23話 さあ男よ 学ぶべし!
「......ですから! 何度言えばいいんですかっ!」
「だってもう眠いしさぁ...頭回んないよー、リリスせんせぇー...」
リリス先生に脅さ...すばらしい提案を受けて勉強をし、かれこれ数時間経過した頃。 流石に深夜過ぎて、夜空の眠気がピークに差し掛かってきていた。
しかし鬼教官リリスの前でウトウトしようものなら、膨れっ面をしながらハリセンで容赦なく引っ叩いてくる。 無慈悲すぎて泣けてくる。
「お前、教育者側に回ると豹変するな」
「そうですかね? 昔、カイル兄様にも同じこと言われたのですが、よく分りません」
カイルも餌食になってたのか。
...いやアイツだったら、ただのご褒美だな。
「お前は未来永劫、学校の先生という夢は絶対抱くんじゃねーぞ」
「私、剣士ですけど...」
リリスがなんでそんなこと言われるのか、本当に分からないような顔をしながら、なお授業を止めようとしない。 俺はもう怖いので止めることすらできない。
理由なんか、俺の足元で散らばってるバラバラになった花々を見れば分かるだろう。
【摘み】という単語は、こういう時に使うのが適切なんだと知った。
「はぁじゃあ簡潔にもう一回言いますからね? 同時に、さっきまでのおさらいテストしますよっ」
「oh...OMG」
夜空の絶望を無視して、リリスは笑顔で話し始めた。
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リリスはスキルについて再び簡単に説明し始めた。
「私たちは、スキルと言われる力を使ってそれはもう色んなことをしています。 それは流石に説明しなくても大丈夫ですね?」
夜空は声を出さず頷く。 さっきまでの睡魔地獄は『他国ではスキルをこんな感じで使用していますっ』という授業が、大半を占めていたので流石にもう勘弁...。
今から再び繰り返されれば、夢の世界にダイブするだろう。
「スキルには大きく分けて、2種類あります。 さて夜空さん、先ほど説明しましたよねっ?」
言えってことかい.........あぁ眠い。
「はい先生、物理系統と魔法系統の2種類です」
「よくできましたっ!」
えらいえらいと夜空の頭を撫でてくるリリス。
眠いからマジで止めて欲しい、冗談抜きに眠ってしまう。
「では七式剣技はどちらに入りますか?」
「基本、物理でーす」
正解だったのでリリスがニコッと笑う。
天然のあざとさって奴だろうか、テルテルなら今ので堕ちてるだろうな。
「では夜空さんの...えーと、ハイパーウェーブでしたっけ、それはどちらに入りますか?」
「魔法でーす」
正直これにはびっくりした。 イェーガー吹っ飛ばしたりしてたし、完全に物理の動きだった気がしたんだけど...普通に勘が外れた。 本来の機能は、破壊性のある音波を放射すること...多分だけど、0距離発射による反発効果は副作用なんだと思う。
スキルの別の使い方って奴だろうか?
「ここら辺の理解は大丈夫そうですね。 では次です、スキルの使用には限界があると思いますかっ?」
「使用者のスタミナ切れが、実質的な使用限界でーす......」
スキルを使うと体力を使う。 小規模なスキルを使えば少し消耗し、大規模なスキルを使用すれば同様に体力を大きく消耗する。
彼らの言う【才能】というモノは、このスタミナの消耗を、通常よりも抑えてくれるスキルのことを言うそうだ。 性能自体はお気持ち程度上がるが、驚くほどの差はないらしい。
リリスの場合は、才能で表記されたスキル『パワーアップ』がスタミナ消費を抑えて使うことができる...みたいな感じだ。 イスカルに関しては、あくまで考察の範囲を出ないけど、重力系統のスキルのスタミナ消費が抑えられてるんだろう。
聞けば聞くほど、俺この天賦いらねぇ...と思ってしまう。
3つの取得制限に加え、不具合による反動の恐れ...挙句の果てにスキル枠が4つしかない。 神様はもう少し、俺に優しくしてもいいと思う。
「よくできましたっ!」
えらいえらいと夜空の頭を撫でてくるリリス。
本当にやめてくれ...眠るからマジで。
「スキルが魔力を消費...って言ってもここら辺は、学者さんとかが触れる範囲なので、知らなくても大丈夫です。 知りたければ、そういうテーマの国に行ってみて下さいねっ!」
「結構でーす」
もう結構情報過多なのに、これ以上ワチャワチャ言われても処理できない。
「むぅ。 少し位興味をですね?」
「結構でーすッ!!!」
リリスは強すぎる主張に、若干引きながらしょんぼりする。
「まぁいいです。 では最後です」
やったっ! やっと終わる!
