15話 その国 剣技の国につき!
昨日の戦闘の後、眠るように地面の上で倒れた夜空は...そのまま次の日の昼頃まで爆睡していた。 そして目覚めた夜空を待っていたのは...
「いてええええええええええぇぇぇッッ!!!」
全身のアザによる激しい痛みだった。
「死ぬぅ死ぬぅ―――ッ! 体中痛くて死ぬぅ!!テルテル助けてぇぇぇぇ!!」
ポーションを入れたバッグに、ほふく前進で移動しながら向かう夜空。 一挙手一投に激しい痛みはついて回り、その痛みは地獄そのものであった。
なんとか回復ポーションの元へとたどり着いた夜空は、全身にかかるように残り全ての液体を振りかけた。 体が淡い光を放ちながら、アザが次々と消えていくが....
「いてええええええええぇぇぇッッ!!!」
痛みは確かに徐々に引き始めているが、回復ポーションはあくまで傷を塞いだり消したりするだけで、痛みまでは即座に消し切れないらしく....夜空は長く悶絶するのだった。
数十分後.....。
ようやく立ち上がれるぐらいに回復した夜空は、自分の様子を見て呆然とする。 服の上はほぼ破れ番族のようになり、ズボンも穴だらけ...せめてもの救いは、股間辺りに穴が開いていないことくらいだろうか。
こんなことなら制服着てこなきゃ良かったと心底後悔する。 事情を話したとしても、日本に戻った時に親父にぶん殴られる未来が見える。 .....踏んだり蹴ったりが過ぎる。
「はぁ...セブン国向かうか....」
夜空は出発の為にどこかに吹っ飛んだであろうショートソードを探して...そして、見つけて絶句する。 剣の刀身は粉々に砕け、柄だけが残った剣がそこにはあった。
「これ...絶対あのウェーブ攻撃のせいだよな、どう考えても」
ショートソードを反射的に盾にしなかったら、結構ヤバかったんじゃねぇのか? ヒビ入ってるとかもうそういう次元じゃ無いんだけど。
「そういえば...スキルって結局何奪ったんだっけ?」
昨夜、気絶する直前にスキルを奪ったのだが、あの時確かにスキルを習得した時に感じる感覚がしたのだ。 体が『ズンッ』と一瞬重くなるような感覚を。
「人生回廊」
夜空がそう言葉を紡ぐと目の前にプレートが現れる。
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★天賦:アビリティースティール
★天賦詳細:人族以外の死亡した生命体から、死後30秒以内であれば保有していたスキルを強奪し自らで使用することができる。
★警告:スキル自動取得不可・スキル自動進化不可・その生物の身体的特徴を使用するスキルの使用不可
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★現時点保有スキル名
・火炎耐性
・火種
・ハイパーウェーブ
・なし
★警告:現在4枠以降はロックされています....
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「なんか、枠数増えてんだけど...どうなってんの!?」
なんで増えた!? 自分より強い敵を倒したからか? それとも運?
どおりで目覚めた時に入れ替え警告が出ていないと思った。 そりゃでねぇわ、枠が空いてるんだもん...入れ替える必要性は無いわな。
(それに、ハイパーウェーブって絶対アレのことだよな)
夜空は粉砕した剣に目をやる。
多分喜ぶべきことなんだろうけど、頭痛に火傷の件があるからどうにも素直に喜べない。 もし、反動で手が割れるとかだったら...今度ばかりは本気で洒落にならんぞ。 人から教えてもらうスキルならともかく、魔物から強奪すると説明がついてこないのが厄介だ。
「ビビっててもあれだし一回使ってみるか?」
夜空は見よう見まねで手を前に突き出し叫ぶ。
「スキル『ハイパーウェーブ』!」
手のひらから石の手が放ってきた音波のようなウェーブ状の攻撃が出て...そのまま直線状にあった岩に当たり、しばらく当てていると岩に亀裂が入った。
「うーん、多分そもそもの手の大きさの違いかなぁ...」
夜空は近づいて、もっと近距離で放ってみる。 すると、岩はまるで手と反発するように吹き飛び、そのまま少し離れたところに落ちる。
少し離れると、崩壊音波...近距離だと反発、そんな感じだろうか?
