26話 この兄弟 面倒なり!
「うぅぅ、右腕全体に、スキル『火炎耐性』+スキル『火種』ッ!」
種火を指に発動させて、火傷をしてないか確認して解除する。
「出来た―――っ!!」
夜空は屋敷の庭で、剣技の練習に使っているカカシに向かってスキル発動の練習をしていた。 自らの天賦の不具合とスキルの仕様を見て、自分には2つ同時発動が出来ないとダメだと分かったからだ。 今後取得するであろうスキルに、いかなる反動が出ても耐性の力と同時併用すれば安全に使うことができる。
最も、本来ならこんなことをしなくても怪我しないで、安全に使用できるのだが。 天賦君が悪さしてる仕様上、仕方がないと受け入れて枕を濡らすしかない。
カイルが、首都で突然起こった爆発音や火事に赴いた昨日、夜空は特に何もせず屋敷の庭で同様のことを続けていた。
「ハァ...ハァ...発言すれば5割くらいで出来るようにはなったけど、同時に無詠唱はダメだな。 本当にできる気がしねぇ」
ほぼ確定で失敗する。 明らかに脳の処理能力が足りていない。
「無詠唱同時発動は、スキルを無詠唱で発動出来る後のフェイズってことかよ」
こればっかりは回数を重ねて慣れるしかない。 脳の処理する情報が減れば、その分同時発動の方にリソースを割くことができる気がする。
まぁッ! 元からスキルの反動が出てなきゃ、こんな苦労は無いんだけど!
「チクショ――――ッ!!」
夜空は他の勇者たちへの不満をぶちまけるように大声で空に叫んだ。
「右腕全体にスキル『火炎耐性』+スキル『火種』ッ!」
文句を頭の中で言いながら、再び練習を再開する。 脳の処理のリソースを少し文句に割いていた、そんなことをしながら試せば当然....
【ジュウッ】
指が焼ける音がした。
「熱ィィ――――ッ!!」
詠唱同時発動を失敗した夜空は、急いで噴水の元まで走り、水に手を突っ込んで消化する。 水の中で指をさすって痛みを抑えながら、片手でポケットから小瓶に入った回復ポーションを取り出す。 塗り薬を塗るように、ポーションを指に塗ると火傷が消える。 痛みまでは直ぐには消えないが。
絶対こんなクソみたいな訓練してる奴、在籍していた学園で俺だけだと思う。
というか複数いてたまるか、こんな役立たず勇者。
「文句だっていいたくなるだろ、俺だってオタクだったんだし。 異世界で活躍すること、一度くらい夢見るよ、しょうがないじゃん...」
「今頃、テルテルは勇者らしいことでもしてるのかなぁ」
泣き言をいう夜空。
まぁでも、オニキスよりもこの国は遥かにマシではあると思う。 あくまでも見える範囲で差別が無い...という基準だけではあるが。
「テルテルさんって勇者さんですか?」
ヒョコッとリリスが夜空の近くに現れる。
「うわあああッ鬼教官許して!」
「なっ! 誰が鬼教官ですかっ!!」
リリスがお決まりのように頬を膨らませる。 数日一緒に居て分かったが、これはリリスなりの怒ってますよっていう表現方法らしい。 非常に可愛らしい仕草の割に、やってることえげつないので俺は怖い。
怯える夜空にリリスがおかしなものを見るようにクスクスと笑う。 『なんでそんなに怖がってるんですか?』と言ってくるリリスに、お前正気かというような顔を浮かべていると。
カイルが酔いで顔を真っ赤にしながら帰ってきた。
「カイル兄様っどうしてそんな...うっ、お酒臭いです...っ」
「.......」
カイルは、大好きな妹からの声にすら何も反応しない。
いや、したくないという印象を受けるが正しい。
「何があったのですかっ!?」
「......」
酔いでフラフラになりながら、辛そうに顔を伏せるカイルに夜空は気づいた。
これ詮索はされたくないんじゃね...と。
「おい、リリス...詮索は...」
「でもカイル兄様こんな辛そうです」
「辛いからこそ、大事な人に伝えたくないことだってある」
しぶしぶ納得したリリスは近場の使用人に駆け寄り、カイルを部屋まで連れて行くよう頼みに行った。 リリスが自分のそばを離れたことで、カイルは夜空に呟く。
「聞かないのか?」
「興味ねぇ」
「...そうか」
カイルの悩みなんて俺が聞いても分からない。 友達でも無い以上、コイツの悩みを聞くのは親の仕事だと思う。
使用人が駆け寄ってくる前に、カイルは夜空に『リリスを頼む』そう伝えて連れられて行ってしまった。 カイルの目に一瞬、かなり泣いた跡が見えた気がした。
「悩みとかなーんも無さそうなのに、アイツにも色々あるんだな」
