29話 その誇り 誇りと交差する!
俺が幼い頃、赤ん坊だったリリスと共に魔物に襲われたことがあった。 襲い掛かってきたパニックウルフを両断し、リリスと俺を助けたのは王室お抱えの剣士【ボアル・ルゥ・ベビルゴ】だった。
子供は単純だ。
例に漏れず、俺は剣士という存在に憧れた。 早く、剣を扱う事を許してもらえる年齢になれるのが待ち遠しくて、毎日太陽が昇るたびにカレンダーに印をつけて、日にちを数えたことは今でも鮮明に覚えている。
そして月日が経ち、体が成長し...剣を持てるようになったらボアルに剣の教えを願った。
子供の頃、剣に込めた誇りはなんだっただろうか?
既に俺はそれを思い出せない...確か、シンプルかつ純粋な願いだった気がする。
そしてまた月日が経ち、爺様が亡くなった。 爺様が使っていた剣を託されたリリスを見て、俺は誇りを改める決心をした。
俺は...その誇りを今でも剣に抱いているんだ。
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【夜空&リリス決着と同時刻....カイルは...】
カイルは爆音響く街で、薄紫色のオーラを纏った剣士と戦闘を繰り広げていた。 強化された物理系統スキルの前に、既に現場に向かった執行隊の3割は壊滅し、その場は軽めのカオスと化していた。
「右十字路っ、敵増援3確認!!」
執行隊の誰かの叫びに答えるように、右十字路から魔法系統スキルの魔法弾のようなものが投げられ着弾し、近場にあった剣技研究会の建物が音を立てて崩れる。
「ハァッ、ハァッ! キリが無い!!」
カイルは一切休まず、銀ノ上や下の暴徒と化した剣士たちを斬り伏せていく。 だが一人一人が金ノ下...下手すれば剣技の威力だけは金ノ上にすら匹敵するほどのスキルたちは、どれほど剣術が優れていたとしても全てを防ぎきることなどできなかった。
執行隊の面々は既にジリ貧状態になりつつあった。
「俺たちも使った方がいいんじゃっ!」
執行隊の若い隊員が無理もない弱音を言った。
「馬鹿を言うなッ、我らは執行隊、心に誇りを据えろ! 自分に負けるんじゃない!!」
若い隊員を鼓舞するように年配の隊員が叫ぶ。
「お、俺は守れる剣士にッ! ....すいませんっもう大丈夫です!」
「よしッ」
一連の会話を終えると、近場に居た暴徒の一人が異議ありと声を荒げる!
「何が守れる剣士だっ! 勝てなきゃ守れねぇんだよ――――!!」
とっさにカイルが雑な素振りを刀身で受ける。 バキンッという金属音がしてカイルの持つ剣から火花が飛ぶ。 スキルで肉体を強化しているのか、カイルが力負けしそうになるが...。
「自分の命でそれを証明するとは恐れ入った」
「黙れぇ―――っ!!」
怒り狂う暴徒を、若い隊員とスイッチするように交差して斬りつけ制圧する。 暴徒剣士が悲鳴を上げながら倒れ、すぐに取り押さえられ手と足を枷で拘束される。
「うわあああああああボアルさまあああああああああッ―――! 俺はまだ勝利を諦めたくはありません―――ッッ」
拘束された剣士は全員泣きながら連行されていく。 首都をこれだけ荒らしまわったのだ、もはや国外追放なんて生ぬるい処置は下されないだろう。 最低でも禁固5年...最悪死罪まである、そうでもしないと遺族の面子が立たない。
「ボアル、やはり貴方が絡んでいるのか。 何かの手違いであってと願ったが...」
カイルは考えを払拭するように首を振る。
大きな爆発が近場で起こり、ハッと我に返る。 剣を再び握り直し、何やらひときわ騒がしい方へと走っていくと。
「建物の扉を開けて出てこいッ! 誇りを矯正してやる!!」
10人程度の薄紫色のオーラを纏った剣士たちが、数人程度が剣技を学んでいる研究会の建物を襲っていた。 中に居る銀ノ上や銅階級の剣士たちは、どうしようもなく剣を破壊されそうになっている玄関へ構えながら震えていた。
(これはダメだ...人数が多すぎる)
