98話 その銀髪少女 小悪魔につき!
「はい、息すって~。 はい、吐いてーーーー」
医者が聴診器を夜空の胸に当てて指示をする。
「すーーーー、はーーー」
夜空は病院で医師に検査をしてもらっていた。 ビュアインパクトによる反乱活動から、早いもので1週間がたち、アザの痛みもある程度落ち着き、普通に旅が出来る程度まで回復した。
「うんうん、夜空さんね、健康ね~」
「はい」
「退院、出てけ^^」
「分かりま.........え?」
夜空は病院から追い出された。 ....一週間前の反乱の余波は凄まじく、各地で王を擁護する声と非難する大多数の声が激突。 結果、反乱時より各地で怪我人が出るとかいう、よく分からん状況になっていた。
.......。
「世の中が不安定だな。 早めにザドラへ移動しよう...というかリリスとコレムは何処行ったんだ? 定時検査の前に買い出しに行くとかなんとか....。 かれこれ1時間くらい買い物してないか? いや、女子の買い物が長いだけかも、春の買い物も似たようなものだったし....」
夜空は、この一週間の間に『腕時計』と『新しいショートソード』を新調した。 費用に関しては、全額ゴーストが出してくれた。 ゴースト曰く、『色々助かった』だか、なんだとか言っていたが....俺がゴーストを助けた事など一つも無いので、その理由に首をかしげるばかりだ。
(とりあえず、メインストリートにでも行くか)
夜空は、すっかり芸術大祭の雰囲気が消え去ったストリートを、人混みを避けながら前へ前へと進んでいく。 時折、通行人に接触して若干怪我が痛むが....悲鳴を上げるほどでも無いので無視する。
(しかし、この世界の医療は凄いんだか凄くないんだかよく分らんな。 技術に関しては比べるまでも無いほど劣っているが、それでもさほど不便さを感じない。 飲み薬...ポーションに関しては、こちらの世界の方が遥かに優秀なのかもしれない)
そういえばポーションを切らしていたと思い出し、夜空は薬屋に寄ってからリリスたちに合流することにした。
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【一方その頃、リリスとコレムは】
「見てください、この服可愛いですよっ!」
「......さっきから似たようなのばっか選ぶのね?」
二人の少女は女子っぽく服のトークに華を咲かせていた。 リリスは実家から持ってきた服があるが、旅をしている都合上、服が傷むのも結構早いのだ。 なんせ毎日毎日、洗濯できるわけでは無い...汚れた服を袋に詰めて保管していれば痛むのも早くなる。
「私、あんまり値の張らない服って着たことなくて....えへへっ」
「王族だっけ? 大変ね、リリスも」
「礼儀作法とかのお勉強は苦労しましたよ~....あっ、この黒いドレスみたいな服可愛いですっ! きっとこの服はコレムちゃんにとても似合いますよ!!」
「...値段80銀!? ダメダメ、ダメよッ、そこのワゴンセールの服とかでいいからね!? アタシ、あんまり服に興味ないの!」
コレムはワゴンに乗せられらた格安の服たちを物色しながらそう言った。 リリスは頬を膨らませながら不満げな表情を浮かべ、先ほどの黒いお子様ドレスをコレムに無理やり押し付ける。
「いいからッ、着てみるべきですっ!! 素材がいいのに勿体ないですよっ」
「ちょっ!? 押すの止めなさい!!」
試着室に放り込まれたコレムは渋々着替え始める。 店の外では、ちょうど買い物を終えた夜空がリリスを発見し、店に近づいてきていた。
「全く...リリスったら」
少し照れくさそうにしながら服を着終わり、コレムは『はい、これでいいんでしょ』と試着室のカーテンを開けた。 .....するとそこには。
「へー、馬子にも衣装」
夜空が居た。
「......!?」
「お前それ買うの?」
「ッッッッ!! 覗くなッ、クズ空!!!!」
理不尽ここに極まれり。
