22話 その少女 危険につき!
「どんな願いを込めたのか言ってくださいよっ!」
買い物を終え、大通りを一緒に歩くリリスがねだるように、剣に込めた願いを聞いてくる。 誇りをこんな大通りで語るとか、羞恥プレイもいい所である...だから夜空はだんまりを決め込んでいた。
「秘密だって言ってるだろさっきから......いい加減しつこいぞ」
「むぅ。 けちんぼ」
リリスが頬を膨らませるが無視する。
しかし、リリスの戦闘準備はこれでいいとして問題はまだある。 最優先すべきは俺の戦闘面...では無く、実際にイェーガーとリリスが戦う場所だ。
こんな大通りで戦うことになってしまったら、前回の敗北の二の前になってしまう。
「なぁリリス、人気の無いデカい空き地とかって知ってるか?」
「空き地ですか? う~ん、剣術研究特区の北から東側にかけて、大きな川が流れてるんですけどね? その川からさらに東側は実践訓練...なんといいますか、基本的な剣士の動き方を学ぶ場所として、森がそのまま残されてるんです」
正直、剣術と剣技では素人的にあまり違いが分からないのだが...こういうときに、ウィキペディアが本当に欲しくなる。
「じゃあ、魔物とかも居るのか?」
「はいっ! といってもそこまで危険な魔物は、出ないように、執行隊の皆さんが定期的に管理はしてるみたいですけど」
魔物ねぇ...正直言って、まだ出現のアルゴリズムとかよく分ってないんだよな。 分かったところで、何になるんだって感じではあるんだが...。 いつか、時間が出来た時にでも調べてみるか?
「とりあえずついてきてくれるか? 俺一人じゃ魔物に食われるかもしれないから」
「は~い、ちょうどこの剣も試したかったですしっ!」
「剣を? そんなもんなのか...?」
「ふふんっ! 前は曲芸なんて言われましたから、汚名返上チャンスですっ!」
まぁリリスになら、別に天賦を見せても大丈夫だろう...。 最悪驚かれそうになったら、未知のスキルだよって言えば、リリスだけなら騙せそうな気がするし。
...こうして俺たちは、実践訓練場と言われてる森にやってきたのだった。
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「ふむ...5点ですっ!」
リリスが満点の笑顔で厳しい事を言ってきた。
「ちなみに何点満点?」
「100点に決まってますよ」
夜空は森に入る前に、リリスに最低限の剣術を習おうとしたのだが...。 完全に藪蛇だったと、本気で後悔していた。
流石、12歳にして銀ノ上まで上り詰めただけのことはあった。 剣に関しては、普段の性格から結構変わる...その厳しさは、イスカルの剣術指南とタメを張るレベルだった。
「まだ私、スキル使ってませんよっ! 立って下さい、まだまだ続けますよっ!」
「待って...待って...、運動不足の体にこのハードトレーニングはキツすぎる」
リリスは夜空に近づく。 そのまま休ませてくれるのかと思いきや....
「立って下さい! まだ何も始まってませんよ?」
リリスは笑顔で鬼のようなことを言ってきた。
「はぇ?」
子供の遠慮の無さって、ここまで容赦ないものだとは知らなかったなぁと、考えた夜空がこの先、過呼吸でぶっ倒れたことは想像に難くないだろう。
「さぁっ! 行きますよ~、子供のころからここには遊びに来てますから、ガイドは任せてくださいっ!」
張り切るリリスの後を、夜空はフラフラしながらついて行く。
「じゃあ先生、まず休みたいです」
「ダメですっ! 今日は魔物を3体倒すまで、絶対生きて帰らせませんからねっ!!」
この銀髪少女怖い。 剣だから真剣なのかと思ってたけど、リリスって純粋に鬼教官の素質絶対あると思う。
「それってさ...狼みたいな奴だったりする?」
夜空が恐る恐る聞く。
正直あの狼には苦手意識があるので、あれが相手なら逃げようと決意した。
「パニックウルフの生息域は近いですからね、良く知ってますね.....って、あれ?」
その場にリリスを残して夜空は一目散に逃走した。
しかしリリスはスキル『パワーアップ』を使用し、自身の身体機能を一段階強化し...余裕で夜空に追いつき、回り込むような形でストップさせる。
「フフフ、逃がしませんよ~」
手を広げ絶対逃がさないという意志を見せるリリス。
クソッ目をキラキラさせやがって。 俺の全力の命乞いを食らえっ!