試してみた感じ特に異変も感じられないし、とてもいいスキルだと思う。
というより、今までがゴミ過ぎた。
超音波とかいうゴミは、もう多分二度と手にすることは無いと思う。
「こういうのでいいんだよ、こういうので♪」
番族姿の夜空は、ご機嫌のまま森を進むことにした。
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森を越え、川を越え........目覚めてから数時間歩くと、小高い丘の上に大きな町が見えてきた。 城門には、7の文字と剣をあしらった装飾がデカデカと飾られていた。 一目でそれが国旗のような、国のシンボルマークなんだと理解させる迫力があった。
「あれがセブン国...元セブンティア王国か」
そして剣技の国...あの街に春が居てくれたなら最高なんだけどな。
よし行こうと踏みだして、夜空はピタリと足を止める。
(ヤバい、このまま行ったら変態として捕まることになる)
上半身裸のボロボロの男を、門番たちが黙って通してくれるとは到底思えない訳で。 せめてこの姿だけはなんとかしなければならない。
夜空が何か無いかと辺りを見回すと、ちょうどセブン国に行商に行く旅商人を見つけた。 夜空どっかのドワーフから盗んだ財布を開いて中を確認する。
「なんだよコレ...30銀弱しか入ってないぞ」
あの野郎、港で銀行に預けやがったな。 仮にも守銭奴を語るのなら、俺が幸せになるくらいの金を常に財布に入れておけ!
「とりまローブでもなんでもいいか」
行商人のおじさんに近づいていき話しかける。 おじさんはボロボロの夜空に、一瞬ギョッとしたような顔を向けてくるが、変態風なお客だと分かると直ぐに態度を改める。
「はいはいお客さんどうされました?」
「着るもの売って無いか? 上だけでいいんだけど」
「そうですねぇ...」
そう言っておじさんは自分の荷車の中をゴソゴソと漁り、一枚のTシャツと緑色の薄いカーディガンを出してくる。 カーディガンの前にはボタンは無く、前が閉められないようになっていた。
「こんなお洒落なの買えないよ...俺、20銀程度しか持ってないんだ」
あえてハッタリをかけてみた。
ギリギリの額を提示してくるようなら多分価値はそれ以下だと思う。
「お客さんと会ったのも何かの縁。 ここは、20銀で大丈夫ですよ?」
マジかよ、絶対カモられてる気しかしないけど、疲れ取れてないし駆け引きもダルいな。 もう別にいいか、宿代さえあれば...なんでも。
「じゃあもうソレでいい、それをくれ」
「へへへ、毎度ぉー!!」
夜空は手に入れた服装に着替えを行うと...なんか異世界人っぽい感じになった。 材質が少し硬くて気になるが、それに関しては着ていればいつか慣れるので問題はないだろう。
「さてと行くかセブン国」
夜空は声高らかに、小さい城が建つ薄く低めの外壁に囲まれた、セブン国の首都の門へ向かって走り出した。
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セブンティア王国....
この国は剣技の才ある剣士たちの誇りによって紡がれるべき国である。
初代国王:ファーマン・ルゥ・セブンティア
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街に入りまず最初に夜空を出迎えたのは、大きなオッサンの偶像だった。 オッサンの偶像は剣を高々とかかげているようなポーズを取っている。 偶像の下には石板があり、そこには上記のような文字が綴られていた。
「ガイドブックにも詳しい事はあんまり書いてないんだよな...」
ガイドブックは基本的に食べられる雑草とか、戦闘の豆知識とか...冒険者が、便利だと思うような情報が多く掲載されていて、国や街の情報に関してはまた別で旅ガイドみたいなモノを買う必要性がありそうだった。
最低限...国土の広さとかテーマ、その補足くらいしか載っていない。 ちなみにセブン国は小国であり、街がこの場所以外に存在しないのも特徴の一つらしい。
「起きたのが昼頃の筈だから、あと少しで夕方って所かな」
夜空はとりあえず、宿屋を探すために街を歩き始めることにした。
この世界の国の仕組みは、首都とその付近の街や村で一つの国とされており(小国家なら首都と村だけ)、それらを含んで適当に国境線が引かれている。 そのため、どの国にも属さない大地がそこかしこに点在している。
まぁ俺のような、ただ生きてるだけの一般人に関係ない話ではあるので...大陸線と国境線は違う、ということだけ覚えておけばいいだろう。
夜空は、この首都に住んでいるであろう人たちの傍を通り抜けながら、雰囲気的に宿屋がありそうな方を目指して進んでいく。
しかし...さっきから気になることがある。
街ゆく人々...というか、10歳くらいから20歳くらいの若い男性のほとんどが、左胸に銅や銀のバッジを付けているのだ。 バッジは、門の所に飾られていた7と剣をあしらった紋章が描かれていた。
「しかしオニキス帝国とはまた違うんだな。 ベルトコンベアの流れない街ってのも、いつもの感じで安心するな」
テーマそのものが違うんだから当然と言えば当然なのだが、完全に感覚がバグっていた。
「階級とかそんな感じなのかな...会社みたいな制度だなぁ」
そうこう言ってる間に宿屋についた夜空は『やっと休める』と、ぼやいて中に入っていった。
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「なんでだよッ!」
トラブルが発生した。
金が足りない...単純なことだったのだが...
