20話 その者ら ロリコンにつき!
駆け足で屋敷に戻った夜空を待っていたのは....
「ナニコレ」
スーツを身に纏い、腰にきらびやかな装飾が施された剣を身に着けた貴族の息子たちであった。 彼らは一貫して、リリスの屋敷の門の前で屋敷の使用人に静止される形で待機し『リリス様ご心労お察しします』や『私に出来ることはありませんか』などの声をその場からかけていた。
先ほどから、リリスの部屋の窓から顔を真っ赤にしたリリスがチラチラこちらを覗いている。 やはり恥ずかしいのだろうか?
「朝っぱらから、これなんの集まりだよ」
「おやっ? 貴殿は上流階級の人間って感じじゃないですねぇ、純粋に心配で来たので?」
独り言を呟いた夜空に、近くに居た集団から追い出された貴族の若い男が声をかけてきた。 男の左胸には銅ノ上の階級章がつけられていた。
「まぁそんなとこ。 ていうかその言い回し、目の前の連中は心配で来てる訳じゃないんだな?」
声をかけている男たちは全員どこか必死な形相をしていた。
「そうですね、抜け駆けされないようにという心境は、少なからずはあるでしょうね。 後は、血縁者から『行け』と催促されたとか...」
抜け駆けって何の話だ。 そんな夜空の心情に気づいたのか、男が続ける。
「あれですよ、婚活です婚活。 セブンティア家は、この街の貴族の中でもかなり力を持っていますからね...コネクションを作れればそれだけ貴族社会で有利になるのですよ」
「だからって、何もこんな時まで...」
男は夜空の言葉に首を振って軽く否定する。
「私も自分の父上にそう言ったのですがね、こんな時だからこそ行って近場でお支えし、お心を掴んでみよと。 普段から行っている見合い訓練の成果を見せて見ろ...と」
「終わってんな」
男は苦笑いして口を濁す。 この男があまり乗り気に活動してないのも、罪悪感からなのかもしれない。
「それにそもそもあの子の年齢12とか13だろ、色々ダメだろ」
「リリス様は12歳でございますよ? 法的には問題は無いので大丈夫ですがね」
日本とはやはりそこら辺の文化は違うらしい。 いや待て、法律が良くてもどう考えても常識的にダメだろ。 オッサンと12歳の少女ってどんだけの年齢差だよ、ファンタジーかよ。
.....この世界自体が夢のねぇファンタジーみたいなモンだったわ。
「なるほどね、ここに居る連中は皆ロリコンなのか。 納得だ」
「貴族社会の結婚というものは、あくまで結婚による繋がりを重要視するもので、基本的に当人同士の意思は考慮に値しないのですよ?」
「でも、全員がそう考えるわけじゃない....アンタだって分かってるんだろ?」
「痛い所を突きますな...まぁ少なくとも私は違いますとだけ、ハハハ」
コイツやリリスも苦労するなと同情する。 貴族のお嬢ってのも意外と理解されない苦労ってのがあるのかも知れない。
「まぁ精々頑張れ、じゃあな」
「もう行くので?」
「あぁ大仕事があるんでな」
そう言って夜空はその騒ぎから離れ、屋敷の外周をぐるりと回って裏口から入る。
正門の騒ぎの音が裏門にまで聞こえてくる。
裏口から屋敷に入ろうとしていると、騒ぎを聞きつけたリリスの親父が滅茶苦茶キレてる声が夜空の方にまで飛んできた。 その内容は、傷心した娘によってたかってなんなんだお前たちは...というものだった。
全くもってその通りである。
今そんなこと言われても、混乱し動揺するぐらいでしかないのに....
