30話 その誇り 七色の光と共に!
セブンティア流では、周りの味方に自分の使うスキルを伝えるため技名を叫ぶように訓練する。 無意識化でもできるようにそのことを体に叩き込み覚えさせる。
そのためカイルは別に無詠唱で発動できない訳では無かった。
それは.....ボアルも同じように...。
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両者の戦闘は更に激化し、中庭の四方を囲む壁のあちこちには斬撃跡が痛々しく残り...酷い所には大きな穴まで空いていた。 カイルもボアルも、互いにかすり傷を負い血を流していた。
息切れしながらスキルを放ち続ける二人...。
スキルの使用には体力を消耗する。 それはこの世界の常識、実質的な活動限界は魔力切れのようなものでは無く...残りスタミナの有無で決定する。
剣を高速で振り回しながら、相手の挙動を観察し、なおかつスキルを相手の嫌がるタイミングで的確に放つ。 剣と剣が接触するたびに飛ぶ火花の量を見れば、例え戦闘を経験したことのない素人でも、この戦闘がトップレベルの戦闘であることぐらいは判断できそうだった。
「どうしてここまで変わってしまったんだボアルッ! 昔の貴方はもっと...ッ!!!」
再び鍔迫り合いを行いながら、余裕のない様子で叫ぶ。
両者とも既に限界は近かった。
「環境によって誇りは簡単に崩れ去る!」
ボアルは息切れしながら続ける。
「ここは剣技の国、強き剣士を育てることが国のテーマに即することに繋がるのだ!」
カイルが剣を弾かせて距離を取る。 ボアルはバク転しながら魔力酒の入ったグラスに手をかける。 目の前のかつて師匠だった男は、もはやカイルを弟子として見てはいないようだった。
「ただ強いだけの剣士ならどこでも作れるッ! 俺らセブン国を担う者の使命は、自らの手で未来を斬り開ける剣士を作ることにある! だから剣に願いや誇りを据える!自分の剣が道に迷った時、掲げた誇りが道しるべとなるように!」
しかしカイルの言葉はボアルには届かず、ボアルは苦笑を浮かべながら叫ぶ。
「ならば私がその考えを否定し、塗り替えようッ!!! この老骨、この意思に命を賭ける覚悟などとっくに出来ているぞ!!!!」
ボアルが、一気にグラスの魔力酒を飲み干して薄紫色のオーラを全身に纏う! カイルは、流石にマズいと判断したのか、剣技6番(7色の盾)の用意をする。
「魔力酒を.....そこまで堕ちたか師匠ッ!!!」
「ゆくぞ....全てはあるべき剣士の誇りの為に!!!!」
叫び終えたボアルの周りに中庭全てを包み込むほどの羽が舞い始める。
「これはマズイッ! 七式剣技ッ6番、7色の盾ッ!!」
無詠唱で発動された5番の剣技......強化された斬撃性を持つ5羽の鳥が、一瞬で虹色のバリアを貫通し崩壊させ、カイルごと城の外へと吹き飛ばした!
凄まじい轟音と共に城が3割程度崩壊を始める。
「グハッ!」
吹き飛ばされ地面に転がるカイルは、軽く吐血し腹の辺りを抑える。
(クソッ、あばら骨が数本イッたか。 冗談抜きにまともに食らえば死が見えるぞ....)
