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そのチカラ 危険につき!   作者: ゼロ先輩
== アルテーラテルト編 == 【物語進行:夜空サイド】
103/238

95話 あの王 究極の芸術へ!

 

「もはや逃げ道はございません」

 夜空は王の淀んだ目を真っ直ぐ見ながらそう言った。 王が、その言葉の意味を理解するまで数秒かかり、理解が済んだと同時にガタガタと膝を震わせ始める。


「な、ななッ、ならんならんぞ! 諦めろと申すのか!?」


「.......」

 夜空は何も答えず、目で真実を語る。


「そ、そうだ! 勇者だ、勇者を召喚した筈だ! 今こそワシを助けろ、その為に大量のインストロニウムをはたいて召喚したのだ!! 一体仕入れ値にいくら使ったと思っている、この国の財務官僚が頭を抱えるほどの金額だぞ!?」

 それで得た恩恵が『魔法少女ちゃちゃ』の同人イラストとか.........泣けてくるな。 多分コイツは、天賦の力でその芸術がダメな物だと見破ったんだろう。 だから地上に居たんだ、アイツらは地下には居なかった。 それは、王宮に捨てられたことを意味してたんだ。



 なんでもっと早く気付かなかったんだ...自分の勘の悪さに嫌気が刺すな。



「愛しき王よ、現実は空想のように上手くは...」


「黙れ!!!!!」

 夜空の声を遮るように、夜空に向かって銃口を向ける。


「王よ、今ここで撃てば....銃声で位置がバレます」

 心臓をバクバクさせながらも、それでも冷静に会話を続ける。 自分の脇腹のアザから来る痛みが、銃口の恐怖を少しだけ緩和してくれる。



 怪我の功名、悪くない、非常に悪くないぞ。

 目の前の黒光りする銃口さえなければ....。



「ぐ、ぐぅ...ワシは、たとえ全てを見捨てても生きねば。 生きねばならんのだ、ワシは世界の答え、失いは損失につながるのが何故分からぬ!」

 あぁそうか、コイツの生き汚さは俺と似てるんだ。 だけど、俺はこのクソったれの王とは違う、俺は仲間を見捨てない、自分が信じたいと思った人間を切り捨ててまで生き延びて。


 その先に待つのは喜びや幸運なんかじゃない。



 心寂(こころさび)しさと不幸だけだ。



「同感致します....王」


「そ、そうだ! 其方が肉壁となり、ワシをこの都市から!」


「数秒余命が伸びればいい程かと、広場の暴徒の怒りは天を割るほどです。 わたくしごとき、時間を稼ぐことすらできません」

 いよいよ自分の命が危険に迫り、青ざめ震えだすアラブレイ王。


 この感じからしてダメ押ししてチェックかな。

 心の中でそう思い口を開く、最後にコイツの心を完膚なきまでにへし折って...未来への希望の根を摘む。


 これは恐怖洗脳に必要なことだ。


「止めろ! それ以上の狼藉を働くことは許さぬ! ワシは王だ、芸術の王だ、美術の使徒だッ! この世界の発展に携わり、そしていずれ...いずれ美の神へと昇華するのだ!!」

 ...勝った。

 夜空はとある単語を聞いた瞬間、そう確信した。


「王よ、美の極致ならもう到達しております。 ご存じとは思われますが、忠誠心にかけてここだけは無礼を承知で訂正させて頂きます」


「もうよいわッ!!!」


【ドォンッ!!!】

 一発の銃声が水車小屋の中に響く。 音は外に漏れるが、漏れたと同時に豪雨と雷鳴の音にかき消されて誰にも届かぬまま消える。


 銃弾は夜空の右耳をかすめ少しばかり血が流れる。


(あ、あぶっねぇ――――ッ!!!!)

