11話 その繋がり 崩壊につき!
【数分前...オニキス帝国、西側にて】
イスカルとリーダーの男はお互いに一進一退の攻防を繰り広げていた。 化け物とまで言われたイスカルの動きが、まるで分かっているかのようにさばき反撃を行う。
「あ~あ~、こんなにぶっ壊しちまってよぉ...帝国側が修繕費出すんじゃねぇんだから勘弁してくれや」
リーダーの男は剣を振り上げ、イスカルを仕留めに行くが...
「スキル『重力壁』」
重力を操作して、反発する壁を作ってそれを防御する。 リーダーの男はそれを押しのけようと無理やり剣で押そうとするが、刃がキックバックが起こりそうになり慌てて距離を取る。
「だがもう追いつけないだろ!? 俺達もそろそろ引かせてもらう...列車が出た以上、今お前と無理してまで殺り合う理由はねぇぜ」
リーダーの男は、少しずつイスカルと睨み合いながら距離を取る。
「......」
しかしイスカルは何も喋らない為、リーダーの男は少々調子が狂っていた。 イスカルとそのリーダーの男が使う剣技は全て似ていて、幼い頃共に厳しい特訓を乗り越えたことを感じさせる。
鍔迫り合いを起こしていた剣を弾き、イスカルが距離を取った瞬間に...リーダーの男はその場から立ち去ろうとして...ふと、隠れていた疑問に気付いた。
(さっき、あの野郎は.....どうやってここまでやってきた? まるで大砲みたいに空を....そんな人間大砲みたいな曲芸、スキルでしか出来ねぇだろうよ。 ...おいおい、マジか。 予感が正しきゃぁ嫌な予感がするぞ!!!)
そして不安は的中した。
「スキル『スカイバンパー』」
「クソッ待ちやがれッッッ!!!」
その声も虚しく、イスカルは自分の足元の重力を反転させ、大空へと舞い上がる。 そのまま空にいくつも重力壁を展開し、跳ねるように夜空を追跡していってしまった。
「やられた...あんなスキル、子供の頃は無かったハズだ」
「...あんの化け物が、まだ強くなってやがるのかよ」
既に姿がその場から見えなくなったイスカルに、もはやリーダーの男ができることは何も無かった。
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【列車...荷台にて】
無機質な表情を浮かべたイスカルが、夜空を見下すような形でそこに立っていた。 夜空は全身で感じていた...近い未来にある自分の死を。 温室育ちの日本人である夜空に対してソレを明確に感じさせる程、圧倒的なプレッシャーに押しつぶされそうになる。
「...イスカル...いや、お前...ロケットペンダントはどうしたッ?」
夜空は問いかけるが、まるで魔法でもかけられたが如く何も言わない。
まるで別人、そう思わざる得ない程恐ろしい。
「良く知らねぇけど、少なくとも! そんな気味の悪いブレスレットより大切なモノだったハズだろッ!!」
「...夜空...君...逃げろ...逃げてくれ...」
絞り出すように、何かに抗うように訴えてくるイスカルは、その言葉とは裏腹に夜空に剣を引き抜き飛びかかってくる。
夜空は、反射的に剣を引き抜き応戦するがド素人の剣が当たるわけもなく...
イスカルの剣が脳天に....
かと思ったその瞬間、イスカル自身が剣を列車の外へと投げ出した!? 車外へ投げ出された剣は一瞬で見えなくなりどこかへと消えた。
「なんで...っ」
その問いに返ってくる言葉は無く、イスカルは夜空の首元を掴んで貨物の荷台の壁に背中を叩きつける。
「ギャアッ!」
ドンッという鈍い音がして背中を強打した夜空は苦しそうな声を上げる。 そのままイスカルは1発良いパンチを腹に入れてから、夜空をおもちゃのように荷台に投げ捨てる。
「...ウウッ...イスカル...こんな...ことッされる...覚えはねぇぞ...」
夜空は、見えないようにポケットに手を突っ込んで、麻痺ポーションを投げられるように用意する。 イスカルはトドメと言わんばかりの勢いで迫ってくる。
恐怖を抑えろ...まだだ...まだ引きつけろ...。
ここッ!