痛みを抑えるように呼吸をゆっくりと行いながら剣を構える。
「優秀な剣技だ」
崩れた城の瓦礫を踏み越えて、薄紫色のオーラを纏ったボアルが姿を現す。 まさに鬼神、勝利という目的の為に誇りすらも燃やし尽くした男。
「セブンティアが過去、王家として君臨して居られたのは、この剣技が最もこの国で優れていたからだ。 剣技の強さはこの国では立場に直結する!」
「......何が言いたい」
「国防技術を使えカイル」
ボアルが呟いた一言にカイルはハッとする。
「長年この剣技を使用したが、結局私はこの剣技の極致には至れなかった。 セブンティア流七式剣技7番...七式剣技の中でも最大威力の技にして、国防技術が一つ」
「本気で言ってるのか!」
「カイル、お前の言い分では私は脅威なのだろう? ならば脅威の為に、国防技術を使用することの何を恥じようか!!」
カイルは言い分を無視するように走り出し、瓦礫の上に居るボアルに斬りかかる。 しかしボアルは、激情的になったカイルを受け流し、強化した1番の剣技をあえてカイルの剣の腹に当てて中庭に再びカイルを叩きつける。
カイルは寝そべりながら、少し目を瞑り...再び立ち上がる。
「貴方は...そうか、余裕が無かったんだな」
「何?」
「自分を見返し、他人の意見に耳を傾ける余裕すら貴方には無かったんだな」
ボアルがその場で動きを止める。 吹き付ける風が薄紫色のオーラを揺らす。
「どんなに諭されようと、今更考えは変えられん」
「変えられないことは変わってるし、もう変える気も無い。 どんなに悲惨な過去を背負ったとしても、自分の過ちは受け入れるべきだ」
「.......」
カイルが大技を放つと予想してか、ボアルは黙って防御の姿勢を取る。 カイルを見る目にもはや一時の油断すらない。
カイルは体力の消耗を抑えるため、戦闘開始前に使った『パワーアップ』を解除する。 今から使う剣技は、カイルの残り体力全てを根こそぎ吹き飛ばす技であることを、カイル自身は理解しているからだ。
「だから弟子として、師匠の貴方の誇りを否定し斬り捨てる。 俺自身の誇りの為に、この勝利を過程とするために必ずあなたに勝つ!」
カイルの話が終わると、ボアルが剣を目の前でゆらゆらと動かし始める。 紫色のイナズマが一瞬、ボアルの周りを走り...その後で全身を虹色の盾が覆う。 魔力酒とスキル進化で強化されたバリアは、そう簡単に破れない程の厚みと強度を誇っていた。
「貴方を国の脅威と見做すッ!」
カイルはバッと剣を空へと掲げる!
「セブンティア流七式剣技.....」
この国で暮らす民、剣技を研鑽する剣士たち....両親や執行隊の仲間たち...
そしてリリス!
国が掲げる誇りを守り抜く為に、カイルは残り全体力をこの剣技に捧げる覚悟をする。
「7番ッ!!!!」
曇り空の隙間から、七本の光が漏れ出しセブン国を照らす。 一本一本色が違う光の柱は、ゆっくりと廃城に集まり....カイルの刀身に力を集中させ始める。
集まってくる力に反応し、周りがスキルで生み出すプラズマで騒がしくなってくる。 バチバチと空気中でプラズマが舞い、周囲が微振動を始める。
「あの時の若輩が随分と成長したものだ...」
「貴方は逆に老けたよボアル」
「「終わりにするぞッ!!!!」」
もし防がれれば、体力が残っているボアルが有利....いや、実質的な勝者となる。 もしそうなればセブン国は遅かれ早かれ変わることになってしまう。
リリスはきっと悲しむだろう。
その涙を俺は見たくないっ!!!
刀身に光が完全に収縮し、刀身のサイズが3倍程巨大化する。 カイルは、今まで剣を教えてくれたこといへの多大な感謝と絶対に止めるという強い意思を持って。
「アルカナセブンッッッッッ!!!!!!!!!!」
ボアルの展開するバリアに国防技術であるスキルを振り降ろした!!!
