25話 その過去 振り返って!
月明かりが差し込む窓から...ボアルは月を眺めていた。 近場には湿気でダメになった王家の面々の絵画が飾られており。 そんな既に放棄された建物の中で、椅子に座り...思い出にふけっていた。
セブンティア王家の面々と共に過ごしたこの城の中で。
「勝てない剣士に価値は無い」
ボアルは呟く。 強い想いをその言葉に乗せながら。
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【6年前...セブンティア王国にて...】
「ボアル! 俺に剣を教えろっ!」
「ん? あぁカイル様、私で良ければ喜んで」
当時15歳のカイルが、中庭で素振りをしていたボアルに教えを乞いに来た。 その後ろをチョコチョコと当時5歳のリリスが付いてくる。
「にーしゃま...まってぇ~」
涙目でカイルの元にやってくるリリス。
「ダメだぞリリス、危ないから母上の所へ戻るんだ」
「やだやだやだっ!! リリスもうできるもんっ! 剣できるもんっ!!」
当時44歳のボアルが微笑ましそうに笑いながら、リリスの近くへとしゃがみ
「リリス様、まだ剣は流石にお早いかと存じます」
「びぇ~んっ!! カイルにーさまとボアルのいじわる!!」
リリスは泣きながら母親の元へと走って行ってしまった。 やれやれまたか、というような感じで肩をすくめ...カイルに剣を教え始める。
穏やかな剣技の国の一日が...
当たり前の一日が今日も始まっていく。
「なぁカイル坊ちゃん。 坊ちゃんはなんで剣技を学びたいんですか?」
剣術の稽古を終えたカイルに問う、カイルは少し『うーん』と悩んだ後
「カッコいいから!」
そう言った。
「ハハハハハッ、そうか...かっこいいからですか! フフフ...失礼、坊ちゃんは子供っぽいですな」
「なんだとー-!!」
大笑いするボアルにカイルは食って掛かる。 カイルが言ったその夢は、この国で生まれた子供じゃ珍しくも無い、当たり障りのない夢だった。
それもそのハズだろう。 子供の頃から、ほとんどの子供は剣に触れながら育っていく...それがこの国の日常なのだから。
私は剣技の国が好きだった。
だから私も込めた、剣に『継続的努力』という誇りを
そして時間は進み、雷の鳴るある日...ボアルに一通の手紙が届いた。 その手紙は別大陸にすむ弟からのもので、内容は『戦争が起こりそうだから、兄さんも家族を守るために国に戻ってくれ』というモノだった。
「.........」
ボアルは、机に広げた手紙を折りたたんで再び封筒の中に入れ、机の奥の方に見えないようにしまい込んだ。 ....その手紙を二度と見れないよう、入念にしまい入れた。
剣士を目指す道を選んだ時、両親に酷く反対され...半ば家出のような形で家を出た。 そしてセブンティア王国で才能を認められ、家族のような温かい関係に身を置くことができている。 そんな今を、壊されたくなかった故の行動だった。
しかし、唯一心残りだったのは祖国に残してきた弟の存在だった。
しかし私は勇気が出ず、返事を出すことは無かった。
そして約数か月後、当時の...そして国最後の国王が死んだ。
「わぁぁぁおじいしゃまー--っ!!」
「泣くなリリスッ」
カイルはリリスの肩を抱き寄せ強がるが、目には涙を浮かべていた。 セブンティア家の面々や葬式に参列した貴族や平民も、みな一様に涙を浮かべていた。
だが私だけは泣くことができなかった。
国王に対して忠義も信頼もしていたハズなのに。 悲しさよりも、目の前で人が死んだ衝撃の方が遥かに大きかったのだ。 そんな私に対して、フォーワン様とカリナ様は気にしなくていいと言ってくれた。
その後、手紙のことを告げずに私は慌てて国を出た。 国王の死によって、始めて『身近な人の死』に触れ、それが怖く、脆く、儚いものであることに気づいたから。
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【数週間後....西大陸:ヘルカ軍事国家】
私の生まれた祖国は、良くも悪くも略奪や戦争によって繁栄した国だ。 今では当時ほど活発に活動するわけでは無いが、小規模の小競り合いなどは未だに文化として健在だった。
そんな国の首都は、戦争のダメージが痛々しく道や壁などに刻まれ、戦闘が最近あったことを痛感させられた。
