99話 そして旅 再開を!
「......じゃあ行くか」
荷物を買いそろえた翌日、夜空達はザドラに向かって旅を再開する事となった。 今にして思えば、この国でもロクな目に合わなかった、これから行く先々でも同じような苦難が待ち構えているかと思うとため息しか出ない。
歩き始める夜空の後ろを、元気なリリスとまだ眠そうなコレムが付いてくる。
「眠いんだけどぉ」
「ザドラの首都がある洞窟内部までは、そこそこ距離がありますから...少しでも日中歩いて距離を稼がないとダメですっ、がんばって行きましょ―――!」
「.....昨日全然眠れなかっただけだし、歩けるから!」
そういえば、コレムとリリスは昨日の晩何処かへ出かけていた。 疲れていたし、いつも一緒に居る必要性も無いので俺は宿の自室で旅の準備をして寝たのだが。
「.....お前ら昨日の夜何処行ってたんだ?」
「え? あぁ、言ってませんでしたっけ。 3番姫さんが働いている酒場ですよ」
姫のくせに働くことに抵抗ないのか...。
姫扱いされて無かった事が逆に良かったのかもな。
「もう就職したんかアイツ。 というか酒場?なんでまた」
「あれです、あれ...えーと、ミュージックバーって奴ですっ。 そこでピアノを練習しながら持ち前の歌唱力で生計を立てていくそうです」
「なるほど、理に適ってるな」
「夜空さん...。 私、3番姫さんをしっかり助ける事が出来たんでしょうか? 本当にこれで良かったのか、何か他に道は無かったのかって考えてしまって」
心配そうなリリスの目。
「それを決めるのは俺じゃねぇよ。 ただまぁ、鋼鉄搭の中よりかは...幾分か自由なんじゃないか? ここから先、頑張るのは3番姫でリリスじゃない、その事はしっかり理解しとけよ」
「はい....」
スタスタと前を歩いていってしまった夜空を尻目に、リリスは心配そうに酒場のある方を振り返る。 コレムはリリスに近づいてきて、優しい言葉をかけなかった夜空にあっかんべーをしながらリリスを宥める。
「アイツホント変わらないわね...昨日のなんだったのよ」
「フフッ、変わってますよ。 ほら、夜空さん...スキル発動してません」
リリスの目の前では、突然道脇から出てきたおばさんと体当たりして転んだ夜空の姿があった。 普段、夜空は『野生の勘』を常時発動状態にし、自分に迫る危機に対して敏感になっている。
だが、そんな夜空がスキルの発動を止めた。
それはどういう事なのだろうか。
「ホントね...なんで?」
「きっと、私たちの事を本当の意味で仲間だと認めたからだと思いますよ」
「????」
幼いコレムには少し難しかったのか首をかしげた。
リリス、夜空、コレムの3名は最後の買い物である痛みやすい初日の夕飯材料を買いそろえ...いよいよ、アラブレイの門までやってきた。
「またしばらくシャワー浴びれないのね」
「我慢ですよっコレムちゃん!」
「....買うモン買ったな? じゃあ」
行くぞ、そう言う前に後方からリリスを呼ぶ声が聞こえた。 通行人がなんだなんだとこちらに視線を飛ばしてくるが、夜空は見世物じゃないぞとガンを飛ばして野次を一掃する。
「リ、リリスさ...さん、ハァハァ...」
「3番姫さん!?」
そこには、店員の恰好をした3番姫の姿があった。 どうやらバイト中だったらしく、切り上げて走って来たのか凄い息が上がっている。
彼女の服からは、ほんのりパンの香りがした。
バイト...掛け持ちしてるんだな、貧乏学生みたいだ。
「お別れする前に.....最後にっ.........」
「お前、この1週間で結構な頻度で会いに来てたろ、なんでまた今更...」
「まぁまぁ...夜空さん、少し待っててもらえませんかっ?」
リリスにお願いされ、しょうがねぇなとそこら辺のベンチに腰をかけて待つことにした。 離れる際、3番姫から紙袋を渡された。 紙袋の中には、焼き立てと思われる様々なパンが入っていた。 メロンパンにクロワッサン、蒸しパンにクマさんパン....ect。
一緒についてきたコレムは、物欲しそうにクマさんパンをジッと見つめていた。 夜空は、クマさんパンを紙袋から取り出してコレムに押し付ける。
「そのまま出てきたから朝飯まだだろ? 食っとけ、今日は歩くからな」
「.......もったいない」
「じゃあよこせ、顔面を半分無くしてやる」
「バッ、止めろクズ!!!」
本気で嫌なのかクマさんパンを守る。
ガチトーンでクズと言われて地味にショックだ。
「いいよ、チョココロネでも食ってるから.....全く」
チョココロネを齧りながら街の様子を見る。 1週間経過し、街は芸術の国らしい喧噪を取り戻していた。 様々な場所で軽快な音楽が響き、それに合わせてダンサーたちが軽快にステップを踏む。 ....大きな内乱が起こった後とは思えない。 いや、起きた後だからこそ....なのかもしれない。
「コレムさ、一つ気になったことがあって。 聞いてもいいか?」
「何よ、改まるなんて気持ち悪い」
相変わらず生意気な奴だ。
「一言多いんだよお前はいつも。 ......イェーガーの件だ」
「ッッッ!!!」
コレムが明らかに動揺した。
「竜人族は排他的な種族だと聞いてる。 なのに、このスパンで竜人族に出会うなんて少し妙だろ、やっぱりお前何か隠してるよな。 お前、そういえば誰かに追われてるって言ってような」
「か、か、かかッ隠してないわ!!」
「声震えてんぞ....はぁ、言いたくないなら別に言わんでも」
夜空がこの話を止めようと会話を止めようとした時、服の裾をコレムに掴まれた。 コレムは服の裾を掴みながら上目遣いで......
