14話 その旅路 困難極まれり!
「ハァ...ハァ...」
運動不足の体を無理やり動かしながら、夜空は日が落ち始めた森を走っていた。 あちこちから狼のような遠吠えが聞こえ、その度に体が恐怖で硬直する。
街道沿いを走っていたつもりだったのに、いつの間にか迷っていた。 トニールが林道なんかに入るからこうなる...大人しく来た道を戻れば良かったと本気で後悔する。
方向自体は合ってるハズ......。 ガイドブックにも、街道が交差したりしてる様子は描かれていないわけで、このまま真っ直ぐ進めば辿り着きはすることにはする。
それもすべて....到着までの時間を度外視すればの話だが。
「マズいな...このまま森で夜を迎えるのは...」
よくよく考えてみたら、俺はこの世界の魔物というものをほとんど知らない。 オニキス帝国で対応したフレイムバッドは、いわば例外の生物だった...今、俺の魔物という言葉の知識源は全てゲームや漫画などの、誰かの創作物の知識だった。
「とにかく休むなら、最低でも木の上...洞窟とかあれば好ましいな」
幸いなことに、スキル『種火』のおかげで火には困らない。 水に関しては、多少怖いが川水を呑めばいいだろう。
...問題なのは食料だ、こればっかりは現状のスキルでどうにもならない。
「撲殺の次は溺死...挙句の果てに、暗殺...その上、獣だらけの森で一晩過ごさなきゃならん上に、餓死の危険性すらあるときた。 なんなんだよこの冒険譚......キングボンビーでも憑いてんのか?」
この世界に飛ばされた誰よりも、一番ハードな人生送ってる自信はある。 というよりも俺だけ難易度設定バグってんだよな...主に天賦。
文句ばっか言わずに探すか...洞窟...。
夜空は大きくため息をついてから、再び息をひそめながら洞窟を探しながら前進する。
しかし探せど探せど、そんなご都合的な洞窟なんてあるハズもなく...疲れ果てた夜空は川辺の大きな木の傍で腰を下ろしていた。
完全に暗くなる前に木を集め、河原の石を使って焚き木をくみ上げた。 近場に生えていた、燃えやすそうな雑草を焚き木に集め、スキルを使って着火する。
「あちぃいいいい!!!」
スキルを使った夜空は、発動した指を急いで川につけて冷やしていた。 どうもスキルを使うたびに俺は火傷するらしい。
なんてこったい。
パチパチと、いい音が鳴る焚き木を眠そうな目でボーッと見つめながら、なんでスキルを使うと火傷するのかについて考えていた。
この『種火』に関しても安全な事実は確立されている...だってオニキス帝国での宴会場で使用人が使っていたのをこの目でしっかりと見ている。 そして、その使用人は火傷なんてしていなかった。
昨日、東大陸で捨てた『超音波』に関しても、俺だけ何故か反動が起きていた。
いや...これは本当に反動なのか? 流石に二つのスキルに一切適性が無かった...というのはいささか偶然が過ぎるだろう。 十中八九、これは偶然なんかじゃない。
思い出せ、ここまでの旅路で必ずキーになるワードを掴んでいるハズなんだ。
夜空にはあった、核心に近づいているという確かな自信が。
「天賦...スキル...不具合...ん?」
不具合...今まで俺は、天賦が弱い事そもそもが不具合だと思っていた、が...もしそれが、正しく天賦が機能していないという意味に捉えたらどうなる?
じゃあ何が正しく機能していない?
アビリティスティール...スキルを奪う力だ...。
死んだ生物からスキルを奪う、一見強そうだが実際制約もかなり多かった。 死亡後30秒とかいう謎ルールもあると、最初少し驚いたが。 もし死亡後、30秒以降はスキルが破損して奪えない状態になるのだとしたら話は別になってくる。
「ヤバい詰まった...良いところまで来てる気がするんだけどな...」
夜空は自分の頭をゴンゴンと叩くが、ボーッとして何も考えられないことで、眠気と疲れがピークなことを察する。
その時、近場から『ワオーン』という遠吠えが聞こえてきて、飛び上がるほどビビる夜空。 夜空はすぐに考えるのを止め行動に移す。 いつになったら安全な状況で考えることができるのだろうか?