夜空は内心のガッツポーズを隠しながら、笑顔で受け答えをすることにした。
「スキルの進化についてのテストですよっ! スキルが進化する際、一番最初に通過する進化の名称はなんでしょうかっ?」
「....は、はぇ?」
やべぇ...さっきの説明全然聞いてなくて一切分からん。 補習とかマジ勘弁、ここで答えねば俺が睡魔で死ぬことになってしまう。 睡魔で死ぬことは俺の頬がハリセンで死ぬことと同義だ。
そんな様子を察したのか、リリスが笑いながらにハリセンを手にポンポンと叩いている。 まるでいつでも叩けるぞと、言っているかのようである。
「えーと、えーと、え―――と、し、進化型だったかな....」
悩みに悩んだ末、夜空は答えを口から絞り出した。
「まぁいいでしょう...簡単にもう一度言いますね。 スキルを沢山使用しているとスキルが進化します。 進化のプロセスは【進化型】⇒【覚醒型】⇒【聖王型】という形で、3段階の進化が用意されています」
「.....はい」
解説ありがとう、でもすまんリリス。
俺、天賦の不可項目のせいでスキル進化しないんだわ...。
あともう既に、眠気が限界に近いから...頼むから早く終わって...。
「聖王型を魔王型という別称で呼ぶ地域や人もいるとか、いないとか...」
「へー...」
ヤバい...流石に眠気が...げん..かい...。
Zzz...Zzz...。
「進化型には【派生型】といわれる変質的な...って聞いてます夜空さん?」
話の道中で寝てしまった夜空を、無慈悲にハリセンを使って起こそうとするが。 リリスが時計を確認して...ハリセンを使うのを止める。
(流石に3時過ぎじゃ、無理も無いですよね...)
リリスは心の中でごめんなさいと思いながら、夜空を自分のベッドまで運んで行き、そこで寝かせる。 運ばれてもスヤスヤと静かに寝息を立てながら、夜空はベッドの上で動じず眠り続けていた。
「私...どこで寝ましょう...」
埋まった自分のベッドを見ながら立ち尽くすリリス。
夜空さんを少し横にずらせば、寝られそうではありますけど...。
「全く、しょうがない人ですねっ」
そういいながらリリスはベッドに腰掛け、眠る夜空の頭を優しく撫でる。
「私たちは....パートナー...ですから」
そういいながらリリスは覚悟を決めて、夜空の隣で寝転んで目を瞑った。 ピュアなリリスは男の人と並んで寝たことなんて無い。 名家の娘であるが故、家族の男と隣合って寝たことすらない。
ましてや...殿方とのお付き合いなんて、もってのほかである。
(あわっあわわわわっ!)
リリスは今日一日の自分のはしゃぎっぷりを思い返して、アレって噂に聞く...デートという奴なんじゃないかと、顔を真っ赤に染める。
(そういえば、夜空さん...私のこと好きって...///)
(嘘とも言ってましたが...それが嘘という場合も...っ!!)
~~~~っっ!!!!
