2話 その世界 場所不明につき!
ゴポゴポッという水中に居るかのような音が耳に入ってきて目が覚める。 夜空は辺りをキョロキョロと見回すが、辺りは真っ暗闇で何も見えない。 おーい、と声を出してみようとするのだが口が上手く動かない...。
(光にのみこまれてからどうなった......?)
(テルテルは? ......何処だ、何処に行った?)
意味不明なことが多すぎて全く現実について行けない、人間って情報多可になるとショートするって本当なんだな~とのんきなことを考えていると、暗闇の世界が崩れるように消えていき。
「あ、起きたですぞ!!」
目を開けた俺の前にあったのは、いつもの見慣れた男の顔だった。
「最低の目覚めだ....。 朝一番にお前の顔面はキツ過ぎる」
「え、酷いですぞ、我泣いちゃいますぞ」
「大丈夫、お前のハートはそんなにヤワじゃないよ。 それで、テルテル..ここどこだ?」
神殿のような場所に、ざっと見30人程度があちこちに気絶している。
...俺は状況飲み込めてないからアレだが、テルテル落ちつきすぎだろ。
「見た感じRPGゲームとかによくある神殿っぽいですぞ?」
「答えになってないんだけど.....。 ていうか、明らかに日本の建築様式じゃねぇな...まるで中世舞台のセットだ。 舞台のセットにしては少し使われてる材質が高度すぎだが」
目線の先には屋根を支える柱がいくつも重なっていたのだが、結合部分には明らかに人工的に何か鉄の杭のようなものが打ち込まれていた。
...ここ日本じゃない?
いやそれどころか事態はもっと最悪かもしれない。
「俺は外に出るぞテルテル、お前はどうする?」
「ここに残りますぞ~」
あっコノヤロー、ビビってやがるな。
ビビりデブを置いて夜空は一人で神殿の外に出る。
そんな夜空の目に飛び込んできたのは、明らかに時代が合ってない建築様式の巨大な城と城下町だった。 あまりに非現実的な状況に夜空は目を見開き、口をあんぐりと開ける。
そんなことをしていると、自分の前方に偶々居た鎧の騎士が夜空に気づいて大慌てで城の方へと向かって行った。
「あっ......これヤバくね?」
戦犯かましたかもしれないと若干後悔するが遅い。 もし自分があの騎士だったらどう行動するだろう...か?
......ん?
いや待て...騎士!?
「なんで現代に騎士がいんだよ!?」
情報量が多すぎてぶっ飛んでいたが、現代においてあんな甲冑着て出歩くとか正気を疑うレベルだ。 神殿といい、騎士といい城といい。
「夢だったら早く覚めてくれよ...タチが悪すぎるぞ...」
うなだれていると神殿の方からテルテルが声をかけてきた。
「結構目覚め始めてきたので一度戻るんですぞ~!」
(あの騎士は最初からいなかったことにしよう...言ったら怒られそうだ)
テルテルに了解と言ってから神殿の中に戻った。 神殿の内部では、まだ数名気絶している人が居るにせよ。 ほとんどの人が目覚め各々、状況を整理し始めていた。 『ここはどこだ~』とか『電波が無くて、スマホ使えねぇ!』とか言っていた。
30名...正確には33名がここには居るのだが...おかしい。
「残り700人程度はどこだ」
全員が飛ばされた...とまでは言わないが、少なくとも俺よりも前に消えていた連中がここに居ないのはどういう事なんだろうか?
「まだ学園にいるとか、あるかもですぞ?」
テルテルと目覚め始める人たちを遠巻きに見ながら話し合う。 こういう時、一人じゃなくて本当に良かったと思う。 一緒にここに飛ばされて?きた人たちは、中学生や高校生・1人の女性教諭などの混合でまとめ役みたいな人は居る気配が無かった。
「いや、それはねぇな...俺の前より先に飛ばされてるのをこの目で見てるから、ここに居ないのは明らかに不自然だ」
「よくある異世界召喚だったりするかもしれないですぞ~! ほら、ゲームのメニューみたいなのが念じれば開くかもですぞ!?」
コイツ呑気だな...。
いや、まぁ、俺も異世界なんじゃないかと少し思ったけどさ...。
「マジで状況的に笑えんから二度とそんな冗談言うなよ」
「夜空氏も魔法とか興味ないわけじゃないだろうに...」
確かに俺も年頃の男の子だし...興味がないわけでは無いが、ああいうのは創作物で見るからいいのであって当事者になりたいとは到底思えないのだ。
「誰か来たぞ...テルテル...おい?」
いつの間に後方の柱の陰に隠れるデブ。 他の連中も同様に後ろに下がった為、前に居た夜空は妙に目立ってしまった。 ...