 内心の動揺を悟られない様、必死に外面を作り続ける。

 表情筋がぶっ壊れそうな程に、顔面の筋肉が蒼白で引きつっているのが分かる。


「王よ。 この先の広場の猿共が、貴方様の首を取ろうと闊歩しております」


「ヒイイッ!!!! 言うな、言うでない! 絵を、踊りを、芸術を見せてくれッ、ワシに現実を見せるな踊れぬ民がァァァ!!」

 生まれたての小鹿のようにガタガタと震えだす。 死が目の前にあるかもしれないという恐怖が、王の判断を鈍らせ.....リロードが済んでいない銃が手から滑り落ちる。


「私は下町の踊れぬ民風情ですが...この国を長年納めてきた王に対して、英断をして頂く権利ぐらいはお与えすることができると自負しております」

 夜空の言葉は、震えあがる王には届かない。 王はただオウム返しのように『助けてくれ』や『悪かった殺さないでくれ』などの意味の無い言葉を延々と吐き続ける。


 夜空は、くだらない物を見るような目でうずくまっている王を見下ろす。


(しょーもな...全部自分が招いた種だろ)


(いくら芸術を見通す力があっても、民の真意を見れなきゃ王としての、いや、支配者としての価値は下の下だな)




 .....もし、王が、目的の為の手段を()()()()()()



 .....もし、王が、家族の幸せを()()()()()()



 .....もし、王が、民の目と心を見る事が()()()()()()()




(終わらせるか...もう、コイツの無様は見る価値が無い)

 きっとそれは考えても意味のない事だから。



「王よ、救いを求めます?」

 ()()()を見極めるためにあえて敬語を外した。  しかし、王は夜空の無礼に全く気づいていない。 それほど切羽詰まっているという事だろう。


「どうすればいいっ! ワシはどうすれば助かるのだっ!」

 泣きつき夜空の足にすがる王に目線をやる。


 仲間を攫われた怒りも....


 娘を監禁していたバカタレへの軽蔑も....


 天賦を悪用し、芸術を私有化した反逆心も...


 それらを感じさせぬほど、夜空は心底やさしい目をして、地面から銃を拾い上げる。 オニキス帝国、セブン国で培ったリロード技術で、パパッと弾込めを終わらせると....その銃を王に差し出した。


「あ、あぁ...あああああああああああ!」

 王は銃を嫌がるように手で弾き飛ばすと同時に、夜空の胸倉を掴んで壁まで押し込む。 胸倉を掴んだ手に力籠る。


「な、なにを...」

夜空は胸倉を掴まれ、苦しそうに呟く。


「自決しろと言うのか貴様!!!!」


「火あぶりの上で、傷口に塩水をかけられ悶絶する痛みの中最後を迎えるのと、王はどちらがよろしいのですか?」

 楽な逃げ道を用意されれば、人は楽な方へと流れるモンだ。

 ....要は言い訳を与えてやればいい。 この王は、別に死後の世界に行くこと自体に恐怖が無い。 それはさっきの【神】としての来世の自分を見てる事でよく分かったから。 


 王は、胸倉を掴むのを止めうなだれる。 

 最後に希望をかけるかのようにこちらを見て。


「貴様はどうするのだ...」

 夜空にポツリと、諦めたように呟いた。 夜空は薄暗い水車小屋の中を歩き、先ほど弾かれた銃を手に取り、再び王の前へと差し出した。



 ....そこで夜空が撃てばいいだけのハズなのに。

 あえて、夜空は()()()()のだ。



「王の英断をこの目で見届けた後に、直ぐに私も愛すべき王の元へと参りましょう」


「広場に出ていけば...」


「拷問の上、殺されます。 救いはもはや一つしかありません」

 逃げ道を断つように、冷静にさせないように。

 王の言葉を遮る。


「ひ..と..つ?」


「えぇ...あの世には王のお眼鏡にかなう美の作品も、それはそれは沢山ございましょう」

 夜空の言葉を聞いた時、王の中で理性が完全に崩れた。




 精神の隅から隅まで、死への恐怖とあの世の作品を見る期待感で満たされた。




「そうだ...これは...これは逃避ではない...遥かなる美への....」

 王は額に自らピストルを押し付ける。 

 夜空は、気づかれない様下がり、死に様を見たくないと部屋を出て扉を閉める。


「美への探求なのだ...!」

 部屋の中から、何言ってるかわからん声が聞こえ。

 その後に....