雨の降る中、建付けの悪い実家の扉を数回叩いて待機していると、家の中から30代後半の男が飛び出してきた。 彼の身に着けている服などはボロボロで、扉の奥には年老いたボアルの両親がベッドに横たわっていた。
「.....兄さん」
「.....もう24年、顔も声も変わるもんだな」
二人の間に気まずい空気が流れたのを気にしてか、弟が家の中へと上げてくれた。 ギシギシと鳴る床を避けるように踏み越え、奥にあったテーブルに座る。
「返事...無かったからさ。 来ないかと...あははは...」
「剣技を研鑽し、護衛などで金を稼いで20年近く...私は人の死に触れたことなど無かった。 だが、あることが些細なキッカケになって、ここに来る決心ができた」
「ありがとう兄さん」
弟は家族に対する感謝とは思えない程、深々と頭を下げてきた。 15年前生き別れた故、内心では家族と認めきれていない部分があるのかもしれない。 現に一人で両親の介護をずっとしていたのは弟だ。
「で、私は誰と戦えばいい」
「いや、違う。 戦わせたくて兄さんを呼んだわけじゃないんだ。 母さんと父さんを守ってほしくて、呼んだんだよ」
ボアルは腕を組んで『じゃあお前はどうする?』と言った。
「徴兵されちゃってさ。 ほら、国の有様見ただろ...結構攻め込まれちゃって、次が山場になるって」
「だから国は兵士を増やす決断をしたのか」
「ヘルカの国王も歳だからね。 昔みたいに英断力があるわけじゃないみたい、だけど国の上の連中は国王が正しい、正しいって」
「過去の栄光というやつか。 厄介なものだな」
確か国王には妻子がいたハズだが。 過去の栄光の前では血族など、思案する価値にもにも値しないのかもしれない。
弟は部屋の隅に立てかけてあった古い銃を手に取る。
「まさかそれで戦場へ赴くつもりか?」
「だって俺の才能は戦いには向いて無いから....」
自殺行為だ。 銃は壊れやすく、弾の装填にも時間がかかる。 一発の威力こそスキルと肩を並べられるほどあるが、継戦能力はスキルの足元にすら及ばない。
「無茶だっ!」
「分かってるさ、兄さん」
なら、なんで...。
「なんで私を使わない!! そのためにッ...戦いの道具として、剣士である私を使えばいいじゃないか!!!」
ボアルを声を荒げるが、それを弟は笑みを浮かべて否定する。
「だって兄さん、人...殺せないでしょ」
それは酷く優しい思いやり。
「....ッ」
ボアルは言葉に詰まった。 今まで魔物を殺したことは何回もあったが、私は人をこの手で殺めたことは無かった。
「俺はあるよ、一度だけだけどね。 昔、小規模の戦争があったとき、後方支援を担当していた...彼女だった女性がいたんだけど。 運悪く、敵の偵察兵を見つけちゃってね」
「その時に....」
「うん、この手を汚した。 でも後悔はしてないんだ、守れたから」
その話を聞いた時、再認識した。
ここは既に戦場の一部となっていることに。
「...分かった。 母さんと父さんについては俺が見ている」
「助かるよ、兄さん」
その数日後、ヘルカ軍事国家の首都で大規模な戦闘が起こった。 ヘルカの首都を防衛するのは徴兵された民たちであり、本隊は敵国の首都へとカウンター攻撃を仕掛けた。
多くの犠牲者を自国に出しながらも、敵側に白旗を上げさせヘルカは戦争に勝利した。
ただ私にとって、この勝利は失うだけのモノだった。
「これを...首都防衛を担当していた弟さんの遺品です」
戦争終結から数日後...バレルが損傷し、撃てなくなった銃を国の従者が家にやってきて手渡した。 ボアルは銃を受け取ると、静かに涙した。
その時初めて、ボアルが自分でも気づかない負い目を、弟に感じていたことに気が付いた。
「なにが努力だッ!!!」
剣を鞘ごと地面に叩きつけ、泣き崩れる。
自分の剣に込めた誇りは安っぽく、ただ自分の夢の正当化の一環として付けていたモノに過ぎなかった。 その証拠に、私は守る舞台にすら立つことができなかった。
そして、駆け付けることすらしなかった。 自分の剣の誇りを思い返し、飛び出すことは自分の誇りでは無いと...自分の心に言い訳をし、私は逃げた。
「私は24年間ッ! あの国で何をしていたんだッ!!!」
24年間の想いが刹那、駆け巡った。 苦しかったこと、楽しかったこと、嬉しかったこと、寂しかったこと....そして、ずっと感じ続けた弟への負い目。
もし...誇りを別の形で定めていたら、私は動いただろうか?
