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そのチカラ 危険につき!   作者: ゼロ先輩
== アルテーラテルト編 == 【物語進行:夜空サイド】
105/238

96.1話 その声、いずれ届いて

 

 雨が....止む。

 いつの間にか時刻は夜になっており、雲と雲の隙間から月の光が覗く。 淡く照らされた広場の一角で、3番姫は民衆に向かって声を上げようとしていた。


「.....正直、何を話せばいいのか。 先ほど、王族の名を語りましたが、私自身....王族扱いなどされたことはありませんでした」



「「「「「「殺せッ、殺せッ、殺せッ、殺せッ!!!」」」」」」」


「「「「「「殺せッ、殺せッ、殺せッ、殺せッ!!!」」」」」」」


「黙れッ、さっさと降りてこい!!」


「「「「「「殺せッ、殺せッ、殺せッ、殺せッ!!!」」」」」」」


「「「「「「殺せッ、殺せッ、殺せッ、殺せッ!!!」」」」」」」


「話なんて聞きたくない! 王族のスピーチは終わりだ終わり!!」


「「「「「「殺せッ、殺せッ、殺せッ、殺せッ!!!」」」」」」」


「貴方の血筋がッ、一体どれだけの人を!芸術を汚したと思っているの!?」


「「「「「「殺せッ、殺せッ、殺せッ、殺せッ!!!」」」」」」」





「.......芸術が....出来なかったからですわ」

 .....怒りが....一瞬だけ、雨にかき消された。





 固定概念...王族は皆、芸術に秀でている。

 その根底を破壊されたような衝撃が民衆の心を強打した。


「鋼鉄搭と呼ばれる搭に閉じ込められ、10年近くを過ごしてきました。 数少ない友達は、全て王の命令によって奪われ、道を(たが)えました」


「寂しかった、とても寂しかった。 現実から目を背けて、何度も夢の世界に逃げてしまおうかと....考えた事もありました。 でも、そんな時、外から聞こえてくる音楽が私を支えてくれた」

3番姫は言葉を続ける。


「王が言う正しい芸術とは何か。 長い長い隔離生活の中、終ぞ、私はその答えを見つける事が出来なかった。 でも、家族ではない、それでも大切な人たちや愛しい人たちと共に歌いたいと...本気で思いましたわ」

 民衆が声に耳を傾けながら『え? どういう事?』とか『姫は3人いて、王は芸術が出来ないから監禁したって事か?』とか『ひどい話ね』とか同情の声が聞こえ始める。


「鋼鉄搭を飛び出して、ここに来る道中.......ある人に......逃げることも()()だと言われました。 押しつけではない、()()をされたのです」

 3番姫は続ける。


「だけど逃げれば、芸術が出来なくなるとも...言われました。 私は、あの友人とたとえ下手だったとしても....一緒に踊って歌って、絵を描いて。 誰にも指図される事の無い自由な芸術の空気が好きだった」


「たとえそれが、世界にとって完成された作品じゃ無かったとしても! たった一人の人の心だけでも動かせる作品なら、それは素敵な作品なんだと...私は思います」


「私はもう一度、自由に...歌を歌いたい。 楽器を弾きたい、踊って笑って楽しんで...道を違えた友人ともう一度、あの子供の頃の続きがしたい!!!」

 広場に居る人々の半数の心が揺れ動く....が。



「ふ、ふざけんじゃねぇ!! だから許して、この国で過ごさせろってか!? アラブレイ王家は、その最低な血ごと浄化する。 みんなの総意じゃ無かったのかよ!!」

 一人の心無き青年の叫びで、同じような感情を持つ同志たちが再び怒りを再燃させ始める。 その怒りを煽るように、青年は建物のドアを蹴破る為に蹴り始める。


「..........」

 3番姫は、黙って...いや少し辛そうな表情をしながら布袋を手に取った。



(夜空さんは、こうなることを予測して.......)