「いい、言う....から」
小さく覚悟したように呟いた。
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夜空は会話が弾んでいるリリスと3番姫に、『近場で買い物してくるから話しててくれ』と伝えて、コレムと共に少し人気のない場所のベンチに移動する。
「何から聞きたいわけ?」
「そうだな、まずイェーガーとお前の関係性について」
「アレは....アタシの家のお手伝いさんだったというか、なんというか」
夜空は耳を疑った、アレがお手伝いさん!?...と。
ただの暴力装置の間違いじゃなかろうか。
「嘘つけお前、あのハゲが敬語なんて使える訳ないだろ、無礼が顔と足つけて歩いているような生き物だぞ」
「........使ってたってば。 でも、変わりすぎてて...」
どうやらイェーガーが変わってしまった理由に心当たりが無いようだ。 話を聞く限り、イェーガーは元々コレムの家のお手伝い?だったようだ。 あのハゲゴリラが『いってらっしゃいませ』とか執事らしい事してたなんて信じらんねぇ、エイプリルフールでもそのネタはキツすぎる。
「つまり、イェーガーはお前を目的にしてるって考え方でいいのか?」
「イェーガーだけじゃない。 アタシのパパがお願いした人たちは皆、アタシの行方をきっと追ってる....」
「一体何があったんだよ」
夜空は呆れたように呟いた。
何かやらかしたって訳でも無さそうだが。
「ママが、地域の問題だって言ってた」
「....地域? 竜人族の里内部のいざこざって事か?」
コレムはこくりと頷いた。
話を集約すると、コレムは竜人族でも力をもった家の娘で、政治的な圧力から自由を奪われた。 それに不満感を覚えたコレムが、半ば強引に里を飛び出したって所か。
地域問題がなんなのかとか、不満感の内容に自由の有無が含まれている所が気になるが。 正直、今、西大陸の小規模問題の話されても覚えていられる自信が無いので、聞くのはまた今度にすることにした。
「どのみち、イェーガーは必ず俺たちの後を追ってくるだろうな。 ....誠に遺憾ながら俺の件や、コレムの件もあるし」
「そうね、アタシの事は忘れてるかもだけど...アホだし」
「........アイツ、自分の任務を忘れるとかヤバすぎだろ」
だけどそれがあり得るほど頭のネジ飛んでたし、うーんって感じだ。
夜空の前方では、リリスと3番姫が楽しそうに他愛ない会話を行っている。 時折、3番姫の表情が悲しそうになったり、嬉しそうになったりとコロコロ変わる。
俺は別に、この国に別れを惜しむほどの奴が居ないのでどうでもいいのだが。 いや、強いて上げるならばプラスくらいだろうか? そのプラスとも、病室での療養中に挨拶を済ましている。
結局あの後、プラスは母親と共に地方の村で暮らすことに決めたそうだ。 地下から救い出した母親は、芸術を酷く恐れるようになってしまっており、心の病を癒すには芸術から離れるしかないと、そう判断したらしい。
一応、他国に移動したらとも提案したのだが。 母を療養しながら他国で暮らせるほどのお金を工面できないと苦笑されてしまい、それ以上何も言えなかった。
「中々上手くいかねぇもんだな」
「??」
コレムが何言ってんのコイツみたいな目で夜空を見る。
現実は理想のように上手くは動かない。 そう分かっていても、できればああなって欲しいと願うのはきっと俺のワガママなんだろう。 そのワガママを達成するための力も技術も足りていないというのに。
オニキス帝国だってきっと諦めない。
南大陸に居る間は常に狙われる覚悟をしておいた方がいいだろう。 国境を超える大規模な追跡は出来なくても、法則の抜け穴を使って追ってきた。 それは今回の襲撃事件でよく分かった、国を敵に回すという危険性を、俺は真に理解していなかったのかもしれない。
「いつまでも居座ってもなんだし、行こう。 リリスを呼んできてくれるか?」
「全く、しょうがないわね」
コレムは渋々立ち上がり、仲良く話す二人の元へ割り込むようにリリスを呼びに向かって行った。 夜空も立ち上がり、荷物をまとめてリリスたちの元へ向かおうとすると。
