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眠り姫の歌  作者: 龍空 有王朱
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⑴眠り姫の苦痛 ③

 先ほど来た道順を追って、他の三人を連れていばらの家に戻ってきた。一度事務所に寄っていばらがリハに来なかった報告のついでに、楽器を預かってもらっている。


 いばらのことは斎藤もこまった顔をしていたが、仕方のないことだ。以前、それでも無理矢理リハに連れて行こうとした時に、外まで連れ出せたのはよかったのだが道中で地面にへたばってしまい、通行人が多くいる中で号泣されたことがある。正体はバレなかったが、まずアキが男として女を泣かせている図にとても焦った。


 無理強いをして涙腺が決壊するのはわかっている。自分から出て来ない以上、部屋で世間から隔離してそっとしておいた方が彼女のためなのだ。ちゃんと戻って来る。いつもそうだから。


 女の子が多く住むマンションだと言うのにアキと、彼らも慣れたようにいばらの部屋へ向かった。いばらの家から立ち去る前に、出入りのために少し開けた寝室のドアの隙間からオズが顔を出していた。



「おおー、オズ、おいで」


「ニャーン」



 アキの時とは対照的にオズはダッチーに呼ばれて素直にゴロゴロ鳴き出した。ダッチーの腕の中でデレデレするオズを見てアキは言う。



「お前動物には好かれるんだな」


「動物にはってなんだよ。こんなもんはな、愛だよ愛。お前にはオズの飼い主も惚れさせられないくらい愛が足りな・・・もがっ」


「いばらが起きてたらどうするんだよっ」



 普段のボリュームで話すダッチーの口を思わず塞ぐとオズが威嚇を始めていた。四人で恐る恐る寝室を覗くと、丸まった布団から顔を出してすやすやと眠っているいばらが見えた。全員一斉に安堵のため息をつく。オズがダッチーの腕から降りて寝室に入っていった。


 横を向いて眠るいばらの後頭部にもぐり込み、フードから顔を覗かせてまた鳴く。そしてすぐに体を出して四人に来ないの、とでも言うように眠るいばらの頭に手をついた。その重みでいばらが少しうなる。



「ちょっ・・・! オズそれはやばいって!」


「オズ動かないで! 写真撮る」



 ダッチーときぃが爆笑をこらえて部屋に入っていく。きぃはスマホを片手にカメラを起動させていた。クスクスと笑う声が部屋から漏れてくる。


 いばらのことは(悔しいが)あの二人に任せて、アキはキッチンに向かった。なにも食べてもいないなら突然胃に入れるものでいいものを、と冷蔵庫を開けるが、なにを食べているのかと思うくらいなにも入ってはおらずすっからかんだ。確かに料理もあまりしないため、調味料さえもその時の使い切り程度で買ってくるくらいだ。キッチン台も綺麗に使っているというよりは、全く使ってない片付き方だ。



「あいつ・・・食に興味がないのか・・・?」


「でもリンゴ好きだって言ってたよね。あと、たこ焼き?」


「家庭料理というものはないのか」



 アキについてきた神も口を出す。あ〜も〜、と冷蔵庫を閉めて頭をかいた。



「料理する前に買い物してこないと」


「買い物!? じゃあ俺たち行ってくるよ!」



 寝室から勢いよく顔を出してやんちゃな二人組はドタドタと玄関に向かった。まあ確かに、うるさい奴らがいなくなればいばらもゆっくり休めるし、実際アキも家とリハを行ったり来たりで疲れはあった。名乗り出てくれるならありがたいと思う。


 キッチンから出てきた神はリビングにある椅子に座ろうと向かったところで、玄関から走ってきたダッチーに後ろ襟首をつかまれる。



「かみたつもいーこおっ!」


「・・・」



 あからさまに迷惑そうな顔をする。その表情のまま神は引きずられていった。


 苦笑いしながらその様子を見ていると、ダッチーがすれ違いざまに耳打ちする。



「姫さんと二人きり、ごゆっくり〜」


「っ・・・!?」



 一気に赤面するアキを次は神が(うっすらニヤけて?)見ていた。ダッチーの肩を殴ると、早く出て行きますよ〜、と小走りに部屋を出て行く。


 小学生のように騒ぎながら出て行く三人が部屋を出た時点でキッチン台に手をついてどっと息を吐いた。熱い顔を冷ますように手の甲で口元を触る。急上昇した心拍数を徐々に下げるため、リビングにまわり椅子に座ろうとすると、ふと床にぽつんと置いてある唯一生活感あふれるものを見かけた。


 その前にきてしゃがみこむとそのあとにオズがトツトツと歩いてきた。


 見上げてニャーと鳴くオズは、これになんの用だ、と言っているよう。そんなオズの頭をこまったような笑みを浮かべて撫でる。



「餌ぐらい、直接もらいたいよな」



 まあ忙しいし家でもあんなんだし仕方ないか、と付け加える。


 そこにあったのはオズ用の時間で餌が出てくる機械と、新鮮な水が四六時中出ている水飲み機だった。今まで一緒に眠っていたのか、オズが餌に口を付け始めた。それを見守って寝室に向かう。


 枕元にも沢山ぬいぐるみが置いてある。窓にも陽の光が入りにくい分厚いカーテンが閉まりきっていた。陽が入ってくればまた違うだろうに・・・。しかし太陽に合わせた生活は今は難しいということなのだろう。ベッドに座っていばらの顔を覗く。


 目をかたく瞑って深い眠りについていた。しかし表情はあまりいいものではなく、眉間にしわを寄せて今にもうなり始めそうだ。



「・・・」



 もしいばらが天命を受け歌の才を授かったなら、いばらを少しでもいやなことから守りたい。罰が与えられても、いばらが笑顔でいられる時間が多いようにしてあげたい。本当はこの職業を辞められたら、一番いばらにはいいのだが・・・。

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