(7)毒薬と子守唄 ⑤
しばく無言が続いたあと、静かな部屋でアキが呟いた。
「やめるか、あのライブ」
「え・・・」
「また、もう少し慣れてからにしないか? 人数を減らしてさ」
いばらはベッドから身を乗り出して言い出したアキに問う。
「だってチケット・・・! 数ヶ月前から売り出してたりしない?」
「それはそうだけど・・・」
どう答えようか口ごもるアキに神は容赦なく本当のことを告げる。
「完売だね」
せっかくアキが隠し通していばらに心配させまいとしていたのに、その瞬間にいばらの顔は強張り、周りにいた三人もギョッとして神を責める。
「おいっ、達也っ」
「お前ほんとに空気読めねーんだなっ!?」
「だって隠したってしょうがないじゃん」
「ここは隠すとこだったよ!」
きぃとダッチー、神で言い合っている間にいばらが手を伸ばして止める。
「だ、大丈夫・・・! 私は大丈夫だよ! こんなに甘えてるのに、これ以上迷惑かけたら罰当たっちゃうって!」
必死に元気な姿を見せるいばらに、アキは視線を落とした。そしてその姿を見て、ダッチーは呆れたように切り出す。
「だけどさ、いばら。お前、悪化してんだろ?」
予期していなかった言葉にいばらはキョトンとする。言い出したダッチーを視界に捉え、少し首をかしげた。なんで、と聞き返す。いばらが眠っている間にアキから聞いた情報を元に、確信をついた。
「薬変わっただろ。それって、治ってきたんじゃなくて、悪化してるから強い薬になったんじゃねーの?」
いばらは一瞬遅れて、しまった、という顔をした。慌てた笑顔を見せながら、その場凌ぎの言葉を繋いで、後ろ手で少し出ていた紙袋に枕を重ねる。
「あはは、そんなこと、ないよ・・・元気元気」
苦し紛れの言い訳にしか聞こえない。なにせ倒れて三日も眠っていたのだ。信じろ、と言われても無理がある。
ダッチーはため息をつき、腕組みを解いていばらに詰め寄った。出された手にいばらは引き吊り笑顔を崩さない。
「薬、見せろ」
「なっ、やだよ!」
「いいから見せろって!」
「やだから!」
ベッドの上まで詰め寄って、いばらの背中に隠している薬をいとも簡単に引っ張り出した。あぁっ、と追いかけるいばら。咄嗟に飛びかかってきても反応できる距離を保ってダッチーときぃは薬の効果を読んだ。そして副作用も読み切り、顔を見合わせる。
いばらに向いて聞いた。
「これは? 飲んだの?」
不満そうに口を紡ぐいばら。しかし、見逃してはくれないと観念し、しばらくしてから答える。
「・・・・・・少し」
「いつ」
「もらったその日とっ・・・、ライブ前、くらい・・・」
いけないことをしているわけじゃないのに、なにかやってしまった子供のようにいばらは肩を竦める。
あまり薬には詳しくないが、誰が見ても効果と副作用が強い薬に変わっているのはわかった。その分、依存性も高い。
どうする、と話し合い始める四人にいばらは中断させるように反論した。
「大丈夫だってば! 飲まなくったって平気だし・・・!」
「あのないばら、飲む飲まないじゃなくて病院に通っている以上お前には・・・」
「病人じゃない」
病院という言葉に過剰に反応したいばらを見ると、さっきの笑顔とは裏腹に怒っているようだ。病人ということに関連するワードが出て、いばらの地雷を踏んでしまったようだ。
「いや、いばら、だからこれは・・・」
「病人じゃない。病気じゃない。ただ私が弱くていけないだけ。薬なんかに頼らない」