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9話 待遇がいいなら少しくらいは、ね?

「ユーマ様、そんなつまらない冗談おっしゃっても面白くないですよ?」


「俺は全くもって本気なわけですが??」



 学園長からの突然のスカウト。

 普通の人間ならば、首を垂れて喜ぶような話なのだろうが俺にとっては有難迷惑だ。


 大体、黒魔導士の才能を手に入れたこと自体、事故みたいなものだ。

 こんな俺ですら手に入れられる能力なんだ、今から国中調べればあと10人くらいはその才能を持ったやつを発掘できるだろう。

 これを契機に、大々的に鑑定をし直せばいいのだ。


 俺がどれだけ断っても、学園長は余裕の笑みを浮かべている。

 サングラスのせいで、その瞳が見えないのが怖いが、一体何の勝算があってこんなに微笑んでいられるのだろう。


 その余裕な態度とは裏腹に、彼女は入り口のドアの前から全く動こうとはしてくれない。

 出口はここを覗いたら後ろの窓しかないが、そこはもうすでにルミアが土下座をして待機している。

 出て行こうとすれば、泣きながら縋り付かれて身動きが取れなくなるだろう。


 アイツの火事場の馬鹿力は異常なものがあったしな。

 やはり、人間追い詰められると強くなる生き物らしい。


 っと、こんな関心をしている場合ではない!


 つまるところ、俺がここから出るためには、このばばあを説き伏せなければいけないという訳だ。

 骨が折れそうだが、俺の大事な未来のためだ。

 全力を尽くそう。



「どうして、ユーマ様はそんなに入学を拒まれるのですか? 才能を持ってこの学園に入学できるということは、この学園の、ましてやこの世界中の人々の憧れなのですよ! しかも、黒魔導士の才能を持っているのに無駄にするなんて、なんてもったいないことか!!」


「だから、それが嫌だって言っているんだろうが。俺はあのくそ勇者のもとから一刻も早く離れて、田舎でゆっくり暮らしたいんだ。才能だか何だか知らないが、そんなものに振り回されるのはもうこりごりだよ」



 学園長はそれを聞いて黙ってしまった。

 よかった。

 何とか俺の思いが伝わったみたいだ。


 俺がコレットのことを嫌う気持ちは、誰にも負けないからな。

 いくら国の中で地位をもらったところで、あいつがいれば意味がない。

 学園長といえども、同じ人間だ。


 それだけの情けはかけておくれ。


 学園長は、そんな俺を優しく見つめてくれている。

 彼女の笑みも今ならすてきなものにみえる。



「それは、もう無理な望みですね」


「は?」



 学園長は、フフフと笑った。

 さっきの慈愛に満ちた顔は、ただの己の勝利宣言だったらしい。


 前言撤回。

 ヤッパリこいつも頭のおかしいくそ野郎だ。



「だって、私はもう、ユーマ様が黒魔導士の才能を持っているということを知ってしまいましたもの。そんな逸材をぬけぬけと手放すわけありませんよ!」


「くそみたいな理由だな」


「あなたがどんな辺境の地への逃げようが、私は必ずあなたを学園に引き戻します……たとえどんな汚い手をつかってでも、ね」



 学園長は顔では笑っているが、本気だ。

 この女、己の持っているすべてをかけてでも俺を引き戻そうとして来るだろう。


 どんなきたない手をつかってでも……それはコレットを使うことも辞さないということか。

 それは本当に人間の背負うべき業を超えている所業だな。



「もちろん、学園に残っていただけるというのならば、ユーマ様に最大限の配慮をしましょう。最強の才能を持っているものには礼儀を尽くすのが私の仁義です。あなたがここに居てくれるというのであれば、どんなことでもユーマ様のご要望に従うことにいたしましょう」


「どんなことでも……か?」


「ええ、どんなことでも。金でも、女でも、地位でも、名誉でも。ユーマ様が欲しいものを手に入れられる努力は最大限いたしましょう。ユーマ様にはそれを受け取るだけの権利を持っているのです」