「やっば! 火消せッ!」
火を踏みつぶして消して、直ぐに木の上に素早く登る。 人間ってピンチになるとこんなに力が出るもんなのかと、少し自分に驚いていると...草木の陰から数匹の狼の群れが現れた。 狼はしっぽに赤色のボールのようなものをぶら下げていた。
(どうせタダの狼じゃねぇんだろ...早くどっかいけよ...ッ!)
内心チビりそうなほど怯えながら木の上で息を殺す。 狼が鼻をクンクンさせながら、獲物を探す動作を行うが...そこには既に踏みつぶされた焚き木の後があるだけで、人はいるわけなかった。
「........ッ」
しばらく狼との根競べを行う。 落ちないように、必死で幹にしがみつく夜空の手は、すでに真っ赤になり始めていた...そんな時、狼の一匹が『ワオーン』と鳴くと、近場に居た他の狼が、鳴き声を上げた狼の尻尾...正確には赤色の玉に噛みつき、まるで果物を収穫するように優しくソレを取ると、近場の草の中に吐き出して捨てた。
(何やってんだ...アレ...)
夜空は恐怖と疲労で震えながら、下に居る狼たちの様子を窺っている。 狼たちは一連の動作を行った後、どこかへと足早に去って行った。
「はぁ、心臓にわりぃよ...この世界の夜は」
そういいながら木から降りてきた夜空が、地面に足をつくと突然....
けたましい警告音が森中に鳴り響いた!
警告音の発生先は、先ほど捨てられた赤い玉だった。
すぐに夜空は察する。 これは獲物を見失った時用の探知センサーだと...。
「やべぇッ!」
夜空はその場から一目散に逃走する。 付近に居た狼たちが一斉に遠吠えを上げ、夜空に向かって四方八方から襲撃を開始する。 夜空は腰に下げている剣を引き抜き、走りながら突っ込んでくる狼たちを殴り・切り倒していく。
切り倒す、とは言っても...当然殺し切れるわけもなく。 半端に攻撃したそのダメージは、かえって狼たちの怒りをヒートアップさせるモノになる始末。
もう収集が付かなくなっていた。
ほぼ積みである。
「くそっ! よってくんな、獣臭いんだよッ!」
徐々に体力の限界が近づいてくるのを感じる。 今コケれば、そのままこの世界とさよならバイバイすることになることを全身で感じて、冷や汗が止まらない。
その恐怖はまだ小さかった子供の頃、大型犬に潰され舐められ...息ができなくなった、あの時の恐怖と酷似していた。 最も、あの時とは違い、自分の周りに守ってくれる大人なんて甘っちょろいもんは、居やしないのだが。
「嫌だ死にたくねぇ...なんで俺ばっかこんな目に合わないといけないんだよ!」
不公平だ
どこまでも不公平だ
もし...神様が見てるなら...
どうか少しでも救いが欲しい...助けてくれる人が居て欲しい。
しかしどう願っても結果は変わらない。
神様っていうのはシカトするのが大好きだから...
夜空は最後に無駄な望みをかけるように、天に手を伸ばした。 後ろから迫ってくる狼の牙が、夜空の肩へと突き刺さり...夜空の悲鳴が上がっても、神は夜空に味方なんてしなかった。
「あああああああぁぁぁぁッッッ!!!」
一瞬で取り囲まれた夜空は、本気で自分の死を覚悟する。
肉に飢えた獣の殺気が肌へと突き刺さる。 その殺気に、夜空は反射的にスキルを発動する。
「ふざけんなッ! 燃えろ犬があああああああああああああッ!!」
スキル『種火』を発動した指を、肩に食らいついている狼の眉間に押し当てる。 すると眉間近くについた僅かな種火は、狼の体毛という格好の着火剤に引火して炎が狼の全身を覆う。
突然の炎にパニックになった狼が低木に体当たりし、低木から樹木へと燃えひろがっていく。
夜空は剣を拾い上げてから。 近場で睨みをきかせている狼を蹴り飛ばし、再び狼の群れから逃走するように走り始める。
「ワオーンッ!!」
再び遠吠えが聞こえ、放心していた狼たちが少し離れた夜空に向かって突進してくる。 夜空は森を懸命に走り逃げるが、四足歩行の生物の速度に敵うはずも無く。
徐々にその距離を詰められていく。
夜空は走りながら、この森の中央付近にある円形の草木が生えていない場所へと飛び出す。 円形の大地の中央には大きな岩の山ができていた。
すると...