「んぁー、夜空?」
「ん?」
声のする店舗の屋根に視線をやると、そこにはいつもの数倍くたびれた様子のゴーストが居た。 書類仕事でもしていたのか、服にはペンのインクがそこかしこに付着していた。
「なんていうか....お疲れ。 今何してんの?」
「んぁー。 サボり、おじさんには少し過重労働すぎだぁ」
「ビュアインパクトの時も大して働いてなかったじゃねーか」
ゴーストが罰の悪いような表情を浮かべながら、『まぁまぁ...細かいことは...な?』と強引に話題を転換する。 夜空の目が、徐々にだらしない奴を見る目に変わっていく。
「.....行くのか?」
「あぁ」
「プラスが寂しがってたよ。 今からでも一緒に村に行かないかってさ、任務をこなして相当夜空の事を気に入ってたのかもな。 おじさんも...まぁ、少し寂しいしな」
夜空は黙って首を振る。
「....大切にしたいモンが増えちゃったからな」
「そうか、少し変わったな...んぁー良い事だぁ」
リリスとコレムの姿を陰ながら優しく見つめる夜空を見て、ゴーストは少し悲しそうにしながらも嬉しそうにそう言った。
「これからどうするんだ?」
「....んぁー反乱の余波って奴を抑える役目があってな。 まぁなんだ、ようは差別のない楽しい国を作りたいってだけなんだよ、おじさんの目的は。 子供が大人が、老人が...笑顔で芸術出来る世界。 バカらしいと笑ってくれてもいいぞ?」
争いが無く、差別のない世界。
夢物語のようなソレは、何も成していない人間が言うなら笑い飛ばされるだけだ。 だけど、俺は見てしまった、たったひとりの叫びが世界を変えた瞬間を。
月明かりに照らされた姫が、言葉が、民衆の心を動かしたその瞬間を。
希望的な観測はしない。
だから、これは...俺自身のポリシーを曲げた言葉だ。
「きっと出来るさ、アンタなら...。 ほら、聞いてみろよあの姫の歌声....」
リリスと、無理やり参加させられたコレムの3人で、集まってきた民衆の中心でアカペラで仲良く歌を歌う。 子供や大人が歌に勝手に参加し、いつの間にか大合唱みたいになっていた。
「あぁ...あぁ!」
報われたような声でゴーストが手を伸ばす。
「この国に来てさ、色んな音を聞いたけど....。 俺は目の前の光景が、美しい光景だって断言できる。 それを作ったのは、紛れもないビュアインパクト...お前たちのおかげだよ」
「俺は....この芸術が一番好きだよ」
その後、涙を流す3番姫や、プラスやゴーストに見送られながら【夜空、リリス、コレム】の3名はザドラへと再び旅を再開し始めた。
歌声は風と共に...
絵や彫刻は後世へと記録を残す。
「んぁーさぁ、今日も仕事するぞー!」
「「「「「オオオ!!!!!!」」」」
今日も今日とて芸術家たちの創作が始まる。
3番姫は、別れ行く友の背中を見つめながら....。
次の創作は彼女らをイメージしようと心に決めた。
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現在、異世界召喚から約1か月経過。
☆ アルテーラテルト編 完結? ☆
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==☆次回予告☆==
99話の閲覧お疲れさまでした。
だいぶ足早になってしまいましたが、以上で一応アルテーラテルト編は完結となります。 また大きく国を動かす時に登場すると....思います? 何分、西大陸編の話も絡んでくるので詳しい事の言及は避けておきます。
次回からおまけを挟んで、【マートルズ歴史国家編】が始まります。 シナリオ進行サイドは疾風サイド、この世界の歴史の一端?+魔王領について触れていきます。
精神状態が不安定なまま前に進む疾風....彼は何を想うのでしょうか。
次回、記念すべき100話?......その国 歴史の国なり!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