容赦ない鉄拳が夜空を襲い、夜空は店から叩き出された。 怒れる拳を解き放ったコレムの顔は、羞恥と後悔で顔を真っ赤にしていた。
「で、店主に怒られて買わされた...と。 あのさぁ...」
商品棚がぶっ倒れ、その光景に服屋の店主がブチ切れた。 リリスが怒りを宥め、コレムが着ていたドレスとアクセサリーをいくつか買う事で許してもらえる事になったのだが...。
「........不甲斐なく」
「クズ空が悪い、クズ空が全部悪い」
「おい待て、今回に関しては俺は何も悪くないだろ」
3人でメインストリートをブラブラしながら、あっちこっちでザドラまでの旅路に必要な道具を買いそろえていく。 旅のパーティにコレムが入った為、運べる荷物量も増えたのもありがたい。
ちゃんとしたバッグを買い、コレムに背負わせる。
赤色のバッグがランドセルにしか見えなかったが、その事実を伝えたら今度こそ殺されそうだったので何も言わないことにした。
「もうそろそろ昼だな、あの公園で飯にしよう」
「「!」」
昼休憩の為、そこら辺の公園のベンチで買った弁当を食べる事にした。 そこら辺の弁当屋で安い弁当3つとスープ3つを購入し、公園でピクニックのような形で食事を始める。
しばらく食事を楽しんでいると、近場のグラウンドからボールが夜空達の場所へと飛んできた。 リリスが素早く立ち上がり、見事なフィジカルで弁当にボールが落ちる前にキャッチする。
「ご、ごめんなさい~...大丈夫ですかぁ?」
数人のちびっこたちがボールを返してほしそうに謝りに来た。 リリスは『大丈夫ですよっ!』と優しく声を上げ、ボールを投げてちびっこたちの元へ返した。
「ありがとーおねーちゃん! .....そこの子も一緒にあそぼーよ!!」
ちびっこたちはコレムに視線を向け、あっという間にコレムの近場へと詰め寄る。 自分が声を掛けられているとは思っていなかったコレムは、なんだなんだというような微妙な顔をしてた。
「嫌よ、勝手に遊んでなさい」
「えー、でも...さっきからずっとこっち見てたじゃん」
「................見てない」
だいぶ返答に間があったぞ、オイ。
「コレム行って来たらどうだ? 息抜きぐらいしろよ」
「本当に興味ないけど.....し、仕方ないわねーーー」
といいつつ、若干声のトーンが上機嫌になっている。 色々生意気な口を利くような奴だが、本質はまだ子供だ、ボール遊びだって好きなお年頃だろう。
.....それに、俺はリリスと二人きりで会話しなきゃいけないから。
「隣座るぞ」
「? はいどうぞっ」
リリスは自分の座っていたベンチの隣を手で簡単に払って綺麗にし、夜空に座るように誘導してくれる。 夜空は、若干痛む脇腹を守るように動きながらゆっくりとベンチに腰をかけた。
二人の間に会話は無く、公園内に流れる笑い声やボールの跳ねる音だけが静かに響く。 夜空はどう話題を切り出したもんかと悩む。
....ストレートに聞くか。
「一つ...聞いてもいいか?」
「言いたいことはなんとなく分かりますが...どうぞ?」
「昨日の言ってた言葉、その本心が知りてぇ」
「.........」
やっぱりか、というような顔でリリスは目を閉じる。
そしてリリスは続ける。
「全部含まれてます」
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「全部って、全部か? 友達としても、仲間としても....あと、なんだ....」
夜空が伝えにくそうに言葉を濁す。
「男性としても...ですよ」
夜空はバッと顔を上げて、リリスを見た。 リリスの顔は、恥ずかしそうに顔を赤らめながらもしっかりと夜空を見つめ、その表情に愛情や感謝、不安や驚きなど様々なものを詰め込んでいた。
「ッッ!!」
「返事を聞く前に...一つこっちからもいいですかっ?」
「....言え」
「夜空さん、今お付き合いしてる人とかって」
「...いると思ってんのか?」