「だから何度も言うように、お金が足りてねぇんだ!」
「夕飯と朝飯は抜いていいから値段下げることはできるだろ!?」
「ウチはそんなプランの変更なんてやってないわ!」
クソっ、なんて融通の利かない宿屋なんだ。
ていうか一泊30銀は高すぎだろ! どんだけいい飯を食わせる気だよ!
しょうがない、こっちが移動するしかないか....
「じゃあ、他に安い宿教えてくれ。 そっち行くから」
「ねぇ」
店主は即答する。
「は?」
「この街は基本的に観光で訪れる人がいませんから、来るたちは剣士見習いの方々ばかりですし...」
なんだよ、剣士見習いって。
「じゃあ俺今日野宿かよ」
「そーだなー」
「オイコラッ! 他人事みてーに言ってんじゃねーぞ!」
「だって他人事だろうが」
その通りであるが、その対応はいかがなものだろうか。
夜空は落ち込みながら外に出て、近くにあったベンチに腰をかける。 財布の中を覗き込みながらため息をつく、何か合法的に金をすぐに手に入れる方法は無いものかと、頭を捻る。
夜空はチラリと道行く人たちを見る。
(スってみるか?)
邪な考えが一瞬頭を通り過ぎ、夜空は頭を振ってその考えを吹き飛ばす。
一体今何を考えた!? それはダメだろ人として。
夜空は働くとか働かないとか、今の状態で非現実的なことを考えながら時間を浪費していった。
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【場面変わって....セブン国首都内、貴族セブンティア家にて】
セミロングの銀髪碧眼の少女が、銀色のバッジを左胸に付けながら廊下を走る。 廊下を歩く使用人たち一人一人に、頭を軽く下げて律儀に軽く挨拶をしていくその可愛らしい姿は、教育がとても良い事を十分に窺わせる。
「お母様、お父様!」
廊下の先にある広間のドアを開けて叫ぶ少女。 その目線の先には、ソファーに腰をかけくつろぐ少女の両親の姿があった。
「こらこらリリス...はしゃぐのは分かるが、廊下を走ってはいけないよ?」
「も、申し訳ありませんお父様」
どうやらこの少女はリリスというらしく、その少女は、今夜何か特別なことがある子供のようにはしゃいでいた。
3人で仲良く会話をしていると、先ほどリリスが開けた扉から男が飛び込んできた。 その男の胸には、金ノ下と書かれたバッジが付けられていた。
「お父上ッ! 本当に、本当に我が妹リリスにあのようなことをさせるつもりですか!?」
「興奮するなカイル、お前はそろそろ妹離れしなさい」
父親が口を開き、母親が続ける。
「その通りよカイル、貴方だって昔経験したじゃない一晩の街の警備...セブンティア家の代々の恒例行事だってことくらい、貴方だってよく分っているでしょう?」
「しかしだな...リリスはまだ12歳です。 可愛い妹がもし酷い目にあったらと思うと...夜も心配で眠れやしません!」
その場の兄貴以外の全員が、あまりのシスコンっぷりにため息をつく。
「お兄様、まだ12歳では無くもう12歳です。 それに私は現在、銀ノ上の階級に属しているほどの剣士です。 並大抵の方に遅れを取ることなんてありません!」
「あぁ妹よ分かってくれ、お前は可愛い...可愛すぎる。 邪な心を持った、腐った猿がお前を襲うとも限らない...分かってくれリリス」
「うぅお兄様...だ、抱きしめないでください~」
一方的に抱きしめ合ってる兄弟を見て、母と父が苦笑しながらため息をついた。 父の方は、あまりのシスコンっぷりに頭を抱えるが、諦めているのか何も言わない。
このセブンティア家では、代々銀ノ上の位まで剣技資格が上がった者を一晩町の警備に当てる...という脳筋試練がある。 この試験を無事乗り越えたら、セブンティア家では一人前の剣士とされていた。
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この国には階級制度が存在し、それは
剣士見習い・銅ノ下・銅ノ上・銀ノ下・銀ノ上・金ノ下・金ノ上という形で位が上がっていく。 見込み無しと判断される基準ラインや、年齢制限の関係で上がれない階級も存在するが...リリスの年齢(12)なら、銀ノ上までは行くことが可能とされている。
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「私も幼い頃、街の警護をやったことがあるが...まぁこの首都全体を何も一人で守れと無茶言ってる訳じゃない...だから大丈夫だよ」
父親が過去を思い出すよう目を閉じながらカイルを諭すが...
