19話 さあ少年 覚悟を決めよ!
あの後、親父さんと少し話をして、今日の所は一人にしたやるべきという結論に辿り着いた。 話を終えた夜空は、屋敷の風呂場を借りてリフレッシュしていた。
「ふぅ――、生き返るぅ...」
まともに体を洗ったのはご無沙汰だったので、かなり気持ちがいい。 髪が汗でべたつくあの感覚は、あまり経験したいものでは無い。
「それにしても、リリスの件どうしようか」
本当にどうしよう...。 そもそも話しかけても出てこない気がする。
「この国の剣士たちは本当に剣に全てを賭けてるんだな。 そりゃそうだよな、ぬるい感じでやってるなら年齢制限なんてモンは無いしな」
国によってここまで色が違うのか、改めて凄いなと思わせる。
「俺がもしこの国の人間だったら剣に何を込めたんだろうな」
春のことだろうか? それとも好きな人のこと?
そんなくだらないことを考えながら風呂から上がり、先ほど勾留されていた部屋に戻る。
「とりあえず、リリスの件は明日頼ってきたら考えるとして、今俺がすべきことは....」
夜空は、部屋の隅に置いてあった羽ペンとノートを一冊貰い、今まで中々考える時間が取れなかった難問について考え出す。
「さてと考えますか、スキルの反動の件」
夜空はそう呟くと、今まで分かったことを考え始めた。
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俺は、スキルを使うとほぼ100%の確率で反動が発生する。 唯一反動が確認されなかったのはスキル『火炎耐性』だけだった。
『火種』、『超音波』、『ハイパーウェーブ』...まぁハイパーウェーブに関しては反動はかなり小さいものではあるが、それでもこの3つには確かに反動がある。
始めは天賦側のエラーかと疑ったが、不可項目の警告文が出てこないことを見るに、それは無いと前に判断した。 そしてその時は、自分に適性が無かったと諦めたのだが。
火種、ハイパーウェーブ、超音波...全て反動が起こるのは流石に妙だ。 この3つにはこれと言って、何か特徴が被ってる訳でもない。
ならばスキル側の不具合と考えるのが妥当だろう...。
じゃあなんで不具合が起こった?
いや、違う...なんで他の連中には反動が起こらない?
俺のスキルと、他人のスキル....その決定的な違いはなんだ?
...そんなの一つしかない、入手した手段だ。 俺は死体から強奪した、他の人たちは学びなり手引書なり自動取得なり、それ以外の手段を使って入手している。 少なくとも【奪った】わけでは無い。
前も考えたが、奪う側のスキルが破損...あるいは一部が奪えなかったらどうなるのだろうか?
「まるで家電製品の故障みたいだなぁ、警告文が出ないあたり超似てるわ」
その刹那、脳裏にイスカルの言葉がよぎる
(天賦の力は不完全....)
「不完全ッ!!!」
夜空は机をドンッと叩いて立ち上がる。
俺はずっと、天賦の力が弱いことそのものが不完全であると思ってきた。 たが実際はどうだろうか、確かにこの力は、理不尽でどーしようもない程、役立たずな力ではあるが...決して、ルールそのものを破綻していることは一度たりとも無かった。
この状態が正常だと仮定して、何をもって不具合を線びくのだろう?
「奪う際に何かしらのエラーが発生して、スキルを正しく奪いきれていない...のかな?」
じゃあ何を奪えていない?
