21話 その混乱 火種となり!
「....また一人、執行隊の連中に拘束されたか」
胸元に金ノ上の階級章をつけた男がため息をつきながら、机を囲む同志達に愚痴を零す。 リーダーと思わしきその男は頬に縫い傷があり、死線を何度も潜り抜けてきたような修羅を感じる。
ここはどこかの建物の地下室...彼らの密会場所である。
「それでボアル様...例の件どうなりました?」
「あぁ無論入手した。 一応これはサンプルだが、見ろ...この輝く酒を」
そういって机の下から取り出した【魔力酒】とラベル書かれたソレは、神秘的な薄紫色の輝きを液体に宿していた。
「おぉこれが西の大陸...造酒の国の最高傑作!」
「しかし良く手に入りましたね。 あの地は、はた迷惑な近隣国と最近召喚された勇者のせいで、情勢が引っ掻き回されていたと聞いていたのに」
「苦労はしたさ。 昔のツテを使ってブローカーとの裏取引...通常の値段の5倍で何とか1樽手に入れたが、その値段分の価値は確かにあった」
ボアルと呼ばれた男は続ける
「スキルの強制強化、これで我々は剣技の更なる高みへと上り詰めることができる...」
その言葉に周囲の同志たちが沸き上がる。
「剣士にとって重要なのは何かッ! 常に勝利だけを追い求める精神ッ、それこそが正しき誇りの在り方だ!!」
「だが現実はどうだ! 勝利を! 夢を! それらを追い求める男たちを、年齢というつまらん概念で排斥し、それを否定すれば、奴らなりの誇りという都合的な言葉で納得させる」
その場に居る全員、同じような経験や思いがあるのか、頷き賛同する。
「今一度考えさせるべきだッ! 誇りの正しき在り方をッ! 勝利を追い求める権利は、年齢で国が判断すべきことでは無いということを、この力をもって証明してやるぞ!!」
ボアルと呼ばれた男は魔力酒の瓶を上に掲げて叫ぶ。
狭い地下室が男たちの賛同の叫びで埋まっていく。
セブン国に不穏な空気が動き始めたのだ。
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【一方その頃...夜空は】
「さぁ行きますよ夜空さんっ!」
「はしゃぐなお前、さっきからテンション高すぎだ」
昼飯を済ませた夜空とリリスは二人で剣術研究特区に出かけていた。 屋敷を出る前に、カイルに妙なことをしたら殺すと、かなり強く念と怨をぶつけられたことを除けば特に問題は無い。
やたらリリスがテンション高いけど。
「なんでお前そんな嬉しそうなんだよ」
「だって私、今までお友達とこうしてショッピングなんてしてこなかったんですっ!」
「友達って誰のことだよ」
夜空は心底不思議そうな顔で問うと、リリスが泣きそうになる。 と同時に、辺りの人間の目が厳しいものに変わる。
「私たち...お友達じゃなかったんですか...?」
「ワー、オレタチトモダチー!」
半ば言わされるような形でカタコトで言葉を投げ返した。
嫌われるよりマシではあるが、ここまで懐かれても正直疲れる。
こんな銀髪美少女に懐かれて、嫌だとか...テルテルが聞いたら俺を軽く殺しそうだ。 我ながら贅沢な悩みだとは思うが、疲れるもんは疲れるのでどうしようもない。
目線の先では八百屋のおじさんに何を言われたのか、リリスが顔真っ赤でこっちを見ながら否定していた。 悪口でも言ってるんだろうか....でもそれだったら肯定してると思うし。
(どうでもいいか)
夜空は、自分が嫌われ者であると再認識してから再び歩き始めた。
「こっちです夜空さんっ!!」
逃げられないよう手を引かれながら歩く夜空を、貴族の息子と思わしき人たちが恨めしそうな目で見てくる。 正直勘弁して欲しい、俺悪くないでしょコレ。
それにそもそも、剣技や剣術のノウハウが無い俺と剣買いに来ても、まともに助言出来るとも思わないのだが...。 どこぞのシスコンとか、そこら辺にいる貴族の息子とかの方がまだ良さそうだ。
道を歩いていると、今朝方..親父に言われてリリスに渋々会いに来ていた男と出会った。 男は先ほどまで剣技の鍛錬に励んでいたのか、左胸に階級章を着け、服はそれっぽい恰好をしていた。
「あぁ今朝の...これは奇遇ですね」
「あぁどうも」
一緒に居るリリスに目をやり、一瞬だけ不思議そうな目を向けるが、すぐに優しそうな目に戻し、口を開く。
「なるほど...後の関係性ばかりを重視する連中より、マシかもしれませんね」
「オイ待て、変な誤解と納得をするな。 それよりも少し時間あるか?」
夜空は男へと助け船を要求することにした。 その間にリリスは、近場に会った刀剣販売店に先に走って行ってしまった。
「なんでしょう?」
「剣を買いに無理やり来させられたんだが、生憎ノウハウが無くてね...どんなものを選んだらいいと思う?」
男は目を丸くし笑う。
「一緒に居る方がリリス様なら、多分大丈夫ですよ」
「えぇ...」
「それ男女の駆け引きを邪魔するほど無粋じゃありませんよ。 では~」
駆け引きってやっぱコイツ誤解してやがる!