とっさにカイルは身を近場の建物の陰に隠し、様子をうかがう。 階級章を確認しようとして...それが無意味なことに気づく。
あの薄紫色のオーラを纏っている状態では、国が定めた強さの証など意味が無い。 それにそもそも彼らは階級売買を行い、不当に階級が上がっている。
「奴らの掲げる誇りは、この国の願いに反している」
カイルはボソッと呟く。
そんなことをしている間に、いよいよ玄関が破壊されそうになり、中から『もうやめてくれ』、『何が望みなんだ』というような悲鳴が聞こえてくる。
望みという言葉を聞いた暴徒剣士の一人が口を開く。
「剣を自ら折り、誇りを捨てろ!」
「「「剣を、剣を折れ!!!!」」」
取り囲んでいる暴徒たちが狂ったように声を合わせる。
「....そ、そんなっ....あんまりだっ! この剣は妻に貰ったものなんだっ、妻を守るために私は剣士になったんだ!」
悲痛な叫びに強化されたスキルで玄関を強めに叩いて脅す。 『ひぃっ』と小さな悲鳴を上げて男が蹲る。
「新たな剣に【絶対勝利】の誇りを込めろ!!」
「「「それこそ剣士のあるべき姿!!」」」
カイルはその言葉にいよいよキレた。 誇りを自ら破壊させ、塗り替えるなんて剣士にとって侮辱もいいところだと、心の底から激怒する。
「侮辱が過ぎるぞッ貴様らァァァ!!!!」
聞いたことない程の叫びを上げ、剣のグリップを強く握りながら暴徒剣士の集団へとカイルが突っ込んでいく。 いくらスキルが強化されようと、肝心の心までも強くなるわけでは無い。
剣士の強さは心身の強さに帰結する。
父上からよくその言葉を聞かされた。
「セブンティア流ッ七式剣技5番! 五鳥10連切ッ!」
カイルの周りに凄まじい量の羽が舞い散る。 強そうな斬撃性をもった鳥が5羽召喚され、10人のうち5人を刹那の内に斬り捨てる。
隙が出来たその瞬間に、建物から剣士数人が出てきて鍔迫り合いの戦いが始まる。 カイルも一人で二人を相手にしながら、他の階級の低い剣士にもサポートを行う。
足元に転がっている石を顔面にぶつけたり、木箱を蹴り飛ばし動きを妨害したり。 剣技自体のレベルは上昇しても、剣術がそれに追いついていない暴徒剣士たちはあっという間に不利に追い込まれる。
「くそっ怠慢な誇りを掲げている雑輩に何故ここまで追い込まれる」
暴徒は叫びながらカイルを血走った目で睨みつける。
「階級を捨て、誇りを捨て、強さだけを追い求めたが為だよ。 結局、心が育っていない、剣士として一番大事な部分をごまかした!」
「そんなの詭弁だッ!」
「対話を求めるなら剣など握らん!!」
カイルはスキルを発動される前に目の前の二人を斬り捨てる。
血を流し、地面に暴徒剣士たちが倒れ込む。
「分かり合えないから、人は剣を交えるのだから」
血を流しながら倒れていく所を見て、そう呟いた。 その後すぐに気持ちを切り替えたカイルが、応戦してくれた剣士の援護に直ぐ向かうが
....時すでに遅し。
「へへへッ、スキル『バーンスラッシュ』!」
「うわあああああああッッ」
「助けっ――!」
勇敢にも、暴徒剣士に応戦した剣士たちは建物ごと焼き尽くされ...最後の言葉を残す暇さえ無く死亡した。 死んだ男の持っていた、使い古した剣が炎で熱膨張を起こし真っ二つに割れた。
「.......」
カイルは放心する間もなく、スキル使用直後のスキをついて片足を容赦なく斬り飛ばす! 斬られた足は炎の中へ、男は数秒遅れて痛みに気づき、町中に轟くほどの大声で絶叫する。
カイルは怒りで手を震わせながら暴徒剣士を拘束した後、傷口に雑に回復ポーションをぶっかけて傷口を塞ぐ。 それでも痛みが残っているようで、男はしばらくの間絶叫し続けた。 絶叫する男の横を素通りし、カイルは死んでいった勇敢な者達へ黙祷を捧げる。
黙祷を終えたカイルはゆっくりと口を開き。
「すまない...そしてありがとう、名も知らぬ剣士たち...願わくば安らかに」
駆けつけてきた別の執行隊の部隊にこの場を任せ、カイルはボアルを本格的に探し始める。 いくつもの戦場を駆け、路地を抜け...