これが本当に分からない、かなり真実に近づいている感覚はあるのだ。
「まぁいいさ、時間はたっぷりあるんだ」
夜空はその後、1時間...2時間...と悩み続け。
約3時間後、一度自分の中の魔法の定義を考えていた時...ふと、くたびれながらこんなことを呟いた。
「ゲームなら自分の魔法から自分を守ってくれるのになーー」
通常攻撃で自傷ダメージが自キャラに入らないなんて、そんなの普通は当たり前だろ...と思える一言は、ヨゾラの中にあった疑問の点を、線で結び付けた。
それは魔法の存在しない地球人だからこそ、疑問に思わなかったポイントだった。
「分かった、俺の天賦のエラーの内容が....。 奪えていなかったのは耐性...正しくは、自分のスキルから自分を守るための耐性効果。 それが奪えていなかった」
自分のスキルで怪我をしない、当たり前の考え方すぎて疑うことすらしなかった。
この説なら、俺の天賦及びスキルの不可思議な現象全てに説明がつく。
警告文が出ないのは、これが天賦によるエラーだから...エラーなら天賦は警告文を出せない。 同様に検知も出来ない、故に俺がその場で原因を知ることはできない。
「もし火種のスキルがメインで、耐性効果が副次的なスキルだったら。 俺は外側の『火種』だけを奪い取ったことになるのか」
超音波なら頭痛耐性、火種なら火炎耐性、ハイパーウェーブなら衝撃耐性って所だろうか? あくまで自分を守るだけだから、使った瞬間しか耐性は発動されないのだろう。
ていうことは、そもそも体に影響を与えないようなスキルなら...反動は起こらないんじゃなかろうか。 耐性スキルとか反動おきないし、その可能性は十分にあると思う。
勉強の参考書みたいに答えがあるわけでもないが、ずっと悩んできたからこそ、この説が一番今の自分の状態にしっくり来ることを理解していた。
「なら、やるべきことは決まったな」
夜空は立ち上がり、腕を前に伸ばす。 人差し指の指先にスキル『火炎耐性』を張り、その上で...スキル『火種』を重ねるように発動する。
だが....。
「あれっ、あれっ、出そうなのに...うまくできないッ!」
脳の処理が追い付いていない。 火炎耐性を意識すると火種がおろそかになり、逆に火種を意識すると恐怖で出すのを委縮してしまう。
「これ想像以上にムズイぞ!!」
2つ同時発動が想像以上に大変で悲痛な声が上がる。 そんなことをしていると、耐性が出てない状態で火種が出て....
「あちゃ―――ッ!!!」
夜空はまた見事に火傷した。
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【そして数時間後......】
「...で、できた」
廊下の明かりが消され、すっかり暗くなった屋敷の中で...夜空は、机に置かれたランタンに火傷せずに火を灯すことに成功していた。
「やってることは小さいけど、怪我しないでスキルを発動する方法が分かっただけでも、一歩前進だろ」
「あー疲れた、スキル何度も使うと体めっちゃダルくなるな」
ランタンを机に放置して、倒れるように体をベッドに沈める。
「でもさぁ...これ戦闘中とか絶対無理だぞ。 間違いなく脳がバグる、慣れが必要だな」
「あーあ、やっぱ俺に対して限りなくクソだわこの世界」
既に分かりきったことを口にした。
...それにしてもリリスは大丈夫だろうか。
体は疲れているハズなのに全く寝付けない。 夜空は寝ながら机の方に目をやり、優しく灯るランタンを見る。
(少し扉の前まで様子見に行ってみるか...)
夜空は眠れない体を起こして、ランタンを持って部屋を出る。 月明かりのおかげで、妙に明るい廊下をランタンの明かりを頼りに歩いていく。 長い廊下に足音が反響する音だけが響く。
夜空はしばらく屋敷を歩き、リリスの部屋とプレートがかけられた扉の前まで来て、足を止める。 そして今になって気づく
これ夜這いだと。
「何やってんだ俺、戻って寝よ」
罪悪感で戻ろうと足を部屋の方向に戻すと、リリスの部屋からすすり泣く音が聞こえてきた。 そして夜空は直感で察する、これは俺ではどうしようも無い...と。
剣技も分からないド素人じゃ、本当の意味でリリスに寄り添う事...ひいてはショックを取り除くことなんてできやしない。 そんなこと、少し考えれば分かるハズなのに...。
子供がドア一枚を隔てて泣いているのに、無力だな俺は。
夜空は諦めたようにため息をつき、明日この国を出ようと決意した。
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発つことにした翌朝、朝早く目覚めて支度をし、親父さんやカイルなどが起きてくる前に、置き手紙を残し発つことにした。
置き手紙には『お役に立てず、すいません』とだけ書いておいた。
屋敷のリリスのことで、若干後ろ髪を引かれるが、自分を無理やり納得させて足を前へと踏み出す。 屋敷から離れ、居住区側の門から出るために歩いていると。
裏路地の方から笑い声が聞こえた。
夜空は気になり、裏路地を少し歩いて身を隠しながら様子を伺い始めた。
「いやー、いつもお世話になってますぅ...へへへ」
「またか、金は持ってきたんだろうな?」
「えぇこちらに、50金確かにあります」
50金!? 日本円に換算すれば50万相当だぞ!?