【ドンッ!!】

 という一発の生々しい銃声が響いた。



(何があの世だ、馬鹿乙としか言いようが無いマヌケっぷりだ)

 それでも、嫌な感覚が胸から消えない。

 どれほどクズでも、アイツは一人の人間だった。


(あぁ、父さん母さん...春。 俺、今日人を殺したよ)

 間接的にとはいえ、今俺は、確実に人ひとりを殺めてしまった。 後悔は無いというと嘘にはなる、そんなの当たり前だ。 それに、ひどい疲弊感だ...二度と味わいたくないクソッたれな気分だ。


 だけど、涙は出なかった。

 異世界という今はもう慣れてしまったイレギュラーが、日本人としての本来の感覚を忘れさせていく。 この世界で生きるために必要な事が、俺を俺で無くしていくような怖さがあった。 日本で積み上げた、幸せや平和の常識が覆され...異世界の考えたくも無い闇の部分が心を塗りつぶしていく。


「あぁ畜生。 いつかこうなるとは覚悟してたけど....辛いもんだな」

 夜空は壁に寄り掛かり、そのまま尻もちをついた。



 希望的な観測は苦手だ。 常に最悪を想定して、それを覆せる動きをするのが一番賢い生き方だと...そう思ってきた。 だから、俺はオニキス帝国に降り立ったあの日から...いつかこんな日がくんじゃ無いかとずっと、ずっと思ってきたのだ。



 部屋の扉を開けると、そこには目を見開き仰向けで倒れる王の姿があった。 王は眉間から血を流し、絶命していた。 夜空はそっと近づいて、せめてもの情けで目を閉じさせる。 心音と脈を確認して死亡を確かに確認したら、血を簡単にふき取ってから近場にあった古い布袋に王を入れた。


「......しばらく夢に出そうだ」

 だけど必要な事だ。

 あとは姫が、俺の勇気をしっかりと汲み取ってくれるか否かだ。



 ここから先は、俺の仕事じゃない。

 心の中でコイツは自殺しただけだと自分に何度も言い聞かせながら、夜空は王を入れた布袋を重そうに担いだ。



 行き先は....広場だ。



 =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=




「そ、それは...! いえ、そうでしたわね...覚悟はしていました」

 3番姫は布袋を見て、小屋の中で何があったのかを察す。


「そりゃ結構。 作戦通りに行くぞ」


「あ、あの..つ、辛くは無いのかしら...?」

夜空は『何を言ってるんだ?』とばかりに3番姫に向かってため息を吐く。


「辛いと言ったら、お前は俺を助けてくれるのか?」


「....そ、それは」


「そういう事だ。 半端な優しさは人を苦しめると知れ」

 3番姫と合流した夜空は、共に広場へと向かい始める。 銃に関しては未だに3番姫に預けたままだ...これもまた、最後の仕上げに使うために。


(痛い...王、太りすぎだろ...脇腹のアザが重さでッ!!)

 痛みで顔をしかめながら、夜空は歩みを進める。 その後ろを警戒するように3番姫がついてくる....リリスがいてくれたらどれほど楽かと思ってしまう。


「リ、リリス何してるのかしら」


「..........おまえ......今それ言うか?」

 お前も同じ事思ってたのかよ。 悪かったな頼りなくて...!


