第2手
森を進みながら、今の局面についての検討を始める。
とりあえず、文明レベルはやっぱし中世なのかな…
可能な限り、モンスターの射線から逃れるため、あえて道無き道を進む。
草や木が脛や腕に当たる度に痛い。
長袖、長ズボンで転移できたのはありがたい。
やはり、ステータスに補助はかかっていない。
今まで通りの脆弱な体だ。
私、能力は平均値でっていうわけにはいかないのか。
オレはVRMMOの世界でハイランカーになったこともないし、最強クラスギルドの創設メンバーであったこともない。
現世で剣術の達人でも無かったし、魔法も使えんし、手持ちの異能もない。
異世界魔法は遅れてるとか言ってみたかったが…
現状、初期装備である【無限収納】も【ストレージ】すらない。
本格的にチートがないな…
ハード系異世界転移とかマジ、勘弁してほしいんですけど…
とはいえ、文明レベルが中世であるなら、転移特典は【スマホ】で正解だったか。
ポケットに入れたスマホを見ると、電池も減っていなければ電波もLTEでしっかり拾っている。
バリ3だ。
これなら、お約束の手押し式ポンプの販売で金策ができる。
いや、材料や工程を考えればリバーシの販売の方が楽か。
紙から作るほど、本好きでもないし、工程数は少なければ少ないほどいい。
どっかやり手の商人を見つけて、印税の概念ごと売却できれば、ベストだ。
考えてみれば、別に何処で生きたっていい。
スマホさえあれば、三畳一間の中に、幸せを見つけることができるのだから。
「って言うか、マジ最悪。どうなってんのよ、これは?」
オレの思考を切ったのは人間の言葉だった。
ついに人間と遭遇できた!
念願の第一村人発見の喜びは、瞬時に失望に塗り替えられる。
まさかの顔見知りと遭遇したからだ。
それもオレの知る中でも超弩級に癖の強い女だ。
もしかして、これって巻き込まれ転移だったのか!?
「ちょっと、これどういうことよ?」
オレの姿を認めた、赤羽峯冴香はつっけんどんに聞いてくる。
挨拶もなければ、再会の抱擁もなし。
ソフトのようにいきなり、最善手を打ってくる。
この女、スタイルは抜群。容姿は端麗。
黙っていれば、絶世の美女を通り越して傾国級の美女にランクされるのだがいちいち当たりが強い。
さらに才能はオレの10倍。努力はオレの20倍。負けん気の強さに至ってはオレの30倍はあるであろう困った人間である。
そして、オレに女体は好きだが、女は必要ないを自覚させた幼馴染でもある。
この女と知り合ったおかげで得をしたこともあったが、正直、収支はずっと赤字だ。
異世界に来てまでお近づきにはなりたくなかった。
「うん!? 多分だが、今、流行りの異世界転移だ。それも、巻き込まれ系のな」
この女と相対する時、長考はマイナスに働く。
ノータイムで応えることが重要だ。
それでいて、それなりに捻った答えでなければ、力戦系の会話に持ち込まれ、すぐに詰むのだ。
「はあ!? 異世界転移? 何よ、それ?」
やや勢いが収まった。
未知の知識を与えることでひとまず、回答に成功したようだ。
この女、聞く耳は確かに持っている。
自分に取ってプラスになると判断すれば、誰が見ても珍妙な健康器具ですら、おそろしい勢いで興味を持つ。
力を得ることに対して貪欲なのだ。
先日も、販売員に対して、マイナスイオンの効果について浴びるように質問していた。
あれは怪しい空気清浄機を売ってた販売員の方が可哀想だった。
マイナスイオンが人間にプラスの影響を与えるメカニズムとは?
マイナスイオンとはそもそも何なのか?
きれいな空気とは汚い空気の違いは?
どうやって空気清浄機でそれを再現したのか?
矢継ぎ早に質問が出てくる。
もう販売員に尋ねるんじゃなくて、帰って自分で調べろよと突っ込みたくなる惨状だった。
「詳しく説明すると長くなるが、一般人に分かるよう一言で表すと、ドラ○もんでいうところの、タイムマシンが故障して、どこか別の世界に飛ばされたみたいなもんだ」
まあ、ドラ○もんのタイムマシンで言えば、時間移動と空間移動を兼ね備えているところが凄いんだが、こいつにその偉大さを説明しても意味はない。
それどころか、うっかり、そんな専門知識を披露してしまえば、あっという間に手番を失う。
とにかく、この女に手番を渡すのは危険だ。
このまま一気に終盤戦まで進めるという覚悟で臨まなくてならない。
「異世界転移はまだ、ましだ。異世界転生やモンスター転生だと家督競争や生存競争に巻き込まれるパターンが多い。転生系だと多くは赤子からのスタートだ。蜘蛛やスライム、剣に転生なんてパターンもある。最近だと宇宙船のAIに転生っていうのもあったな。転移先が森林ってのもありがたい。序盤戦を有利に進めることができる。第1パターンが、大迷宮や世界最大のダンジョンの中腹部。第2パターンが王宮、第3パターンが魔王城ってパターンが多いかな。今回、森林だ。これは序盤でありながら、まあまあ自由度の高い異世界転移で、ある意味ラッキーだ。赤子転生だと大きくなるまで、できることが少ないからな」
序盤戦という言葉に反応したのだろう。
非常に大人しく聞いていてくれている。
こうして、オレの話をじっくりと聞いていてくれれば全くのチョロインなのだが。
読んで頂きありがとうございました。次回の投稿もなんとか頑張ります。
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日曜日か月曜日更新と書いてたのに、月曜日を2時間程、過ぎてしまいましたね。6割がたできてるんで、なんとかなるだろうと思ってたんですが、予想以上に直しが多い。
次回も日曜日、月曜日、火曜日ぐらいの間になんとか投稿できたらと思っています。