「オイ待て! 誤解すんな善人ボケッ!!」
「ではでは~」
そのままそそくさと走って行ってしまった。 結局、何の成果も得られなかったことに少し落胆しながら、刀剣販売店へと入ってみる。
中にはずらりと様々な種類...剣や大剣、サーベルやバスターソード、短剣、双剣、ショートソード、ミドルソード、ナイフ...投げナイフ...ect。 流石は剣技の国といった所か、他国から輸入していても相当な種類の剣が用意されていた。
「先に言っとくが俺は金無いからな」
「知ってますよ...誰が夜空さん捕まえたと思ってるんですか?」
「もうそれは忘れてくれ...」
いつまでつつかれるのかと頭を抱える夜空を片目に、リリスは可愛く鼻歌を歌いながら剣を選んでいく。
「店主さん、少し振ってみてもいいですか?」
しばらく見定めたリリスが、剣を手に取りながら店主に問う。
「あぁ」
リリスの声に寡黙な店主が反応する。 リリスは、気に入った片手剣を鞘から取り出して、店内の中に用意された、素振りをするところで実際に振って確認している。
なるほどね、服屋の試着みたいなことも一応できるのか。
しかしリリスの選ぶ剣はどれも、リリスの現在の体つきでは少し重そうなモノばかりだった。
「なぁ、もっと軽めな...軽量の剣にした方がいいんじゃないか?」
「あぁ、そういえば言ってませんでしたねっ!」
そう言うとリリスは自慢げな顔で続ける
「セブンティア家の人の【才能】のほとんどがスキル『パワーアップ』なんです! ふふ~んっ、すごいですよねっ!」
そういえば、一般人は天賦が才能に変わってて、その才能で表記されるスキルは通常に比べて使用効率がいいんだっけ。 才能って血筋に影響あるのか...知らなかった。
正直、ここら辺の世界のルールはたまに分らなくなる。 ただでさえ、青印とか赤印とか...くっだらない要素もあるのに。
「すげーすげー、そういえばリリスって青印なのか?」
夜空は動揺を悟らせないように、後ろを向きながら世間話の一環として聞いた。
正直、今の今まで確認するタイミングが無かったのもあるが。 この国に差別の様子が見られなかったから様子を見ていたのだ。
「青印? あぁ南の大陸全土は、そんなこと気にしないので考えたこともありませんでしたっ!」
「えっ? 排斥文化無いの?」
正直、拍子抜けだ。 リリスの態度からも嘘を言ってるようにも見えない。
「夜空さん、もしかして東から来ましたか?」
「まぁ...そうだな」
「なら無理も無いですね、東大陸と北大陸に関しては、未だに排斥主義文化が根強く残ってますから。 南に関しては共生文化に変わっていて、西は半々くらいだった気がします」
流石は貴族の娘、よく教育されてるみたいだ。
「中央大陸は?」
「さぁ、南から中央大陸へはアクセスできないのでよく覚えてません...」
ごめんなさいと頭を下げるリリスは、何か気づいたように恐る恐る、頭を上げながら聞いてくる。
「もしかして、夜空さんって...赤印だったり?」
「言ったろ、お前より怖い奴に殺されかけたって、察してくれ」
その言葉を聞いたリリスは本気で同情するような目を浮かべ、頭を下げてきた。
「すいませんっ! 命からがら逃げてきた街であんな仕打ちをっ!!」
「止めろ! 別にお前は間違ったことしてなかったんだから謝んな!!」
100%こっちの過失なんだし、謝られても良心が痛む。 それに理由がどうであれ、人を蹴落としてやってきた俺はクズだ。
二人の間に微妙な空気が流れる。
そんな空気を察した店主が近づいてきて、夜空に一枚の紙を渡してきた。
紙には...
