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仇敵

 現れた最強のCPU機。

 鶴のように伸びた機首の先、キャノピーがまばたきのようにチカチカと明滅している。

 こちらを観察でもしているのだろうか。


「余裕かましやがって」

 雪山以来の仇敵の登場に、空戦続きで萎えかけていた神経が一気に研ぎ澄まされた。


『ハルト! 二機でやるぞ!』

 荒城も戦う気満々だ。最新型の烈空に負けじとイーグルを加速させて併せてくる。


「ああ! テンペスト隊、交戦する!」

『テンペスト隊聞こえるか! こちらはランページ1』

 割り込んだ通信はランページ隊を率いる長束紘一郎からのものだった。


『ハブーヴの相手は任せろ! 我々は奴の機動をよく知っている』

 白いカラーで染め上げられたラプター部隊が側面から接近する。


『隊長、来ます!』

 混線して聞こえてきたのはランページ二番機、藍原夏姫からだった。

 ラプターの編隊はハブーヴ率いる黒いフランカー型と正面から交戦状態に入る。


『このまま、ハブーヴを引き付ける。その間にアトラスを!』

 振り絞るような声で長束が叫ぶ。その背後には機内警告音。


『長束少将……それでは貴方が』

 不意に割り込んで来た落ち着きのある男の声。管制機メルクリウスからの物だ。

 たった四機で相手をするのは不安だという事なのだろうか。

 しかし、長束は気丈に叫ぶ。


『構わんと言っている!』

『しかし……』

 長束が強い口調で言い返すのだが、メルクリウスは迷っているようだった。

 敵のエースの相手をするか、アトラス本体を叩くか。どちらも優先順位を付けるにはあまりにも難しい強大な撃破目標だ。どちらかを達成しようと戦力を集めれば、戦力が薄くなったもう片方が死ぬ、そう言いたいのだろう。