(ひど)い人、でも酷く優しい人だとも思ってしまう。 変わった人....)



「代価も払わず、芸術の大地を踏み荒らすんじゃねぇ!!!」


「そ、そうだ、許さねぇぞッ!!」


「そうよ、そうよ!!」

 煽られた民衆の怒りの燈火(ともしび)が再燃を始める....。



 3番姫は、銃を真上に掲げると....そのまま引き金を引いた。

 鈍い爆発音が響き、再び広場が静まり返った。


「.....お父様(代価)なら、ここにいますわ」

 3番姫はそう言うと、手に持った布袋をゴーストへと手渡した。 ゴーストは布袋の中身を知っていたのか、3番姫に向かって心配そうな表情を浮かべた後


「んぁー、本当に....いいんだな? 後で、きっと悔やむぞぉ? 仮に恨んでいたとしても、差し出したという事実が胸を締め付ける事にならぁ....。 本当に....いいんだな?」


「はい、構いませんわ。 だって、私だけ何も背負っていないのですもの。 ネイディアも夜空さんも覚悟をしてくださいました、今度は私が...責任を背負う番なのですわ」


「んぁ、分かった。 なら、覚悟に答えるとするか」

 けだるそうにゴーストがため息を吐き、そのままベランダから飛んで広場へと降り立った。 ドアを蹴破ろうとしていた構成員達に睨みを利かせて行動を止める。


「うぅ....こえぇ」

 構成員達が怯み、蹴破るのを止めた。


「んぁ。 ほら、やるよぉ~」

 ゴーストは布袋を投げ、青年達にプレゼントした。

 青年達が恐る恐る布袋を開き中を見ると、そこには眉間からかすかに血を流し、安らかな顔で眠る王の姿があった。


「「「「....アラブレイ王!?!?」」」」

 広場が一気にザワつき始める。 人々は口々に『あの女がやったのか!?』や『やったぞー』のような歓喜の声。 『自分の親を....やっぱりあの血は』とか『最低だな』などの懐疑の声も確かにあるが、そう言った声は生い立ちに同情した者の声によってかき消される。



「....生い立ちを聞いたよ、あの姫様...いや、ネイディアのな。  家族に拒絶され、芸術を否定され、それでも尚あの子は歌い続けた。 今、彼女がリスクを負ってまでこの場所に立つ意味はなんなんだろうなぁ....」


「.......」

 怒りが完全に収まった。


「おじさん達ビュアインパクトは、拉致被害者...いや、この国の闇の被害者を救い出すために色々やってきた。 全ては、自由に創作し、芸術の価値を全員に決めてもらう為に」

 ゴーストは続ける。


「芸術意欲を抑制され、監禁され...。 おじさんは、彼女こそ...この国の一番の被害者とも言えると思うんだが....お前たちは、それでも王族だからとあの子を否定するか? それこそ、俺たちが忌み嫌ったテーマの闇、そのものじゃぁないか?」


 誰しも迷う。

 怒りがあり、恨みがあり、恐怖があり....。


 誰もそれに素直に賛同できない。

 もし、ここに声を上げられる人間がいるとするなら。



「私はっ、別にネイディアを責める必要は無いと思いますっ!!」

 それはきっと、他国(別テーマ)から来た....人間だろう。

 リリスの声に人々は考える、罪なき少女を、血が持つ(ざい)だけで裁くのは、そんなのは西や東、北大陸が行っている赤印の差別文化と同じではないだろうか....と。




「私は....何処までも自由に! 芸術がしたいわッ!!!! たとえ望む先が理想でしかない、空想でしかない幸せだとしても!! それでもいつかッ!手が届くことを信じて手を伸ばし、祈り続ける事は出来るわ!!!」


「私は、私はッ....!!」

 ネイディアが言葉を....紡ぎ....