ていうかアイツ地味に俺をおとりにしやがったろ、ふざけんなコラ。
「召喚に応じて頂き感謝致します。 勇者様御一行様」
神殿に入ってきた妙に偉そうなひげ面の爺さんは、4名の騎士に守れながらそう言った。
...は? コイツ今なんていった? 勇者?
いきなり突拍子もないことを言われた俺たちはザワザワと騒ぎ出す。
しかし誰も前に出て話をしようとしない、それどころか妙に目立った俺をみんな見てることに気が付いた。
あー、これあれだ...クラスでやりたい奴いるかって聞かれた時に、妙に目立った奴をみんなで押す奴。 目立つの嫌なんだけどなぁ、得意じゃないし。
あとあの目をキラキラと輝かせてるデブは後で必ず埋めよう。
「勇者って俺らのこと言ってますか?」
「ホホ、我々を試すのはお止めくださいませ...貴方様方が異世界から呼び出された強き者であること、既に私共、帝国の民一同把握しております」
「いくつか質問を受け付けてもらいたいんですけど...貴方たちについて行くのはそれからでいいですか?」
「えぇ、構いませんよ?」
質問を続けようとする俺に、恐る恐る近づいてきた女性教諭が耳打ちをしてくる。
「君、何を言おうとしてるの?」
女性教諭が不安そうに言葉を投げかけてくるが、流石にこんな丸腰で騎士に喧嘩吹っ掛けて勝てるなんて到底思っちゃいない。 そもそも武器持ってても多分勝てないしな。
「敵対はしません。 安心してください」
女性教諭の質問を適当にあしらって、ひげ面の爺さんに向き直る。 さてと...無駄にいいらしい地頭を使ってやりますか。
「まず現在地の正式な地名と国家の名前を頼みます」
その質問に対して答えが帰ってくるまで3秒と時間は要らなかった。
「畏まりました勇者様。 現在の我々の場所は、東大陸オニキス帝国、帝都オニキス......その中にある召喚神殿になります」
オニキス帝国に関しては当たり前だが地球上には該当なし...。 こう見えても社会の成績は結構いいんだ俺は。
つまり別の場所への移動ではない=異世界への移動説は濃厚...っていう考え方はいささか早計すぎか?
....質問を続けよう。
「東大陸は正式名で?」
「正確には仮名称です...数百年はそのままらしいですがね」
そこら辺の理由については、次の質問で分かるかもな。
「ここ以外に大陸あるいは、国家は存在していますか?」
「えぇ...東西南北の名前をもつ大陸と、その中央に位置する中央大陸に国家が点在しております。 それと...国家によって独自の文化があったりもしますが、言語形体は統一しています」
言葉が理解できるのは...勇者の加護的なやつだったりするんだろうか? さっき大陸名が決まってないと言っていたが、東大陸内部の国家も一枚岩じゃないのかもしれない。
敵国が付けた名前の大陸に属するなど、国を治める君主としちゃ愚の骨頂だしな。 まぁそこら辺はどうでもいいか...。
「では次で最後にしますね。 今後の私たちへの対応はどうなりますか?」
恐らく帝国側に、俺達を害す気は無いんだろう。 もしその気があるのなら、この場所にコイツ等が来た時点で全員死んでる。
「国賓待遇をお約束いたします。 その見返り...といっては何ですが、帝都の防衛や魔物との戦闘をお願いする場合がありますねぇ」
戦闘と聞いてこちら側がどよめきだすが、夜空はそれを右手を上げて抑制する。
「大方理解しました...後で詳しい内容について、話し合いの席を責任者どうしで設けさせてもらうということで大丈夫ですか? こちらも戦闘に不慣れな者もいるもんでね...理解頂きたいです」
「畏まりました。 後で下の者に手配させましょう」
こうして短い対話は終了した。 ひげ面の爺さんは『休めるお部屋とお食事を御用致します』と言うと、俺達を帝都内の城へと案内を始めた。
「先生...責任者はお願いします。 最低限の情報は聞き出したんで後はお願いします」
「えっ! まっ、丸投げですかっ!?」
夜空からの血も涙もない言葉に半泣きになる女性教諭。 やめてくれよそんな目で見るの...俺は人の上にいつまでも立ってられるような強いメンタルしてないんだよ。
「先生...一人だけじゃ泣いちゃいますよぉ~」
「じゃお願いしますね?」
明らかに落ち込み始めた先生を放置して再び少し考える。 あのひげ面の爺さん...少し言葉を交えて分かった、アレは相当デキる奴だ。 全ての質問に回答が返ってくるまでほとんど間が無かった...ってことはそういう分野に関して、思考を必要としないほど手慣れてるってことだ。
このポンコツ先生一人だと少しマズいかもな。
夜空は先生を尻目に、先ゆく騎士たちの後をついて行く、さっきからテルテルが嬉しそうな顔をしながら、ずっと夜空を盾にしながら付いてくるのはどういう了見なんだろうか。
「なぁ、テルテルさんよ...俺肉壁にすんのやめない?」
「異世界なので襲われるかもしれないですぞ!」
じゃあなんで隠れてんだお前、警戒しながら横歩けばいいじゃねーか!