【なんでも武器を一本プレゼント! あんまり高いのは遠慮してね♡((´∀`*))】
と恐らく店主が、即席で書いたであろうヘタクソな文字と絵が書かれていた。
「ナニコレ」
「あっそれは、店主さんの幻のプレミアチケット!! 良かったですね夜空さんっ!!」
どうやらレアチケットらしい。 どうみても同情からの即席チケットなんだが...まぁくれると言うなら遠慮なく貰っておくことにしよう。
「リリスなんかこれで買うか?」
リリスは首を横に強く何回も振り、差し出されたチケットを断固として受け取らない。 いいから受け取れよと、リリスに紙を押し付けようとしても、逆に手を夜空の頬辺りまで押し返してきて頑なに受け取らない。
「...いらねぇのか、変わった奴だな」
「夜空さんの剣も選んであげますっ!」
いつもにまして激しく詰め寄るリリスに、根負けする夜空。
「俺が選んでも分からんし、じゃあ頼むわ。 武器種はショートソードで頼む」
リリスに自分自身の為にと、チケットを渡すと次は遠慮なくそれを受け取り。 何が嬉しいのか再び鼻歌を歌いながら自分のものを選ばずに、夜空の剣を選び始めた。
そんな様子を店内の隅で見ていると
「いい子だろ?」
寡黙な店主がいつの間にか隣に立っていた。
「この街の経営者ってのはバケモンばっかか、足音立てろよ。 びっくりするだろ全く」
どこぞの宿のオッサンを思い出して苦笑いする。
「心配していた」
「...心配? あぁ、例の敗北の件ね...随分と耳が早いな」
「皆、心配していた。 あの子は強い、だが弱い」
剣技の強さと、心の強さが一致してない所は確かにあると思う。 何がどうなってそうなったのかは、正直剣士じゃない俺にはよく分らない。
黙って聞いている夜空に店主は続ける。
「どうやったかは聞かん。 だが大事にしろ、子供は特にな」
「あぁ、既に肝に銘じてるよ」
夜空は店主を見ずに、当たり前のようにノータイムで答えた。
「そうか...」
そう言って、店主はカウンターへ戻り、商品の手入れを始めてしまった。 夜空はカウンターを見ると、壁に金ノ上の階級章が、飾るための専用のボードに埋め込まれるような形で飾られていた。
左胸に着けてないってことは、もう剣士としては引退してるって意味らしい...情報ソースは道具屋のオッサンだ。
それにしても本当に民衆に愛されてるな、リリスは。
しばらく待っていると、悩みに悩んだリリスが剣を持ってきた。
「これなんかどうですか? 軽くて扱いやすいと思います、耐久性も文句なしの逸品ですよっ!」
シンプルな軽量ショートソードを持ってきた。
持ってみた感想からいうと、正直イスカルから貰って壊したあのショートソードの、何倍も手に馴染む上に使いやすい。
でも、素人目から見ても分かる。
これ、絶対高いだろ...。
「いやでもリリス、高そうだし...流石に遠慮すべきじゃ」
そう言おうとした夜空の肩をポンと店主が叩き、指でGOODを作ってきた。
「大丈夫みたいですね~っ」
「いいのかよッ!! まぁ、助かるけどさぁ...」
リリスから店主はプレミアチケットを受け取り、ポケットにそれをしまい込んだ。 受け取ったショートソードの鞘を腰に横向きに着けて、剣を鞘へと納める。
しかしリリスの目利きも大したものだ、剣をつけている鬱陶しい感覚がまるでない。 走った際に若干、重さを少し感じる程度だ。 この程度なら時期に慣れると思う。
「で、店主さん...私これを貰いますっ! 蒼脚光の剣...良い名前ですねっ!」
リリスは青と白のRPGとかだと終盤、教会で貰えそうな...少し重そうな剣を店主の前に差し出した。 剣の鍔の部分には☆型の装飾が施されていた。
「リリス...これまた高そうなの選んだな」
「これでも、他の貴族の方々が身に着けている剣より全然お得ですっ!」
「当たり前だろ。 アイツらの下げてる剣は、ぶっちゃけただの宝石ついた棒だろ」
「うぅ、私も集まりとかに使う剣を持ってるので否定できません~」
まぁ力のある貴族らしいし、そういう集まりで使う物の一本や二本くらい確保していても、全然おかしくは無いな。
「値段は33金だ」
高っかッ!! 33万てマジかよ!
