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つらたん  作者: 補給兵
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帝国兵、楽しいことを見つける。

鳥の鳴き声が聞こえる。朝露が葉から滴る時刻に俺たちは街道を歩いている。面倒臭いとも思わなくなった。無関心無感動。ただ道具のように繰り返すだけだ。

隣のマイクは真面目に当たりを警戒しているがそんなの無駄だ。どうせ何も出てこない。ここは帝国の中でもかなり内部なのだ。盗賊や魔物が出てくるのはもっと辺鄙な所だ。

巡回を終えて、兵舎に戻る。義務はこの巡回で終わりなので、あとは自由時間だ。みんな机を囲んで飲んだり、寝たりしている。俺は人型をした藁に剣を振る。訓練をしていると心を無にできる。ただ剣を振ることを考えればいい。その時間が好きなのだ。

この世は試練だと思う。この世の試練を耐えれば死んだ後に何かいいことがあるかもしれない。そんな希望を胸に今を耐える。剣の訓練を終えると次は弓だ。息を止めて弓を引き絞る。苦しさを絶え意識を集中させて的の一点を狙う。煩雑だった意識が的の一点まで一直線に集まった時、指を離す。ヒュッと音を残し矢が的に当たる。このルーティンを繰り返していれば時間が過ぎていくし、意識が的にしか向かないから楽だ。

日が暮れたら出された飯を食って寝る。

それの繰り返しだ。俺でもつまらないと思う。


そんないつも通りがいきなり終わった。

帝国に王国が攻め込んで来たらしい。王国の兵士は屈強であることで有名だ。帝国の兵士3人くらいで1人倒せるかどうかだ。

俺の班も戦いに送り出された。最前線に向かうために街道を歩いていると隣のマイクが死にたくないとか言って泣いていた。どうでもいい。今生きていて楽しいから死にたくないんだろうなと思った。

我らの班は敵の砦を攻めるらしい。

班長がこっちは500人で相手は300くらいだから勝てるとか言っていた。

砦の前に着くと矢の打ち合いになった。俺は木の後ろに隠れて息を潜めた。王国の兵士は門の上から矢を打ってはすぐ隠れてしまう。だから出てくるのを待って矢を番えて身を潜めた。王国兵が体を出した瞬間指を離した。王国兵に当たったらしくマリオネットが糸を切られたように倒れた。その後も5人ほど倒していたら王国兵が矢を撃ってこなくなった。百人将の号令とともに攻城部隊が門を壊し我々が突入した。

白兵戦になった。王国兵が振り下ろした剣を剣で防ぎ腹を蹴飛ばした。距離が空いたが敵の体勢が崩れている。一気に距離を詰めて剣を顔に叩きつけた。相手は仰向けに倒れた。倒れた相手を見て思った。面白い。最高の変顔だ。相手は目を見開き、鼻の半ばから切られていたため呼吸する度切断面が開いたり閉じたりしていた。胸を突き刺すと絶命した必死に閉じようとしていた切断面はびちゃーと開き止まった。さっきまで生きていたものがアートとして完成された。日常の終わり。そして悠久の美しさ。なぜ人は笑うのか分かった。予想外の事が起こると笑うのだ。予測したことが予測した通りだと無感動だ。意外なことが起こると人は笑う。笑うのは明らかに本能的に正しいことだ。つまり人は意外なことを求めている。そして究極の意外は死だ。さっきまで生きていた人が死ぬとは思わない。生まれて此方人の顔が崩れるのを見たこと無かった。それが崩れるのは今までの日常の崩壊つまり究極の意外なのだ。つまらないわけない。もっと見たいとおもうのは至極当然だ。

戦いが終わった。戦場の後はまさに美術館であった。半ばちぎれた腕。その先には二度と閉じられることの無い指がある。それで構成された手は何かを掴むようで何も掴むつもりがない手の自然状態が表現されている。これは生きている人には表現不可能な者である。私をいちばん魅力したのは人の一角獣である。後頭部から射られ額の先から鏃を生やしている。人がユニコーンになったのだ。しかし当の本人は素知らぬ顔で眠っているのである。それがとても滑稽であった。


その日の晩、兵舎に戻っても興奮が収まらなかった。非日常に魅力されてしまった。藁の人型を相手に剣を振るう。目を突き刺し見慣れた人としての顔が崩れる。それは人の顔は皮でしかないことを教えてくれた。剣を引き抜き首を半ば切る。人の首の重さに耐えきれず首が落ちていく。

ああ、つまらない日常にはこんなにも面白い非日常が隠れていたんだ。もっとみたい。

おいと兵長が話してきた。お前は戦争でちょっと活躍したから調子乗ってるとか言ってきている。つまらない。

兵長が木刀を渡してきた。どうやら一騎打ちってことらしい。周りに兵が集まってきた。俺にかけるとか兵長にかけるとか聞こえる。ああつまらない。興奮が冷めていくのを感じる。兵長が何か言ってきているけど聞こえない。口がぱくぱく動いている。あの口を裂けさせたら面白そうだ。木刀を振るう。兵長は驚いたような顔して、顔の前に剣を持っていく。口は無理か首がおちるの見れればいいか。剣筋を変え喉に剣を突き刺した。兵長は飛んでいき転げ回っている。踏み潰されたカエルのような声を上げている。ちょっと面白いな。あれ首取れてないな。ああ、木刀だったか。これいらないな。木刀をポイと捨てた。一角獣を思い出したいな。弓を取り出し藁の人型を射る。

翌日、俺の周りでコソコソ噂話をしている。あいつは兵長を殺す気だったとか、あいつやばいとか、どうでもいい。また冷めていく。今日は砦から出兵し平原で相手とやり合うらしい。楽しみだ。マイクが「怖くないのか」と話しかけてくる。俺はマイクの顔を見つめた。こいつ死んだらどんな非日常を見せてくれるのか。マイクは口をくっと結んで前を見た。「お前はすごいよな。怖くないんだろ?俺は怖いよ。でも死なない。俺は生きる、」と言って目力を強くした。

それで死んだら面白いなって思った。

平原に着いた。水平線いっぱいにアリのように相手が疼いている。

矢の打ち合い、白兵戦になった。


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