 だが、ここで迷っていては、せっかく追い詰めた敵を取り逃がす事になってしまう。


「しっかりしてくれよ、AWACS!」

 気づけば俺はヘッドセットに向かって声を飛ばしていた。

 そして、その言葉が、迷っていたメルクリウスを即座に決断させる。


『分かった。ランページ隊の援護にはサーベル隊とダイヤモンド隊を残す。付随する戦闘機型を破壊せよ。他は全てアトラスへの攻撃だ。それでいいですね……長束少将?』

 この空域に40機以上ものHF乗りが集結している中、瞬時に部隊を掌握する腕は流石だ。


『的確な判断だ。アトラスを落とすには今しかないからな……ふんっ!』

 ミサイルアラートが重なり、長束の声が一瞬遠のく。

 見ると、ハブーヴとのドッグファイトの真っ最中。うまく追撃から逃れながら、同時に奴のケツを取ろうとしている。


『さあ、早く。対空砲、レーダーに排気口何でも構わん。ロックできる外殻部の構造物を破壊し尽くせ!』

 ひらひらと飛び交う蝶のように、空中で死闘を演じるランページ隊。ハブーヴと奴の隷下にあるフランカーもどきと追いつ追われつの空戦を繰り広げている。

 しかし、一瞬の隙をもってその戦いは突然終わるだろう。

 それが今か少し後か。ただそれだけの違いなのだ。


『おい、坊主。聞こえてるか?』

 割って入る北条の声。気づけば俺達のすぐ近くを飛んでいる。


『テンペスト隊はアトラスの右側面上方だ。対空砲を潰せ。レーザーはボレアスがやる』

 言うが早いか、北条を先頭にした数機が左側面に向かう。その他の部隊も急旋回しながらアトラスの攻撃担当箇所へと殺到していく。

 空域に残される形となった俺達。ここで遅れを取る訳にはいかない。


「テンペスト1……了解!」

 俺はランページ隊から反転、アトラスに進路を向ける。


『アトラスには内部機構に直結している冷却口がある。そこを狙え!』

『隊長の後ろからフランカー、藍原やれ!』

 混戦状態の中でも、長束は攻撃ポイントを教えてくれる。そこをサポートする部下達。

 流石、最精鋭部隊と言われるランページ隊。長束自身が選出したパイロットだけあって、統率された動きだ。


「よし、荒城。冷却口を探そう」

 外殻部を沿うように上昇。周辺に張り巡らせた対空砲を機銃、ミサイルで破壊しつつ、俺達はアトラス下部から上部へと移動する。

 アトラスは巨大な鳥かごのような形状をしていて、縦に連なる長大なシャフトが何本も張り巡らされている。

 それのせいで外殻部を沿うように飛ぶと、シャフトの合間に隠れた対空銃座から攻撃を喰らうのだ。


『おい、あれじゃないか?』

 対空火器に注意しつつ飛んでいたら、荒城が何かを見つけたようだった。

 それはアトラスの紡錘形のちょうど中腹にあり、周囲を対空砲、レーザー砲台で囲まれるように配置されている。

 スリットに覆われた真四角の構造物は何かを守るシャッターのようだ。


「あからさまに防備が分厚いな……あれが冷却口の入り口か?」

 ロックすると同時に、敵のレーザー砲がこちらに向いて動き始める。

 レーザー予測射線がHUDに表示され、それに従って操縦桿を引き起こす。明後日の方向を飛んでいくレーザーを見送りながら反転、一気に接近。


「当たれっ!」

 小気味よいロック音と共にトリガーを押し込む。

 迎撃装置を丸裸にされたスリットにミサイルが向かっていき――吸い込まれるように着弾。


『よし、命中だ』

 爆炎は直ぐに止み、スリットがあった場所には大穴が空いていた。ドンピシャだ。


「管制機、聞こえるか? 冷却口は内部に続いている」

『よくやった、テンペスト1』

 確認に追われる様子のメルクリウスの代わりに、長束が答える。


『ふむ。やはり、ヒュペリオンと同じか。それは恐らく中枢部リアクターへの回廊だろう』

「リアクターだって?」 

 俺は周囲の防空設備を潰しながら、長束の言葉の続きを待つ。


『ストロングホールドの動力炉だよ。アメリカのエースは内部に飛び込んでヒュペリオンを落としたんだ』

『最後のフランカーを撃墜! あとはハブーヴだけです』

 重なる様に聞こえた女の声はランページ二番機、藍原夏姫からのものだ。どうやらランページ隊はハブーヴを追い詰めているらしい。


「でも、まさか……回廊って事は、内部に飛び込むのか?」

『中に入るなんて無理だぜ。自殺行為だ』

 荒城が迫りくる戦闘機型を落としながら叫ぶ。

 確かに、中枢リアクターを破壊すれば手っ取り早くアトラスを破壊できるのだろう。

 しかし、回廊への道のりは全くの未知の世界。内部がどうなっているのか想像もつかない。


『なに、効率プレイとしての話だ。今は生存を優先すべき時、危険を冒す必要もあるまい』

 俺の心配をよそに、長束がそんな事を言った。


『何にせよ、似たような構造物も手あたり次第に破壊すればダメージを蓄積させられる筈だ』

『長束さんの言う通り、今は攻撃を続けましょう』

 いつの間にか瑠希乃の青い烈空がそばを飛んでいた。

 その向こうからは外殻部を周って飛んできたアンネームドの編隊。

 機種はごちゃごちゃだが統率されたフォーメーション。親玉のアトラスを守る為に高度にプログラムされている。


『邪魔するなっ!』

 瑠希乃が猛々しく吠え、ミサイルと機銃を浴びせる。俺と荒城もおなじように正面から敵編隊を突っ切る。その先にあるのはまた別の構造物。アンテナやダクトと言った設備を手当たり次第に破壊しまくる。


『俺達も続け、テンペストやボレアスだけにいい面させるな!』

 他の味方機もそれぞれに攻撃を開始、各所で炎と爆発が起きる。轟々と低い唸りのような音は鉄板やらがひしゃげる音だろうが、俺にはそれがアトラスのうめき声にも聞こえた。


「よし、この調子でいけば……落とせる」

『アトラスを倒せるわ!』

 瑠希乃が32連装ミサイルを解き放つ。要塞の外殻装甲部に次々と着弾、小爆発が連鎖する。

 攻撃は順調だった。あとは、長束達がハブーヴを落としてくれれば、すぐに終わる。

 皆が勝利を確信し始めていた。


  ――しかし、予期しない事態は突然起きるものだ。



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