リリスは爆発するんじゃないかというほど顔を赤くして、足をバタバタさせ悶える。 もはや恥ずかしさで寝るどころでは無かった。
リリスはチラリと夜空の顔を見ながら
「夜空さんは今は大事な私の友達です。 男性として見るとかは絶対、...ぜーったい無いんですからねっ」
自分の心を落ち着かせるように呟いた。
そんなリリスを窓の外から...シスコン兄貴はずっと見ていた。
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翌朝....夜空は見慣れぬ天井で目を覚ました。 窓からこぼれる朝日が顔を照らし、非常に不愉快である。 そしてなんか異様に体が重い。
「ふぁぁ~...んぁ? なんでリリスが体の上に乗ってるんだよ」
夜空の目線の先には、うつ伏せで抱きつくように夜空にかぶさるリリスの姿があった。
「リリスが力強すぎて動けないんだけど」
「むにゃむにゃ...はんざいしゃさん、にがしませんよぉ..zzz...」
寝言を言いながらかすかに笑うリリス。 街の警備として活躍する夢でも見てるのだろうか。
というよりも...
「この状態、カイルに見られたら即刻処分されかねん。 早いとこ脱出を......」
そう思い、おもむろに窓から外を見ると....
鬼形相のカイルが、こちらに弓のようなモノを向けながら木にぶら下がっていた。
あっ、終わった
「ここ...剣技の国だろーが」
弓を構えるカイルが打ってこないのは、リリスが居ることと、屋敷の窓が割れたらあの親父さんに拳骨をぶち込まれるからだと思う。
「全て何も見なかったことにして二度寝するか」
悩んだ末、夜空は何もかも放置することにした。
...それからお互いにそのままの体勢から数十分が過ぎ、リリスの母親が部屋にリリスを起こしにやってきた。
「リリス~、いつまで寝てるの? 早く起きなさい~」
「..........ッ!?」
そのまま、部屋に入ってきたリリスの母は...その場の様子を見て硬直し。 スヤスヤと眠る夜空の顔面に、黙って平手打ちを数回ぶち込んだ。
夜空の悲鳴によって、リリスが飛び起きたことは言うまでもない。
「あの...本当にごめんなさいね? 痛かったでしょ?」
「全くだよッ!! せめて事情聞いてから殴れッ!!」
拳骨目覚ましで寝起きを襲撃された夜空は激怒していた。 頭を下げながら謝る母親の後ろを、リリスは隠れながらヒョコヒョコついてくる。
しばらく廊下を歩いていると、何故か泣きながら拘束されたカイルがその場に転がっていた。 近場にはリリスの親父さんが木刀を持って、息を切らしていた。
夜空とリリスは、なんか察しがついたようにカイルを見る。 事情が呑み込めないリリスの母親だけが、親父さんに話を聞く。
「何があったのかしら?」
「この阿呆がいきなり、夜空君を八つ裂きにするとか言いながら屋敷に飛び込んできた。 故に木刀で少し制裁を加えただけだ」
「あ、アホすぎる...」
夜空はカイルを見下ろしながら呟いた。
「貴様ァ! よくもリリスとォッ!!!」
どこまでもぶれないシスコン兄貴を無視し、使用人の休憩所で朝食でも貰おうと歩き出す。 だがその歩みをリリスの母親が夜空の肩を触って止める。
「えーと、どうしました?」
「...お詫びに一緒に朝食でも食べませんか?」
そう言ってきた。
長テーブルにセブンティア家の面々と夜空が座る。 場違いすぎて痛くなってくる胃を抑えながら、食事を待っていると...机の下でカイルが足を踏んずけてきた。
夜空は対抗で脛を蹴り飛ばすと、カイルがこちらに並べられているデザートナイフをこちらに投げようとして、再びリリスの親父に拳骨される。
「父上ッ! この数日で拳骨しすぎでは!?」
「カイル、お前が悪いだろう...。 夜空君すまんな、朝から」
なんてできた親父なんだ。 流石は元王族...どっかのオニキスのクズ共に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいもんだ。
「いえいえ、気にしないで下さい」
「元はといえば...貴様が我が妹を狙ったのが発端だろう」
懲りないカイルが呟いた一言に、流石に夜空が言い返す。
「はいっ残念でした、俺はロリコンじゃねぇんだよ!」
子供扱いされたリリスが一瞬ピクッと反応するが、すぐに冷静になる。
「わ、我が妹が可愛くないとでも!?」
「可愛いって言ったら言ったで、お前めんどくせぇじゃねぇか!!」
「止めんかっ!! 朝からみっともない!」
自然と喧嘩になった二人に拳骨が落とされる。
「「ギャ―――ッ!!」」
拳骨によってテーブルに伏したバカ2人を見て、リリスが滑稽そうに声を出して笑う。 そんなリリスを両親が微笑ましそうに見ていると...
