキー先生は、疾風が極力混乱しないよう話し始めた。 

 この世界のことについて......。





 5大陸の話・国や街のテーマの話・通貨の話...そして人生回廊の話...。 

 そして簡易的な街の地理の話。 その他にも色々説明を受けた。



挿絵(By みてみん)




 諸々の説明を受けた疾風は、再び窓の外の街を見ながら口を開く。 その様子は、混乱しひどく疲れた様子だった。


「...ここのテーマって奴は何ですか?」

 ファンキー先生が、疾風の肩に手を乗せながら答える。




「ようそこ疾風、()()の国...スピールト他民族国家へ」




 ここは酒造の国。 安い発泡酒から高級ワインまで、ありとあらゆる種類の酒が集う街。 当然、酒造技術もピカイチである。 そのためこの国には、酒好きの貴族たちがこぞって集まり名酒を手に入れるため奮起する。


 歪な円のような形の街の外周には壁と、西南北の3か所に大きな門があり、そこから街側に伸びる大きめの道が大きな噴水のある広場で繋がっていた。


挿絵(By みてみん)


 大きめの道(メインストリート)にはバーや酒販売店が立ち並び。 海岸線沿いには、国の心臓部である酒を保管する立派で堅牢な倉庫とオーシャンビューがあるホテルが優雅に店を構える。 


 そんな街を疾風は歩いていた。 目的地は街の責任者たちの仕事場......らしい。

 この国の首都である街を歩いていると、所々で生徒らしき服装をしている人を見かける。


「学園の生徒、どれくらい飛ばされたの?」


「大体120人くらいがこの街に居る.........確かそうだよね皆?」

 周りを歩く友達に確認をとりながら、温井さんが代表して疾風の質問に答える。 温井さんに皆が頷く。


「大体クラスの奴らいるっしょー!」

 ギャルが補足説明を行う。 彼女もまた、疾風の取り巻きの1人であった。


「それ! ふたり除いて全員居て、マジウケるんですけど」

 2人?


「あのキモいオタク2人っしょ? まぁ別に居なくても変わらんし、よくね〜?」

 クラスメイトがそれに賛同するように頷く、いや頷かねばならぬ空気が出来上がる。


 キモいオタクというのは、恐らく輝倉君と星原君の事だ。 この2人は、クラス内でも独特の雰囲気を持っており、良く言えば人付き合いに対して慎重派......悪く言えばクラス内で孤立していた。


 似た者同士だった2人は、クラスでの孤立を確固たるものにしながら、どんどん2人だけで仲良くなっていってしまった。


 結果としてこうなる事は自然だった。


「ま、まぁそういう事言うのは止めような」

 疾風は笑顔を向けながらほんのり否定する。 爽やか系イケメン......彼が人気者である証が見えた。


「キャーー、疾風優しすぎるんだけど!」


「「わかりみ!」」




 しかし誰も気づかない。 疾風の顔が少し引きつっている事に。




 そして疾風自身も、強く否定しなかった。




 しばらく歩いていると、脇道から風に乗って強いアルコールの香りが漂ってきた。 




 テーマというものは、首都が掲げたテーマを国のテーマとし、国に含まれる他の街が補助テーマを掲げて、国のテーマを支援するという形が一般的。


挿絵(By みてみん)


 この国はメインの酒造を首都が行い、酒の素材なんかを周りの街が作って輸送し、首都の...いや国のテーマを支えているらしい。


 だからテーマの関係上、街の内部でかなりキツめの酒を作る所もあるわけで、風に乗って匂いやアルコールが流れてくるなんてこともしばしばあるそうだ。


「疾風、あまり興味本位で街を探索するのはやめておけ。 場所よっては酒に強い先生ですら、匂いだけで酔いそうになることがあるからな」

 と、ファンキー先生は経験談のように語る。


「ファンキー先生、初日フラついててマジウケたからね?」


「「「それな」」」


「お前ら、一応先生で年上なんだから敬語使え」

 ファンキー先生が、軽いチョップをギャル達に喰らわせる。


「「「「体罰ぅー!」」」」


「やかましい! ここには、教育委員会もPTAのお偉方も居ないんだから少しぐらい我慢せー!」

 一緒についてきている一部生徒から、クスクスと笑いが起きる。


 ギャルの1人がギロリと睨み、ヒエラルキーによる威圧によって黙らせる。 疾風は目撃するが上手に見ないフリをして関与しない。


「着いたよー!」

 温井さんが声を上げながら指を指す方向には、大理石で作られた横に広い大きな建物があった。


 疾風以外は、慣れた感じでその中へと入っていく。 疾風も付いていく形で中へと入ると、そこには多くの人が書類整備なんかを行っていた。 1日の酒造量とその日その日で仕上がるワインの量や酒、そしてその質と値段......価格が高騰しないよう、この世界全ての街均等に行き渡るにはどうしたら良いか。


 そんなことをこの場で話し合う。 


()()()()()()へようこそいらっしゃいました。 勇者様ご一行様、本日はどのような御用向きで?」


「1日ぶりですねテレーダさん」 

 ファンキー先生が顔見知りなのか、奥から出てきた男性と握手する。


「えぇこんにちは山本様......して、そちらの男性は見かけた記憶が...」

 テレーダと呼ばれたその男は、疾風の方を見ながら首を傾げる。 



 ちなみに山本とはファンキー先生の本名だ。


「俺は疾風と言います。 こんにちはテレーダさん」


「あぁ、噂の! 始めまして、酒造管理役所で役員を務めております、テレーダと申します。 以後、お見知りおき頂ければ幸いです」

 テレーダは握手の為に手を差し出し、その手を疾風が握る。


「こちらこそよろしくお願いします。 あと...噂ってなんのことですか?」


「あぁ、他の勇者様方が誉めていらしたので、お名前だけではありますが私の耳にも届いていましたので...」

 後ろを振り返ると、友達が指でグッドを作ったり鼻を指で掻いたりしていた。


 なるほど。


「照れるよ皆」


「「「ヘヘヘ」」」


「そういえば、疾風様はもう人生回廊をご覧になりましたか?」

 人生回廊......? 