初めから人を殺す目的で剣技を修練していれば、戦地に赴けただろうか?
「うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
自分の誇りとも呼べない醜いものは、非常な現実によって打ち砕かれ...
この日を境に私は
剣にどんな願いを込めればいいのか分からなくなった。
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【4年後...】
私は、ヘルカ軍の一大隊の隊長の座へとついていた。 両親を介護していくには、どうしても金が必要だった。 幸か不幸か、自分には金ノ上にまで上り詰めるほどの剣技の才があり、役職を命じられ戦場を取りまとめる人間になれるまで...そう長く時間はかからなかった。
戦場で空っぽの剣を振り続けながら考えた、誇りを直接的に定めていたのなら...私はあの時動けていたのかと。 もっと強くあることが出来たのではないか...と。
そしてようやく見えて芽生えた。
長年の硝煙と鮮血の舞う戦場で、初めて自分が誇りと胸を張って言えるもの。
誇りを『絶対勝利』とすること...。 一見狂ったような誇りではあったが、その効果は私のような...いや、剣士にとって効果は絶大だった。
度重なる戦闘に勝利し、勝利し、ただ勝利した。 敵の鮮血が己を染め上げても...誇りの絶対的な信念の元、私は敵を斬り続けた。
勝てなければ、何も得ることなどできはしない。
一度でも負けてしまえば、全てを奪われる。
これは剣士として生きながら、死から目を背けた自分への罰。
だから私は今一度据えるべきだ、心に剣士の正しきあり方を。
「剣を振れッ! 何も考えずただ敵を殺すことだけを考えろッ!!」
役職を持つ立場で、訓練をする自分の部下へ叫ぶ。 ボアルの、勝利の誇りへ身を燃やしたその姿はまさに鬼神であった。
「勝利だッ!! 我ら戦場へと赴くものが求められるものは、守護でも栄光でもない! 絶対的な勝利ただ一つだけだ!!」
自分の大隊に所属している剣士全員に向かって叫ぶ。
そして指を兵士向かって刺して問う。
「そこのお前、国を守るにはどうすればいいッ!!」
「ハイッ、勝利しますッ!!」
「ではお前ッ! 家族を守りたければどうすればいいッ!!」
ボアルが近場に居た別の兵士に指を指す。
「ハイッ、勝利しますッ!!」
「そうだッ、勝利は全てをもたらす! 下らない感情が、勝利を妨げるものであってはならない!」
「「「「「踏みつぶし、叩き斬れ!!」」」」」
訓練兵一同が叫ぶ!
「そうだッッッ! 剣士の誇りは、勝利だけでいいッ!!!!」
負い目は、敵の血と涙と恐怖によって歪められ変貌し...セブン国では、決して認められない最悪の領域へと昇華していた。
そしてふと、ボアルは思う。
この正しい考え方を、剣士の集うあの国へと
未来に残すために...伝えるべきであると。
「心に据え置くもので、人を斬れなければそれはただのゴミに等しい。 だからこそ、私の据えるこの誇りは、剣士を根底から強くするのだ!」
止めようとする家族の繋がりも...亡き弟の思いやりすらも...
私に届く必要はもう無い。
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【そして現在、セブン国内部:廃墟城内部にて】
「ボアル様、全ての魔力酒を同士に配給致しました。 いつでも決行できます」
月明かりに照らされていたボアルに同胞が報告しにきた。
「...先走った同胞達はどうなった」
「はい、執行隊に拘束されるか、その場で処断されたようです。 帰ってきた者は一人も確認できていません」
ボアルは一切表情を変えずに『そうか』と呟くと、再び窓の方を見つめる。
「必ず与えてやる、この国の剣士たちへ...正しき誇りというモノを」
ボアルの目に映るのは...月明かりの向こう側にある勝利だけだった。
==☆次回予告☆==
25話の閲覧お疲れさまでした。
今回はプチ話は無しです。
ボアルの過去回想編でしたがライトだかヘビーだがよく分らん感じになってしまいました。 14話だか15話だかの後書きに書いた『テーマに抱く想いの相違』というタイトルが、少し分かって来たんじゃないでしょうか?
ただ戦闘して終わりって感じのストーリー展開にはしたくないんですよね。
.....無意識のうちになっていたら『ごめん!!!』
次回、26話......この兄弟 面倒なり!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