夜空の返答を聞き、リリスが安心したように息を吐いた。 しばし沈黙の時間が流れ、その流れを壊すようにリリスが端的に言葉を紡ぐ。
「......好きです」
リリスは軽く笑みを浮かべながらそう言った。
リリスが気持ちを落ち着かせながら夜空の方に向き直る。 綺麗な顔に日差しが当たり、風がリリスの銀髪をサラサラと揺らす。 目の前に居る美少女から、夜空は今告白を受けていた。 日本でこんなシチュエーションに憧れる少年たちはさぞ多いだろう。 銀髪の美少女から『好きです』と告白を受けるなんてほぼ絶対無い。
だけど、俺は.....今からリリスを傷つける。
リリスの告白を受けようかと一瞬考えた、でも脳裏に温井さんの顔が張り付くのだ。 こんな中途半端な気持ちでリリスの想いに答えるなんて不誠実だ。 仲間の気持ちを弄ぶなんて非道な真似だけはしない、大切にすると決めたから。
だから、だから....俺はリリスに本音を伝える。
「俺には好きな人がいる、だからお前とは付き合えないよ。 リリス」
「ッ! そ、そうですか....」
あからさまにしょんぼりするリリスを見ていると、胸が張り裂けそうなくらい苦しい。 でも、自分に甘えちゃダメだ。
「か、勘違いはするなよ....別にリリスの事が嫌いって訳じゃない。 それに、昨日話しただろ?妹がいるって話。 妹はお前と同じ12歳なんだよ」
「は、はぁ...?」
「だからっていうか...なんというか。 お前の事は妹みたいに思ってた...そういう風にしか見れないんだ。 だから、まぁうん...そういう事だ」
はぁ、やっちまった。
最低だな俺...理解なんてしてもらえないだろうな。
「....そー、言われるだろうなとは思ってましたけどねっ!」
ほれみろ、理解できないって言われてるぞ...........え????
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????????
「は? ん? え!?」
「フフ、なんですか...その声。 まさか、この状況で断られた程度で私が折れるとでも思ってました? こんな絶好の機会、逃すわけないじゃないですかっ」
リリスの雰囲気が変わった。
まるで小悪魔のような笑みを浮かべながら夜空へ距離を詰める。
「おい、待て...近づくな」
「いいえ止めませんっ。 夜空さんは今お付き合いしていない、その上で好きな人がいる....これってつまり片思いって事ですよね?」
「うぐっ、その通りだが他人にズバッと言われると腹立つな」
リリスが更に距離を詰めてくる。
あと少し距離を詰められればくっつくような気がして、夜空が反射的にベンチの端の方に逃げる。 が、それを追い詰めるようにリリスがまた少しだけ距離を詰める。
「ねぇ、夜空さん?」
「ち、近いって」
「決意ある片思いと仲間からの熱烈アプローチ。 どっちが強いと思いますか?」
!?
耳を疑った。
コイツ全然諦めてねぇ!!!
「待て待て待て!!!」
「....いつまでも『妹』として扱えると、思わない事ですっ」
リリスは夜空に警告するようにその場を離れ、コレムの元へと向かって行った。 その場に残された夜空は脱力したようにため息を吐き。
「おい...マジかよ...」
力なくそう呟いた。
==☆次回予告☆==
98話の閲覧お疲れさまでした。
ようやくラブコメ要素を挟めました。 チョロインにはしたくなかったので、出会いから結構時間かかってしまいました。 が、今後はちょこちょこラブコメ要素入れていくと思います。
というか、コレム...どうするんでしょうねコレ。
次回、おまけを含めないでアルテーラテルト編がラストとなります。 おまけが終了した段階で、次の国に入る為の準備期間と作者おやすみの為に1週間お休みします。 いつものやーつです。
次回、99話......そして旅 再開を!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




