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眠り姫の歌  作者: 龍空 有王朱
9/49

⑵歌姫が立つ景色 ③

 ファミレスに行ったら決まったメニューを食べるアキは、一応メニュー表を見るものの得に興味をそそるものはない。しかしいばらは料理をしないわりには食べ物は大好きで目移りしまくりだ。五つあった候補が三つになり、二つになり、最後にメニューが決まるのに十分かかった。


 ああだこうだ、と悩むのに対してじゃあこれは、と意見を出すと怪訝そうな声を出して否定するのが女子の特徴だ。いばらにはちゃんとそういうところがある。もちろんライブの時も今時のファッションに自分らしさを加えたステージ衣装を着こなす。しかしあのぬいぐるみで埋まっている可愛らしい部屋で死んでいる時は女子力の欠片もない。今はー・・・半々だ。病院にでかけるとあって、ちゃんと髪はとかしていくしお気に入りの斜めがけバックも持ち歩いている。ついているキーホルダーは首に可愛らしいリボンを巻いたテディベア。その反面、ライブ中ではつけているアクセサリーも一切付けず、顔はすっぴん。出会った頃も化粧をあまりしない子だった。休日出かける時に薄くするくらいでー・・・。



「・・・髪、アイロンしたの?」


「少し。シャワー浴びても癖が直らなかったから」



 いばらを見ていたら、パーカーからいつもより真っ直ぐに出ている髪が気になった。


 注文を行い、いばらの分のドリンクバーも取りに席を立った。甘い物が飲みたいと言ったため、オレンジジュースを注ぐ。あまり炭酸は好まない。ストローをさして、自分の烏龍茶と一緒に持って行った。



「ありがとう」


「どういたしまして」



 そういえば出会ったのは高校の頃か。といってもすぐ卒業する時期。軽音楽部でやっていた活動を外でもやりたい、とダッチーに誘われ、メンバーを探し始めた。部員であった仲間はそのままやめていった。その頃にボーカルだけ唯一見つからなくてこまっていたんだよな。


 いばらはちぅ、っと細いストローでオレンジジュースを吸う。そしてすぐに口元に力をいれた。



「どうした?」


「ここのオレンジジュース、酸っぱい」


「ああ、果汁百パーセントだったからな」


「むう・・・」



 百パーか、と呟きながら仕方なく飲み続けた。飲み続け、すぐにストローをズズズ、と鳴らす。



「・・・飲むの早くね」


「仕方ないからブドウジュース入れてくる」


「それなら酸っぱくないな」


「うん」



 いばらは席を離れた。


 笑って言うアキに比べて、いばらはあまり表情を顔に出さずに頷いた。ジュースが気に入らなかったのもあるが、いばらは昔よりあまり笑わなくなったかもしれない。コミュニケーションモードに入れば愛想笑いや他愛もない話ができるが、基本あんな感じだ。特にバンド内でもよく気にかけているアキの前では落ち着いた雰囲気を出している。疲れ切っている、ともいうのだろうか。


 遠目でドリンクを入れるいばらの姿を見て、烏龍茶を飲もうとストローを見た時、ふと向かいのソファに置いてあるいばらのバックに目がとまった。開いたバックの中、少ないいばらの荷物にまぎれて知らない封筒が顔をのぞかせている。戻ってきたいばらにすぐに聞いた。



「いばら、それなに?」


「ん?」



 ソファに座りながら、アキが指差したバックを見る。すぐになにを指し示しているのかわかり、封筒を出して見せた。



「そう、それそれ。なに?」


「わからない」


「えっ、わからないって・・・」


「先生が書いた手紙。誰かに渡さないといけないんだけど・・・」


「誰?」


「わかんない」


「そう・・・ちょっと貸して」



 いばらは素直に手紙を手渡した。封がしてある口にはペンでバツ印が書いてある。関係ないものは開くなと訴える印だろうが、アキにはそんな威圧は感じない。机にトントンと封筒を落とし、中の手紙を移動させて口をやぶった。


 いばら自身も、ずっと自分の不便さと戦っていた。どうしてこんなに生きているのも苦痛なんだろうと不思議で仕方がない、といつか言ったことさえある気がする。ただ素直に接しただけで周りの人が自分から離れていく。それがいやで人の顔色を伺って生きていた。今は、無理をしていた自分に気付いて素直に生きているみたいだが、どこかパッとしない様子がいばらにはあった。

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