【ドンッッ!!】
国防技術がバリアと衝突し、セブン王国全体がまばゆい光に包まれる。 そして次の瞬間、凄まじい轟音が国を駆け巡る。 轟音と光はこの国に住まう全ての民が目撃し、そして同時に安堵する。
その光は国を守る優しい光。
「うおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」
カイルは振り下ろした刀身にさらに力を込める。 ボアルも負けじとスキルを2重使用して押し返そうと抵抗するが、最初に展開したバリアに亀裂が入る。
「......っ!?」
亀裂は一気に周りに波及し、一枚目のバリアが崩壊する。
国防技術が2枚目のバリアに接触した瞬間、中庭でひときわデカい爆発が巻き起こり....。
長く国を支えてきた、今は廃墟となった城は
大量の土煙と共に一瞬で瓦礫へと変化した。
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土煙立ち上る城跡に、剣術研究特区の一連の暴動を制圧した執行隊の面々が集合してくる。 瓦礫の中で倒れるカイルを見つけ、その場で応急手当を行っていく。
「生死にかかわる程じゃないが、相当消耗している。 直ぐに休ませた方がいい...」
執行隊の衛生係がカイルを診断する。
「カイルさんっしっかりしてください! 何があったんですか!?」
軽い騒ぎになる執行隊員達を止めたのは、年配の執行隊員だった。 年配の執行隊はカイルに近づき、頬を2.3回叩きカイルを起こす。
「ん...?」
「ボアルとお前に伝えた時、こうなるんじゃないかと思っていたよ」
「...事態はどうなりましたか?」
ボロボロのカイルは疲弊しながら聞く。
「城は崩壊、肝心のボアルはあっちの方で仲間が拘束した」
「....り、了解です」
カイルは無理やり立ち上がり、痛みを抑えながら歩き始める。 年配の執行隊員がカイルを止めても無駄だと判断したのか、歩くのをサポートする。
瓦礫の山を踏み越え、拘束されながら倒れるボアルの前へと立つ。 ボアルの体から既に薄紫色のオーラは消え、何故か少しだけやつれていた。
ボアルはカイルに気づき、うっすらと目を開ける。
「何故、殺さなかった...」
あの状況では、カイルはボアルの命を奪うことも出来た。 しかしカイルは、あえてボアルの傍に剣を叩きつけ、その衝撃でボアルを吹き飛ばした。 最も国防技術と称される程のスキル...その衝撃だけでも、50歳にもなった年配剣士であるボアルを倒す威力は十分にあったわけだが。
「あそこで貴方を処断すれば、この国が変わった意味が無いと思った」
カイルは続ける
「貴方を罰する権利は国民全員にあるべきだ」
ボアルは目を瞑りながら『そうか』と呟きながら、執行隊に厳重に警戒されながら連行されていった。 その男の眼には後悔は無く、ただ敗北したという喪失感だけがあった。
つれられていくカイルの肩を、執行隊の年配剣士が叩く。
「大丈夫か?」
「大丈夫です、俺の誇りはまだ壊れていない」
「戻ろう、これから事後処理で忙しくなるぞ。 それに国防技術を使った理由についても...上層に説明が必要だしな」
年配剣士はそう言うと、近場の剣士から回復ポーションを貰い、カイルに手渡し飲ませる。 傷が回復を始めるが、回復ポーションの品質的に骨折までは直すことができなかった。
「まぁそうですよね.....いや、使わなきゃ死んでましたが...」
「諦めろカイル、まぁあの婆の飛び蹴り一発くらいで済むだろう」
それは無事とは言わないんじゃなかろうか、という意見をグッと飲み込み。
「よくやったカイル。 同じ執行隊として鼻が高いよ」
カイルはフッと笑うと『当たり前ですよ』と返した。
かくしてセブン国での一連の騒動は幕を終えた。
死者69名、重傷者202名、軽症者533名...のべ804名の人間が大規模火災と先の戦いで傷を負った。 魔力酒を飲み強化を受けた人間の半数が、何故か脱力症状を訴えたことを除けば...これほどまでの暴動規模で、被害は抑えられたほうだろう。
そして不安を払拭した夜空は、国を出る決心をした。
==☆次回予告☆==
30話の閲覧お疲れさまでした。
今回のプチ話は、アルカナセブン....セブン国の国防技術についてです。
このセブンティア流の剣技7番に該当する『アルカナセブン』ですが、この習得には王家の者しか知らぬ独特の習得法を用います。 そのため、ただセブンティア流を学ぶ一般剣士は、この7番の剣技『アルカナセブン』だけは習得することが出来ません。
だからボアルは対抗で『アルカナセブン』を出せません。 王家のお抱え剣士だとしても、当時の王が習得を許しませんでした。 理由は簡単、伝統だから....です。 以上!
次回、31話......そして兄貴 妹を想う!
次回はセブン国編ラスト! セブン国編が終われば、とうとう夜空サイドから別主人公サイドへとッ話がチェンジしていきます。
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