「先に言っとくが俺は昔、確かに空手習ってたことがあるから自分位は守れる自信あるが、ここに居る全員は守れんからな」
「夜空氏が居てくれてよかったですぞ」
話聞いてんのかコイツ。 習ってたと言っても中学生の頃、基礎的なことを少しカジッたくらいだ、本当に空手やってる奴からしたら道化と大差ないと思う。
「武力のこと言ってないぞ! ずっと落ち着いているから安心するんですぞ」
いや、状況が飲み込めてないだけなんだけど....。 それに今の所、こいつ等にパニックが起こっていないのはまだ帰れるかもしれないという微かな希望が、後ろから恐る恐るついてくる彼ら彼女らの心のどこかに残っているからだ。
...もし帰れないとなった時、そのショックは俺なんかでは絶対止められない。 疾風みたいなクラスの中心人物で、なおかつ学園中に顔がきく奴なら...あるいは。
「クソっ、どうして今.....あの男の顔が出てくんだよ」
基本的に学園では基本無干渉を決め込んでた俺だが、疾風からは何故か生理的な嫌悪を感じるのだ。 ...言葉にしろと実際に言われたら多分言葉に詰まるほどの些細な嫌悪を。
「町の人たちすっごい見てきますぞ」
いつの間にか城下町の大通りを俺たちは歩いていた。 道行く人々がこちらをもの珍しそうな顔で見てくる。 服がみんな制服で統一されているから、珍しいのだろうか?
「なぁ爺さん」
「なんでしょうか勇者様」
首だけをこちらに向けて歩きながら声を返してくる。
「城とその下町はまぁ分かります、ですが都市全体の周りを囲ってる壁は何のために?」
「あの壁はもちろん他国への防衛という意味合いもありますが...基本的に魔物の侵入を妨害するというのが主な目的でございますよ。 理由は国家によって多岐にあれど、この国では魔物侵入防止が主な役割でございます」
魔物か...いやだな。 自分の中で点だった疑問が紐づけされ、最悪の確信に変わっていく感覚というのはもっと嫌だ。 夜空は、帰れるのか?という不安を漏らしそうになって慌てて自分の口を抑える。
ダメだ! 今その質問は多方面への地雷だ!
なんで突如現れた俺たちに向けて、帝国側は最高の待遇なんてモンを約束してきたと思ってんだ! 俺達は囲って逃がさない為だ。 恩を着せておけば感情論でもなんでもいい...動いてくれると思ってんだ、実に簡単で単純なことだろ! 人を動かすのに難しい理由なんて本当は要らないんだ!
「テルテル...お前はアイツらの提案をどう思う?」
「我か? ふむ...我は極論、獣人を見れればなんでもいいですぞー!」
「馬鹿野郎、吞気すぎだ」
俺は他の人に聞こえないよう、テルテルの耳元で言う。
(帰れないかもしれないことをどう思ってんのかって話だ)...と、
テルテルはその言葉に、一瞬言葉を詰まらせると小声で答えを返してきて
「確かに思う事はありますぞ...でも異世界召喚ってそういうものだから覚悟はできてましたぞ」
その価値観はきっと、オタクな俺達みたいな人種しか理解できないだろう...後ろから付いてくる大多数のほとんどの人には理解できない。
「俺は...もう少し悩みたい。 帝国側がまだ召喚に関して、俺達に黙ってることがある気がしてならないんだよな」
「夜空氏の確信?」
「いや...直感かな? 確定してないから誰にも言うんじゃないぞ」
「じゃあアテにならないですぞー-!」
この野郎ッ!!