「ひぃッ! 許してくれよリリスゥ、俺アレには苦手意識が」
「ダメですっ♡」
「あの...い、いやマジで...」
「ダメですっ♡」
「あぁ...止めろ! ゆっくり近づいてッオイッ、襟元掴んでどうする気だよ!」
「頑張りましょーね夜空さん!」
「ひっ! 助けてテルテルッ。 俺はやりたくないッ、あぁ...嫌だァァァァァッ―――!!!!」
身体機能を強化したリリスに、情けなく力で敗北した夜空は襟元を掴まれ...そのまま森の奥へと、ずるずると引きずられて行った。
俺はこの時、もう二度とリリスに剣術指南は頼むまいと...強く決心した。
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尻尾に赤い玉をつけた狼たちが、夜空に向かって威嚇している。 夜空はほぼ貰ったと同じようなショートソードを腰の鞘から引き抜き構える。
肝心の銀髪先生はというと
「頑張ってくださいね~」
「チクショ――ッ!!」
木の上からこちらを笑顔という名のスパルタでこちらを応援していた。
「怪我したらどう責任とるつもりだよッ!」
夜空のそんな言葉を予知していたが如く、リリスは懐から試験管のような、ミニサイズの赤いポーションを取り出す。 ポーションにはG1と書かれたラベルが張られていた。
「これを傷口に塗れば擦り傷位、簡単に消えるので安心してくださいっ!!」
「擦り傷で済むわけねぇだろ――――ッ!!!」
狼と追いかけっこしながらリリスに向かって大声で叫ぶ。
殺されかけたあの夜の出来事があるせいで、あの狼型の魔物が怖くてたまらない。
「剣を振るんですよーっ! パニックウルフの頭らへんに剣をビュンッって落としてくださいっ!」
「無茶言うなボケーッ!!」
追いかけっこをしている内に、何故か俺のケツを追いかける狼...パニックウルフの数が2体に増えていた。
「私だって昔、同じような訓練を、剣を習っていた王家のお抱え剣士の方にさせられました。 だから大丈夫ですよ~っ!」
お前らとは基本スペックが違いすぎると言ってやりたい。
無論俺が悪い方での話だ。
「ひいいいっ! 狼増えてるんですけどッ! なんか増えてるんですけどッ!!」
夜空は半泣きになりながら、リリスに向かって助けを求める。
「助けてリリスゥ!!!」
「ダメです、限界まで頑張ってくださいっ!」
鬼である。
「あぁぁ、噛まれるゥ!!!」
ジグザクに逃げていると....。
一匹のパニックウルフが転び、それに一瞬追っていた狼がたじろぐ。
今しかないッ!!
夜空は躊躇なくパニックウルフの体に刃を叩きつけ倒し、近場で起き上がろうとしているパニックウルフを、蹴り飛ばして木の幹へと叩きつけてから首元を突き刺して殺害した。
「そうだ、スキルを奪らなきゃ」
疲弊した夜空は久しぶりに天賦を使用し、死んだパニックウルフのスキルリストを開く。
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★個体名:パニックウルフ
★固有名:なし
★保有スキル名
・隠密移動
・パニックボール
・牙強化
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うーんゴミ。 じゃあこっちはどうだ?
夜空は天賦の使用を切り替え、もう一匹の狼へと変更する。
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★個体名:パニックウルフ
★固有名:なし
★保有スキル名
・隠密移動
・パニックボール
・暗視
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うーん、微妙だな。 パニックボールとかあの赤い玉のことでしょ....故に入手不可。
夜空は、半ば諦めながら文字をなぞって奪おうとして見るが...
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*警告* スキル習得失敗.....天賦の不可項目に抵触しました。
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でしょうね、明らかに不可項目に抵触してると思ったわ。 多分だけど【その生物の身体的特徴を使用するスキルの使用不可】に、抵触してるんだと思うけど...。
本当に不便な力だと改めて再認識し、パニックウルフの死骸から何も奪わずに、天賦の使用を終了する。
「夜空さん、今のスキルですか?」
「あぁそんなモンだよ」
ジト目でこちらを見つめてくるリリス。
俺なんかしたっけな...と首をひねる夜空。
...思い当たる節が多すぎて逆に考えつかない。
「私、夜空さんのこと何にも知りません...」
「自分のことを他人にベラベラ喋りたくない性格なんだ。 それに赤印なんて、この世界じゃロクな目に合わないことぐらい知ってんだろ」
「パートナーとして、いつかは話してもらいたですけどね?」
そういえばそんな契約だったな。 忘れかけてた。
「アハハハハッ、よしっ、じゃあ帰るか!」
一仕事を終えた夜空は笑いながら帰路に...つけなかった。 再びパワーアップで自分を強化したリリスは、がっちりと夜空の肩を掴み逃がさない。
「ノルマまで、あと一匹ですが?」
リリスはもう笑ってなかった。
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「ハァ、ハァ...もう無理動けない」
再びの鬼ごっこの末、ギリギリ勝利した夜空は地面に寝て動けなくなっていた。 寝ながら死骸の方へと手を向け、天賦を使用する。
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★個体名:パニックウルフ
★固有名:なし
★保有スキル名
・隠密移動
・パニックボール
・野生の勘
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一番下の『野生の勘』ってなんだ。
夜空はプレートの文字を指でなぞりスキルを奪い取る。 体が一瞬、ズンッと重くなりすぐに戻る。 どうやら不可項目には抵触せず奪えたようだ。
使ってみるか。
「スキル『野生の勘』」
一瞬だけ視野が狭まり、自分の正面右側の方から嫌な感覚を感じた。 そしてその数秒後、その場所からパニックウルフが草木をかき分けて現れた。
これ凄いな、これといって目立った反動もなさそうだし。 肝心のスキルの内容に関しても、かなり有能なスキルそうだ。
やっぱり狼って、どこでも最強なんだなと一人で納得していると。
「実力はまだまだですが安心してくださいっ! 私が立派な剣士にしてみせますからっ!」
リリスが、木の上からパニックウルフを追い払って夜空に近づいてくる。 いつの間にか辺りは夕方になっており、カラスのような鳥の鳴き声が聞こえ始め...夕日は木々の葉を赤く染めていた。
あと、俺は別に剣士になりたいなんて言った覚えは無いんだが...。
否定したらしたでめんどくさそうなので、もう何も言わないけど。
疲れて思考が働かなくなっていた夜空は、道中のリリスの話を適当に聞き流しながら、屋敷へと一緒に戻って行った。
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そして夜も更けた頃....