イスカルが迫ってきて再び倒れる自分の首元に腕が伸びてきた瞬間、出し惜しみせずに2本の麻痺ポーションを投げつける。 一本は弾かれるが、もう一本がヒットし、イスカルの動きが明らかに鈍った。
「イスカルゥッ!!!」
夜空は昔習っていた空手で、人体の急所である首を狙う。 動きが鈍ったイスカルが、カウンターでブローを繰り出してくるが、それを夜空はあえて受けながら首にパンチをねじ込む。
パンチを受けた隷属の首輪に少しだけ傷が入った。
ブローを受けた夜空が吹っ飛び、後ろにあった木製のコンテナに壁を壊して突っ込む。 少し遅れて、すごい音を立てて夜空が中に積みあがっていた荷物に埋もれる。
傷を受けた隷属の首輪が、一瞬だけエラーを起こし魔法陣が揺らぐ、が直ぐに修復が始まってしまう。
「夜空君...すまない...体が...言うことを聞かないんだ、王の命令に背けない...だから逃げてくれ頼む...お願いだ頼む!」
今までの妙な言動に辻褄があった。 イスカルは操られて...いや状況はもっと複雑なのかもしれないが。 そんな事は、どっちでもいい事だ。
.....今の俺には
物語の主人公のようにイスカルを助けただす手段も
ましてやここから逃亡することさえ敵わない。
「今の言葉を聞いて少し安心したよ。 抗ってくれたんだろ...ありがとなイスカル」
荷物をどかしながら真っ直ぐにイスカルを見る。 剣を投げてくれたのは、少しでも俺を殺す確率を下げるために命令に抗った結果だったのだ。
懸命に抗ってもイスカルができるのは、せいぜい声を少し発したり指先や腕を少し動かしたりする程度らしく...既に俺なんかではどうしようもない状況だった。
まるで、親父と息子の喧嘩...ハッキリ言って勝てる気がしない。
「それでも...やらなきゃダメなんだろうな」
殴られた腹を抑えながら、夜空がフラフラと立ち上がる。
「よ、....夜空君ダメだッ!」
「逃げ場も無いし、それに諦める気も無い...俺は生きて春に合う。 兄貴として、アイツを守ってやらなきゃ親に顔向けができなくなっちまうんだよ!」
「ッッッ....!!」
イスカルは酷く辛そうな顔をしている。
「それが兄貴としての俺なりの責任だッ!」
夜空の決意にイスカルは辛そうに涙を流した目を閉じる。
夜空は柄にもなく獣のように吠えると、夜空は麻痺しているイスカルに対して連続攻撃をしかけていく。 腹・すね・顔面・肩...とにかく攻撃を入れ続けるが、岩のように鍛え抜かれたイスカルの体は一切、致命傷を受けているようには見えなかった。
しかし夜空は諦めずに殴り続ける。
そうこうしている間に麻痺が解け、イスカルは再び首元を掴んで荷台の壁に叩きつけ、その状態のまま腹や顔面に、何回も何回もパンチを入れていく。
何度も何度も、妹に会うという意思が揺らぐほど....
日本でも、ここまで暴力といえる暴力を受けたことは無かった。 もう自分の顔が、どんな痛々しい姿に変貌しているかすら考えたくなかった。
「...もうやべて...ゆるじて..................イズカルっ...」
かろうじて絞り出したその言葉に、イスカルは目から涙を零す。
「僕は...夜空君の...友人...失格....だろうね...」
いつの間にか蒸気列車は、峡谷沿いを走っていた。 峡谷の底には、川が南側に向かって激しい勢いで流れていた。
イスカルはゆっくりと、夜空の体を峡谷の底へと落とすように空中に持ち上げる。
「じにたくねぇ...まだじにたくねぇよぉ....」
夜空は必死に命乞いをしながら泣き叫ぶ、どんなに強がっていても本質である子供という面は変えられない...夜空は自分自身がここまで脆い事に改めて気づいた。
夜空は空中で足をバタバタさせながら、助けを乞うようにイスカルの目を見る。 そしてイスカルの目を見た時、夜空は命乞いをピタリと止めた。
その目は....
涙を浮かべており、心の底から許しを願っている目だった。
(....僕にも色々あるんだよ、あんな出来事でもう二度と後悔したくないんだ!)
イスカルが夜空を逃がす時、最後に言ったあの言葉が...何故か一瞬脳裏を横切った。
結局、誰にも感謝を伝えられなかった。
テルテルにもクル爺にも、大庭先生にもにも...春にだって。
秘めたる想いすら...温井さんに届かせることもできなかった。
せめてイスカルだけには...憎しみを向けるべきでは無いと...ここまで殴られたのに思ってしまった。 この世界で少しの間だけでも、生き残れたのは紛れもなくこの男のおかげだったのだから、恩を仇で返すような真似だけはしてはいけない。
なら友達として...伝えるべき言葉は、きっと...
「たずけてくれて...ありがどう...イズカル...」
その言葉にイスカルは目から涙を強く流し、その涙が雫となって床に落ちる。
「友よ、すまない」
ハッキリと...夜空へと伝え、そして暴力によって傷ついた夜空を、無慈悲に激流へと投げ捨てた。
いつの間にか日は傾き始め、夕日となって大地を照り付けていた。 川に落ちていくその刹那、走馬灯のようにこの世界に来てからのことが自分を通り抜けて...流れて行った。
「春...ごめんな」
自分の体が宙を舞う、背中の方から強いマイナスイオンを感じる。
(あぁ、もし生き残れたら...)
(絶対にこの世界から脱出してやる)
そう強く思いながら...生き残れますようにと、シカトが得意な神様に向けて祈った夜空は
意識を徐々に落としながら『ドボンッ!』と川の底へと沈んでいき
その体は激流に押し流されていった。
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この日、勇者が一人世界から消えた。
一緒に活動していた勇者たちが、王からその事実に知らされた勇者たちが
行方不明の事実を世間に公開するのは、上記の出来事の数日後のことであった。
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==☆次回予告☆==
はい、11話の閲覧お疲れさまでした。 追放系統の物語は結構ありますが、中々ヘビーな内容だと勝手に思っている所存です(笑) 改めて言っておきますが、まだ始まりでしかないですからね? 終わりでは無いです、始まりです....書きたい物語の全体の3%ぐらいです、これで。
今後、テーマの謎、国ごとの特色、外交事情、勇者同士のヒューマンドラマや恋愛要素にも少しずつ触れていけたらなと....。 気の長い話にはなりそうですが、まだまだこの【このチカラ危険につき】の世界観をお楽しみいただければ幸いです。 出したい設定沢山あるんよ、それはもうたくさん....。 どうにも、自分は細かく詰めないと気が済まないタイプのようです(嘘つき)
今日はプチ話はありません、ごめんなさい。
では長くなりましたがこの辺で、次の【セブン国編】でまたお会いしましょう!
次回、12話......そのドワーフ 銭ゲバなり!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