 王によって止められた時間が....まるで歯車がかみ合ったように



 動き出した。



「自由に楽しく、踊っていたい、歌っていたいッ!!!!!」

 3番姫の...いや、ネイディアの声が広場に響き。 その声に呼応するように、雲が散り、その隙間から星々の明かりが覗かせる。 淡い光がスポットライトのように、ネイディアの姿を照らし出した。


 その姿は、画家が思わず虚空にスケッチを残そうとしてしまうほど、誰もが美しいと感じる光景だった。 完成された作品でも無く、芸術作品でも無い。


 だけど、その光景は芸術として...人々の心を動かした。 空気が徐々に変わっていく広場を見て、人々は思う。 今宵から、国が変わると。





「...あとはリリスに任せよう、もう怪我が(つれ)ぇ」

 ジンジンと痛むアザを抑え、今までやせ我慢していた辛さを吐き出した。 倒れそうになる体を、コレムが支えるようにしてサポートしてくれる。


「その痛みは完全にバカ空の自爆じゃない....まったく。 病院戻るの?」

 夜空は広場から背を向け歩き始め、コレムがその横をスタスタと付いてくる。 プラスが『もう行くのかな? これからだと思うんだよぉ~』とか後ろで言ってるが。


「赤の他人だし興味ねぇ」


「そういうトコ、キミは本当にブレないんだよぉ...」


「....ほっとけ。 あ、そういえば聞きそびれたけど、母親には会えたのか?」


「ん? あぁ、心配かけちゃったんだよ」

 夜空はプラスに向き直り、思い出したように言った。 王宮襲撃の準備期間中、プラスがよく『ママに会うんだよぉ』とか言ってたのだ。


「口癖のように言われたらそりゃ耳にも残る。 ....よかったな」


「会えたよ。 やつれてたし、元気なかったけどねぇ...でも、会えた。 嬉しかったんだよ、本当に...本当に....」


()()()()()()()()()()()()

 夜空は含みのある言い方をした。


「...おまえ....は?」


「こっちの話だ。 家族は大切にな、じゃあなプラス」


「うん、また明日会いに行っちゃうんだよー!」

 プラスは嬉しそうに何度も何度も手を振って見送ってくれた。 ...俺も春に会えたら、あれだけ屈託のない笑顔で笑えるのだろうか?


 俺は、人を殺めた。

 間接的にだが、それが出来てしまった自分が恐ろしい。


 遅れて感じる恐怖にサブイボが立つ。



「春は...どう思うかな」


「春??」

 コレムが首をかしげる。

 その様子から、自分がアルテーラテルトでここまでの経緯を話す決意した事を思い出す。 あぁ、そうだちゃんと言わなきゃと、内心少し恐怖する。



 きっと拒絶されるだろう。

 分かっているし、慣れている。


 小学校から、葉日学園での中学校生活も...俺はずっとそうやって生きてきた。 信じて、陰で裏切られて、信用できなくなって....切り捨てる。


 誰しもやってる事だ。

 嫌いな奴とは一緒に居たくない、俺は人よりもその感情が少し強いだけ。


 だからこそ、自分が大切にしたいと思う繋がりは...命を賭けてでも繋ぎ止めると心に誓った。 だけど、アラブレイに入る前、テルテルとの一件があってから....自分が少し分からなくなった。 


 テルテルを守る為だと自分に言い訳しても、リリスやコレムに『大丈夫』だと声をかけられても。 自分で自分を嫌悪する。 なのに....悲しい筈なのに、何処か自分に冷静さがあって。


 物事を俯瞰(ふかん)してしまう自分に腹が立つのだ。

 結局、口だけで行動に移せない臆病者なのでは無いかと。



「あやふやな関係性にも....決着つけなきゃな」

 夜空は、コレムに聞こえない程小さな声で呟きながら、疲れた表情で天を見上げた。



 先ほどまでの豪雨が嘘のように消え、雲の隙間から星々が顔を覗かせる。

 まるでプラネタリウムで見るような()()が大空に広がっていた。




 =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=


 病院へと戻り、医者から『ふざけんじゃねーぞテメー!アザで死ぬ前に俺がぶっ殺してやろうか!!!』とかなり説教を受けた後、夜空は個室に寝かせられ。 コレムは食事や入浴などを済ませ、リリスを夜空の部屋で待っていた。