息を荒げたカイルはいつの間にか、昔住んでいた城の前へとたどり着いていた。 城の外壁は数年手入れをしていないせいで蔦が生い茂り。 正面入り口に備え付けられた木の扉は、暴徒剣士たちの手によって見るも無残に破壊され風が中へと吹き抜けていた。
カイルはまるでここに居ると分かってるかのように、中へと歩みを進めていく。 壊れかけた広間や、厨房、客間や大食堂などを抜けてカイルはある場所へ突き進む。
カイルがたどり着いた場所は、雑草が生い茂る庭の中央に屋根付きの机といすが置いてある。 いわゆる中庭という場所だった。 中庭は周りを3階建ての壁で囲まれ、天井はガラスで埋められており、区切られたガラスの半分は既に割れていた。
中庭の中央の椅子にはボアルが座り、瞑想していた。
「久しいな」
「こんな形で貴方に会いたくなかった....」
それでもボアルは辛そうな表情すら浮かべず、目の前のグラスに入った魔力酒を揺らしていた。 カイルは『そこまでして勝ちたいのか』と歯を食いしばる。
『継続的努力』という掲げた誇りは今の彼には無い事を悟ってしまった。
「......私を斬りに来たかカイル?」
「国を離れていた貴方は知らないかもしれないが...これでも執行隊だ。 セブン国で起こる愚行を見逃すわけにはいかないんだ」
「そうか、あの青二才が...執行隊に」
しみじみと数回頷くボアルに、カイルは聞きたく無さそうに目を強く...強く瞑りながら口を開く。
「最初に確認する、主犯は貴方なのか?」
ボアルはその言葉にため息をつきながら
「主犯とは聞き捨てならんな、我らは剣士としてあるべき形を示しているに過ぎない。 皆、同じ志を持つ同志達だ」
「......何人死んだと思ってる!」
カイルが激昂する。
「剣士にとって誇りとは己を奮い立たせるモノでなければならない」
ボアルは席を立つと、近場の林から不思議な色を宿した剣を取りだす。 剣は青緑色に光り輝き、見ると吸い込まれるような透明度を持っていた。
鞘に入れた状態で腰に下げ、カイルの前に立つ。
「セブン国の望む道は剣技の研鑽...ならば強い剣士を作り出すことは最重要課題となる。 とにかく勝利をつかみ取り続けるような、そんな剣士を作る」
「狂気だ.....、貴方は狂っている!」
カイルの言葉にボアルはまるで分からないような顔をしながら、鞘から剣を引き抜く。
「今更理解なんぞ求めてはいない。 誇りとは理性で決定するものでは無く、己が本能に従って心が定めるモノでなければ意味が無い」
「貴方は根本的に間違っている! セブン国が作りたいのは、ただ強いだけの剣士じゃないことが分からないのかッ!」
「もうよいわ、分かり合えないからこそ...人は刃を交える。 そう教えたのは、カイル.....私だった筈だが!?」
カイルは剣を鞘から引き抜き、二人がいよいよ臨戦態勢に入る。 警戒しながら相手の一挙手一投足に両者が限界まで集中する。 カイルがスキル『パワーアップ』を使用し、自身を強化する。
中庭に風が吹く。
その瞬間、二人が衝突し火花が飛ぶ! 剣と剣が接触する金属音が何度も何度も廃城に響き渡り、両者は一歩も譲らず互角の戦いを繰り広げ続ける。
ボアルが横振りした剣をカイルがしゃがんで回避し、その状態から突き攻撃を行うが...ボアルは、それをあえて引き付けて力を後方へといなして反撃する。
カイルが地面を転がりながら、反撃で振り下ろされた剣を弾いて距離を取ろうとするが、一瞬で間合いを詰められる。 カイルは攻防を行いながら、徐々に徐々に壁際へと追い込まれていく。
いよいよ壁が迫ってきたという時に、カイルは壁に剣を突き刺して腕の筋力だけで自分を持ち上げ、グリップの上で逆立ちのような状態になる、その状態から壁を蹴って逆にボアルを壁際に追い込む。
ひときわ大きい金属音が中庭に響き渡る。
「カイルよ、この私と本気で渡り合えるとでもッ!?」
鍔迫り合いの状態になった二人は再び言葉を交わし始める。
「変わったのは貴方だけじゃない!!」
「そんなの階級章を見れば理解できようッ!」
二人はほぼ同時に距離を取り叫ぶ!