「お話し中、申し訳ありません旦那様。 朝のお食事の用意が整いました」
「あぁ、用意してくれ」
「かしこまりました...直ちにご用意させて頂きます」
こういう会話を見ていると、本当に異世界なんだなと実感する。
「どうしたんですか夜空さん。 不思議そうな顔で」
そういえばリリスには勇者であること言ってなかったっけ。
「いや、異世界なんだなと思ってね」
「??」
リリスは異世界の意味が分からないように首を傾げる。
「夜空さんって本当に東のどこから来たんですか?」
「ずっと遠い場所だよ。 そして今は帰れない」
使用人の人たちが、全員の前に料理を並べていく。 貴族は朝からこんな豪華なモン食うのかってほど、綺麗で小洒落た料理がズラリと並ぶ。
「.....わーお」
「貴様平民だったろ、顔に書いてあるぞ」
カイルが夜空の目を見ながら言ってくる。
「確かに俺は平民みたいなモンだけど、多分お前の知らない美味いモン沢山知ってるぞ」
夜空は続ける
「そうだな、例えば...中華料理とかな」
ラーメンとか餃子とか...多分この世界にはないだろうし。
「チューカ料理?」
そんな雑談をしながら、滅茶苦茶美味しい朝食を平らげていく。
しばらく食っていると、剣術研究特区の方から大爆発が起こった。 爆発音は少し遅れて屋敷にまで届き、窓を少し震わす。
「「「「!?!?」」」」
食事をしていた全員は驚いて、窓の外を見る。
と同時に、屋敷の外から執行隊の一人と思われるローブをつけた男が走ってきた。 男は見事な運動神経で、屋敷を囲う柵を素早く乗り越え、カイルの近くにやってきた。
「あっ! カイルさん、朝からすいません...緊急事態ですッ!!」
「なんだ騒がしいな」
その場の全員は会話に耳を傾ける。
「剣術研究特区で乱闘騒ぎです。 一般人にも既に被害が出ています!」
「その場に居合わせた剣士たちは何をしてるんだッ!」
男のローブは、既に戦闘をした後なのかボロボロになっていた。
「それが...乱闘騒ぎの主犯格なのは銅や銀の階級なのですが。 銅階級とは思えないほど、尋常じゃない強さがありッ!」
「すいません父上」
「よい、街と民を頼むぞカイル」
「はい、行ってまいります」
カイルは使用人が慣れた感じで持ってきた、黒ローブを羽織って直ぐに出て行った。 そんなカイルの姿を、リリスは酷く心配そうに見つめていた。
そんなリリスに夜空は呟く。
「再戦は、思ってる以上に早そうだ」
リリスは決意したような目で、黙って夜空の言葉を聞いていた。
==☆次回予告☆==
23話の閲覧お疲れさまでした。
今回のプチ話はスキルの使用限界についてです。
この世界(夜空達が今居る世界)ではスキルというモノがあり、それを使用するとスタミナが削られます。 このスタミナの上限は、地球でも行えるような体力づくりで増えていきます。 運動神経がいい人はそれだけ沢山スキルを使えるって事です。
逆に夜空みたいに日頃動いてないと.....限界が結構近くなります。
また、強力なスキルや効果範囲の広いスキルに比例してスタミナの消費量も上がっていく傾向があるようです。
次回、24話......そのシスコン 国を守りて!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




