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眠り姫の歌  作者: 龍空 有王朱
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⑴眠り姫の苦痛 ⑤

 またしばらくすると騒がしい三人が帰ってきて、Eryがきた今の状況を伝えると覗かないの、と聞かれた。そろそろ怒ってやりたい。


 しかしちゃんとお米を買ってきてくれたので許すとする。その他にもEryのものと被って買って来たものもあるが、大根や白菜はありがたい。ついでにリンゴも増えた。



「これでいばら、食事にこまらないな!」


「だってリンゴ五個もあるんだぜ。腐る前に食べちゃうんだろうけど!」



 ダッチーときぃがリンゴを見て笑う。するとEryが中から出てきた。



「おかえりなさーい」


「いばらは?」


「起きてるけど、くらーい顔してる」



 リビングの机の上に広げた、第二陣の買い物を見て感嘆の声を漏らす。



「わお。いいわね、これでいばらもすぐに元気になるんじゃない? とりあえず、備蓄食と一緒に今すぐ食べれるお粥でも作ろうかしら」


「そう言うと思って、インスタントのお米買ってきたぜ!」


「ありがとう、龍也くん」


「み、見破られてるだと・・・っ」



 ダッチーが胸を張って言うのには目もくれず、会話を見守っていた神にニコッとお礼を言った。いえ、と短く返答をする。


 野菜を切り終え、それぞれボウルに移しかえてEryからOKをもらう。フライパンでそのいくつかの野菜を炒めている間に、Eryはダッチーたちが買ってきたほうれん草も切って、ふつふつと煮え出したお粥に入れた。その二人の手際のよさをずっと神が子供のように見ていた。ダッチーときぃは寝室から出てきたオズと遊んでやっている。


 お粥ができたところで深い器に移し、木製のスプーンをつけていばらの元へ向かった。アキも作業を中断してついていく。他の三人は入り口で見守っていた。オズだけはノコノコといつものようにベッドにあがり、いばらのそばに座った。



「いばら、お粥作ったよ。食べない?」


「・・・」



 布団の中でもぞもぞと動いたのは分かる。しかしいばらの顔は出てこなかった。アキも声をかけるが返答がない。Eryはお皿を側にあった小さなテーブルに置いて布団を退かそうとする。しかし、中から反発する力を感じた。


 いばらは顔を合わせるのを拒んでいるようだった。少し震えている。



「いばら? どうしたの? 具合悪い?」



 問いかけてもなにも返答をしない。よ〜し、とEryは腕をまくり布団の中に手を突っ込んだ。最初に来たアキと同じ行動に本人も苦笑い。しかしEryは腕どころか頭まで突っ込んでいく。更に苦笑い。


 ごそごそと動いて止まったと思うと、そそくさと布団から出てきた。アキを見て言う。



「・・・泣いてるよ」


「えっ、どうして!?」



 いばらが回復待ちの間、へたばってることがあっても泣くということは今までなかったと思う。それでも泣いたというなら、大きなことかもしれない。


 布団の上からでもわかるいばらの肩に手を置いて、話しかける。



「どうした? どっか痛いか?」


「いばらっ、どうしたのよ」



 そう声をかけ始めるとすぐに嗚咽を漏らし始めた。布団をおさえてた力も緩まっていく。Eryが退かした隙間から少しいばらの顔が見えた。今まで見たことがない顔ー。アキの胸が締め付けられる。



「いばら、なんかあったか?」



 アキがEryの隣にしゃがみ、いばらと視線を合わせた。やっと目を合わせてくれたいばらにホッとする反面、やるせない思いが込み上げてくる。



「・・・っ、アキ・・・」


「なんだ?」



 それからまともな声を久々に聞く。力になってやりたい、その気持ちですぐに返事をした。


 その言葉を発する前に涙が込み上げてくるいばらは、泣きじゃくって言えなくなる前に急いで絞り出した。



「っ・・・もうライブやりたくないよぉっ・・・」



 すぐに大声で泣き始めた。それをEryはあやす。


 アキはその場に固まっていた。ー初めていばらの口から聞いた本音だった。しかし、あまり叶えられそうにない願いだ。



「いばら・・・」



 言葉にならない声で涙をポロポロと流している。唖然とするアキを見ていられず、部屋にダッチーが入ってきた。ベッドに乗っていばらを引き起こす。腕を引っ張られて、上半身がダッチーの膝に乗った。



「酒田、薬!」


「えっ・・・」


「美岬の! 精神安定剤だよ!」



 じれったそうにそう怒鳴った。我に返ったアキはすぐに立ち上がり、テーブルに置いてあった病院の紙袋から薬を取り出し、錠剤を一粒外した。そしてベッドに乗り上げ、顔に押し付ける手をどけていばらの口に薬を押し込む。


 口を閉じて薬を拒むいばらはキーキーと声をあげ、じたばたと足を動かしている。すぐにそれを飲み込んだいばらは諦めたように脱力し、すすり泣く。次第に落ち着いていった。


 暴れる元気もなかったらしい。薬が効いてうつろな目をするいばらを、ダッチーはベッドに寝かせた。Eryは持ってきた濡れタオルで顔を拭いてやる。



「・・・」


「酒田、すぐに薬飲ませないと。美岬が苦しいだけなんだから」


「けど・・・さっきのは・・・」



 病気だと、聞き過ごしていいものなのだろうかー。



 布団をかけ直したEryが立ち上がってアキに言う。



「皆が来て嬉しかったのよ。でも、少し疲れちゃったみたいね。寝かせてあげましょ」



 すでに目を閉じてるいばらは眠りにつき始めていた。その寝顔を見て、アキは思いつめた表情をする。Eryはこまった笑顔を見せる。



「あんまり大勢でいてもよくないわ。あなたたち明日も撮影とか取材あるんでしょ? 今日は帰りなさい」


「えりちゃんは?」



 ダッチーは自身の乱れた衣服を整え、声をかけた。Eryはアキの時よりも親しげに話す。



「数日分のいばらのご飯作っとくわ。私も明日仕事あるし、立ち寄れないから。それに、洗濯物たまってるみたいだし」



 さすがに洗濯まで付き合えないでしょ、とアキの背中を優しく叩いた。心配をさせないようにしているみたいだった。眠るいばらを名残惜しくもなりながら、四人はEryに見送られ部屋をあとにした。



「気にすんなよ。いつも通りの美岬じゃねーか。数日したらまたケロッと戻ってくるさ」


「そう、かな・・・」

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