 なんでも好きな要望を、か。


 確かに、この女ならば多少のわがままくらいまかり通せるのだろうな。

 なんて言ったって、勇者の奴隷として才能も不明なこの俺を学園の中に連れ回させていたくらいだもんな。

 きっと、俺の扱いはペットとかそんなものとして周りに承認させていたのだろう。


 もし俺が誰かを同じようにおもちゃにしたいと言えば、きっと次の日にはそうなっているのだろう、

 彼女の言う、どんな汚い手をつかってでも、な。


 だが、あいにく、俺にはそんな趣味はない。

 もし、俺がこの学園に編入を許可するとしたら、俺が望むことはただ一つだけだ。



「……本当にどんな要望でも叶えるんだな?」


「ええ」


「それじゃあ、俺がこの学園にいる限り、絶対にコレットとの接触がないようにしてくれ。俺はもうアイツの顔は二度と見たくないんだ。それができないのならば俺は絶対にこの学園には編入しない」



 これが俺の唯一にして、絶対の条件だ。


 コレットに出会わずに、第二の人生を歩む。

 それが俺の唯一の望みだ。


 この学園長の言う通り、どんな辺境の地でもコレットを連れて服従させられるなんて展開にだけはなりたくない。

 不本意ではあるが、安全にコレットと顔を合わせないでいい方法があるというのならば、利用するのもなしでないのだろうと思い始めていた。


 ここでこの女と約束を取り付けられれば、絶対の権力のもとでコレットを抑制できる。


 問題は、そのコレットも絶対の権力を持っていることだが、さあ、彼女はどうするのか。



「それが条件なのですね。わかりました。すぐに手配をいたしましょう」


「え? いいのか」



 学園長は即答だった。

 思わず俺が聞き返してしまうくらい、あっさりと彼女は条件を受け入れた。



「ええ、それで黒魔導士様が学園に来てくださるのでしたら、私は何の文句もありません。あなたは、かつての脅威におびえることもなく、ただゆっくりと羽を伸ばしながら、この学園の中で自分の才能を開花させてもらえればいいのです」


「コレットは絶対に言いがかりをしてくるだろうが、押さえつけられるのか?」


「それくらい、私の方で押さえておきましょう」


「お、おう」



 偉い自信だ。

 コレットを押さえるなんて並大抵の精神力じゃできない。


 この女は味方でいてくれると分かった時には相当な力になってくれるのか。



「……ユーマ様はまだ自覚がないかもしれませんが、黒魔導士というのは、勇者の才能なんかとは比べ物にならないくらいの才能なんです」


「そうなのか?」


「ええ。まだユーマ様は完全に力に目覚めていないので未熟かもしれませんが、すぐにこの学園の生徒など雑魚同然になるほどの力を身に付けます。もうすでに私の部屋にあふれ出てくるくらいにまで、魔力が体から染み出し始めているのですから」



 そんなものなのか。

 突然、自分に才能があるとかなんだとかはよくわからないが、これでコレットから身を守れるのならば、こんな力でも手に入れられてよかったのだろう。


 結局コレットと同じ屋根の下に居ることになってしまうの悔しいが、この学園の最高権力者がここまで言っているのだ。

 距離は近くとも、もうこれで虐げられることもなくなる。


 結果オーライと考えることにしよう。



「……というより、やっぱりこの部屋に来る前から気が付いていたんだな」


「ええ。そうでなければ、わざわざこんな部屋に足を踏み入れたりは致しません」



 さも偶然のように入ってきた彼女であったが、ここに入って来た時点で、黒魔導士の才能が出たことを感じ取っていたとは。

 そりゃあ、これまで偶然が嚙み合わさるわけだ。



「こう見えても、今の私は、結構興奮しているんですよ?」


「そうなのか? すごい冷静に見えるがな」


「黒魔導士様の前でそんな無様な姿はお見せできませんからね。この歴史的瞬間に立ち会えた奇跡、忘れることはないでしょう」



 こうして、俺の辺境の地でのスローライフの夢は崩れて消え去った。

 俺は新たに、黒魔導士としてこの学園の中でゆったりと生きて行くことにする。



 もちろん、コレットなんていない環境の中で。

この話の最中、ルミアはずっと後ろで土下座待機をしています。


黒魔導士としてのユーマの新たな生活がこれから始まる!

次はコレット視点。


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