「さあっやりますよ!」
「俺、今から寝るんだけど」
流石に家の主たちと肩並べて飯食う訳にもいかなかったので、使用人たちと食ってから風呂に入り...そのままの流れで就寝しようとしていた夜空を止めたのは、ノートとペンを持ち、メガネをかけた学校の先生風のリリスだった。
「さっき帰ってくるとき言ったじゃないですか。 スキルの基礎について教えてあげますって」
夜空はさっきのスパルタを思い出し、青ざめる。
「バイバイキーン」
夜空は、某食パン仮面アニメの名セリフを口にしながら、即座に旋回しその場を去ろうとする。 それを少し離れた所に居た、リリスの親父が止める。
「リリスの親父さん、なんで...」
「娘をあんなやり方で立ち直らせれば、親として文句の一つでも言いたくなる」
「だからって、こんなの...人道に反する拷問だ...」
夜空は涙ながらに訴えかけるが、親父は首を縦に振らない。 まるで何があったか、分かったような目をしている。
「リリスと同階級に属する、同じ12歳の男子がいるという話は聞いたか?」
「えぇ、リリスが言ってましたが...それが?」
「その子はな、考えなしにリリスに剣を教えて欲しいって言ってしまってな」
「あっ」
もうなんか察した。
可哀想に、銀階級に上がるまで訓練させられたのか...。
「その子は今でも、特訓していた約1年の記憶がトラウマだそうだ」
親父さんは遠い目をしていた。 そして話をしながら、夜空が逃げられないように強めに抱きかかえる。
「や、やめっ...」
「夕食時、リリスが嬉しそうに君に勉強を教えると言っていたよ」
あぁ...その時の全員の表情が目に浮かぶようだ。
「...あの、命惜しいんで放してくれませんか?」
「地獄を見てくれ夜空君」
そう言いながら、リリスの部屋へと連れて行かれる夜空は......放心するだけで、もはや悲鳴すら上げる気力なんて無かった。
リリスの部屋、もとい拷問部屋に連れてこられた俺は鬼教官によって、即座に椅子に縛り付けられて座らされる。 どこからともなく動く黒板のようなモノをもってきて、チョークを使って色々と書き始める。
夜空はこの隙に、ロープをハイパーウェーブで切断して脱出を試みるが...。
【ヒュンッ!】
という軽い風切り音の後に、近場に飾られていた花瓶の花が切断され...地面にポトリと落ちた。
「私耳がいいんです。 一瞬...ロープを切る音が聞こえたのですが、...........何か知りませんか?」
顔を近づけて聞いてくるリリス。 笑っているが、逃げたら殺しちゃうぞ♡という声が聞こえてくる気がする。
マジで怖い。 これはダメだ、逃げたらポトリと俺の首が落ちそうだ。
「何も知りませんリリス先生」
「よろしいっ! お勉強を始めましょうっ!」
夜空は遠い目をしながら天井を見つめ
今日寝れるかな...と、素直にそう思った。
==☆次回予告☆==
22話の閲覧お疲れさまでした。
今回の話は個人的に書いてて凄く楽しかったです。 次回はリリスとのお勉強会です、夜空の悲鳴が聞こえますね?
今回のプチ話は『野生の勘』について
自分に降りかかる不幸を虫の知らせのように感知します。 しかしあくまで勘なので、あてにしすぎると痛い目を見ますし、そもそも感知できない時もあります。
次回、23話......さあ男よ 学ぶべし!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