値段を聞いた夜空は、ただ事じゃないと野次馬根性で耳を澄ませる。
「あぁ、それで今回階級を上げたいのはソイツか?」
「はいっ未熟者ですいませんっ!」
さっきの会話していた二人とは違う、また別の男が叫んだ。
「年齢と現階級は?」
「ハイッ29歳で、現在銅ノ上です! 弱くてすいませんっ!」
「じゃあ1階級あげれば追放回避だな。 分かった手は回しておこう、安心しろ」
1階級? 銀ノ下の階級のことを言ってるのだろうか?
「良かった! これでまだ夢を諦めなくて済むッ!!」
分かった、基準ラインの話だ。 道具屋のオッサンの話で、見込み無しと判断される基準ラインが30歳だかどうたらこうたら言っていた気がする。
聞くべきことを聞いた夜空はその場を立ち上がろうとし、不意にも音を立ててしまった。
「「「誰だッ!!!」」」
3人が同時に声を上げる。 その直後に、流石にヤバいと判断した夜空が即座に逃走を開始する。
「先生ッ事前の決定通り私が追います!」
「必ず殺せ、俺達は逃げるからな」
少し会話した後、先ほど銅ノ上とか言っていた男が追いかけてきた。
......。
「あの~待ってもらっていいですかッ!!!」
夜空は耳を貸さす走り続ける。 後ろから剣を振る風切り音が聞こえる。
夜空は裏路地をジグザクに走りながら、カバンに手を突っ込み、岩の手との戦闘で壊れたフリントロックピストルを取り出す。 一応脅しぐらいに使えないかと、リリスの家で見た目だけは直してそれっぽくしてあるが...撃てないことがバレたら多分死ぬ。
「頭をぶち抜かれたくなかったらその場で止まれ!!」
夜空は迫真の演技でブラフをかける。
「げええええッなんでそんなモン持ってんですかぁ!?」
男が驚いたようにその場に静止し、場が硬直状態になる。
「剣を捨てて、手ェ上げろ!!」
男は言われた通りに剣を捨てて、手を上げる。
「そのまま膝をついて、手を頭の後ろで組めッ!!」
銃の力すげーと内心感心しながら、投げ捨てられた剣を足で遠くに蹴っ飛ばす。 その瞬間、隙だらけだった夜空の懐に、男が突然飛び掛かってきた!!
「このぉっ! 私は夢を諦めたくないんですよぉ!!!」
「クソッ無駄に力が強いッ! 知るかボケッお前の夢なんぞ興味ねぇ!!」
「撃たないで下さいィィィィ!!!」
男に銃の掴まれ、撃たれてたまるかと無理やりバレルを空に上げられる。 トリガーを抜くが、既に壊れた銃が発砲なんて出来るわけも無く。
「畜生がッ!!」
「弾が出ない、壊れてるので? ....じゃあ、私の勝ちですのでぇぇぇ、夢の為大人しく死んでくださぁぁー--い!!!」
死ぬ...? こんなふざけた野郎に殺られてたまるか!
「死ぬわけねぇだろうがあああああああッッ!!」
その時、男に体重をかけられていた体がフッと軽くなった。 気づけばもみ合いになっていた男は、裏路地の壁に叩きつけられていた。 男の階級章はもぎ取られ破壊された。
その時間わずか数秒である。
「は!?」
何が起こったか分からない夜空が素っ頓狂な声を上げる。
「おぉ、オォ! 少年よォ久しぶりィ! 勝ち逃げさせるわけねェだろうがよォ!!」
どこかで見たハゲが夜空の目の前で舌なめずりをして立っていた。
「あぁ、ハハ、ナイスタイミング....」
口から自然に絶望が漏れていた。
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「やめろやめろやめろぉー---ッ!!!」
ドカンドカンと辺りのモノを壊しながら、夜空めがけて走ってくるイェーガーから全速力で逃走していた。 居住区のあちこちから悲鳴が聞こえ始める。
どうする、どうする!? こんな突然のエンカウント、対抗策なんてあるわけない! 頼みの綱の銃に関しては、壊れてはいないけど火薬を込めなきゃ使えない!
夜空はとにかく逃げ続ける。
「俺様はイェーガー! 夜空だったよなぁお前、待てやあああああああ!!!」
なんでコイツ名前知ってるんだ!?