「フッ」

 コレムが唐突に鼻で笑ってきた。


「....なんだよ」


「いや、滑稽ね」


「....鍵よこせよ」

 コレムの目線の先には、拘束具によって両手をベッドに固定された夜空の姿があった。 少し目を閉じて休んでいたら、コレムに逃げられないように装着されたのだ。


「嫌よ」


「嫌よ...じゃねぇんだよ! 俺はッ、ロリに拘束されて喜ぶ変態じゃねぇんだ、さっさと外せよ不自由なんだよ!! トイレ行きたくなったらどうしてくれるんだ!!」


「漏らしなさい、ここで」

 正気かコイツは。


「嫌だァァ――――ッ!! 助けてぇッ辱められるゥ!!!」


「バッ、止めなさい変な事言うの! 口もぐわよ!!」

 夜空の口を抑えようと、コレムが立ち上がり夜空へと駆け寄る。 夜空は、足をバタバタとさせながら必死にコレムの手を避け続ける。 なんでこんなことで『野生の勘』使わなきゃいけないんだと自分で自分に呆れる。



 その時、もみ合う二人の後ろから声がかけられた。



「な~に...してるんですかっ?」

 怖い笑みを浮かべたリリスが...いつの間にか病室の中に入っていた。


「あっ、いや...その、ごめんなさい」


「全く夜空さんはともかく、コレムちゃんまで...。 夜空さんより、凄くしっかりした良い子なんですからっ、そこはしっかりしましょう...ねっ?」


「オイ待てや、異を唱えるぞ!!」

 夜空が静止するが、リリスは気にせず会話を続ける。


「それで、なんで夜空さんは拘束を?」


「知らねぇよ、コレムに聞け」

 二人の目線がコレムに向いた。


「だって、捕まえとかないとこのクズ空逃げるわよ?」


「....何から?」


「リリスへの悪口」

 ヒントを与えるようにコレムが絶望の言葉を言い放った。 夜空が拘束具をガシャンガシャンと鳴らしながら、その場から全力で逃走しようとする。


「....はぁ、別に今更ですよっ。 それよりも夜空さん、あの約束..覚えてますか?」


「アラブレイに入った直後の劇場での話か?」

 リリスがコクリと頷き、コレムが何かを感じ取って椅子を二つ引っ張ってくる。 それをベッドで眠る夜空の近くに置いて、話を聞く体制を取れるようにする。


「聞いても、きっと気分を害すだけだ...それでも言わなくちゃいけないと思ってる」

 たとえ、国に置き去りにされたとしても。


「はい」


「退屈になるけど...聞いてくれるか?」

 たとえ、俺だけになったとしても。

 それでも、前に踏み出す勇気を、今までの旅のくれたから。


「はい」


「......話すよ。 今まで何があったのか、俺が知る限りの事実全てを」


「はい」







.......。



「その前にコレ、外してくれる?」


「あっ、はい」


==☆次回予告☆==


96.1話の閲覧お疲れさまでした。

本来ネイディアの主張だけで終わる予定でしたが、予想以上に長くなってしまい。 結局6000文字を超えてしまいました。 新しい話数として登録しようかとも考えましたが、そのまま行くことにしました。


主張の部分に関しては、短いながらも葛藤と....後悔と、ほんのちょぴりの優しさと。

アルテーラテルト編の中でも、個人的に結構好きなシーンだったりします。 戦闘シーン書いてる時もいいんですけど、こういう武力以外での和解ってのもいいですよね。



次回、97話......その少年 やっと見つけて...


是非次回もご朗読下さい!


ではでは~

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