第4手
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「それで召喚は成功したの?」
三角帽を被った女が苛立った声で、魔法陣から出てきた女に尋ねる。
「分からないわ。ただ、自制の神イッキー様は微笑んでくれたけど…」
魔法陣から出てきた女は憔悴しながらも答える。
「あんたの神はいつも笑っているでしょう。あてにならないわ…だから、私は棋書の召喚にするべきだって言ったのよ。棋力が高すぎると次元の壁を突破できないのよ。きっと棋神の嫉妬を買ってしまうのだわ…」
「けど、棋書だと、また、詰め将棋の本がくるわよ。私達に必要なのは戦型について書かれた本、強くなるための本よ」
「とにかく、召喚に成功したなら、ソウケイの街か、サンサの街にいるはずよ。二手に分かれましょう。早く探し出して保護しないと棋客に殺されるわ」
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「街への入場料は1万チャントランガだ」
槍を持った筋骨隆々の兵士が仁王立ちでいきなりそう言った。
何でこんな頓死筋に入ったのやら。
あの後、森を抜けるとすぐに街道に出た。
どうやら、【スマホ】の導きは正しかったようだ。
舗装もされていない土の道だったが、人の手が入った道を歩けるだけでオレは嬉しかった。
隣を歩く冴香の仏頂面だけが気に食わなかったが…
時折、馬車がオレ達を抜かしていき、気付けば、荷を担いだ人々が前を歩いている。
全てはこの街に入るためだ。
この街、名をソウケイというらしいがこの地方の中心地帯とのことだ。
隣で空の荷車を引く男にそう教えてもらった。
男は幼い娘を空の荷車に乗せて、これからソウケイの街で村の祭りの買い出しをするとのことだ。
荷車に乗った女の子がキャッキャッと快活そうに叫んでいる。
目を凝らせば、巨大な城壁が見えてきた。
周囲を円形の城壁で囲み、モンスターから住民を守っている。
城塞都市というわけだ。
治安がいいから、商業が発達し、さらに人口が増える。
そうして、増えた人口を賄うために、さらに商業が発達していくというわけだ。
徐々に、周囲の人の数が増えていき、活気に満ちていく。
城壁の前で、自然と馬車入り口と徒歩入り口に分かれる。
入場には審査があるようで、順番待ちができている。
そういえば、人混みに紛れるのも久しぶりだ。
以前は人の顔を見るのも嫌だったが…
そんなことを考えながら、ようやく順番が回ってきたわけだが…
うーん、テンプレだ。
オレ達の順番が来くると簡単なボディチェックが行われ、最後に入場料を要求されたわけだ。
考えれば、チュートリアル戦闘とかなかったな。
オレのミスディレクション戦術が成功したとも評価できるが、金策には失敗したな。
普通はチュートリアルで馬車に襲われている商人を助けて、入場料をもらったり、当面の宿の世話をしてもらったりするんだが…
そんなイベントは無し。
悪漢に襲われる王女様アンド護衛の女騎士、救出イベントもなかった。
せめて無限収納が使えるなら、何か入っていたりするのだが。
そういえば、冴香の転移特典は何なのだろう。
駒より重いものは持たないと言いきったからには戦闘系ではないだろうし…
生産系なのだろうか?
思わず冴香の顔を見ると露骨に反応した。
コイツ間違いなく何か持ってるな。
というか、あのゲームのプレイ中は大量に脳内カロリーを消費するので、必ず何か携帯しているのが常識なのだ。
バナナ、ラムネ、チョコレート、クッキー、クエン酸、何か持ってるはずだ。
とはいえ、コイツからそれを奪取するのもまた、至難の道か。
せめて、オレのこのジャージが異世界の装束(上)(下)として売れればいいのだが…
○バル君のようにコンビニ帰りに転移して、スナック菓子やカップ麵でも持っていれば、この盤面から容易に脱出できるのだが…
【スマホ】を渡すわけにはいかないしな…
オレ達が入場を手こずっている間にも、隣では馬車が次々に街へ入っていく。
非常にスムーズだ。
対してオレ達のレーンでは渋滞が起きている。
兵士の機嫌も徐々に悪くなり、背後ではさっさとしろよという圧力が高まっていくのを感じる。
ここは一旦、並び直すか。
装備を点検して、金になりそうなものを探す。
その後、やり手の商人を探す。物物交換で入場料をゲットする。
そういう構想でいくか。
そう思った時、荷車に乗っていた女の子が馬車に跳ねられた。
読んで頂き、ありがとうございました。次回の投稿もなんとか頑張ります。
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