「でも値段35金と80銀って」
もっと高かった...35万8千円、なんていうか原付なら2台くらい買えそうだ。
「セブンティア家には世話になっている。 だから負けてやる」
リリスはニコッと笑い、素直に店主の善意を受け取る。
「ありがとうございますっ! お父様にはしっかり伝えておきますっ!」
「勝手にしな」
やっぱり腐っても店主なのか、少し嬉しそうにしながら店の奥に引っ込んでいった。
リリスは『さてと』と言いながら、夜空の方へと振り返り、蒼脚光の剣を前に差し出してきた。 夜空は反射的にその剣のグリップを握って持とうとすると。
「重っ!」
想像の倍重かった。 持てない程では無いが、リリスがこれを持つのは厳しくないか?
という夜空の想像は結構簡単に崩れた。
リリスはヒョイっとその剣を持ち上げて、再び夜空の前へと差し出す。
「あぁ、ゴリラ...」
夜空のその言葉に、頬を膨らませながら夜空を腹をつねるリリス。
「いででっ! 悪かったよリリスっ!!」
だが以前として、夜空の前から剣をどかさない。
「...付けて下さい」
おもむろにリリスはそう言ってきた。
「何を?」
「願いをです。 あんなこと私に言ったんですから、戦う理由は夜空さんが決めてください」
(誇りだよ。 我々にとって剣技とは誇り、そして自身の剣には願いや誇りを込めるのだ。 自分が剣士として、未来で人の目にどう映りたいのかを....)
夜空はリリスの親父さんの言葉を思い出して『あっ』と小さく声を上げる。
「...まぁ、本気で戦える状況を俺が作ってやるって言ったもんな」
「そういうことですっ! なんでもいいですよ?」
なんでもいいって一番困るんだが...。
こういうの苦手だなぁ...。
「夜空さんが一度決めたら、剣が破損するまで変更する気ありませんからねっ!」
重い! 責任が重すぎる!
「変なのでも恨むなよ...」
リリスはどこかワクワクしながら期待の眼差しを向けてくる。
「じゃあ【正義の為に振るう力】なんてどうだ?」
まぁこれなら、可もなく不可もなくって感じで無難だろう。 かなり中二臭いが、願いや誇りの内容なんてこんなもんだろうし。
「夜空さん、無難に逃げましたね?」
リリスは少しジト目になりながら呟く。
「う、うるさいな、文句言うな」
...どうやらあまりお気に召さなかったらしい。
「次は夜空さんの番ですよ?」
「えぇ、俺もやんのかよ...」
「ふふんっ! 郷に入っては郷に従え、どこかの国の言葉ですっ!」
えぇ、その言葉伝わってんのかよ...というかソースが気になるんだけど。
「分かった、分かった...ていうか顔が近いんだよ離れろッ! ....そうだな」
夜空は少し考えてから、自分の旅の目的をショートソードに込めることにした。
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春に会って、この世界を脱出する。 そのために俺を守れ。
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夜空は口には出さず、強く剣に...この国流の誇りを込めた。
==☆次回予告☆==
21話の閲覧お疲れさまでした。
今回のプチ話は酒造の国についてです。
32話から始まる酒造の国編のメイン国になります。 なので...今はさらっと流します。
酒造の国は各国に酒を提供している、酒造専門の国になります。 補助テーマとして果樹やガラス細工なんかも取り扱っているみたいです。 今回の勇者召喚騒動にも、近隣諸国の問題により絡んでおり、約100名近くの葉日学園の生徒が存在します。
次回、22話......その少女 危険につき!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