 そういえばさっき先生が何かそのような単語を口にしていた気がする。


 疾風のきょとん顔で察したのか、テレーダは『では詳しくご説明致しますね』と言った。


「まずは試しに人生回廊とだけ言ってみてください」

 言われるがまま疾風は試すと、目の前に人生回廊のプレートが表示される。


 疾風の目が青く光ったのを確認したのか、テレーダが続ける。


「恐らく勇者様なら、青く天賦と表示されている欄があります。 その横に書かれた内容を、読み上げて下さいますか?」


「わかりました...えーと」





 =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

 ★天賦:勇者の加護


 ★天賦詳細:5つの専用のスキルをその身に宿す


 ★警告:スキル追加取得不可・スキル進化速度向上

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 ★現時点保有スキル名


 ・フォトンストレイヤ


 ・フラッシュアクセル


 ・スポットゾーン


 ・浄化の光


 ・プリズムソーラー


 ★警告:スキルの追加は認められていません

 =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=




 疾風が言われるがままに読み上げた言葉に周りがざわつく。 しばらくして、友達のみんなが口々にすげぇすげぇと褒め称える。


「伝説の2人の勇者様の一人が愛用していたとされる力...まさか命ある間に力を持った者に出会えるとは...」

 テレーダが感無量というような顔でこちらを見つめる。



「これってなんなんですか?」


「あぁ、すいません感極まってしまって。 その天賦という力は勇者様や一部の特別な人間に宿るとされている力なのです...。 無論この場に居る他の勇者様方も持っている力になります」

 いまいちピンとこない。 ゲームや漫画はあまり見たりしないので、こういう展開は良く分からない。


「ちなみに先生の天賦は【衝撃咆哮】とかいうのだぞ」


「どんな能力なんです?」


「ここじゃ流石に試せないが、()()()()を力を込めて叫ぶと衝撃波になって飛んでいくって感じだ。 魔物も倒せるぞ....まぁ使いすぎたり、大声出し過ぎたりすると喉がキツイがな」

 魔物なんてモノの居るのか、昔にやったなんちゃらクエスターズとかいうゲームみたいだ。


「たけどホッとしたよ〜。 もし、天賦の文字の色が()()()()()()だったらどうしようねって皆言ってたから」

 温井さんがそんな事を言ってくる。


「赤色だと何か困ると事が?」


「差別ですよ、赤色は魔物の生まれ変わり。 赤印として批難される対象になるのです」

 テレーダは言いにくそうに言ってくる。


「それは....酷いな」


「大陸の説明は受けたと思いますが、北や東はこの文化が根強く、南は完全に差別は無くなっています。 ここ西に関しては国ごとに違っている......共生と差別半々という感じです」

 テレーダは続ける。


()()()()()()()()()()なんかは差別がまだ残ってますね」

 軍事国家という事は結構危なげな国なのだろうか?


「中央大陸でしたっけ? そこはどうなんです?」


「中央は北と東からしかアクセス手段が無いもので...恐らく残っているのでは無いかと」

 テレーダはそう言うが、ハッキリとは分かっていない様子だった。


「テレーダさんっ! 忙しいとこすいませんっ!」

 ブランデー在庫管理担当の男が焦った様子で走ってきて、テレーダを呼ぶ。 


「どうしましたか?」


「この急遽予約が入ったブランデー200瓶なのですが、詰め替え用の機械が故障してしまい納期に確実に間に合わないと......」


「別の現場の機械を使う事は出来ませんか?」


「それが...他の場所も納期が結構厳しくてですね...」


「弱りましたね...結構な額の取引でしたので、失望させる訳にもいきません」

 悩む2人を見つめる疾風の肩を、疾風の友達がポンッと叩いて『俺達は準備できてるぜ!』と、いうような空気を作り出す。 疾風は、フッとイケメンしか許されないような爽やかな笑みを浮かべてこう言った。


「俺たちが手伝いますよ!」



 こうして疾風は、異世界での初めての一日を終えるのだった。

==☆次回予告☆==


32話の閲覧お疲れさまでした。

今回から新章『酒造の国編』がスタートします。 今回、話の中に出てきた酒造管理役所というのは日本で言う、国会のような組織だと認識して貰えればいいです。 ただし、運営しているのは政治家では無く、役員であり...法律や、軍と協力しての領土内の安全保持などを行いつつ、他国への酒の安定供給の舵を握っています。






次回、33話......その国 酒造の国につき!



今回からは色々国家間のアンバランスさとかも積極的に書いていくので、少し文章が堅苦しくなるかも? なるべく、スマートに伝わるよう努力します(笑)


是非次回もご朗読下さい!


ではでは~

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