「あ、思いついた」
最低なことを思いついた夜空は、不気味な笑みを浮かべ屋敷へと入っていった。
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「放せ! あの連中、かわいいリリスになんてマネを! ぶち殺してやるぅぅ――ッ!!」
「怒りを治めてくださいカイル様っ! 貴方様が出て行ったらややこしい事になりますからっ!!」
「放せェェ――ッ!!」
屋敷に戻った夜空が見たのは、剣を振り回しながら正門に群がる貴族共に突っ込もうとするカイルと、それを宥めながら抑える使用人たちだった。
カイルは仕事帰りなのか、黒い恰好をしていた。
「お前は何をしてんだ、何を」
「あの豚畜生共ッ! 我が妹リリスに不敬を働きやがってェェッ!!!」
「不敬てお前.......」
確かにこの状況ですべき行動で無いのは明白だが、言い方ってもんがあるだろう。 カイルだって貴族なんだから、彼らの心情位、理解するのにさほど苦労もないだろうに。
「カイル付き合え、リリスを部屋から引っ張り出す」
「は!? 貴様は何を言っているッ!」
怒りの矛先がこっちに向いた。 まぁ当然だな。
「じゃあお前はこのままリリスが部屋で腐っていくのを見たいのか?」
「悩む時間位あってもいいだろうがッ!」
イェーガーが俺を狙っている。 これはピンチでもあり、チャンスでもある。 わざわざ探さなくても、時間を少し置けばあっちからやってくるという事なのだから。
「時間は傷の痛みを和らげるが、塞いでくれるわけじゃない」
「....ッ!?」
「今後、剣を握り続けていく上で、今回のトラウマはリリスの足を長く引っ張り続ける恐れがあることを、本当に理解しているのか?」
「俺は兄貴で、凄腕の剣士だ! 貴様なんぞに言われなくても分かっている!!」
「今の俺なら、リリスの恐れを打ち砕ける」
やらなきゃ俺が死ぬ。 俺は死にたくない、絶対に自分の目的を諦めたくなんてない。 そのためならリリスだろうがなんだろうが利用してやる。
「....信じていいのか?」
「俺が与えるのは提案で、それを受けるか決めるのはリリスだ」
「....近くで監視はするからな」
カイルは怒りを治め、剣を柄へと収めた。 そんなことをしているとリリスの両親なども集まってきた。 正直今からやることを、一番聞かれたくない人たちに聞かれるのは嫌だと、内心ビクビクしながらリリスの部屋の扉の前へと向かう。
「今のリリスは何を言っても部屋から出てこないぞ」
歩きながらカイルが言ってくる。
「そんなん知ってるわ、まぁ任せろ。 他人を揺さぶるのは得意分野だ」
会話を終えると、夜空は扉の前に立つ。 両親とカイル、それに興味本位でついてきたメイド達は近場に隠れるようにこちらの様子を伺い始めた。
リリスの扉に耳を当てて中の状況を伺うと、リリスは朝食でも食べているのか、カチャカチャと食器の音がした。
(さてと、やるか)
夜空はクズになる覚悟を決めて、一言。
「リリスゥ!! 好きだァァァ結婚してくれェェッ!!!」
馬鹿でかい声でとんでもない爆弾発言をリリスに向けて叫んだ。 と同時にカイルがこちらに向かって鬼の形相で突進してくる。
中からバタバタと何かが倒れるような音がしてから、リリスがむせながら叫ぶ。
「なななっ! 急になんなんですかっ!!」
リリスがバタバタしながら、扉の近くによってくる音を確認した。
「貴様ァッ! やっぱり我が妹を狙っていたんじゃねぇかァァァッ!!!」
「うるせぇシスコンッ! 話の邪魔だァ!!」
取っ組み合いなる二人、リリスが扉の向こうでオロオロしているのが分かる。
「まず貴様を串刺しにした後、水責め火責めを経験させてからセメントに埋めて固めて、俺の愛刀で真っ二つに切断してやるゥゥッ!!!」
「オーバーキルが過ぎる! ていうかお前最初の串刺しで絶対俺を殺してるだろ!!」
取っ組み合いが更に激しくなるのを予想し、先手を打って片手をカイルの腹に当てておく。
「当たり前だ、ロリコン野郎め!!」
「話の邪魔すんなッ! スキル『ハイパーウェーブ』ッ!!」
屋敷内に『パァンッ』という炸裂音が響き、それに驚いたリリスが扉の鍵を開け、部屋から飛び出してきた。 夜空は吹き飛んだカイルを無視し、リリスに再び部屋に籠られないよう、部屋の扉を抑え閉めれないようにする。
「急になんなんですか!?」
「あんな噓告白で顔真っ赤にしてよ、初心だなお前ッ!!」
「なっ! この最低男っ、最低です最低ですー-っ!」
流石に傷つくんだが、まぁ言われてもしょうがないことしてるしな。
「リリス助けてくれ」
夜空の口から出た言葉は、
泣かないで...でも
気にしなくていい...でもなく
マジトーンで言い放った、助けてくれの一言だった。
「なんなんですか...そんなことを言うために、カイル兄様を吹き飛ばして、噓告白までして....本当に理解できませんっ」
「イェーガーに会った、そして目を付けられた。 俺じゃ勝てない」
大体の事情を察したリリスが悔しさで涙を目からこぼす。
「なんでそれを私に言うんですかっ! 私だって負けましたっ! 守ると意気込み剣を抜いて、その想い事へし折られたんですっ! この気持ちが夜空さんに分かりますか!?」