「居てくれたら、心強いのだけれど」


「居ない奴の登場に期待すんな、無駄だから。 今できる事でも考えろ、3番姫...アンター戦闘は....出来る訳ないよな、ずっと監禁されてた訳だし」


「も、申し訳ありませんわ」


「いいよ、ハナから期待なんてしてなかったし」

 俺も怪我の事がある。 正直チンピラ相手でもキツイ。



「広場へ行くしかねぇよな」

 諦めて歩みを進めたその時、よこのわき道から聞きなれた声が聞こえてきた。


「く、クズ空見つけた!!!! リリスゥッ、見つけたわッッ!!」


「コレムちゃん何処、何処ですかっ!!」


「見つけた? ボクは探すの疲れちゃったんだよぉ」

 傘を差した3人の少女、リリス、コレム、プラスの3名が夜空と3番姫の元によって来る。 3番姫は一瞬身構えるが、リリスが仲良くしている(さま)を見て安心したように警戒を解いた。


 夜空は、かついだ布袋を地面に置こうとすると、()()()()を知っている3番姫が重そうにしながらもソレを代わりに受け取った。 腐っても自分の親という事だろう....どうして王は、この優しさに目を向けてやれなかったのか疑問が残る。


 この優しさに、ほんの少しでも目を向けていれば...何かが変わったかも知れないのに....。 いや、これは希望的だな.......やめよう。


「クズ空!! 怪我してるのに外出(そとでて)んじゃ無いわよ!!」


「そうですよっ、全部終わったら()()()含めてお説教ですからね!?」

 リリスとコレムが凄い勢いで駆け寄ってきた夜空に詰め寄る。 相当心配したのか、リリスの目には涙が浮かび、コレムは怒り狂っている。


「あ、あの件?」

 なんの事だろうか?

 怒られることなんてあったかな....。



 空気が凍り付く音がした。




「夜空さん、(わたくし)が居ない間に、やれ怪力だの、やれゴリラだのと、好き勝手に言ってくれていたそうですね?」

 あ、やっべ。


「...いや、それは...事実と若干異なるというか」


「へー? で?」

 コレムがニヤニヤと、すっごい面白そうなものを見る目でこっち見てる。

 チクりやがったな畜生...!


「あの、俺は悪くないというか.....」


「正座でっ」

 リリスの顔は笑ってるのに恐怖しかない。


「いや、地面、雨水張ってて...寒いんだけど」


「正座してっ?」


「いや....その.....」


「正座」


「はい、本当にすいませんでした」

 リリスが『はぁ』とため息をついた後、夜空と目線を合わせるようにしゃがんだ。 傘をコレムに渡して、上に差してもらいながら夜空の頭を自分の胸当たりに抱き寄せた。 かすかに、リリスの小さな胸の柔らかい感触が頭にきたが、そんな事考えられないほどアザが痛い。


「.....無事でよかったです、駆け付けられなくてすいませんっ」

 リリスは心底安心したように呟いた。


「なら、早く来いよ....」


「こんな時まで素直じゃないのは流石ですっ、ビュアインパクトの方々に少し話を聞かれまして....。 振り切ると面倒な事になりそうだったので」

 この状況で、腰に剣ぶら下げた少女がいればそりゃ止めるか。 こればっかりはその事態を考慮しなかった俺のミスだな。 ぐうの音も出ない。



 というか、いつまで抱きとめてんだコイツは。



「は、放せよ...年下にこうされると恥ずかしいんだけど」


「駄目です、心配させた罰です」


「..........罰なら仕方ないか」


「えぇ、仕方ないことですっ」

 一方的に抱きしめるリリスと無抵抗の夜空。 事情を知らない人から見たら異常だが、そんな事すら頭に入らない程....リリスは幸せそうな表情を浮かべていた。

==☆次回予告☆==


95話の閲覧お疲れさまでした。

今まで、夜空が明確に人の生き死に関わってくるような描写はあえて書いていませんでした。 夜空自身が過度に恐れていた為、そういった事柄に巻き込まれないように動いていたからです。


しかし、今日。 夜空は【手段】を知ってしまいました。


その諸刃の剣を忘れるか、使うか....今後の夜空の思考にも注目です。



次回、96話......その広場 声は響いて! 


是非次回もご朗読下さい!


書き貯め分のストーリーが第一の佳境に入り始めたので、ストーリーを練るために近々、少しだけおやすみを貰います。(前回同様、1週間ぐらい?) あくまで近々ですので、実際におやすみ貰う時には追って後書きに書きます。 .....どうでもいいですね。



ではでは~また次回!

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