いや、あの時聞いてたのかッ! リリスとの会話をッ!
「夜空ちゃんと呼んでもいいか!? いや、呼ぶッ!!!!!」
固すぎる決意である、マジ勘弁してほしい。
「嫌ああああああ! 生命の危機を感じるゥッ!!!」
「さぁ夜空ちゃん、生存欲を見せて見ろやァ!」
イェーガーが地面をぶん殴った場所が何故か爆発し、爆風で夜空が大通りまで吹き飛ばされる。 恐らくだが、未知のスキルでも使っているのだと思う。
「うわぁッ!!」
大通りまで出たのにも関わらず、イェーガーが構わず追ってくる! イェーガーは暑くなったのか、自らで衣服を引き裂き、上半身を一糸まとわぬ姿にする。
「なんなんだよお前ッ! やっぱ変態じゃねーか!」
「格闘家は半裸族と相場が決まってるだろうがァ!」
「ハァハァ...じゃあ尚更、お前はこの国から出てけよ!!」
少なくとも格闘家がくる国では絶対無いと思う。
流石に大通りで戦闘するのは、朝っぱらとは言えリスクが大きすぎる。
そう考えた夜空は、再び裏路地から剣術研究特区側に向かって走っていく。 そんな夜空の何かを狙っているような動きで、どこに向かっているか気づいたイェーガーが足を止める。
「おっと、その手にゃー乗らねェぜ、夜空ちゃんよォ!!」
「あぁ?」
足を止めたイェーガーに、スキルを発動する威嚇で手のひらを向けながら対面する。 一定の距離を取るように心がける。 ていうか近づかれたら終わり。
「今すぐにでも飛び掛かってやりたいが、騒ぎ聞きつけた執行隊の連中が出張ってきそうだしなァッ。 ここら辺でおいとまさせて貰うぜェ夜空ちゃん!」
イェーガーは子供っぽい笑みを浮かべながら飛び上がり、壁を蹴って民家の屋根に上る。 その上で、夜空を見下しながら叫ぶ。
「だが覚えとけ、俺様はもう一度この国で必ずお前に挑戦する。 その貪欲なほどの生き汚さッ、俺様はお前が気に入ったぞォォアッ!!!」
イェーガーは言う事だけ言って、その場から屋根を伝い去って行った。 夜空はあまりの恐怖に、腰が抜け倒れる。
「と、とんでもねぇのに目をつけられちまった...」
実質死刑宣告じゃないか。 無理やり国を出ることも考えたが、もし万が一...助けの無い街道沿いであのハゲに追いつかれたら、現世とお別れすることになりそうだ。
カイルに助けてもらうか?
いやダメだな、逆にアイツに処刑される。
宿屋の最強のオッサンに...いや、リリスの件があるしなぁ...。
リリス...?
「...リリスに助けてもらうか?」
いやしかし、傷心の少女を駆り立ててまで動かす。 その考えは本当に正しいのだろうか? 第一、俺にその資格があるのだろうか?
一度は説得を諦めて....逃げたのに....。
「今の俺の姿を親父が見たら、何て言うかな...ハハハ」
夜空は乾いた笑い声をあげ、すぅっと息を吸い込むと覚悟を決めたように息を吐く。
きっと親父は情けないと俺を叱るだろう。
「リリスを動かそう。 俺にできるやり方で...俺の為にリリスを動かすんだ」
そう決意した夜空は、あの置き手紙が誰かに回収される前に...急いで屋敷に戻っていった。
==☆次回予告☆==
19話の閲覧お疲れさまでした。
ではプチ話です。
今回のプチ話は、天賦エラーについてです。 (※ストーリーにかなり関わってくる内容ですので本編で別途説明を入れます)
勇者たちの持つ天賦は〔ほとんど〕が天賦エラー.....未知のエラーを抱えています。 その中でも夜空の天賦【アビリティスティール】は奪い取ったスキルの自身への反動が殺せない状態で入手されます。 簡単に言うと、スキル使うと体に何らかの異変が起きるリスクがあるってことです。 頭痛だったり、火傷だったり、めまいだったり...ect そこら辺はスキルによって違うみたいなので、そこら辺もどうするか今後の夜空の行動に注目です。
次回、個人的に書いてて面白かった日常?回です。
次回、20話......その者ら ロリコンにつき!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