耐えきれなくなったのか、リリスは大粒の涙をボロボロと流しながら泣き崩れる。
「お前はそもそも本気出せてなかったじゃねぇか!!!」
泣き崩れるリリスを見下ろしながら夜空が一喝する。
あの時、リリスは周囲を気にして力が出せていないこと位分かった。 その証拠に、一発目に放った虹の風の威力が、明らかに俺に放った時よりも威力が落ちていた。
以前俺と戦った時も、俺を殺さないように威力を抑えていたように感じた。 あれ以上の威力が打てるのだと仮定すれば、リリスにだって全然勝機はある。
「だから俺がお前を使ってやる。 お前が本気で戦える状況を俺が作ってやる」
「だから....戦って勝てと? 無理ですっ!」
「左胸に着けてるその銀の階級章は飾りかよ! その階級ってやつは、この国の...剣技をテーマとする連中がお前の実力を認めた証拠だ!」
その言葉に、夜空の後ろで見ていた両親がウンウンと頷く。 地に伏せているカイルもリリスを見つめている。
「でも剣が...私はおじい様達の期待を裏切って」
「今のお前を国王だったオッサンが見たら、なんて言うか少しは考えて見ろ」
夜空はそこまで言うと扉から手を離し、足元で寝ているカイルに告げる。
「ここからは家族の仕事だ、俺は国王のオッサン知らん」
夜空はその場を両親やカイルに任せると、屋敷の庭へと出て行ってしまった。
夜空が離れて直ぐに両親が涙を流すリリスの元へと駆け寄り、リリスの話を聞き始めた。 だがカイルだけは、夜空を追って行った。
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「なんで優しい言葉をかけなかった」
「必要だったか? 俺以外が言うだろ」
庭にあった噴水を眺めている夜空にカイルが声をかけた。
「なるほど...貴様はそういうスタンスなんだな」
「お前も行けシスコン、お前が言う足りなかった言葉をかけてやれ」
「...感謝はしないからな」
「いらねぇよバーカ」
そこまで言うとカイルは夜空の元を離れて行き、少し離れたところで止まる。
「突き飛ばした件に関してはチャラにしといてやる」
こちらを見ないままそう言って、その場を去って行った。 これは、カイルなりの感謝の仕方という奴なのかもしれない。
「さてと、あのゴリラ対策...何か考えておくか」
夜空は噴水から流れる水の音を聞きながら、ゆるやかに頭を回し始めた。
==【その後しばらくして】==
色々悩んでいた夜空の元に、リリスがやってきた。 リリスは何かを決心したようにこちらに近づいてきて、涙で目の下を赤くした顔を近づけてきた。
「あの、近いんですけど」
リリスはその言葉を聞いてから、にこっ笑みを浮かべると、片手で強烈なビンタを頬に食らわせてきた。
「痛ァ! なにしやがるッ!」
「ふんっ! 噓告白で動揺させてくれたお返しですっ!」
「あのぐらいのインパクトが無きゃ、出てこなかったろお前...」
痛がる夜空に再びリリスが近づいてきて、再び笑う。
「あとこれは、カイル兄様を攻撃した分ですっ!!!」
「ひっ!!」
その後、もう一発のビンタが夜空に炸裂し、庭に夜空の悲鳴が上がったのは言うまでもないだろう。
...噴水の水で痛みを抑える夜空に、リリスは頭を下げる。
「でも、ありがとうございました」
「ならビンタすんな!」
クスッとリリスが笑い、その上で頬を膨らませプイッと横を向く。
「それとこれでは話は別ですっ」
夜空はやれやれと頭を掻きながら、リリス向かって
「礼を言ったってことは、受けるって解釈でいいんだよな?」
「はいっ! でも一つ私からもお願いがあります」
「??」
夜空は頭を捻る。
なんだろう、提案に関してリリスの損は極力減らしたつもりだったんだが...。
「一方的に夜空さんが私を動かすのではなく。 協力関係...パートナーとして行動させて下さい」
「えぇ...わざわざ面倒に首突っ込む必要性無くね?」
楽な方がいいと思ってたんだけど、リリスってよく分らんな。 少なくと俺がリリスの立場なら適当にやらせて、美味しい所だけ奪い取るけどな。 今回に関しては相手もそれを望んでるわけだし。
「ダメなら助けてあげませんっ!!」
コイツっ! 膨れっ面で足元見やがって!
「ハァ...誰かと一緒に何かをするって苦手なんだけど、まぁいい。 分かった」
何が嬉しいのか、リリスは年相応の可愛らしい笑顔を浮かべて屋敷の方へと走って行ってしまった。
両親にどんな励まし方をされたのか。 リリスは色々と吹っ切れたようにこちらを振り向きながら叫ぶ。
「お昼ご飯食べたら、剣を一緒に買いに行きますからねっ!!」
「はいはい」
夜空は元気すぎるも考え物だなと、ため息をつきながら苦笑した。
==☆次回予告☆==
20話の閲覧お疲れさまでした。
では今回はプチ話なしです...。 本編がそこまで補足要らなかったからね、しょうがないね。
次回に関しては少しだけ文字数が減ります。 理由に関しては見ていただければ分かるかと....(´・ω・`)
次回、20.1話......執行隊
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