「「セブンティア流七式剣技3番! トゥー・バック・レイ!!!」」
見えない程の素早さでお互いの裏を取ろうと前進する。 中央辺りで交差した両者は光を伴う全力の突き技を行う。
剣の先端と先端が触れ、光と光が衝突する!
天井のガラスが衝突の衝撃で全て割れ、四方を囲っている城の壁に亀裂が入る。 手入れのされていない中庭に生えた草木たちが強風で激しく揺れる。
その周りに伝播するほどの衝撃は、無論両者にもかかっていた。 同時にノックバックした二人は、後方の壁を突き破りカイルは壁の向こうの客間へ、ボアルは壁の向こうのお湯の入っていない浴場へと突っ込んだ。
「ハァ...ハァ...強いッ...」
カイルは口から血を流しながら立ち上がる。 反対側で同じように立ち上がったボアルが、カイルにも聞こえるぐらいの大声で叫ぶ。
「誰がお前に剣技を教えたと思っている! カイル、お前は私を越えることはできない!!」
「昔は貴方の動きを目で追う事なんてできなかった。 だけど今は見える、貴方を越える準備はもう既に整っている!!」
カイルが強く踏み込み、周りにスキルで生成された羽を舞わせる。
「セブンティア流七式剣技5番 五鳥10連切ッ!」
スキルで生成された、5匹の斬撃性を持つ鳥がボアルに向かって一直線にかっ飛んでいく。 対抗するようにボアルは目の前で剣をゆらゆらと動かし....
「セブンティア流七式剣技6番 進化型、7色の盾」
虹色の小さい盾を前方へと召喚して迫りくる鳥を正面から受け、破壊する。 ボアルのスキルは進化していた。 全ては歪んだ誇りがもたらした副産物だ。
「届かんわ、自らを貶める誇りを掲げるような若輩の剣技なぞ」
ボアルの剣が語る寂しさに、カイルは涙を浮かべながら叫ぶ。
「どうしてそこまでッ!」
答えるようにボアルが、警戒しながら中庭の中央の机の前へと歩いていく。 机の前で立ち止まると、カイルの方へクルリと向き直る。
「勝利は全てだ、勝利の結果として希望が紡がれる、未来が開かれる」
「違う! 勝利は過程だッ、先のことから目をそらした勝利は、力はっ...いつか自分自身や周りを滅ぼすぞ!」
それを恐れたからこそ、この国は誇りを剣に込めるようになったのだ。 初代国王【ファーマン・ルゥ・セブンティア】はその考え方に救われたからこそ...『剣士たちの誇りによって紡がれるべき国である』という言葉を残したのだから!
「下らん...ならばカイル、お前は剣に何を込めている」
ボアルは続ける。
「昔カッコイイ剣士になりたいと言っていたな。 推察するに、どうせお前も勝利に関係した事を掲げているのだろう!?」
「俺の誇りは極論勝利は関係ない」
一瞬カイルの頭にリリスの顔がよぎった。
土壇場で自分を保ってくれる、支えてくれるモノを人は誇りと呼ぶのだろう。
「....なりたい」
「妹に尊敬される剣士に、俺はなりたいんだッ!」
それはカイルの剣に込められた、純粋かつ優しい思い。
「論外ッ!!」
そんなカイルの誇りを否定しながら、両者は再び剣を交える。 一進一退の攻防を繰り返しながら、剣技を使用し互いに相手を追い詰めていく。
金属音が再び廃城に響き始める。
同時刻に、セブン国の天気が気分を害したように曇り始めた。
セブンティアの屋敷に、夜空を運ぶリリスも嫌な感覚を覚えていた。
==☆次回予告☆==
29話の閲覧お疲れさまでした。
今回のプチ話はありません。 カイルの誇りが語られましたが、いいですよね...ああいう思いを据えて戦える人。 純粋にカッコいいと勝手に思っています(笑)
次回、30話......その誇り 七色の光と共に!
次回セブン国編戦闘ラストです!! 第2章も残りあとわずか...最後までお付き合いくださいませー! 是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