「悩みってなんのことです?」
リリスへのカイルの気遣いを、俺がぶっ壊すのは止めておくべきだろう。 そしてリリスがカイルを追うことも同様に止めるべきだろう。
なら俺がとる手段は、これしか...嫌だなぁ。
「リリスせんせー、教えてくださーい」
夜空はふんふんと鼻息を荒くしながら、目を輝かせるリリスを見て
あぁ神よと、宗教崇拝者のようなことを天に想った。
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【...一方カイルはというと】
「らしくないな。 酒、そこまで好きでは無かっただろう」
カイルの部屋でフォーワンと一対一で話をしていた。 母親のカリナに関しては、カイル自身が聞かないで待っていて欲しいと強く告げた為、それ以上何も聞かず居間で待っている。
「そうでしょうか」
「...あぁ。 カイルよ、何があった」
「数年前...王室お抱え剣士の存在、覚えてますか?」
「ボアルのことか?」
カイルは一度だけ強く頷く。
「彼を主犯格として執行隊が動くことが決定しました」
「それは真か!」
再びカイルは一度だけ強く頷く。
「はい残念ながら、処断の権利は執行隊側では無く民主会議に委ねられるとは思いますが...。 執行隊の命令にも、なるべく拘束しろとのことだったので...」
「現場での殺害...。 拘束されてもよくて終身刑......いや、自体の深刻性から考えるに公開処刑もありうるということか」
フォーワンが辛そうに確認を取る、まるで違うと言って欲しいかのように。 しかしカイルは『はい、恐らくは』と言った。
「父上...!」
カイルが救いを求めるように声を震わせる。
「気持ちは分かる」
「なら、なんとかできませんか!? ボアルは、私にとって師匠みたいな存在でもあるんです!」
カイルはいよいよ耐えきれなくなり、涙を流しながら藁にも縋る思いで、目の前の男を父親としてではなく、貴族の一柱の人間としてボアルの助命を求める。
最愛の息子の発言に、フォーワン苦悩の表情を浮かべてから一言。
「それはだめだ。 そんな勝手は世間が許さん」
「そう...ですか....。 理解はして...いました」
非情な現実にうなだれるカイル。
「カイルよ、己が道に迷いそうになった時、剣に込めた誇りを思い出せ」
フォーワンは続ける
「たとえ昔、家族のような存在だったとしても、間違いは正さねばならん。 それとも、その間違いを許容しうるほど、お前の誇りというのは寛大なのか?」
カイルは剣のグリップを握り、自分の誇りを思い出す。
「.......」
「.......」
少しの間目を瞑った後、カイルは口を開く。
「...ボアルは責任をもって...俺が止めます」
「よくぞ決断した。 流石は私の自慢だ、カイルよ」
決断をしたカイルに、フォーワンは認めるようにカイルの頭に手を置きながら告げた。
そして時間が少し経ち、少し体を休めたカイルは黒いローブを羽織り、再び剣術研究特区の方へと向かって行った。 どっかの鬼教官様との訓練を終えた夜空と、屋敷内の道ですれ違う瞬間...夜空はカイルの吹っ切れた顔を目撃した。
「全く、手のかかる兄弟だな」
夜空の言葉に、リリスがむすっとした顔で近づいてきて。
「むぅ...事実ですけど言い方あると思いますっ」
「理解してるなら結構」
「性格もうちょっとなんとかしたほうが、色々生きやすいですよ?」
「うるせぇ、ほっとけ!」
なんかリリス、どんどん遠慮が無くなってる気がする。 リリス的に俺は友達らしいから、こういうノリが正しい接し方なのかもしれないけど...。
前も思ったけど、あんまり懐かれても困るんだよなぁ。
国を出る時に名残惜しくなっちまうし。
そんなことを思っていると、グ―と大きな腹の虫が近くで鳴いた。 夜空はジト目でリリスを見つめると、徐々にリリスの顔が赤くなっていき。
「私、そんなに食いしんぼじゃ...うぅ...」
「年上らしく奢ってやれたりしたらいいんだけどなぁ」
その言葉にリリスが何故か食い気味に目を輝かせる。
「もしかして食べ歩きという奴ですかっ!?」
「あ、あぁそうなるな...。 って、したことないの?」
リリスが何度も首を縦に振って強く肯定する。
「お母様がはしたないから、と」
「一応貴族のお嬢だしな、お前」
リリスはどうしても行きたいのか、うーん、うーんと頭を捻らせていると、庭に噂のお母様がやってきた。
リリスは母親の元へと行き、事情を一生懸命説明し始めるが...