しばらく歩いていると城の前に到着した。 城の外周には水が張られた堀があり跳ね橋が表と裏の二か所に設置されていた。 城に関しては高すぎて、もはや何階建てなのかすら把握できない。
大きめの広間に通された俺たちは、ひげ面の爺さんの指示の元しばらく待機していた。 すると広間の扉がガチャリと開き、いかにも王様って感じの人と同年代又は一つか二つくらい年上の若い女性が部屋に入ってきた。
中世の礼儀なんて知らない俺たちが、ボーっと待機しているとさっきの爺さんが一喝する。
「王と姫の御前でありますぞ! 勇者一行控えなされよ!!」
その言葉に威圧されるように、俺や周りに居た連中がひざを床に落とす。 テルテルに至っては土下座までしている始末だ。
「よいのだ爺...表を上げられよ勇者一行。」
顔を上げた俺たちに向けて話を進める。
「呼び出したのはこちらだ、まずは私から名乗ろう...私の名は『イガルダ・リオ・オニキス』という、隣に居るのは私の一人娘であり王女の...」
「『ルーン・リオ・オニキス』と申しますわ皆様」
あの年で王女ということは、彼女の母親...イガルダの妻は既に死去しているということなのだろう。 あの年で王女とは、あの娘さんも苦労してるんだろうなと、作り笑いを浮かべる王女を見ているとこちらを凄い勢いで睨まれた。
やべっ、怖ッ。
相手がたの自己紹介が終わった後、横に居た女性教諭の腕をひじで数回こづいて自己紹介をするよう促す。 女性教諭の、こっちに対して救いを求めるような目はすでに半泣きに変化していた。
「はひっ! わたくしめはっ大庭 るみと申しますぅぅうう...」
緊張で膝は震え、声はがくがくだ。 この中で唯一の大人なんだからしっかりしてほしい。 そんなことを思っていると、爺と呼ばれた男がオニキス王に耳元で何かを囁いた。
「それで其方らのリーダーは誰ぞ?」
囁かれた後、王は俺達生徒一向に向かって言う。 他の生徒たちが戸惑う中、夜空は迷わす一人を指さした。 隣に居た大庭先生を...。
肝心の大庭先生は涙目になっているが知らないことだ。
それを見た王は、高笑いし あいわかった と言うとパンパンと数回手を叩き、使用人たちに食事を用意させていく。 机の上に並べられていく料理の数々は、おいしそうな匂いを漂わせながらもどこか見知らぬ食材が使用されていた。
「すっげぇ~」
マヌケな声が出た。 仕方が無いと思う、普通に生きていればこんな国賓待遇で出てくるような料理にありつける機会なんて無いのだから。 そんな中、鍋の下にある加熱用のキャンドルに対して使用人が、指を鳴らして火をつける様子を俺は見逃さなかった。
(魔法か? てことは...そういうことなんだろうな...)
「私は、話をするときは食事を交えながらと決めているのだ...皆の者、今日は無礼講である。 存分に食事を楽しむといいだろう」
食事を前にして、そういえばもうじきあっちの世界では昼だったことを思い出して食事に手を付けることにした。 夜空が食事を食べだすと、それにつられるように他の連中を食べ始めた。
少し探りを入れてみたいけど...あんまり目立つのもなぁ。 そんなことを思っていると、大庭先生が手を上げてポツリポツリと質問を始めた。
「あの...質問をいくつかよろしいですか?」
その問いに、オニキス王が首を縦に振る。
「まず私たちは、あなた方に呼ばれてきたわけではありません。 出来ることなら、元居た場所に戻りたいと思っているのですが...」
大庭先生のその言葉に、周囲に居た従者や姫が驚く。 彼らにとって、勇者というのは国を救うものだという固定概念みたいなものがあるのだろうか?
それに..........質問した段階で聞くかなとは思ってたが、まさかそんないきなり核心を突くとは思っていなかった。 不敬働いたって斬られたりしないよな?
そんな話を聞いたオニキス王は顔を一瞬暗くした後、目を瞑り一言。
「それは、できない」
この世界の人間から浴びせられたその一言は、俺達の残った希望の根を摘み取るには十分すぎるほどの絶望があった。
==☆次回予告☆==
2話の内容はシンプルです。
補足することも特には無いのですが、ひとつだけ....。 この世界は5つの大きな大陸によって構成されています、北に行くほど寒く南に行くほど気候は温暖になります。
後々本編に内容を絡ませるときは都度都度で説明入れます。
次回、3話......その天賦 勇者の力につき!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~