「俺もついていきます父上!」
話を聞いていなかった兄であるカイルが『俺も行くぞ』と啖呵を切り、母親に引っ叩かれる。
「いい加減、頭を冷やしなさい! カイルだって、リリスが沢山の修練を積んでいたことを十分理解しているでしょう!?」
『愛しているなら見守りなさい』という意味が込められたその言葉が響いたのか。 カイルが考え込み、家族に向かって一言だけ言う。
「...寝ずに待っている位はいいだろうか」
その言葉を聞いて安心した二人はリリスに向き直る。
「リリス、落ち着いて...前も説明したけれど、貴方が今回行く場所は少しだけ治安が悪い場所よ。 油断しない、それだけは念頭に置いて行動するのよ?」
「はい! では私は準備してまいります!」
リリスは急ぎ足で自分の部屋へ行き、装備や剣などを用意しにいった。
「まぁこの国は、剣士だらけだし...そこまで犯罪も起きないのだけれどね?」
「それは、まぁ、そうだな」
両親は何もないだろうとタカを括っているのか、安心したように笑っていた。 実際に経験したからこそ分かることがあるのだろう。 ただ一人、シスコン兄貴を除いて...その場には温かい空気が流れていた。
使用人たちに念のための装備を着させられ、時間が分かるようにと魔力で動く高価な腕時計をつけられたり、夜風で寒くないようにとコートを着させられ、温かいスープまでも水筒に入れて持たされるリリス。 子供の遠足を心配する親かよ、とツッコミたくなるほどの光景がそこにはあった。
「えへへ、それではお母様、お父様...お兄様っ! 行ってまいります!」
玄関を開けて、夜の街へと繰り出そうとするリリスを見送ろうと、両親や兄、使用人たちまでもが集まっていた。 兄だけは涙と鼻水を垂らして、リリスを心配そうに見つめている。 ....訂正しよう、使用人たちに駆け寄ろうとする歩みを食い止められて、見つめさせられているが正しい。
「リリスゥゥ! リリス行くなァァァ行くァァァー---!! うわあああああああー--っ!! 俺も行くぞあああああああああ放せえええええええええええ!!!!!」
年齢が年齢なのに、大号泣である。
「もー、お兄様...私もう子供じゃないですよ~」
その場に笑いが起きる。 リリスは『もーなんですかーみんなしてー』と、冗談めいたことを口にしていた。
「リリスよ。 くれぐれも気を付けてな」
「朝帰ってくる頃には温かいご飯を用意しているわね?」
「はいっ! このお父様に頂いた宝物である剣に誓って、皆さんのご期待にこたえてみせます!」
両親の温かい言葉を背に、銀髪碧眼のその少女は自分の家である屋敷を後にした。 夜風が吹き、昼間の暑さがどこかに行ってしまった街に、剣を腰に下げた少女は一歩を踏み出していった。
==☆次回予告☆==
15話の閲覧お疲れさまでした。
今回はセブン国編に突入した回でした。 それともうひとつ、今までこの小説にはヒロインみたいなのが登場してなかったと思うのですが、このセブン国編が終了することには夜空編に明確なヒロインが誕生します。 名はまだ伏せますが、葉日学園の同級生をヒロインとして据えなかったのは....物語の進行という名目もあったりしますが、夜空の性格にも関係して居たりします。
そこら辺の話も追々できたらいいですね。(既知の情報で察せますが)
今回のプチ話はスキル『ハイパーウェーブ』について
石の手から入手したスキル『ハイパーウェーブ』は崩壊性のある音波を手のひらから前方に向けて射出します。 しばらく当て続ける事で無機物を劣化及び破損させます。 物との距離が無い、つまり音波の行き先が無いと音波に自分が押し返される、あるいは物を吹き飛ばしてしまいます。 いわゆるノックバックという奴です。
夜空が使うと反動で手を擦り剥くようですよ?
以上、ハイパーウェーブの詳しい解説でした。
次回、16話......その少女 夜の街で!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