「いけません、セブンティアの娘ともあろう者がはしたない」
「うぅ...お母様お願いです~」
涙目になりながら夜空に助け船を求めるが、それを察知した母親が威圧を夜空にかける。 怖がりながらも、夜空は話に割って入る。
「あの~、これも社会勉強の一環ってことで何卒...」
「食べ歩きから何を学ぶというのでしょう?」
確かに。
やべぇ、完璧に論破されたな、どうしよ。
夜空は思考の末に...苦し紛れではあるが会話を続行することにした。
「リリスは純粋です、それはお分かりでしょう?」
「私自慢の娘ですもの、当たり前ですよ」
「ではそんなリリスが、一般人の常識を知らないまま育てばどうなるでしょうか」
「何が言いたいのですか?」
よし、食いついた!
「世の中には悪い男達だって居ます」
「先日捕まった貴方のようにですか?」
グフッ、反論できねぇ!
「え、えぇ...まぁそういうことです。 要は耐性を少しはつけておくべきという話です。 下ネタなんかに関しても、多少理解があれば下ネタにテンパらず、話を軌道に戻すこともできるように」
「まぁ一理あるかもしれません」
(えぇ...一理あるんだ)
リリスの母親は納得してるけど、本当に一理あるかなぁ...。 自分で言っといて無責任だけど、絶対無い気がする。 そもそも、貴族同士の社交の場で下ネタぶち込んでくる奴なんて、その時点で関係を切っておくべきだと思うんですけど。
まぁ都合がいいし言わないけどね!?
「お願いです、今回だけ認めてやってくれませんか? 剣術研究特区の方には近づかないように、居住区の方で手短に済ませますから」
「はぁ...分かりました、私の負けです。 いいでしょう、お行きなさいリリス。 ただし、あまりはしゃいではいけませんよ。 品よく行いなさいな?」
「お母様、ありがとうございますっ!」
リリスの母親は、リリスの手に1金を手渡すと屋敷に戻って行ってしまった。 娘さんの心を汚してしまってごめんなさいと、心の中で手を合わせてからリリスと共に屋敷を出発した。
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【そして同時刻:ボアルの同志達集う廃城では....】
「同志達よ、求めるものはなんだ!」
「勝利と、勝利を求めるために研鑽する時間です!!」
代表で発言した男の言葉に、周囲に居る男女を含む20代後半の剣士が一気に沸き立つ。 彼らは皆、階級売買を行っても国にしがみついている連中だった。 彼らの腰には2本、魔力酒の入った試験管が付けられていた。
「誇りとはなんだ!!」
「「「「完全勝利!!」」」」
「「「「勝利こそ剣士の全てである!!」」」」
「「「「今こそこの国にッ!!!」」」」
「正しき誇りの在り方を!!!」
言葉の最後をボアルが一喝し〆ると、その場の全員が魔力酒を一本飲み干し、剣を天井へと掲げる。 けたましいほどの絶叫が城中に響き渡った後、まるで獣が檻を破って飛び出すが如く、一斉に城から飛び出して行った。
ボアルは近場に置いてあった机にグラスを乗せ、樽の中の魔力酒を柄杓を使ってすくい上げ、グラスに注ぐ。
しかしボアルはそれを飲むことなく机の上に置いておく。 程なくして、国中から爆発音や叫び声が聞こえ始める。
ボアルは目を閉じて、国の未来を考え始めた。
==☆次回予告☆==
26話の閲覧お疲れさまでした。
今回のプチ話はスキルの発動方法についてです。
スキルは基本的に名前を叫ぶと発動されます。 しかし、発動に慣れたスキルは無詠唱でも発動は可能です。 その際、脳の中で思い描いて発動することになるのですが....その分、詠唱発動よりも脳の処理を要します。
無詠唱同時発動は、人によっては脳の処理が限界に到達し【スキル混線】というスキルが正常に発動できな現象に陥ってしまう場合があります。
次回、27話......あの外道 ハゲと再び!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは




