97話 その少年 やっと見つけて...
夜空は語りだした。
19cmのロウソクのロウが全て溶けきるほど...長い時間をかけてゆっくりと。 今まで自分に起こった全ての事を、自分自身で整理するように。
こことは違う異世界で、テルテルや他の連中と学園生活を送っていた事。
あっちの世界での家族の事。
勇者としてこの世界に召喚され、赤印があるからという理由で国を追われたこと。
妹である春を探すために旅をするという目的を追加した事。
その際に、男の騎士であるイスカルと呼ばれた男に行く手を阻まれ死にかけた事。
逃げた先で金にがめつい商人に会い、命からがらセブン国に逃げてきた事。
そこで強敵と未来の相棒に最悪な形で出会った事。
セブン国を出て、生意気な竜人族と出会い。
アルテーラテルトでは、かつての親友に刃を向けられ。
いわれのない罪を突き付けられて途方に暮れたという事。
首都ではビュアインパクトに加入し、奔走した事。
そして先ほど、王の自殺に加担した事。
王殺しの罪を、3番姫に擦り付けてしまった事。
全ての事柄を淡々と語り続ける。 リリスやコレムは、その全てに対し一切の茶々は入れず、時々相槌を入れながら話すを聞いていた。
「...てな感じだ。 しょうもねぇだろ?」
「赤印や酷い目にあったって話は聞いてましたが、まさかそれほどまでとは」
「.........」
リリスは同情し、コレムはいつものように生意気な口はきいてこない。
「だからまぁ、全部俺のせいでもあるんだ。 国追い出されたのも、命を狙われ続けるのも...全部俺が赤印で、それがオニキスにバレたのが原因なんだ」
「そんな、この世界に連れて来られて...文化も知らないのに追いかけまわされてるのにっ、それを許容するのはダメですっ、絶対ダメですっ!!」
許容しても、否定しても...周りは変わらない。
ましてや俺の敵は一つの国だ。 日本で考えて見ろ、SNSで『国が不当に私を弾圧している』なんて叫んでも、鼻で笑われるだけで誰も本気になんてしない。
真面目に生きろと言われるのが関の山だ。
「俺は不器用だから、そんな器用になれねぇ。 誤解を解くよりも、黙ってきっぱりと関係性を切ってしまう方が楽だと感じるんだよ」
「情けない男ね」
「なんだと?」
コレムの発言に流石の夜空もイラっとくる。
「何度でも言ってやるわ、情けない男! 誰にも頼らない事がカッコいいとでも思ってる訳!? アンタなら心の何処かで分かってる、このままじゃダメだって!」
「頼れば、巻き込まれる。 ソイツが助けられるほど強いならまだしも、弱くて、確実に死に追いやるような選択肢を...俺は選べねぇ!!!」
「本当に不器用ですねっ、優しいのに...なんでここまで捻じ曲がって」
俺には、創作物の主人公のような【辛い過去】のような代物なんて無かった。 自我がしっかりとしてから、気づけばこういう性格になっていた。
常にスクールカーストの中位よりの下位に居て、上位に相手にもされない微妙な立ち位置。 そんなんだからイジメだって受けないし、自分から積極的に誰かに関わりに行くことも無い。
孤立して、軽い陰口を叩かれる日常に芽生えた処世術。
めんどくさいなら、関係性ごと断ち切ってしまえばいいと。
どうせ誰だって、俺に見限られても困らない。
代わりはどうせ、いくらでもいるのだから。 俺は、誰かにとっての特別にはなれない、常に場面外に居る人間か、特別な誰かの知り合いという枠にしか収まらない。
「話を聞いて、俺を捨てるなら捨ててくれ。 別に恨みも責めもしない、それは極めて真っ当な反応だし、俺自身も誰かに捨てられ、捨てる事は慣れてるから。 だから、もう無理して一緒にいる必要性は無いんだ。 きっとこの先、旅はもっと過酷になっていく...楽しい旅を経験したいなら、俺と一緒に居るべきじゃない....何度も言ってきてるだろ?」
嘘だ。 リリスやコレムに捨てられたら、俺は心の底から人を信用できなくなる。 だけど、そんな下らんワガママは、この子たちの人生を滅茶苦茶に出来る意味を持たないんだ。
子供は守るべきだから。
「「..........ッ!!!」」
そこまで言い終わった瞬間、二人の少女から張り手が飛んできて...夜空の頬にクリーンヒットする。 バチンという痛々しい音が二度病室に響き渡った。
「痛ッた!!!!」
夜空は両頬を抑え、少し痛がる。
「どうして...そこまで自分を卑下するんですかっ!? どうしてそこまで、疑って...疑って....初めて会う人を信じようと動けないのですかっ!?」
「そうよ、そうよ! 警戒するのは大事だけど、やりすぎなのよ!!」
「これが俺だ、これは俺の性だ!! どうしてそこまで自分を卑下するのか!?そうでもしねぇと心が持たない自信があるからだ、怖いんだよッッ!! 俺は弱いんだ、きっと事実を直視したら....立ち直れなくなる。 自分が初めから価値のねぇものだと思っとけば、それだけで心は楽になる!」
自虐は人によっては心を癒す。
俺はその心理を利用しているに過ぎないんだ!
「.........」
リリスは思う。
そうか、この人は....自分に自信が持てないんだ。
自分自身を守る為に他人を警戒するんだ。 大切な人の数を極端に減らすのは、自分が少ない人しか守れない事を知ってるからなんだ...と。
なら...かける言葉は...。
「でも、私は、夜空さんが好きですよ?」
「っっ!!」
「ふふっ、夜空さんのそんな顔...初めて見ましたっ」
驚きつつも、その顔には何処か照れくさいような感情があって。 自分で自分の感情がコントロールできない事態に陥っていた。
「い、意味わかって言ってんのか!? 苦難を背負うって意味だぞ!?」
「上等ですっ。 私は誰かの為の剣士でありたいのですっ」
リリスが椅子からゆっくりと立ち上がり、夜空に向かって手を伸ばす。 その手は、優しくベッドの上にあった夜空の手のひらへと重ねられた。
「離せ」
「離しませんよ絶対に」
優しく手を握りしめ、リリスは微笑む。
「......なんで、ここまで」
「だから....一人で頑張るのはおしまいですっ。 ねっ!?」
「...................お前が裏切らない確証は何処にも無いのに?」
夜空は言いにくそうにしながらも、なんとか言葉を紡ぐ。
「証明なんて誰にも出来ません。 それが出来ないからこそ、人と人との関係性と言うのは何処までも脆く、尊い物なんです」
「な、なら俺は....」
「夜空さん?」
リリスが優しい声で名を呼んだ。
夜空の前に立ち上がり...こちらに向かって手を伸ばす。
「?」
「私たちを助けて下さいますかっ?」
それは何処かで聞いたセリフ、しかし込められた意味は全く違う。
伸ばされた手を、弾かなきゃいけないハズなのに。
嬉しさが、拒むことを許さない。
気付けば夜空の手は、リリスの手を....握ってた。
「.......馬鹿野郎」
自分自身と目の前のお人好しにむかって言葉を吐き捨てる。
夜空が目を逸らしながら呟き捨てた一言に、リリスとコレムはやれやれといった顔を浮かべながら笑いあう。 その後、3人が寝落ちするまで...夜空の居た世界についての話を聞かれた。
あやふやだった関係性は終幕し、夜空、コレム、リリスの3人はこの日を境に初めて信頼できる仲間になった。
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【首都アラブレイ....朝9時、病院内にて】
「夜空さーん、検診のお時間で....す?」
夜空のいる個室を開けたナースは、目の前に広がる光景を見て『あらあら』と微笑ましそうに笑い。 検診表に『良好』と記載し、部屋の扉を閉めていった。
ベッドには、寝落ちした夜空と、夜空の体を枕にする形でリリスとコレムが眠り込んでいた。 しかし、愚痴を吐き出した夜空の顔は何処かとても爽やかな寝顔を浮かべていた。
ドアが閉められる音で夜空が目を覚まし体を起こす。 ズキンと脇腹が痛み、ようやくこの国での面倒事に決着がついたんだと自覚する。
「....なんか昨日、色々恥ずかしい事言った気がするな」
「むにゃ...夜空さんその虫食べちゃ....んぅ...すぅzzz」
リリスはどうやら俺を侮辱する夢をみてるらしい。 デコピンで起こしてやろうかとも考えたが、色々助けられた手前可哀想に思い、そのままにしておくことにした。 ちなみに、コレムは寝言を言わないタイプの為静かに眠りこけている。
(寝てれば子供っぽいんだがなぁ...どっちも)
しかし、昨日のリリスの『好き』という言葉の意味を考えてしまう。 恐らくそこまで深い意味は無い、人間として好きだとかそういう事だろう。 だが、万が一...別の意味だった場合。
俺は、リリスを傷つける事になる。
会えもしない、まともに話すことさえできないような温井さんに想いを抱き続けてるって....俺は相当重い男なのかも知れない。 だが、恋心なんて自分でもコントロールできないんだからしょうがないだろう。
「この国ともお別れか。 なんというか、怒涛の一週間だったな」
窓の外から見える空には雨雲は無く。 昨日の悪天候が嘘のように日差しが照り付けていた。 外では、大雨によって散乱した芸術大祭の品物を片付ける人々で混雑していた。
「今日も暑いな」
夜空は自分を枕にする二人の少女を見て、呆れたように呟いた。
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サーマ、プケッカ、ホワイトタウンの3つの街と首都アラブレイを含む合計4つの街で同時に起こった反発は、国に多大な影響をもたらした。 街の領主は処刑され、その家族は捕えられ...今は投獄されている。 2人の姫の処遇については、今現在、ビュアインパクトの古参メンバーらが一堂に会し緊急会議を行っている。 しかし、会議でも処刑すべきという意見が大半を占めており、国民の総意も相まって覆すのは絶望的だそうだ。
そんな状況で、3番姫だけが民に認められ笑えているのは、まさに奇跡と呼ぶべきだろう。 しかしその軌跡は、神によってもたらされたことでは無い事を彼女と国民は知っている。
凄腕の少女剣士と、小さな竜人族の少女。
そして....絶望の中に居た姫を救い出した【勇者のような存在の少年】が彼女を救い出したのだ。 最も、その事を彼女は誰にも伝えることなど出来はしないが...。
英雄譚として語られぬ、忘れ去られる歴史の一節。
それとはまた別件だが、拉致を実行していたキュレーター達が国から忽然と姿を消したらしい。 3番姫を許すムードになった後、草の根を掻き分けて国中を捜索したのだが...痕跡すら見つかることは無かった。 彼らが活動拠点として使っていた王宮の地下室は、とある化け物の襲来によって地盤が崩落し...誰も中には入れない程に塞がっていた。
ただ、入れたところで証拠なんて全部焼かれているので意味なかったりはする。
「.........どうして」
すがすがしい青空の下。 3番姫は公園のベンチに座り、一通の手紙を開いて読んでいた。 朝早いため、いつも公園で遊んでいる子供たちはまだ来ていない。
手紙には『おめでとう、そしてさようなら』と短く一言だけ書かれていた。
残酷な現実は、全ての人がハッピーエンドを迎える事を許さない。 今回のハッピー枠が3番姫だったとするならば、そのほかのエンドを迎えた人間も居るのだ。
【.......とある小さな港町にて】
「船を出すぞ、乗れネイディア」
「うん」
ローブで全身を隠したネイディアが、首都のある方角を名残惜しそうに見つめながら呟く。 その呟きは、ひどく寂しそうで、ひどく後悔しているようなトーンをしてた。
「ネイディア、俺達はお前についてきた。 お前の意思を汲み取ったからここにいるんだ...それに、この正義を続けるならいつかはこうなるって分かってたハズだ」
「あはは...分かってたつもりなんだけどな~? 何故だろうね、やっぱり人間...悲しいものは悲しいみたいなんだよね」
「「「「..........」」」」
「友達に、ごめんねって言いたかったなって」
朝早くに折れ曲がった鋼鉄搭の中...机の上に一枚の手紙を置いてきたが、3番姫はしっかりとその手紙を受け取ってくれただろうか?
「....ここに居てもいつかビュアインパクトに捕まる。 俺達はもう国には居られない、船にのってサークル海を移動し、西大陸へと逃げるんだ」
※サークル海とは、中央大陸を囲っている円状の海の名称です。
「うん、そうだね...行こっか」
仲間は全員無事、だけどその友達の心だけは救えないまま...世界は進み流れていく。 だけど、どちらも生きてこの世界に居る。 ただそれだけで、また会える確証を得るには十分だった。
==☆次回予告☆==
97話の閲覧お疲れさまでした。
アルテーラテルト編も残りわずかとなりました。 すげぇ長かったと自負していますが、南大陸編...あと最低でも、2か国はやらないと次の大陸にストーリー繋げられないので頑張ります。
南大陸編...150話までに収まるといいなー(願望)
多分無理です。
ネイディアはこのまま西大陸に移動します。 その移動の最中、予想外の人と出会う事になるのはまた別の話....。 西大陸のとある国でまた詳しく書くと思います。 それまでバイバイ!
次回、98話......その銀髪少女 小悪魔につき!
次回の更新は作者私用の為、少し遅れます。 (2日ぐらい?)
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




