第1手
「ああっ、くそ、だるい…」
かれこれ、30分以上、森の中をさまよっている。
その間、軽トラックぐらいの巨大スライム、木々の間を立体的な軌道で滑空する巨大蜘蛛、焚き木をするゴブリンなんかを見れば、ここが地球でないこと、オレ達の常識が一切、通じない世界であることが嫌でも分かる。
「マジで異世界転移なのかよ」
自分の現状をもう一度、再確認させるためにあえて、言葉にする。
その声には喜びも悲しみもなかった。
我ながら、壊れているのがよく分かる。
普通は帰りたいという想いが前面に出るものではないのか?
親、兄弟、親戚、友人、ガールフレンド、先生、師匠、戦友にもう一度、会いたいと。
それはそれは渇望するものではないのか?
そんな気持ちが欠片もわいてこない。
誰にも干渉されず、一人、静かに引き籠ることだけがオレに残された最期の望みだ。
歩き続けたせいで、先ほどから、やたらと喉が渇く。
りんごジュースを一気飲みしたい。
それもエアコンがキンキンに効いた部屋で。
それだけが今のオレの唯一の望みだ…
▲▽▲
壊れていると言えば、あの神との出会いも随分と壊れていた。
まあ、チュートリアルが壊れているのもよくあることなのかもしれんが…
▲▽▲
オレ達は気付いた瞬間、真っ白な空間にいた。
周囲を見渡せば、オレと同じように81人ほどの人間が立ち尽くしている。
異世界転移だ!
直感で理解できた。本能で理解した。それしか現象の説明がつかない。
全く読んでない展開に、心が折られた。
なぜオレが選ばれたのか?
いや、むしろオレでラッキーか。
他の人間では人類の損失だ。
常々そう思っていた。
もし異世界転移なんてものがあり、選ばれるなら、それはオレのような人間であるべきだと。
だからといって、大型トラックの暴走から誰かを救いに行ったり、通り魔から誰かを守ったり、怪しいアプリをダウンロードしたりはしなかったが。
出涸らしの自分がいなくなったところで誰も気にもとめない。
あの日以来、そうして生きてきたのだ。
自分を納得させるための理性と現実を受け入れることを拒む本能が相い争っている。
取り留めの無い思考が無限に噴出し、その処理に追われた。
気付けば、早くも、転移特典の話に移っていた。
チュートリアルを完全に聞き逃した。
どんな世界へ転移させられるか分からない。
遅ればせながら、空に浮かぶウィンドウを凝視する。
ぐっ、早くも【獲得経験値2倍】が消えた。
やはり、早いもの勝ちのシステムか。
残って有望そうなのは【死に戻り】と【鑑定】、【スマホ】か。
【死に戻り】は苦痛オブ苦痛が性に合わんから、却下。
やはり、定番の【鑑定】にすべきか!?
間違って転移特典が2つ以上もらえるような抜け穴はないのか!?
なろうの定番だと残りものの転移特典全部載せとか、よくあるが…
残りものに福なんてない。
考えすぎて、いい手がさせないなんてことはザラにある。
時間対効果優先だ。
第一感、最初に浮かんだ最初に指したいと思った手を優先すべきだ。
妥協して、【スマホ】にするか。
高い買い物をする時は妥協と勢いが必要だと言うし。
転移ものの【スマホ】といえば、万能の願望機といってもいい。
情報の検索、ルートの提示、退屈な時間の軽減ととにかく応用範囲が広い。
よし【スマホ】にしよう。
答えを告げるべく、そこで、初めて神を見た。
超越者。人智を超えた存在。あらゆる奇跡を起こす存在。そういった超常の存在でもなければ、オレの愛するミニスカを履いた水の駄女神様とも違った。
第一印象は胡散臭い奴。
まるで存在○のように。
傍目からは男なのか女なのかも分からない。
だが、気に入らない目をしていた。
あれは敗色濃厚な中で、負けを意識してしまった者の目だ。
第三者から見れば、さっさと投了しろ。
みっともない。
恥知らず。
そんな罵声が聞こえてきそうな局面でも、諦めきれない。
何か見逃している手はないか、何度も何度も脳内で確認作業を行い活路を探す。
しかし、活路などありはしない。
思いつくのは素人が指すような延命の一手だけ。
気に入らないのは当然だ。
オレはあの目を毎日見ている。
あの目はオレと同じ敗北者の目だ。
なら、オレ達はその駒なのか?
気付けば、そんな馬鹿げた妄想を巡らせていた。
読んで頂きありがとうございました。次回の投稿もなんとか頑張ります。
ブックマーク、感想、評価、メッセージなどありましたら、なんでもお待ちしております。
次回更新は日曜日か月曜日を予定しています。
最後に藤井聡太先生、棋聖のタイトル獲得、本当におめでとうございます。
まさか最強状態の渡辺先生に勝ち越せるとは…なんという強さだ…
私がこんな妙な小説をこのタイミングで世に出せたのも先生のおかげです。
重ねてお礼を申し上げます。
弱った時は先生の活躍を励みに私も、この世界の片隅で頑張ります。
皆様も継続しての閲覧をよろしくお願い致します。