全ての狼たちが、その場所を警戒するように森の中でピタリと止まり...Uターンして走り去っていった。 夜空は、間一髪で危機を乗り越えたことに安堵し、腰が抜ける。
「肩痛すぎ...ポーション塗るか...」
バッグに手をかけ、ポーションを取り出そうとしていると......
突然、地面がカタカタと揺れだし中央の岩が空中に浮き始める。 空中に浮いた岩たちは、一度固まった後...再び自らの形を変え始める。
あっという間に巨大な手の形をしたソレは、地面に自らの体を突き刺すと..指先を夜空の方向に向けて岩の弾丸を発射してきた。
「うわあああぁぁぁッ!!」
夜空は頭を抑えながらその場を去ろうとするが、凄まじい数の石のつぶてになすすべなく吹き飛ばされる。 幸いにも、頭は守ったおかげで致命傷には至らなかったが、それでも全身アザになるほどの衝撃に晒され、夜空は地面を転がる。
しかし、それと同時に岩の手の手首の辺りに、大きな青い宝石のようなモノも一瞬見えた。
日本で無駄に培ってきたゲーム脳が言っている。
アレを壊せと...
「あぁ逃げてぇなぁ...もう嫌だよ俺」
狼に追われて...よくわからん生物?に襲われて、もう夜空は心身ともに参りきっていた。 痛みで気絶しそうな体を無理やり起こし、回復ポーションを自分に半分ぶっかける。 覚悟を決めたように息を吐き、腰から剣を引き抜く。 夜空の片手には、既に打つ準備が完了してある壊れかけのフリントロックピストルを握っている。
再装填が終わったであろう石の手がこちらに再び指を向ける。
もう言葉を発する気力すら無かった...ここで逃げれば狼に食い殺される。 ただその事実だけが、夜空を無理にでも奮い立たせる気力に繋がっていた。
夜空は、力いっぱい踏み込み...石の手に向かって走り出す。 それとほぼ同時に石の弾丸を無数に発射してくる。
夜空は、剣を前に真っ直ぐ持ちながら剣の刀身を盾代わりにして突っ込む。 少し進むと石の猛攻がより激しくなり、夜空の足が止まってしまう。
夜空は懸命に耐えるように剣で自分を守り続ける。 石が夜空の肌を裂き、服を裂き...肌に当たる。 一発おでこに食らってしまい、一瞬意識が飛びそうになり倒れる。
それと同時に、石の攻撃が止まる。
「今...しかない...ッ...」
痛みで悲鳴を上げる体を無理やり前に進ませ、青い宝石を破壊するために剣を振り上げる...その刹那!
それはやらせんとばりに岩の手が、手をCの文字を作るような形に変化させ、ウェーブのようなモノを発射する。 夜空はたまらず吹っ飛ばされ...宙を舞い、激しく地面に叩きつけられるように落ちる。
「グハッ!」
ウェーブを撃った石の手が疲れたように項垂れる。
夜空はボロボロになった体と霞む目で、少し青い宝石をピストルで狙う。
「神様...もう十分だろ、だから頼むよ」
「...ゲームセットにしよう」
夜空はトリガーを引き抜き、フリントロックピストルは2度の小爆発を引き起こす。 バレルが破壊されるほどの衝撃をもった弾は一直線に宝石へと飛んでいき。
その素朴な祈りが神様に届いたのか...
青い宝石を貫いて、石の手を見事に崩壊させた。 夜空はすぐさま壊れた宝石に対して天賦を発動し、薄れゆく意識の中、適当に岩の手のスキル欄の中からスキルを一つ奪い取る。
奪い取ったスキルの名前すら確認することなく...夜空はその場で気絶してしまった。
こうして夜空の2度目の戦闘は、とてもいい勝利とは言えない形で幕を下ろしたのである
==☆次回予告☆==
14話の閲覧お疲れさまでした。
今回はスキル入手回でした。 しかし書いてて思ったんですが、今回の岩の手は完全にス〇ブラのマスターハ〇ド........。 素材が岩だし攻撃方法も若干違うし、パクるつもりも一切無かったのでたまたま被ってしまったって事で許して下さい。
次回から本格セブン国編始動ですね。 大きなタイトル(小説内には書かれてない独自タイトルです)としては『テーマに抱く想いの相違』を、表面に出していきたいですね? 読者の方々が混乱しない様、努力して書いていきます.....拙いですがお付き合いを。
今回はプチ話は無しです。
次回、15話......その国 剣技の国につき!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




